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再興世界 ー冒険譚(サーガ)を残すは古代人ー  作者: 是竹一燐
純粋種再誕編
2/3

第一話 目覚めしもの

「ん、ふぁ~あ、あれ? ここどこだ?」

 辺りは真っ暗で誰も人のいる気配がしない。加えてどうにも頭がすっきりしない、寝ぼけているのだろうか。俺は何をしていたんだっけ。

「えーと、確か、喧嘩して家とびだして、それで・・・・・・」

 思い出していくうちに顔から血の気が引いていくのがわかる、そうだ、俺は――

 ってことはここって、もしかしてあの世? 俺死んだの? 嘘でしょ、まだやりたいことたくさんあったのに。

 そう考えていると、妙案が浮かんだ。

 そうだ、ここが本当にあの世なら神様とか仏様がいるはず、声をかけて神様仏様から返事がきたらここはあの世ってことだ。とにかく誰かいないか声をかけてみよう。何にせよ、こんな暗闇の中独りきりってのは寂しすぎる。

「おぉーーい、誰かいるかー。いるなら返事をしてくれぇーーー」

 俺はできる限りの大声で叫び続けた。








 遺跡研究者のフィーネは迷っていた。行き慣れているはずの遺跡で。

 ここで彼女の名誉のために弁明すると、彼女は決して方向音痴などではない。ただ知的好奇心に抗えなかっただけなのだ。

「ちょっと、ここどこよ~、こんな道聞いてないよ~」

 先日この遺跡の周辺で地震があったのだ。彼女は遺跡が崩れていないか確かめに来たのだった。ただし、幸か不幸かその地震で瓦礫が崩れ、新たな道ができてしまった。そして、彼女は興味本位でそこに入ってしまったのである。

 このときフィーネが迷ってから1時間が経とうとしていた。



 フィーネが遺跡に入ってからやがて5時間が経った。彼女の声色は震えており、ランプの光に照らされた顔には幾重もの涙が伝っている。死を覚悟したのか

「パパ、ママ、ごめんなさい。私がわがままだった、ずっとずっと愛しています」

 と両親への愛を口にした。

 だがしかし、変化は急に起きた。

 ガッッズガガガッッッッッガコン、大きな唸りをあげて何かがうごいた。そして、フィーネの後ろから光が差し込んできたのだ。

「今の、なに? 何が起きたの」

 フィーネは振り返り、歓喜した。

「光だ、光が入ってきてる。出口だ、出口に違いないっ」

 先程までの気力のなさが嘘のように彼女は走り出し、崩れた壁から脱出を試みた。

 その結果、人が一人ぎりぎり通れるくらいの通路ができており、彼女は脱出成功を確信したのだった。

 しかし、そこでフィーネは市を止めた。

「ぉーぃ、だ・・・・・・いる・・・・・・返事を・・・・・・くれぇーー」

「今のは、人の声?」

 聞き間違いかもしれない、けど、もし私みたいに迷ってる人だとしたら・・・・・・

 そう思ったフィーネは注意深く耳をすました。

「おぉーーい、誰かいるかー。いるなら返事をしてくれぇーーー」

「やっぱり、人の声だ。私のほかにも迷ってる人がいるんだ」

 フィーネは出口の場所を確認してからその声のもとへ歩き出したのだった。








「おぉーーい、誰かいるかー。いるなら返事をしてくれぇーーー」

 俺はやがて50回はそう叫んでいた。のどが痛くなってきた、けれど、誰も俺の声に答えてはくれない。

 辺りは一筋の光もなく、俺の声以外の音が一切しない。

 俺は恐怖でおかしくなりそうになりながらも懸命に叫び続ける。

「おぉーーい、誰かいるかー。いるなら返事をしてくれぇーーー」

 のどが痛くなるってことは俺はまだ生きてるんだ、それなら、それなら、誰かに見つけてもらえればどうにかなるかもしれない。そう思い込むことで俺はどうにか正気を保つ。

 しかし、ここがどこかはわからない。このままいくと俺は暗闇でずっと独りぼっち。そんなふうに考えて、もうだめかもしれない。

 そう思ったとき、ついに俺以外の音が聞こえた。

「そこから動かないで。今、助けに行くから」

 やわらかで少し高い女性の声だった。

 やった、やった!! 助かった。助かったぞ。助かったんだ!!

 恐怖から解放され、俺は心底安心した。

 安堵する俺にその女性は何度も指示を出してくれた。うっすらとだが光がある。その声を信じて俺は移動を始めた。



 そうしてしばらくして、俺とその声の女性は顔を合わせた。

 スッゲー美人さんだ。日本人じゃないな、暗くてよくわからないが、少なくとも黒髪じゃなさそうだし、顔つきも日本人っぽくない・・・・・・しまった、つい見とれてしまった。お礼を言わなければ。

「ありがとうございます、本っ当にありがとうございます。あなたが来てくれなかったら俺、俺、どうにかなってました」

「いえいえ、私もさっきまで迷ってましたから。出口はこっちです、離れないようについてきてください」

 孤独に押しつぶされかけていた俺にとってこの女性はまさに女神だった。

 俺は本当に幸運だ、命拾いした上に助けに来てくれたのがこんな美人さんだったなんて。ローブから見えるすらりとした長い脚、そして、ランプの光に当たってぼんやりと見える細く白い腕。ってあれ? 腕が一本しかない。失礼だとは思いながらも、もしも幽霊とかだったら・・・・・・と考えて、恐る恐る質問する。

「あの~、その腕はどうなさったんですか? 言いたくなければ別に構わないんですけど、気になってしまって」

 すると隻腕の女性が何も気にしていない様子で軽く答えた。

「見習いのとき落石に巻き込まれちゃってね。でも、今はこれがトレードマークになってるからそんなに気にしてないよ。隻腕のフィーネって聞いたことある? 最近は結構有名になってきたと思うけど」

 この女性はフィーネさんというのか、やっぱ日本人じゃなかったな、西洋系だ。しかし、隻腕のフィーネなんて聞いたことがないぞ。ゲームかなんかの異名か?

「すいません、聞いたことないです」

「あれ? 知られてなかったか。ところで君の名前は? この遺跡に単独で入れるってことはそこそこ名のある研究者かな、それともどっかの国の派遣調査員さん?」

 フィーネさんはいきなり訳のわからないことを言ってきた。

 遺跡? 調査員? 何のことだ。

「あの~、俺は別に研究者とか調査員じゃなくて、ただの一般人ですよ、日本人の池神翠(いけがみすい)です。そもそもここって一体何なんですか?」

 俺がそう言うと、フィーネさんは目を白黒させて、しばらく固まった。

「冗談・・・・・・だよね、それとも、ほんとにほんとの日本人?」

 と、しばらくの硬直を挿んで尋ねてきた。なんでフィーネさんはこんなに驚いているのだろう。

 よくわからなかったが、とりあえず日本人だということは肯定する。

「嘘でしょ、人格を残してる古代人が生存してるなんて。これってものすごい大発見じゃないの」

 どういうことかわからないが、フィーネさんはぶつぶつと呟きながら、信じられないものを見たかのように俺を見ていた。

 その後もフィーネさんは一人で思案に暮れ、俺は何が何だかわからないまましばらく待たされたのだった。



 俺が立ち尽くしていると、フィーネさんがいきなり俺に向き直った。

「待たせてしまってごめんなさいね。ところで、いきなりでわるいけど、脱出したら私のローブを着て家まで来てもらえないかしら? 詳しくは後で話すけれど、君は今この時代の人間じゃないの。理解できないかもしれないけど、今は私に従って」

 はい? 俺がこの時代の人間じゃない? 何言ってるんだ、フィーネさんは。

「ちょっ、いきなりそんなこと言われても、俺には何がなんだか――」

「今は問答をしてる場合じゃないの、あなたの身の安全にも関わることだから、素直に言うことを聞いて!」

 フィーネさんの張り詰めた雰囲気に圧倒されて俺は首を縦に振る。

「じゃあ、あと少しで出口だからしっかりついてきてね。外に出て、見慣れない景色が広がっているだろうけど、下手に喋らないようにね」

 フィーネさんがそう言い終わると、俺にローブをくれた。3分と経たないうちに俺たちは外に出た。



 なんだこれは、ここは一体どこなんだ、それが外の景色を見て真っ先に浮かんだ感想だった。

 ところどころに瓦礫があり、瓦礫の隙間から青々とした草木が生えている。

 俺はこんなところは知らない。こんな景色は知らない。俺が動揺していると

「ついてきて、こっちに街があるから。ただ、人とは顔を合わせないように、そしてもし話しかけられても、私があしらってあげるから黙っててね」

 そういわれて俺はフィーネさんについていくのだった。

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