廃病院にて
お久しぶりです。かなり遅くなりましたが予告通り、短編を載せたいと思います。
とあるコミュニティ(現在、消滅……)向けに書いたホラー短編です。前回の長編小説の直後ぐらいに書いたと思うので、もう1年も前に書かれた短編です。あまりラノベっぽくない感じを意識しました。
1万5千字と多いですが、よろしくです。
「肝試しをやろう」と、雅彦は大声で宣言した。
ぼくが何気なく本に目をやって退屈を凌いでいる時、後ろの方で彼が両手を天に捧げた格好でそう言った。ぼくはその声に驚き、座ったままの姿勢でふと後ろを振り向いた。
「肝試し……いいねえー。でもどこでいつやるの」
「いつっていうのは、そりゃ夏休み入ってからすぐだな。一週間後ぐらいか。場所については……えーっと……」
「……まだ決まってないんだな」
「いや、みんなで決めようと思っていた所なんだ」
千夏の言葉に対し、困惑した様相を見せる雅彦の傍らで、千夏がため息まじりに肩を落とし、傍にあったパイプ椅子に力なく座った。その隣の椅子におもむろに、千夏の彼氏である義孝が座った。
雅彦の言う「みんな」とは、この立橋大学六甲キャンパスのテニスサークルの面々のことを指している。テニスサークルといっても、本気で試合を大学間や生徒間で行うことはほとんどなく形骸化していて、ただのお喋りサークルになっている。サークルを管理する大学の中央委員会などには目をつけられており、いつ廃部通達が来てもおかしくないのだけれど、その時になったら練習や試合のスケジュールを組むといったことをするため、今の所、潰れずにやっていけている。
ただ、ぼくはここで喋ることなく本を読んでいることが多い。
そしてそんなサークルには五人しかおらず、しかもみんな同じ二年生。
この部屋に今いるのはぼくと、困惑した表情のままの雅彦と、そんな雅彦の態度と夏の暑さに少し疲れている千夏と、そんな千夏に団扇で風を送る彼氏の義孝と、まだ四人。
椅子の傍にある長机に上半身を預け、うなだれていた千夏は顔を上げ、
「みんなで決めるのはいいけど、梓がまだ来てないよ。それからにしない?」
と言った。ぼくは本に視線を戻そうとしていたが、その意見には賛成だった。
五人目の人間はその梓だ。
「そうだな」と雅彦は眉に少し皺を寄せながらも首肯した。「じゃあ梓が来るまで、各々で考えておくってことでいいか」
雅彦がそう言った直後、ぼくの後ろにあるサークル部屋の扉がギギと錆びついた音を立てて開いた。
「ゴメン、少し色々と立てこんで遅れちゃった。……みんなどうしたの」
入ってきたのは梓だった。自分以外のサークルメンバーが揃っていて、なおかつ何か話していたのだろうという雰囲気を察したのか、少し驚いた様子を見せながらも、梓は入口近くの椅子に静かに座り、長机の上に鞄を置いた。その位置はぼくの対面でもあったが、ぼくはあえて気にせず本を読む姿勢を変えない。
そうしてメンバー全員が揃った。
梓以外の三人の視線が雅彦の元へと集まる。話が再開するのを心待ちにしているそんな視線だ。
雅彦は一瞬たじろいだが、負けずに言った。
「梓以外には言ったけど、肝試しを今度しようと思うんだ。夏休み明けの一週間後ぐらい、みんなの予定が空いている時に。それでどこでやろうかって話をみんなが揃ってからしようと思っていて……何かいい心霊スポットやパワースポットを知っているっていう人がいたら教えて欲しいと思っているんだが、どうだろう」
パワースポットも霊的な所ではあると思うけどそれは癒しの力を得る場所であって、心霊スポットとは似て非なるものと思う、とぼくは口を出しかけたが言葉を呑みこんで黙っておいた。既に狼狽している人間をこれ以上追いつめる嗜虐趣味をぼくは持ち合わせてはいない。
口火を切ったのは、義孝だった。
「神社と墓場を結ぶ道とか、山道とかはどうだろう」
「うーん」と雅彦は腕を組み、少し考えてから言った。「墓場と神社の直結ルートはなかなかいい肝試しが出来そうって思えるが、見回っている人がいるっぽいから駄目だな。山道はもっと駄目だ。真っ暗になると足を踏み外すとかして危ない」
義孝はおそらく駄目もとで言ったのだろう。ぼくも神社と墓場は思いついていた。そしてそれはみんなも同じなはずだ。みんな住んでいる場所はそれほど変わらないから、肝試しとして思いつく場所は限られている。
候補地の話し合いはさっそく硬直の兆しを見せた。
しかし、
「私がいいかもって思う肝試しの場所は、山の上の廃病院なんだけど……どうかな」
そう言ったのは梓だった。首を少しだけ傾げて、はにかんで言った。
その刹那、このサークル部屋全体が一瞬にして静寂に包まれた。
ぼくが適当に心霊スポットを挙げるとしても、あえてその場所は避ける。でも事実その場所が候補として持ち上がり、そして候補として持ち上がった場所がそれ以外にない状況となってしまった。
雅彦も、ぼくも、そしてその土地をつい言ってしまった梓以外は全員、困惑した表情をしていた。
その間、ぼくは何も発言する気はなかったけれど、何も発言してないと雅彦に指摘されたことで一度だけ発言の機会することとなった。しかし良い代案は簡単に思いつかない。
そして侃々諤々と意見が交わされることはなく、肝試しの場所は決定した。
山の上の廃病院と。
現在、廃病院と呼称されるようになった建物の正式名称は「北篠原病院」と言う。
戦後直後に、山のなだらかな坂道と、坂道の終わりの平坦な部分の木々を刈り取り、坂道を車道にし、そこから少し登った所に山に囲まれる形で、コンクリートで出来た北篠原病院が建った。五階建てと決して高くはなかったが、小学校の校舎のように横に広がっており、建ててからしばらくは人の往来が激しかった。
しかし数十年経つと近辺で立派な設備を取り揃えた大病院が建つようになり、北篠原病院は役割を他の病院へと移譲した形になりつつあった。院内の医者も相次いで他の病院に引き抜かれるという事態も起き、今からおよそ十年前に閉鎖が決定された。
閉鎖が決定してからすぐに取り壊し作業が始まろうとしていた。しかし実際には取り壊しは行われておらず現存している。ここでようやく、いわくつきの廃病院となった原因が出てくる。
取り壊しを担当した業者に相次いで不幸な出来事が起こった。施工担当の一人が現場に来る途中で事故に遭い負傷した。全高の高かった作業車がバランスを崩して横倒しになった。その他、様々な作業員や建設機器の事故やトラブルが相次ぎ、作業が度々中断し作業のスケジュールとしては、想定外の時間がかかりそうだということが容易に想像出来た。
土地をなるべく早く更地にしたいと考えた地主は業者を変え、同じ注文をする。
しかし結果は同じで、その次の業者に頼んでも同じことの繰り返しでしかなかった。
埒があかないと思った地主は土地を手放し、その土地には年を重ね色あせた廃病院、北篠原病院とその周りを囲う中途半端な工事跡だけが残った。そして現在ではそこに、怪談話が付け加えられている。
怪談話が付け加えられ始めたのは、ゴシップ誌で相次いでこの事態が取り上げられたことを発端としているが、それを加熱させたのはテレビ番組の影響だった。それも心霊特番などではなく、普通の報道番組でそれが取り沙汰されるという稀な事態が起こってしまったため、この事態はより注目を浴びてしまった。
そこから自称霊能者や科学者など様々な者が廃病院を訪れ、また全国各地のその類のマニアも訪れてきた。その辺りで語られてきた噂が今も地域に深く根付いている。
いわく、顔の一部が欠けたマリア像からは血の涙が流れた。
いわく、かつて北篠原病院で死んだ親戚が声をかけてきた。
いわく、人魂のようなおぼろげなもの達が追いかけてきた。
どれもこれもが噂でしかないとたかをくくりたい所で、工事そのものの出来事自体も相当古い。だけど実際に見たという知り合いをぼくは何人か知っている。そしてそれはテニスサークルの他のメンバーにとっても同様で、大学の生徒全員そんな状況になっているのではないかと、ぼくは想像する。
だから、廃病院に行けば間違いなく「何か」に会えると思う。
これは人によっては絶好な機会かもしれないけれど、実は廃病院に行く肝試しに対して、僕はあまり乗り気ではなかった。だからみんなで話し合っている時、出来るだけ意見を挟もうとはしなかった。
ぼくは霊的な存在に娯楽性を求めるということをあまり考えたくない。いや、考えたくなくなった。それはぼくの彼女だった女の子が今、この世にいないからだ。みんなが肝試しで娯楽として求める存在と、ぼくの彼女だった女の子は今、同じ立場にいる。そう考えるだけで、肝試しなんて本当は行きたくないとさえ考えしまうのだけれど、僕は肝試しを断る理由を思いつけずにいる。それに人付き合いを蔑ろにはあまりしたくない。
それに彼女を失ったのは中学生の頃の話だ。いい加減、忘れなければならないと思ってはいる。でもぼくは、彼女を失ってからから誰も好きになったことはない。彼女をちゃんと覚えていて、生きているかもしれないと錯覚することが今もある。そしてそれでいいと頭の中で納得し続けて、何年も生きてきた。これからもたぶんそう生きるだろう。
そうして夏休みとなった日々を怠惰に過ごしているうちに一週間は過ぎ、肝試し当日を迎えた。
肝試しの開催時刻は暗くなってからを予定したので、みんなが夕食を食べた夜9時頃に集合することと決まっていた。
ぼくは九時を回る二十分前とみんなより少し早めに着いた。
集合場所は廃病院に至る坂道の手前。その上には木々が邪魔をしてしまっているけれど、枝葉の隙間から廃病院をのぞくことが出来る。僅かしか見えなくてもその廃病院はみんなの言う怖さが充分に伝わってくるほどで、湿った夏の夜だというのに少し肌寒く感じた。
九時になろうとしてきた辺りから、集合場所に人が現れはじめた。ぼくの次に早かったのは梓で、その次に雅彦、そして九時を少し過ぎてから義孝と千夏が二人揃ってやってきた。
「みんな揃ったかな」
うるさくならない程度に、しかし威勢よく雅彦がそう言って周りを見渡す。ぼくもそれにつられて周りを見渡した。
廃病院の居心地の悪い雰囲気だけでなく、足元を照らすには少し頼りない街灯の明りに、真っ暗になって人の気配が感じない家並みが周りにはあった。それに縦横に走る道路には車もなく、人もぼくら5人以外にはいない。月は雲に隠れて存在さえ感じない。そんな暗闇は音という音を吸いこんで、どこか奇妙ともいえる閑散な雰囲気を生み出していた。
「なあ……集まったんだし早く行こうぜ。ここ何だか気味悪いよ」
そう言ったのは義孝だった。みんなどこか落ち着きがなさそうな様子ではあったけれど、特に義孝は怖がっていて、その様子を隠そうともしてなかった。
「でも今から行く所こそ、一番気味悪い所……なんだよ」
そう歯切れ悪く言うのは隣にいた千夏だった。義孝ほどではなかったけれど、千夏は千夏で義孝の背に隠れ、廃病院の方を見ないようにしていた。怖がっている様子は目に見えて明らかだった。
その二人の様子を雅彦は一瞥して、そしてほくそ笑みながら、
「怖くて足がすくんで動けないってやつは帰ってもいいんだぞ」
「う……うるさい。じゃあ私達が先に行くから」
千夏は彼氏である義孝の腕を取りそして引っ張って、堂々とした足取りで廃病院の坂道に一歩踏み出した。
「お、おい。無理矢理引っ張らないでくれよお」
義孝がさっきよりも酷く弱々しい声を出していたが、有無を言わせない勢いで千夏はどんどんと坂道を登っていく。
この暗闇の中では坂道を登る千夏達の姿が、すぐ視認出来なくなりそうだった。
「俺達もさっさと行くか」
そう言った雅彦の言葉を合図に、それぞれ持参してきた懐中電灯をつけ、ぼくらは千夏達を追いかけるようにして坂道を登り始めた。
坂道を登った先には「危険」や「立入禁止」と書かれたフェンスが廃病院の周りを囲っていた。そのフェンスやフェンスの周辺にある木の幹は、元の色には似合わない赤や青のスプレーによる落書きがあった。その落書きは時間が経過し、また雨にうたれることも多かったからか、解読不能なぐらいに滲み皮肉にも廃病院の気味悪さに一役買っていた。
「千夏ちゃん」梓がそう呼ぶ先には、さきに行っていた千夏達がフェンスの前で突っ立っていた。「先に行っちゃうから、もう中に入っているものかと思ったよ」
この場に似合わない間の抜けた声で、梓は千夏に声をかけた。だけど千夏は振り返ることなく、
「私達、帰るわ」
と言ってまた義孝の腕を引っ張り、今度は坂道をくだり始めた。義孝の方は先ほどと違って千夏の考えがわかっているかのように隣り合って歩く。
「千夏も義孝も、急にどうしたんだよ」
雅彦がそう言うと、千夏は立ち止りぼく達の方を見て言った。
「ほら、そのフェンスにちゃんと『立入禁止』って書いてあるじゃん。だからそれに従って入らないことに決めたってだけ。じゃあまた夏休み明けにでも会おうね」
千夏は手を大きく左右に振って、言葉なく別れを告げた。少しして、千夏達の姿は暗闇に溶け込み見えなくなった。
雅彦は千夏達がいなくなったことを確認して、
「あいつら、怖くなったんだろうな……」
と、ため息交じりに言った。
「でも、怖くなるっていうのも仕方がないと思う。肝試しと言うにはちょっとハードル高い気がするからね」
ぼくはそう言って廃病院の方を見た。千夏達の気持ちはわからなくはない。たぶん千夏達はこの廃病院を見てぼくと同じことを考えたに違いない。
間違いなく「何か」に会えると。
この場所に来て初めてそれを自覚し、改めて考え直したのだと思う。
しかしながらぼく達はぼく達で、廃病院の入口に辿り着くまでに苦労することとなった。
「これ、上手く入れそうな所がないね」
梓がフェンスの金網に手をあて、どこか隙間がないか探している。しかしフェンスは廃病院の周囲に隙間なく立てられており、またそのフェンスの金網はあまり錆びることなく一本として朽ちてはいなかった。
ぼくはフェンスを登ってみることを考え、一端金網に手をつけて登ろうとしてみた。確かに登れなくはない。しかしフェンスの上の棘の部分が邪魔をして、無理にでも乗り越えようとしたら服を破いてケガしまうことになる。肝試し程度にそんなリスクは背負いたくないし、梓みたいな女の子になればなおさら避けたいだろう。
他に何かいい案がないか、ぼくと梓は個々に考えはじめた時、雅彦が肩にかけていた鞄から何かを取り出してきた。
「雅彦、それは……」
「ペンチだ。こういう事もあろうかと、持ってきておいたのさ」
さすが企画立案者と言うべき準備のよさに、ぼくはホッと胸をなでおろした。
雅彦は自慢げに掌サイズより少し大きめなペンチを見せつけて、金網を一本一本丁寧に切り落としていった。
その様子を見ていた梓は驚いて、
「勝手にフェンス壊していいのかな。たぶん器物損壊罪とかになりそう」
「それを今更言うか、梓。なら俺達のやろうとしていることは、たぶん不法侵入罪だぞ。それにもしそういった罰がなくても、見つかれば誰かには怒られるだろうな」
そう言いながら雅彦は器用に手を動かし、フェンスの金網に人が通れるほどの穴をあけた。
「よし、これで入れるだろう」
雅彦はそう言って地面に手をつき四つん這いになって、その穴をくぐった。その後に、ぼくと梓が続いた。
フェンスの先にあったのは廃病院だけれど、その手前には大きく穿たれた穴が点在していた。穴の大きさも深さも相当なもので、落ちて這い上がろうと思っても一人では難しい大きさだ。建設機器が開けた穴がそのままになっているのだろう。穴を避けて通ることで廃病院の入口まで辿りつきそうだ。しかし頼りになる光が手元の懐中電灯だけでは、早く渡るという訳にはいかない。
「とりあえず、ゆっくり渡るしかないな」
ぼくがそう言うと、梓も雅彦も無言でうなずき、お互い足元に注意しながら、出来るだけ穴から遠ざかった所を慎重に歩いた。
そうして僕たちは何とか廃病院の入口に辿りつくことが出来た。
近くから見る廃病院は、坂道の下から垣間見た廃病院の姿やフェンスから見た廃病院の姿とは異なり、奇奇怪怪と言える雰囲気を醸し出していた。コンクリートで出来た壁は全体が黒く汚れで染められており、一部は崩れ落ちて地面で破片となっていた。入口のガラスや見える限りの窓ガラスは全てどこかが割れていて、本来の機能はとうの昔に失ってしまっている。しかしながら、何もかもを喪失して空虚に見えるその建物は、今も中に何かを孕んでいる。そんな雰囲気が入口だけでも感じ取れた。
ぼくがその雰囲気に一種の酩酊を感じ強張っている時、雅彦もぼくと同じような顔つきをしていた。しかし梓は不思議と普段と変わらないような顔つきをしている。ぼくはその梓の様子を不思議と思い窺っていたけれど、梓はその表情を変えず、
「早く中に入って、肝試ししようよ」
と、いつものサークル部屋と変わらない調子で、ぼくと雅彦に囁きかけた。
「うん……そうだな」
雅彦はそう言って懐中電灯を握りなおし、ぼろぼろになり錆びついている入口の取手を持つ。そしてその扉が壊れてしまわないよう、やさしくそっと扉を開いた。雅彦と共にぼく達は廃病院の中へと入った。
雅彦やぼくは、廃病院の中をとりあえず一通り照らしてみた。
「うわっ」
驚いた声が聞こえた。声の主は雅彦だ。
「どうしたんだ」
ぼくは雅彦の驚倒にびくつきながらも、雅彦の懐中電灯が光指す方向を注視した。
その光の先にあったのは、目から赤い何かが垂れた跡のある、ボロボロのマリア像だった。
ぼくはそれに驚かなかった。なるほど聞いた通りだなと、むしろ落ち着いて噂話をすぐ思い出した。
「噂は本当だったんだな……」
ぼくはそう呟いて、視線をマリア像から別の場所へと移した。
噂は本当だった。でもこれはここにいる「何か」とはあまり関係があるとは思えなかった。不気味ではあるけれど、朽ちた不気味さは廃病院そのものの方が感じるからだ。
そんな建物内部を懐中電灯でぼくは再度、照らしてみた。
はがれたり欠けたりして下地が見えてしまっているリノリウムの床が延々と続いている。その上には窓や電灯から落ちたと思われるガラスが散在していて、人が手を加えた跡はなさそうだった。少しだけ見える扉も、取手がまともについているものは少ない。
「何も出てこないね。私、奥の方へ行ってみようと思うんだけど」
そう梓が指さしたのは、暗闇に溶け込んで何も見えない廊下の先だ。
「よ……よし、じゃあ奥の方を探検だ」
さっきの驚倒で完全に腰が抜けてしまったのか、雅彦は先頭に立ちつつも、足を震わせながら歩みを何とか進めた。
次第に入口から差し込む僅かな光が遠のいていき、三人が持つ懐中電灯の明かりが唯一の頼りとなってきた。窓からは夜の光が差し込んでくるものの、廊下を奥に進めば進むほど窓は数を減らし、また小さくなったので、建物が持つ暗闇はより一層、ぼく達を飲み込むのに充分なものとなってきた。
この暗闇がぼくの足元をすくうかもしれない。そう思っている時、雅彦が呟いた。
「バイクの音が聞こえる……あのバイクの音は確か」
暗くて顔は確認出来ないが、雅彦の持つ懐中電灯の明かりを頼りに、雅彦の顔がありそうな場所をぼくは見る。
「どうしたんだ、雅彦」
「お前達には聞こえないのか、ほら」
「ぼくには何も聞こえない。空耳とかじゃないのか」
「いや、ちゃんと聞こえてる。それにこっちに向かってきている」
雅彦がそう言うので、ぼくは耳を澄ましてその音を聞いてみようとした。
しかし何も聞こえない。聞こえるのはバイクの音ではなく、リノリウムの床を踏む足音だけだ。
「なあ、何も聞こえないぞ。雅彦」
そう言ってぼくは雅彦のいそうな方へと目をやった。
だけど目に入ってきたのは、明かりがついたまま床へと落ちている雅彦の懐中電灯だけで、雅彦本人ではなかった。
「雅彦いなくなった……」
ぼくと梓は雅彦がさっきまでいた場所をくまなく探すことにした。ぼくは右手に自分の懐中電灯を、左手に雅彦の懐中電灯を持ち、二つの懐中電灯を照らして天井を、足元を、廊下の隅から隅を照らしていった。梓もぼくの懐中電灯の明かりが見えるギリギリの所まで距離を取って、照らして探し回った。
だけど雅彦は見つからなかった。
「もしかして怖くて帰ったとか、そんな馬鹿な話だったりしないよな」
「それはないと思うよ。もしそうだったら、懐中電灯は持っていったと思う」
ぼくの問いかけに対し、梓は冷静に答えた。そして梓は言葉を続けた。
「それよりも、少し引っかかってることがあるの」
「どんなこと」
「雅彦君が『あのバイクの音』って言ったの、覚えてる?」
「覚えてるけど、それがどうしたんだ」
「あの言葉から考えて、雅彦君の知ってるバイクが近づいてきたんじゃないかと思うんだけど……」
梓の話を落ち着いて聞いていたけれど、途中の話は飛躍しているなと感じた。バイクが近づいてきたことを前提に考えると、知っているバイクが近づいてきたんだろうとは思うけど、ぼくはそれを前提には考えられない。
そもそもバイクの音をぼくは聞かなかった。そしてそのバイクが雅彦に近づいたことで、雅彦は消えてしまったというのか。
あり得ない話だ。
でも今、ぼく達は肝試しであり得ないことが起こることを覚悟してこの廃病院にいる。
そしてぼくは必ず「何か」がいることを確信している。
あり得ないことが起こってもおかしくはない、ということなのか。そう考えると飛躍も許されるような気がした。
しかしそう考えても疑問は尽きなかった。
「雅彦はバイクに乗ることがなかったように思えるけど、バイクと雅彦って何か深い関係があるのか」
ぼくはサークルで雅彦と会ってから一年以上だけれど、一度も乗った姿を見たことがない。その上、雅彦がバイクの単語すら口に出したことがないような気さえしてきた。バイクと雅彦の間の関連性がわからない。
そのぼくの疑問に対しては、梓が丁寧に答えてくれた。
「それは今の話。雅彦君って昔はバイクに乗って色々な所に行ってたんだよ」
「知ってるのか」
「うん、高校の頃に乗ってたって聞いたの。それで友達と一緒にツーリングしてる最中に相手が事故を起こしてそのまま亡くなって……それから乗らなくなったって言ってた。だからもしかしたら、雅彦が聞こえるって言ったのは……」
梓は突然、黙した。
「どうしたんだ、梓」
「ううん、なんでもない。ただ私達がここまで来たのは、無駄じゃなかったんだなって思えたの。それに雅彦君は、今見当たらなくても無事にどこかいるんだってこともわかった」
「それは一体……どういうことなんだ」
梓の言っていることが、だんだんとわからなくなってきた。
梓はぼくと違って現状を理解している。そして無駄じゃなかったなんて、まるでこの状況を待っていたと言っているように聞こえる。この廃病院を肝試し先として提案したのは梓本人だけれど、そこに何かしらの意図があるとは今まで考えも及ばなかった。
「この廃病院に『出る』っていう噂は知ってた。足を踏み入れて奥の方へ行けば行くほど会えるようになる。それは本当の話だった。これは千夏達にとっても悪い話ではないと思ったから来て欲しかったんだけど……私としては、君に来てもらえることが一番の目的だったから」
目的。ぼくが来ることが一番だった。そして千夏達にとっても悪い話ではなかった。梓のその言葉を聞いてぼくは背筋が一気に寒くなった。
「もしかして梓は……何か悪いことでも企んでいたりするのか」
ぼくは懐中電灯の明かりを、梓の方へ向けて言った。
梓は慌てた様子で、
「悪いとかそんな話じゃ全然ないよ。サークルの……友達にそんなことする訳ないじゃん。むしろこれはみんなにとっても、心のしこりを取り除く唯一の機会だと思う。もしこれを逃したら、タイミングがなくなるんじゃないかって思っちゃって」
「ぼくに心のしこりなんて、特にないと思う」
「あるよ、気付いてないだけ。サークル部屋で若干距離を置いてることとか、そうじゃない?」
ぼくは梓にそう言われて、今までの行動を振り返ってみた。ワザとそんなことをするはずがなかった。でも、意識しないで避けているということはあったかもしれない。しかしそれが心のしこりであるとか、そういうことまでは思い当たらなかった。
それに、
「廃病院に『出る』ものが何で心のしこりを取り除くことになるのか、ぼくにはよくわからないよ」
「まあ、普通は信じられないよね。でも、会ってみればわかると思う……あっ、次は私の番みたい」
そう言って梓は、廊下のさらに奥の方へと歩いていく。暗闇に自ら飲み込まれていくかのように。
そして、その暗闇の先に「何か」に誘われるかのように。
「どこへ行くんだ、梓」
ぼくは梓に声をかけた。だけど、梓は踵を返すことなく、
「私はこれからお爺ちゃんに会うの。もうそこまで来てる。君も会いたい人に会えるといいね」
言葉が途切れると共に、カシャンと懐中電灯の落ちる音が聞こえた。
色々と言い残し、懐中電灯の明かりをつけたまま、梓は暗闇のどこかへと消えてしまった。
遂にぼく一人だけとなってしまった。
今度は目の前の暗闇がぼくを飲み込もうとしているように見える。その場に立ちすくんだままぼくは、だんだんと血の気が引いてきているのを実感した。
とりあえずぼくは雅彦や梓を探さないといけない。梓は何か知っているようだったけれど、ここでぼく一人が帰る訳にはいかない。
梓は一人で廊下のさらに奥の暗闇へと歩いていった。ならばぼくも奥へと進むしかないだろう。
ぼくは梓が落とした懐中電灯を拾い、両手でかかえるようにして三人全員の懐中電灯を持ち、梓が歩いていった奥の暗闇へと足を踏み入れた。
リノリウムの床の破片をぼくは踏んで破砕し、音のないこの暗い廊下に破砕音を立てる。一歩一歩と着実に歩みを進めることで、その破砕音は軽快なリズムを奏ではじめた。暗闇には似合わないリズムだなと、ぼくは少しだけ含み笑いをした。
しかしそのリズムが少しでも乱れると、気が散って周囲のことが気になり始めた。雅彦はバイクの音を聞いたのだ。だったらぼくも、何かこの廃病院に似合わない音に遭遇してもおかしくはないはずだ。
いや、もしかしたら既に「何か」と遭遇しているのかもしれない。
そう思い立ち止まって聞き耳を立ててみたが、しんと静まりかえっている。辺りは無音だった。
ぼくは周囲を気にしながら再び歩きはじめた。
かかえていた懐中電灯の一個を手で持ち、廊下の先を照らしてみる。ぼくは結構歩いたつもりでいた。だけど廊下の行き止まりはまだ見えてこない。ぼくはこの廃病院の外観を今夜、実際に目にするより前、昼間に撮られたであろう写真などではっきりと見たことがあった。その時は広そうだとは微塵も思わなかったけれど、いま歩いている距離は間違いなく長い。ぼくは既にこの廃病院という迷宮に囚われているかもしれないと思った。
そしてもうすぐ「何か」と遭遇しそうな、そんな気がしてきた。
しかし何と遭遇するというのだろう。
梓はその辺に関して何か知っている感じだった。
梓の言うことを信じるのなら、雅彦は昔の友達にでも会っていることになる。梓は「これからお爺ちゃんに会う」と言って消えてしまった。
そして会いたい人に会えると言ってきた。
「ぼくが会いたい人……」
ふと僕はその言葉を口にした。ただそれだけだったがその瞬間、異変は起きた。
それは一瞬の出来事だった。
ふわっと廊下に心地よい風が吹いた。それは何の音もなく、どこからともなくやってきた風だった。その風はぼくの全身を包みこんで、ぼくの後ろから前の方へと吹きぬけていった。
次第にぼくの前方でその風が収束していくのがわかった。風は床に散った埃をつむじ風のように巻き上げ、その場で停滞する。巻き上がる埃はぼくの身長と変わらない高さにまで達する。その風が作りだす雰囲気によって、本来は意志を持たないはずの風がその時ばかりは、意志を持ちぼくに何か言いたがっているように見えた。
そしてその風と埃はだんだんと集まって一か所に固まり、ツヤのある一つの大きな膜をとなって、その膜は肌色へと変色した。ぼくと同じぐらいの大きさはあるだろうその肌色の膜は、次第に波打って凹凸を生み出し、その凹凸を固定させ、さらに膜は肌色一色の中にピンクや朱や黒など様々な色を混ぜ、混色していった。混色した凹凸のある膜はさらにその構造を複雑なものへと変貌させていく。
そしてある程度、形が整ってきた所でぼくはそれが何になるかがわかった。
人間だ。
それも凹凸を見る限り、女性で、ぼくよりも小柄なのでもしかしたら子どもなのかもしれない。
次第に髪の毛と思われる黒い糸の束や、顔の輪郭といった複雑な凹凸も形成され始めた。
そしてつむじ風は、一人の女の子になった。
ぼくはその女の子をみて「あっ」と声を思わず出した。「会いたい人に会える」とはこのことだったのかと、梓の言葉をやっと理解した。
目の前にいたのはぼくの彼女だった女の子だ。最後に棺の中で彼女を見たあの中学生の時から何も変わっていない姿がそこにはあった。少し違和感があるとすれば、この場所が廃病院の廊下であることと、その廊下が昼間の日光でも浴びているかのように明るくなったことと、彼女が一糸纏わぬ姿でぼくの目の前に現れたことだ。
ぼくは彼女の名を呼んだ。
「うん、どうしたの。というかいつの間にか背、高くなったね」彼女は微笑みながらそう答え、ぼくに近づき頭をやさしくなでた。「私のこと、もしかして忘れられなかったのかな」
「いや、ぼくは……」ぼくは彼女のその小さい体に両手を回し、やさしく抱きしめた。「忘れられる訳がない。ずっと会いたいと思ってた。いつか忘れなければならないとは思っていたけれど、頭の中では忘れないことに納得して生きて、忘れることをいつの間にか拒絶して、自然と覚えているようになって、もしかしたら生きてるんじゃないかとさえ思う時があったんだ。むしろ、忘れようと思えば思うほど、思い出してしまって……つらかった」
彼女の唇にぼくの唇を重ねた。数年ぶりの感触だと思った。だけど唇の先から感じたものは、全く別のものだった。
人にはあるべきぬくもりがなかった。彼女の唇は冷たくヒヤリとしていて、ぼくの唇の先にはツンと冷たい刺激が伝わってくる。彼女のその唇は乾ききってもいて、砂のようにこちらの水分を吸い取ってきた。
気付けば彼女の全身も冷たかった。彼女が動いていることが不思議に思えるぐらいに冷たく、ぼくの体で彼女を温めるより、ぼくの体の体温を彼女が奪っている感じだった。
彼女との抱擁と接吻はこうではなかったはずだ。
そう思ったら自然に、ぼくは彼女の体に回していた手をのけ、彼女と少し距離をとった。
「どうしたの」
彼女はさも当然の質問といった感じに、ぼくを見ながら健気に問いかけてきた。
そう思うのは仕方ない。いつもはここから互いのリビドーを抑えることなく、その先をやり通してきたのだ。今も別に抑えられている訳じゃない。互いにもっと感じたいはずだ。少なくとも今のぼくはそうだ。体が正直に応えていることもわかっていた。
でも、そのリビドーより抑えきれないものが、胸の奥からこみ上げて来ていることをぼくは知ってしまった。
それに気付いてしまった時、ぼくはショックだった。
でも、さっきから屈託のない笑顔を見せてくれる彼女に言わない訳にはいけなかった。
「いや……会いたい人に会えたのはとても嬉しかった。嬉しかったから抱きついたし、キスもした。でもこれ以上抱きついてもキスをしても、そして恐らくセックスをしても何も感じなくて、無意味だと思うんだ。
そこまできて……今日になってようやくぼくは、君が死んでいるんだなってやっと実感が持てるようになった。今はもう……生きているぼくは死んだ君に何もしてあげることが出来ないし、死んだ君は生きているぼくに何もしてあげることが出来ない。だからぼくは君とセックスは出来ないし、これ以上近づいちゃいけないと思うんだ。たぶん、お互いのためにならない。だから……ゴメン」
その言葉に偽りの言葉は一つもなかった。
ぼくと彼女はいる場所が違う。たまたま、今ここで同じ場所に立っている。だけど、存在としてはやっぱり違うのだ。
今までぼくは頭の中でそれが納得出来ずにいた。でもここに来てようやく、ぼくは納得することが出来たのだ。
ぼくは彼女に嘘偽りない言葉を言うことしか出来なくて、それが悔しく双眸から溢れ出る涙を我慢することが出来なかった。
彼女の方は涙を流すどころか、屈託のない笑顔のまま、ぼくにこう言った。
「色々と気付けてよかったね。でも時々でいいから、思い出してね」
「――おーい……」
誰かの声が聞こえる。
背中が何だか湿っていて冷たく、それに加えて慣れない感触が伝わってきて気持ち悪かった。辺り一面が真っ暗というのもおかしいと思ったけれど、それはぼくが目を瞑っているからだとすぐ理解出来た。ぼくはとりあえず、目を開けた。
「おっ。昌野が目を醒ましたぞ」
そうぼくの名前を言ったのは、雅彦だった。
「雅彦。無事だったか」
「まあな。何か気付いたらこの林の中で寝てて、ちょっと前に起きた所なんだ」
ぼくは地面に手をついて上半身を起こす。すると湿った土と枯れ枝がぼくの手のひらにびっしりとついた。すかさず地に面していた背中の部分を手で確認すると、同じように土と枝がついていた。汚いと思って手でそれらを払い落そうとするも、汚れ自体は落ちなかった。たぶん、水で洗わないとどうしようもないのだろう。
ぼくは立ち上がって、周りを見渡した。
ここはおそらく廃病院に至るまでの坂道の入口から少し離れた林の中。木々の隙間からは廃病院へと続く坂道をのぞくことが出来、枝葉の隙間からは日差しが射し込んでいた。
廃病院の中にいる時は夜だったので、ぼくは一晩ここで横になって気を失っていたことになる。
寝ぼけて働きにくい頭を何とか働かせて、昨日のことを思い出そうとした。
肝試し、消えた雅彦、消えた梓……。
そういや、梓が見当たらない。
「雅彦。梓を見なかったか」
「ああ、俺よりも先に起きてそれで昌野が起きないからって水を買いにいったよ。林の中とはいえ蒸し暑いから、買ってきた水を昌野にぶっかける気かもしれないな。梓がどうかしたのか」
「いや、肝試しの最中にいなくなって……雅彦もだけど、とにかく大事に至らなくて良かったよ」
ぼくはホッと胸をなでおろした。無事であることも、梓の言う通りだった。梓が聞いてたであろう廃病院についての話は、ぼくが聞く噂程度のあやふやなものではなかったんだなと、改めて実感した。
しばらく梓を待つ間、その林の中は静寂が辺りを包んでいた。ぼくも雅彦も、汗をただかくだけで口を開こうとはしない。喋りたい、聞きたい内容は互いに一緒だったはずだ。
ぼくは肝試しの時に雅彦が誰に会ったのか少し聞きたかった。結局、友人と会えたのだろうか。会ったならどんな会話をしたのだろうか。でもそれは、雅彦のプライベートでしかなく、立ち入ってはいけない。当たり前だ。それを知る権利があるのは、本人と死んでしまった友人だけだろう。
だから雅彦もぼくに対して何も言ってこなかったのだと思った。
ただ、ぼくは雅彦のその満足そうな、肝試しをしていた時とは違う面持ちを見て、良いことがあったのだろうと察した。
それはぼくにとっても同じだ。
引きずってきた荷物をそっと降ろして、身軽になったそんな気持ち。新しい何かに納得出来た気持ち。
しばらくして梓が水一杯に入ったペットボトルをビニール袋一杯に入れて戻ってきた。それは重たそうで、そして暑さも相まってか梓の表情は苦痛を表していた。
ぼくはその表情を見てあわてて梓の所へと駆け寄る。そしてペットボトルの入ったビニール袋を持ちあげた。
「えへへ……やさしいんだね」
「まあ、当然のことをしたまでだけど……前のぼくじゃ、率先して動かなかったかもしれない。黙って誰かの意見をただ聞いていたのと同じように」雅彦のもとへと歩きながらぼくは言った。「梓のおかげで今までひきずっていた荷物をやっと降ろすことが出来るようになったよ。ありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
「でも色々と知ってたのなら、教えてくれても良かったじゃないか。目的とか言い出した時は、本当に焦ったんだからさ」
「あはは、ゴメン。……で、質問なんだけど、荷物を降ろした昌野君は、私のことがどう見える?」
梓はキャッと言いながら、顔を赤らめ、両手で顔を覆った。
不思議な質問がぼくに飛び交ってきたと、正直思った。
ぼくは梓の頭から足の先まで一通り見る。いつもならぼくの彼女だった女の子の姿がそこで思い浮かび、色々と否定する気持ちが強くなるのだけど、今日はそんな気分にならなかった。
「可愛いと思う」
【終】
更新日は未定ですが、今月中に最近書いた短編を挙げます。