ーコメ編ー
ぱんつくったことある?
― コメ編 ―
「よしっ、そろそろお前もぱんつくってみるか!」
「えっ?」
俺は余りにも驚き、手に持っていた強力粉を手放してしまった。幸いにも台所の卓上付近で落としたはずなので、口は開いていても中身はこぼしていないと思う。
とにかく俺はおやっさんの方から顔を逸らせないまま、豆鉄砲を食らった鳩になっていた。落ちた袋からは衝撃で粉煙が舞い、目の前のおやっさんが白い煙に包まれる。
ガタイの良さや無精ひげも相まって、さながらおやっさんはアラジンに出てくるランプの魔人のようだった。
いや、もしかしたら本当にそうなのかもしれない。これは幻? そうとも思えるぐらいに現状が理解できなかった。
小学生の頃に交通事故で両親を失いその時に引き取ってもらってから数年、学校へ行きながらもおやっさんの元で働き続けてきたがこんなことは一回もなかった。
俺はここで働くのが好きだった。人情味溢れるこの店での常連客との何気ない会話、おやっさんが作ったパンを楽しそうに眺めるお客さんの顔、そういうのでいつも俺の心は温かくなって幸せだった。もちろん店中にほんのりと立ち込める甘い匂いも、早朝の澄み切った空気も、くたくたの仕事終わりに食べるパンも好きだった。それに皆で食べる晩御飯も。
だから俺はいつからかこの職業に憧れを抱き始めたし、おやっさんみたいな人を幸せに出来るようなパンを作りたかった。
それで俺からはずっと前から何回もパンを作りたい、教わりたいと猛烈にアピールし続けていたのだが、何故かおやっさんは一回たりともそれを許してはくれなかった。
それなのに何故? どういう風の吹き回し・・・・ まあ確かに最近ある風は吹いていたけれど、でもだからって本当にそうだったのならおやっさんにしては少し情けない。
少しだけ胸が苦しくなった。
「どうした? そんな鳩が機関銃受けたみたいな顔したまま固まって」
「えぇ、そんなに悲惨な顔してました?」
「あぁ、驚愕しきって顔のパーツが全部飛び散ってた」
「いや、なんなんですかその表現・・・」
顔のパーツが飛び散ることの方が衝撃的だし、第一いくら驚いたとしても鼻とか口が飛び散るわけがない。
「んで、どうすんだ? やるのか、やらないのか、やらないのか?」
「やりますっ! やりますっ!! やらせていただきます!!」
こんな千載一遇のチャンスを逃すわけがない。
「そっか、まあ辞めといたほうがいいと思うけどな・・・」
えぇ・・・ なんでおやっさんの方から提案しといてそんなこと言うんだよ。もしかしてふるいにかけているつもりか? そんなので引き下がるほどこっちはやわな覚悟じゃない。
「それじゃあ持ってくるから、ちょっと待ってろ」
おやっさんはそう言い残し二階の自宅部分へと向かっていった。
「え? いや、でもさっき試作するからって言って準備したばっかじゃ・・・」
なるほど! 秘伝のレシピ本とか代々伝わる特注の道具とかそういったやつだ、きっと! そう思い期待していると頭上から微かに引き出しを開ける音がしてさらに僕の心を躍らせた。
それからすぐに一歩ずつ階段を下りる音がして、背中に何かを隠したおやっさんが姿を現す。おぉ! キタキタキタ!! ついにきた!
「も、もしかしてそれは秘伝の・・・・」
おやっさんが不敵に笑う。
「ふふっ、そう! これこそが我が家に代々伝わる秘伝の・・・・」
「おパンツでーーすっ!!」
「えっ」
そう呟いたのと同時に口が飛んで目の前に落ちた。それから鼻、耳、眉と順々に飛び散り、そして最後に残った目でもう一度それを見る。
やはり何度見てもそれはひらひらとした可愛らしいフリルの付いた薄ピンク色の完全な女性用下着で、それ以上でもそれ以下でもなかった。
「はあーーーーーー!!」
強力粉こそ落ちなかったものの、落ちた口は呆れるほどに開いている。
そして、
ぴょーん
目も飛びました。
「そしてこれを今からお前に食ってもらいまーーすっ!」
第二の衝撃で落ちた顔面部位は逆に地面を足蹴りして元の場所へビターーンッと戻る。
顔面は大失敗した福笑いみたいな表情を作り、
「えぇーーーーーー!!」
戻った口で威勢よく吠えた。
いや、過ぎる過ぎる! 残弾が過ぎるっ!!
「いや、でもさっきお前パンツ食いたいって」
「いやいやいや、たしかにぱんつくってみたいとは言ったけど! 普通に考えてパン屋だったら『パン作ってみたい』の方だろぉ!!」
「いや、でも・・・」
「でももだからもないから! あんたは小学生か!!」
前々から学力の面では劣ってるところがあるとは思っていたけれどまさかここまでとは。
「まあまあ、一旦落ち着けって。実はな、これは冗談なんかじゃないんだ」
「いや、なにその怖すぎる諭し!」
「それが実はな・・・」
え、えっ、待って、何神妙なトーンで話し始めちゃってるのこの人!!
「我が家ではパンツを食うことがパン職人への登竜門なんだ」
「だからなにそのイカれた登竜門!!」
「俺のひいひいひいおじいちゃんから始まったらしいんだけれどな、パン職人になることへの熱意や覚悟があるのかをこのパンツを食うことで確かめるんだと。相当の覚悟が無ければ人前でこんな可愛らしいパンツなんか食えないだろうからな」
「いや、もっと他にいい方法があったでしょ!」
あれ・・・? というかそれなら・・・
「ちょっと待ってください。それじゃあもしかして、おやっさんもこのパンツを・・・」
「あぁ、食ったね。確かお前と同じ十八の頃だったはず」
「う、嘘ぉん・・・」
ヤバい。憧れが失望に、羨望の眼差しが軽蔑の眼差しに変わってしまう。
「だからお前がこれを食えば数十年前の俺との間接キッスも成立することになる」
「うわぁああ! 言うな! 言ってしまうな! そんな気色悪いこと!」
なんだよそれぇ・・・ ただでさえこんな可愛らしい女性用下着を人前で食うこと自体が生き地獄なのにそれに加えて先代のおっさんたちの唾液が染み込んでいるだなんて信じたくもない。
こんな形で加藤家のご先祖様達と出会いたくなかった。というかどんな邂逅何だよこれぇ・・・
「やっぱり嫌か?」
「いや、そりゃあ嫌ですよ! というか嫌とかそんな次元の話じゃないですよ! 嫌が細胞単位ならこれはもう優に超えて宇宙単位ですよっ!!」
我ながら何を言っているんだとも思ったけれども、この状況では正常な頭など場違いでしかないのだ。
「そうか、ならあの方法にするか」
「えっ! 別の方法あったんですか!」
「あぁ、まあ一個だけな」
「マジですか!」
ほっと胸を撫で下ろす。体中が安堵に包まれて倒れこんでしまいそうだった。これほどまでに全身で二字熟語を感じ取った事があっただろうか、いやない。
「それは一体どんな方法で?」
「あぁ、まずはな、このおパンツの元でイースト菌を発酵させます」
「はい?」
「そしてパンツでパンを作ります」
「え? いや、あの、その・・・」
「それで最後に出来上がったそれを・・・」
「いや、あのだから・・・」
「食べます」
「結局食べるんかいっ!!」
なんだよそれ! 無駄な工程が無駄に増えただけじゃん!!
それにイースト菌だけじゃパンにならないし! 仮にもよくパン屋がそんなこと言えたな!
「あっ、ちなみに形は食パン型ね」
「いらん! そんな詳細事項!」
「どうする? やるか?」
「いや、やりませんよ!」
誰がそんなイカれたこと。
「じゃあ、普通にパンツを食うことは?」
「っ・・・、いや、それは・・・・」
少し言葉に詰まった。今の今まで俺はそれなりに覚悟を持っておやっさんに頼み込んできたつもりだった。それが今はどうだろうか。女性用のおパンツを食べることが出来ないせいでパン屋への道を諦めるか逡巡することになってしまっている。
俺の覚悟はその程度なのか?
「俺はな・・・」
おやっさんが静かなトーンで話し出した。パンツ片手のくせに表情だけは真剣そのものでリズムが少し狂う。
「俺はお前にこのパンツを食べてもらいたいよ」
「おやっさん・・・・」
ハチャメチャなことを言われているというのに心が悶えたくなるほどに熱くなった。
「お前にならこの店を任せられる、というかお前に任せたい。馬鹿で真面目で、不器用にまっすぐでそれでいて誰に対しても優しく笑顔でいれるようなお前にな。っていっても俺は当分辞めるつもりはないんだけどな」
「おやっさんぅ」
泣いてしまいそうだった。何もないと思ってた俺をそんな風に思って信じてくれる人が居たことが幸せ過ぎて、幸せがはちきれてしまいそうで胸が苦しかった。
「あの、その、それで、なんで今なんですか?」
「ん? ・・・あぁ、それはな、お前の未来を制限したくなかったんだよ。俺達の家に養子で入ってきたからって無理矢理にパン屋の跡継ぎにするなんてしたくなかった。お前にはお前が決めた人生を送って欲しいんだ。でもお前も本気みたいだし、今年で受験だからいい頃合いかなって。それに俺達がこんなになってもちゃんとついてきて、下手なりにも元気づけようとしてきたりするお前に俺はまた惚れ直したんだよ」
どうにもこうにも顔が作れない。涙をこらえるのに精一杯だった。そんなの当たり前だって言いたいのに、言えなくて、嬉しくて、しょうがない。
「まあ、でも、お前が嫌なら別にいいんだ」
そう言ってエプロンのポケットにしまいそうになるおやっさんの腕を、
俺は、掴んだ。
そして手の内にあるパンツを手にして、もう一度それを見る。
今、目の前にあるただの桃色おパンツが俺には一つの岐路のように思えた。俺のこれからの人生を大きく左右するであろう分かれ道。俺は今から可能性を潰すんじゃない、広げるんだ。選ばれたんじゃない、選んだんだ。
そして俺にとってこれは愛の結晶でもあった。こんな俺を愛し、見守り続け、信じてくれた人の、人達の愛の集合体。握れば温い温度が微かに手の平に伝わる。
俺を生み、育ててくれた両親の顔は今や薄くぼやけてしまったけれども、それでも確かに伝わった。この熱の一部と成り、あの日の心の温もりの一欠片になり今も僕を愛し続けている。おやっさんも京子さんも、春香さんだって。
ならば俺はその愛を全身で味わおう、身体に取り入れよう。
「おやっさん」
何度だって選んでやる。
「俺、パンツ食うよ」
「・・・おっ、マジ?」
ん?
「よっしゃ、それじゃあさっそくいくか!」
「え、あれ?」
「うん? どうした?」
「いや、なんか違くない? もっとこう、なんていうか、少しぐらいは『よく言った』とか『ありがとう』みたいな一言があってもよくない?」
「んー、じゃあ、よく言った! よしっ、こんな感じでね、じゃあやりまっ」
「いや、違う違う! 雰囲気! もっと感動的な雰囲気でしょ今のは!」
「うるせぇなぁ、そういうのは一丁前におパンツ食ってから・・・ って、ごめんごめん。一丁前におパンティーを食べからだな」
「やめい! やめい! いやらしい言い方で言い改めるな! 俺だって言わないように気を付けていたのに!」
「あー、はいはい、もうそういうのいいから。四の五の言わずにそのキューティーでエロスティックなおパンティーをくちゃくちゃと執拗に口の中で舐め回してお前の唾液まみれにしてやれよ」
「だから変な言い回しやめてぇ!」
あー、もう・・・ そりゃあこんな普通のおパンティー食べるんだから四の五のぐらい言いますよ。
だけど、ここまで来て引き返すなんてことはできないのも分かっている。俺だって男だ。二言は無い! ・・・・はず。
「よ、よしっ。そ、それじゃあ食べますよ」
そう言ってもう一度おやっさんの方へ顔を向けた。
ん? スマホ? ん?
「いやいやいや」
そう言って俺はおやっさんの掲げたスマートフォンを下げる。
「いやいやいや」
そう言っておやっさんは俺が下げた腕をもう一度上げた。
「いやいやいや! 違う違う! 何がいやいやいや、なんだよ!」
「いやいや、誤解するなって。これは証拠資料として取引先とか後の後継者達にだな」
「と、取引先ぃ!?」
「そうそう、材料の仕入れ先とかに」
「ま、まじで・・・」
「おぉ、マジマジ。この写真見せないと職人として認めてもらえないから仕入れてもらえないぞ」
「う、嘘ぉん・・・ しきたりは家の中だけにしとけって・・・」
「いや、でもこれが公式ルールだしなぁ」
「なんだそれぇ! そんな糞みたいなルールいらん!」
はぁ・・・。いや、そりゃあ、ため息だって出ますよ。
やっぱりやめようかっ、いや、ダメダメ! 出るな二言! どっかいけぇ! もう三も四も、五だって出てくるな! やるって決めたんだ俺は!
「あぁ、もう! いいですよ! 写真でも、動画でも何でも撮ったらいいじゃないですか! 俺はやりますから! 絶対にこのおパンティー食べてやりますから!」
「あぁ、そう・・・」
「いや、ちょっと引くな!」
俺はもう一度こいつに向き直った。手汗でほんの少しだけしっとりとしているようにも思える。ごくりと生唾を音を立てて飲み込んだ。はたから見たら中々にヤバい。
だからって何だ。常識がなんだ。倫理観がなんだ。そんなもの俺の覚悟の前では足かせにすらなりやしない。これから大事なものは捨てて、そして新たに大事に守っていく次第です。
やってやるさ。
「いきますよ!」
「おう」
おやっさんの目が真剣そのものだったことに軽く突っ込んでしまいそうだったが先にパンツを口に突っ込んでしまったのでそれはできなかった。
歯に、舌先に確かに伝わる布の感触。繊維一つ一つが否が応にも分かってしまう。
てっきり唾液が発酵していてかなりの悪臭がするのかと思っていたが、意外にも洗い立ての爽やかな洗剤の香りがして苦じゃなかった。いや、苦ではあるんだけれども。
なんだか余りにもリアルな口の中のパンツの実態を感じてしまい、先程までの興奮がすっと冷め切りやけに冷静な頭で考えてしまう。いや、なんだこれ・・・
「おぉ!」
パチパチパチ! おやっさんは俺がパンツを口にしたのを見て嬉しそうに拍手をしていた。
う、う〜ん・・・ いや、まあ、その、いいんだけど。う、う〜ん・・・
「嬉しい、俺は嬉しいよ。これからもよろしくな!」
おやっさんはそう言って涙を拭う素振りを見せながらも、もう片方の手でがしっと俺の手を強く握る。
う、う〜ん・・・ いや、その、パンツ、口に、その・・・ う、うん! まあもういっか! うんうん、こ、これでいいはず、オッケー、オッケー。
「よしっ、そんじゃ写真撮るか」
「あぁ、ふぁい」
カシャッ、カシャッ、カシャッ。
「おぉ、いいね〜! もうちょっと笑ってみようか」
「こ、こうでふか?」
口角を下手なりにも無理矢理ぷるぷると震わせながら上げた。
「おぉ、いいねぇ! 可愛いよぉ〜、綺麗だよぉ〜」
「やめてぇ! グラふぃあアイドルのふぁメラマンみたいなの、ふぁめてぇ!」
「よし、それじゃあピースもしてみようか」
うっ、流石にそれは少しためらわれる。けれどもうここまで来たらヤケだ。
俺は震える手でなんとかダブルピースを作ってみせた。
「おぉ! いいね!」
いや、何がいいんだよ・・・
「よしっ、このぐらいでもういいかな。もういいぞ」
そう言われ、俺はただ無言で口の中にあるパンツを吐き出す。
なんだろう、こう、得も言われぬ虚無感みたいなのっていうか、うん、なんだろうこれ。
何なんだろうか、これは。
パン職人になるためにパンティーをくわえる男、と、それを楽しそうに撮る男。
そして今目の前にある唾液で湿ったこの布切れ。
今の俺には人生の岐路にも愛の結晶にも見えやしない。
あれーー?・・・ な、何やってるんだろう俺・・・
そうして人生最大最悪の賢者タイムに突入し始めた、その時だった。
ドシンッ! 何かがいきなり頭上で落ちる音が鳴り響き、次にほんの一瞬の静寂が訪れる。なにかものでも落ちたのかな? なんて能天気にそんなことを思っていると、
ドンドンドンドンドンッ! とそんな俺の期待を破き捨てるように何者かが床を駆ける騒々しい音が耳に入ってくる。
え、あれ・・・、え、もしかして、え、いや、えっ、え?
その音である一つの壮絶に嫌な予感は俺の頭の中を同じように騒々しく、荒々しい足音で駆け巡る。
それからその音は木製の年季の入った階段を駆け降りる音に変わる。ついでに俺の予感も階段を降り、心臓の扉を何度も壊れるくらい叩く。
階段の隙間から見えた白くて細い脚、さらさらと風に流れる美しい黒髪。
そして階段を降り切り、奥から迫ってくる変なセンスの寝間着と、コンタクトレンズを外した家用の丸い黒縁眼鏡。それと、鬼気迫る真っ赤に染まった顔。
あぁ、いつもの綺麗に整った顔が台無しだ・・・ って、そんなこと言ってる場合じゃなくて! 正真正銘鬼の鬼気が、いや危機が迫ってきているわけで、マズイ、非常にマズイ。
そうこうしているうちに危機は迫り切り、ついには厨房と家部分を仕切っていたガラス戸を勢いよく開けた。
その危機の名は春香。その女凶暴につき。一度キレたらなかなか収まりがつかない。溢れる怒りを身のままに周りに当たり散らす、その時のパワーといえば父親であるおやっさんにも引けを取らない。
人前では地味目で大人しい女子を演じてはいるがその実、家ではわがままそのもので自分勝手で、そのくせ繊細。気が強そうに見えて意外と打たれ弱かったり、妙に優しいところがあったり、笑うと無垢で可愛かったり、こんな俺でも嫌な顔一つせず家族として受け入れてくれて、辛いときは何も言わないでずっと傍に居てくれる、
俺の好きな人。
いや、分かってる、分かってるさ。この人は一応義理の姉みたいなものだし、そんな恋心は一ミリも届いてなんかはくれないことくらい。
それともう一つ薄っすらと分かってきている事がある。
今、俺が手に握っているこのパンツは、きっと、多分、春香さんのだということだ。
厨房に入ってきた春香さんはそのままの勢いで俺達の方へと猛然と歩み寄る。まさに猪突猛進。
どうしよう、好きな人が近づいて来ているというのに全くドキドキしない! 別の意味で心拍数が上がりに上がってはいるんだけれど。
そうして春香さんは俺の目の前に立ち、スマホを俺の目と鼻の間ぐらいの位置に掲げた。
いや、近い近い! そう思いながらも仕方なくより目にしてその画面を見る。
薄っすらとしか見えなかったが分かった。画面の奥で俺がパンツをくわえている。
「あ、いや、あの、これはその・・・ は、はい、俺です・・・」
そう答えた瞬間、春香さんのもう片方の腕が振りかざされたのが見えた。
あ、終わった、終わりでーす! 終わりました! 俺の未来は始まって、ものの数分であっけなく終わりました。
ジ、エンドってやつです。これまでこんな拙い物語をご愛読していただき誠にありがとうございました。
それじゃあ終わってきます、はい。