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『貴方を例えるとしたら、どんな動物ですか?』

作者: *雷瑠*

『貴方を例えるとしたら、どんな動物ですか?』


今日、私は、久しぶりに開いたノートパソコンの画面を眺めながら首を傾げた。

小さいマンションの部屋から今より少し広いマンションへ引っ越す準備をしていた時。もう捨ててしまったと思っていた小さなノートパソコンが、押入れの奥から見つかったのが、今開いているサイトを見るほんの数分前であった。

高校時代の初めてのバイトで稼いだお金で買った、私専用のノートパソコン。当時、中学生だった2つ下の弟に何度せがまれても絶対に貸さなかったノートパソコン。

高校時代はこいつでリアルを充実させていたのものだと、1人感傷にひたっていた。

それほど毎日大事に使っていたノートパソコンだったのに、今まで何故思い出さなかったのだろうか?なぜ押入れの奥に追いやられてしまっていたのだろうか?

いつしか、自然とその姿を見る事の無くなったノートパソコンに私は何も疑問を持たずに、今まで忘れていた。毎日使っていたにもかかわらず、今は全くと言っていいほどインターネットとは程遠い暮らしをしている。

人って変るもんだな・・・


『貴方を例えるとしたら、どんな動物ですか?』


再び視線を宙から画面に戻す。何故、今私はこんな文句を言ってくるサイトを開いているかというと・・・。

久しぶりに見つけた懐かしさのあまり、まだ使えるかどうか試してみようと開いたのが始まりだ。二つ折りのノートパソコンを開いてボタンを押して起動させる。

電源が入っているか心配になったのはボタンを押した後だったが、今も問題無く動いている。まだまだ使えそうかも・・・と、考えていたら画面に映し出されたのはデェスクトップではなく、どこかのサイトのこの文句であったのだ。

過去の私は何のやり途中で、ここでやめてしまったのか・・・。

とにかく、この文句をさっさと消してしまおうと右上にある閉じるボタンをクリックするが何ともない。マウスは、あっちこっち動き回るが何ともない。閉じるも戻るもない。

引き返す事が出来ないと言うならば、やる事は一つだけであろう・・・

この文句にこたえてやろうでは、ないか!


で?私を動物に例えるなら??

・・・このパソコンを使っていた当時の私なら、迷わずナマケモノと回答欄に書き込んでいただろう。インドア派であり、座るなり寝転ぶなりすればその場から動かない事が目標となるブ・・・グータラであったのだから。うん、そうに違いない。

だが今は?

仕事も遊ぶ予定も無い休日は確かにグータラしているが、今は運動も健康管理の1つとしてちゃんと取り入れている。太りやすい体系の私なのだから、しっかり今の体重をキープする事を心がけている。昔に比べると動きは活発な方だ。1日中インドアでは無いのだから。なのに、悩みの体重が最近少しずつ増えつつある事に気分が落ち込む。

近所に美味しい喫茶店が有った事を、見つけてしまったのがいけなかったのか。または、自分へのご褒美だとか言って運動の後に寄り道してしまったのがいけなかったのか。

と、そんな事はどうでもいい。

今は私の動物だ。いや、私を例えられる動物だ。一体どんな動物だろうか?

犬?いや、そんなに人懐っこい性格じゃないし、第一他人に尻尾振るのはどうかと思う。

猫?いや、そんなに器用に世渡り出来るような柔軟さなど、生まれてから今日まで持った事など無い。

鳥?いや、自由に空を飛び回るほどの力も無ければ才能も無い平凡すぎる可愛げのない女なのだ。

では、鼠?いや、ちょこまか出来るほどの俊敏さも無ければ機転が利く訳でもない。

・・・ん~、いざ問われると難しい質問だという事が今わかった。

こんなにも真剣に答えずに、昔の私のように簡単な理由で答えてしまえばいいのだろうが、どうしてもそれが出来ない。なんとか私にピッタリの動物を捜しあてたい。

でなければ、この後も続く引越しの準備に身が入らないだろうから・・・。


―ピンポーン♪


真剣に悩み過ぎたのか、部屋のベルが鳴っているのになかなか気付けなかった。

慌てて玄関の扉を開けると、そのままの勢いでずっこけてしまった。


「せんぱ~い!なにやってるんですかぁ!?」


妙に高い声に妙に語尾を伸ばしている口調・・・仕事先の後輩だと言う事は、すぐに分かった。

まずい・・・恥ずかしい所を見られてしまった。まぁ、赤の他人に見られるよりかは言い訳が聞くからいいのだが、やはり私は羞恥には勝てずに顔を赤らめてしまっている。


「いや、段差にすべってしまったわww」


「せんぱい、何やってんですか~。ドジッ子アピールしなくていいですよぉ」


「その気は毛頭ないので、安心しろ。てか、あんたはその口調どうにかならないのか?」


「え、何の事です?」


私の了解を得ないまま後輩は、さっさと玄関の中に入って扉をガチャリと閉めてしまった。

――ん?ガチャリ・・・?


「お、おい!?なんで、私が締め出されているんだ?ここは私の部屋だぞ!?」




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「もぉ~、せんぱいったら、そんなに怒らなくていいじゃないですかぁ。ほ~ら、お詫びにケーキ作りましたよ?一緒に食べましょうよ」


自分の部屋だと言うのに後輩にふざけられて締め出された事を恨み、ブツブツつぶやきながらテーブルの上を片付けていると、後輩がそんな事を言った。

誰のせいだと思っているのやら・・・


「スポンジにクリーム塗ってフルーツを盛り合わせただけでしょ。その皿と調理器具もろもろ誰が片付けるんだろね?」


パソコンが置かれていたテーブルの上に、1ホールサイズのクリームケーキが置かれる。先ほど私が言ったようにただ盛りつけられただけの簡単ケーキだ。私と後輩の2人しかいないのに、後輩はケーキを綺麗に8等分すると1つを小皿に乗せて私の前に出した。

引越しの手伝いに来たと言っていたが、わざわざガムテープを貼った段ボールから皿や何やらを出さなくていいと思う。荒らしに来たようにしか思えなくなってくる。

しかし、ただ盛りつけただけというケーキだと言うのに見た目もいいし、美味しい。何かのイベントにつけてはクッキーやらシフォンやら、やたらと私の部屋に来て料理をしていた。そのどれもが美味しく文句のつけようがないのだから、やめろだなんて言えやしない。1つ、私の食べる分も作ってくれるし・・・私の密かな楽しみにもなってしまっているので、余計追い返す事は出来ない。


「あれ~、せんぱい、荷造り中にパソコンいじってたんですか?」


ケーキのおかげで、すっかり頭の中から除外されていた私の初代パソコンは、テーブルの上から段ボールの上へと追いやられていた。きっと、こうして忘れ去られてしまっていくのだろう・・・。

後輩は、1口サイズに切ったケーキをほうばりながらそのパソコンを指さした。


「あぁ・・・押入れの奥から見つかってな。ちょっとだけ見てた」


「それで、荷作りが遅れているんですね~。納得です!」


「あんたが来る前は、だいぶ片付いてたんだけどな」


私が台所を指さすと後輩は、とぼけた様な声を出しつつ頭をかいた。


「ん~、『貴方を例えるとしたら、どんな動物ですか?』・・・か。せんぱい、動物占いなんてやってたんですか?」


「高校時代の私がな」


「高校時代?」


「あぁ・・・」


私は簡単に、そのパソコンを見つけた経緯とそのサイトの事を後輩に話した。

後輩は 意味深~ などとボヤキながらマウスをいじくっている。


「あ、ホントだぁ。うんともすんとも言いませんね、壊れてるんじゃないですか?」


「そうか?電源はしっかりつくんだぞ。まだ、使えるだろ」


「だいたい何年前のパソコンですか、これ?古いですし、せんぱい最新のパソコン持ってるんだから必要ないでしょ」


「まぁ、な・・・」


それを言われたら、元も子もない。しかし、使えるに越したことはないだろう。多分そのパソコンには、私の秘蔵が眠っていたりなんやり有るのかもしれない。そう安々と中身を確認せずに物を捨てる事は私には出来ない。


「あ、キーボードは正常なんですね~」


パチパチと軽快な音を立ててキーボードを弾いて行く後輩。回答欄にカーソルを合わせてランダムに文字を打っているようだ。10文字程度打った所で後輩は、文字を全部消した。

フ~ンと楽しそうに鼻を鳴らすと、後輩は残りのケーキをほうばりながら私の方を振り向いた。


「どうせですから、動物書き込んじゃいます~?」


悪戯っぽく笑うのは、何か面白い物を見つけた時の無邪気さと同じなのだろう。後輩は、嬉しそうに笑うと次々と思う付く限りの動物の名前をあげていく。


「どれにしますか?」


「どれにすると、言われても・・・そこの質問通りに私に合った動物の名前を入れていきたい」


「じゃ、ナマケモノですね」


タンっと弾かれたキーボード。画面の回答欄にはナマケモノと書き込まれている。


「ちょ、おい!何勝手に決めているんだ、私に合った動物を入れなくてはいけないんだぞ」


「ですから、ちゃんとナマケモノって」


「ナマケモノって、昔はともかく今の私には当てはまらないだろうが」


「せんぱい ナマケモノだったんですか!だいたいの人は、ナマケモノと書けば当てはまると思って書いたんですけど・・・なんか的中しちゃいました。私、すごい!」


うっ・・・どうやら私は失言をしてしまったようだ。黙って消せば良かったのだろうか。普通に違うと否定すればよかったのだろうか。どちらにしろ、後輩の考えは安易すぎると結論付けておこう。人のすべてが怠けている者では、ないぞ。・・・たぶん。


「でも、せんぱいって案外ナマケモノで合ってるんじゃないですか?」


「な、なにを・・・」


「だって妙に哲学的ですし、一旦考えるとず~っとその問題と向き合ってる癖に何かあるとすぐに忘れて・・・また別の問題なんかで立ち止って頭悩ませてるじゃないですか。せんぱい、ナマケモノですよ。」


「・・・は?」


「ナマケモノって何考えてるか分かんないですよね!そこも、せんぱいと同じですよ。唐突な発言したり、変な所で転んだり!ナマケモノって1日中木にぶら下がって何考えてるんでしょうね!どうですか、哲学者のせんぱい!」


どうですかと、問われても答える自信も無ければ答える気も無い。唐突な発言とは、後輩の事ではないのだろうか・・・などと、余計な事を考えてしまう。


「とりあえず、ナマケモノでOKにしましょお!」


タンっと勢いよく押されたエンターキー。


「お、おい!私はナマケモノか!!それでいいのか!?」


私の抵抗も空しく、マウス操作ではピクリとも動かなかった画面が動きだし次の画面へと移り変わった。


『でしょうね。このパソコンを、あれからずっと放置し続けていたのなら私はこの時と同じ動物の名前を入れていると踏んでいました。

私は今も昔もこれからも変わらず“私”でいるのでしょうね 高校3年生 サチ  』




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「サーチー、サチー、いるなら返事しなさい!いつまでパソコンいじくってるのよ、もうご飯よ!」


「わかってるって、ママ!何度も言わなくても聞こえてる!!」


「じゃあ、なんでもっと早く降りてこないのよ!何してたの、どうせ勉強じゃないんでしょう?グータラ、ナマケモノのように、だらけてただけでしょ」


「当たり!でも、とってもいい事していたぞ!未来の私への手紙を作ってたんだから」


「また、しょうもない事言って!いいから、早くご飯食べちゃいなさい」


「しょうもなくなんかない!これから世の中に出て1人立ちする私が、未来でも今と変わらず私でいられるように・・・私がバイト代で初めて買ったパソコンに伝えてもらうんだから!!」













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