美術の時間に彼女を見た
美術の時間に彼女を見た。
鈍く銀色に光るバケツに絵の具が攪拌する様をじっと正視する彼女を見た。
彼女の瞳は楽しみの色を湛えていてしかし同時に悲しんでいるようでもあった。
美術室の外は太陽の光に満たされておりクラスメートが走り回っている。
それはパレットを粛々と洗う彼女とは対を成すようで、さながら教室の境目が陰陽の境目のようであった。
黒ずんだ何色とも言い得ない水が入ったバケツを指差して絵の具が水に完全に混ざることは死なのだと彼女は教えてくれた。
そして絵の具が水に混ざる様は死の途中経過とも言えその瞬間の絵の具と水の境目がはっきり見えるところに死への拒絶、即ち生を見るのだという。
だから愛おしいのだと不思議な目をして絵の具をバケツに注ぎながら笑っていた。
陽が傾いてきて教室を照らす。彼女はこっちをむいて微笑んだ。