第87話 召喚されてきてみれば
召喚されてきてみれば、そこは虎さん達のいる異世界で。最初は戸惑う事も多かったけれど、私はここで家族を見つけた―――。
リンゴーン
ゴーン
リンゴーン
鐘が空に鳴り響く。今日はぬけるような青空。
鳥達が気持ちよさそうに羽ばたいて空高く飛び立つ。
私は白いドレスを着てその時を待った。
長い長いロングドレス。後ろには何人もの介添えの女官さん達がドレスの裾を持っていた。
隣に居るのはゼファンさん。本来は父親が担うこの役を無理言ってお願いして。
扉が開く………。多くの参列者の中を祝福されながら進む。
緊張しすぎて泣きそうな私を迎えるのはディーさん。
優しい笑顔で迎えてくれる。
―――起きてから約2カ月………今日、私はディーさんのお嫁さんになりました―――。
※ ※ ※
結婚式から4年近く経って、―――つい先日、吃驚する事があった。
ディーさんの執務室に呼ばれて行ってみると、そこに居たのは何とも言えない顔のディーさんとレンブラントさん、困惑顔のラムザさん、少し怒った顔のミーシャさんと苦笑しているリン先生。
そして、笑顔のジュド―さんと、やっぱりどこか怒った顔のエルザさん。
「子供が出来たので結婚します」
そう言ったのはジュド―さん。相手は………やっぱりと言うかエルザさんだった。
そこまではね………ちょっと吃驚した位だったんですよ。
ウチも人の事言えないけれど、結婚式挙げてすぐに子供達の妊娠分かったくちだし。
でもこの国じゃ結婚前に子供ができるのってあまり褒められた事じゃない。
だからディーさんが先に結婚すれば良かったのに、と言った訳よ。一応ね。
ほら、ジュド―さん神官さんだし。体面と言うものがあるじゃない。そしたら………。
「既成事実を作ってしまえば逃げられないですからね」
と、ジュド―さんが仰いました。
黒い、黒いよ! ジュド―さん。私の中の彼に対する優しいお兄さん像がガラガラ音を立てて崩れましたとも。ディーさんとレンブラントさん、リン先生は思いっきり苦笑してミーシャさんが真っ赤になって怒り、エルザさんは頭を抱えた。
困惑してるのはラムザさんと私だけで、この黒いジュド―さんを知らなかったのはどうやら私とラムザさんだけだったらしいと言う事を今、知りましたとも。
「お兄様、やり過ぎです」
ミーシャさんがプリプリしながら言う。そりゃそうだ。
後で嘆息しながら、エルザさんが私とミーシャさんに教えてくれた所によると、人の気持ちがなんとなく分かるというジュド―さん。
いきなりエルザさんにキスしてシドロモドロに彼女が文句を言うと「私、人の気持ちがなんとなくですけど見えるんです。―――私の事好きですよね」と爽やかな笑顔でオッシャッタらしい。逃げ場をなくしてトドメを刺す。見事な手腕だ。
と言う訳で、エルザさん産休に入りました。私のお腹の子の方が少し早く産まれるかなぁ。
子供と言えば、来年お兄ちゃんズになる私の息子達は今日もヤンチャに過ごしている。
毎日が戦場です。現在3才、こっちの子の方が発育早いのか良く喋るし良く走り回る。
最近は知恵もついてきてもう大変。
真っ白いフワフワの毛並みにディーさんそっくりのアイスブルー瞳の良く似た双子です。
この子達いっつも1つ年上のヨランダさんの息子、ファウエル君の真似をしたがるんだよね。ファウエル君が木に登れば「「ボク達もー」」になる訳で………。
この前は木に登ったまま降りられなくなってさ………慌てる私の目の前で「「面白そうだったから」」
という理由で飛び降りた。私は真っ青になって年甲斐もなく大泣きしてへたり込んだ。
だって、木の下には大きな石もあったんだよ。怪我したらどうするの?!
息子達、リュオンとシュオンはディーさんに捕まって産まれて初めてお父さんからお説教された。
ディーさん今までは多少の悪戯なら笑って許してたから2人には堪えたみたい。
膝上に抱っこして逃げられないようにした後、滾々と諭した。
「お前達は、母様を泣かして楽しかったか? 母様はお前達を心配して泣いたんだ。木の下には大きな石もあっただろう? あれで怪我をすれば死んでたかもしれんのだ。多少の悪戯はお前達が元気な証拠だが、そういう心配のかけ方は駄目だ。分かるな」
「ご、ごめんなさい~」「ごめんなさい父様っ」
大泣きしながらディーさんに謝り、膝から降ろされると一目散に私の足にしがみついた。
「母様ごめんなさい………」「母様~」
泣きじゃくる子供達を抱きしめて私はこの子たちが怪我をしなくて本当に良かったって思った。
この事件があってから、リュオンもシュオンも私が泣くようなことはしないって決めてくれたみたい。
悪戯の内容も無謀な感じのものはなくなった。
それでも毎日のように女官さんの服にゴガっていう蛙みたいな生き物入れたりしてるけど。
しかもリュオンが悪戯して逃げるじゃない? 廊下の角に隠れて立ち止まって怒って追いかけてくる大人に「ボクじゃないよ。リュオンだよ。あっちに逃げたけど」とやる訳です。
双子を見分けられるのは私とディーさん、ミーシャさんとジラルダさんしかいないから、そう言われると分かんないんだよね。ちなみにシュオンも同じことをやってのける。
怒られても嫌われないのはこのヤンチャな双子がお城の人達に愛されてるから。本当、有難い話です。
この子たちの遊び相手はもっぱらファウエル君とレンブラントさんの所の息子さんで同い年のマルセル君。この4人が集まると、庭は泥だらけになる事が多い。泥玉の投げ合いっことか大好きだからね。
ファウエル君の将来の夢は騎士なんだって。ヨランダさんの事は大好きだけど「僕は男らしくなりたい」らしいです。
マルセル君はレンブラントさんみたいになりたいらしい。らしいって言うのは少々内気なためそこまでしか確認できなかったからなんだけど。
文官になりたいのかお父さんみたく宰相さんになりたいのかは謎です。
泥だらけで遊んでいる双子ですが、リュオンもシュオンも既に好きな子がいるんだよね………。
お兄ちゃんのリュオンが好きなのはミーシャさんの娘、同い年のシャーリアちゃん。ミーシャさんに良く似た可愛い子ですよ。リン先生がメロメロです。
弟のシュオンが好きなのはなんとエヴァンジェリンちゃん。
10才離れてるんだけど、年………。あんまり関係ないみたい。
リュオンとシャーリアちゃんは可愛らしく将来は結婚しようねなんて言ってるんだよね。将来、気持ちが変わらなかったら結婚するんじゃないかな。シャーリアちゃんならお母さん大歓迎。
問題はエヴァンジェリンちゃんの事を好きなシュオンか………。
この度13才になって夜会デビューを果たしたエヴァンジェリンちゃん。元々可愛かったから貴族の男の子に大人気なのよ。
シーヴェスさんはエヴェンジェリンちゃんが好きな人と結婚すれば良いって思ってくれてるみたいだけど………「今は好きな人なんていませんわ」なエヴァンジェリンちゃん。
しかもリュオンとシュオンの位置づけは可愛い弟なんだよね。
早い子だと夜会デビューしてすぐに結婚しちゃう子もいるし、エヴァンジェリンちゃんに好きな人が出来て泣かなきゃいいけど。シュオン。
エヴァンジェリンちゃんと言えば、良くイリアナさんの近況を教えに来てくれる。
そう言えば、エヴァンジェリンちゃん最近またリュオンとシュオンの絵姿をイリアナさんに送ったらしく、感想は「陛下の小さい頃にそっくりで驚きましたわ」だったそうで、とても喜んでいたらしい。
イリアナさんは今、孤児院の子達のお母さん的存在。私もできる範囲で協力してる。最近やっと学校をつくった所なんだよね。学校通うのにもお金がいるからさ。
修道院の管轄で、お金のない子や孤児の子が無料で学べる所が必要だっんだ。
今まではシスター達で頑張って教えてたそう。でも限界があるしね。
そうやってイリアナさんは頑張っている。
そんな事を考えながら現在ティレンカ女神と泉の畔で話していると、やんちゃな双子が泉で遊ぶのに飽きて私のお腹にそっと抱きついてきた。
「あ、動いた!」「え!うそ。ボク分かんなかった………」
私のお腹に耳をあててリュオンとシュオンが声を上げる。
「「動いたっ」」
今度はちゃんと2人に赤ちゃんが動いたのが分かったみたい。
『子供と言うのは元気なものじゃのう』
「元気過ぎて困る時もあるけどね」
苦笑しながら言えばティレンカ女神に笑われた。
「ティレンカばあ様、赤ちゃん動いた」
「赤ちゃん元気だよ。ティレンカばあ様」
この子達はティレンカ女神をお祖母ちゃんて呼ぶ。ティレンカ女神直々のお願いでね。
随分若く見えるお祖母ちゃんですが。カラント神なんかも「じい様」って呼ばせてるんだよね………。
最初は見た目的に違和感があったけど最近やっと慣れて来た。
そんな会話をしてたら仕事が終わったのかディーさんもやってきた。
ティレンカ女神に笑顔で挨拶した後、リュオンとシュオンの頭を撫でて私の横に座る。
「ミオン。ヨランダが『べびーかー』の試作品を置いていったぞ」
「相変わらず仕事が早いなぁ」
そう、ベビーカー。あった方が楽だと思って提案したんだよね。素材は地竜の骨とか皮とかで作る事になってる。それにフワフワのクッションを置いて可愛い作りにすると言っていた。
ちなみにヨランダさんのコラボなお店は世界的に有名になりました。
今はベビーグッズとかも手がけてる。私のいた世界の知識はそこそこ役に立っているようだ。
おしゃぶりとか哺乳瓶とかにね。
私は子育てを乳母さん任せにしてないので、色々あった方が便利な訳ですよ。
本当は王家の慣例に反してるんだけど。
本来、王子を育てるのは乳母さんと爺やさんの仕事。だけど、どうしても自分で子育てしたかった私はディーさんにお願いしてその権利をもぎ取ったのだ。
良く、大臣さん達が許してくれたと思うよ。本当。
でも、ディーさんの子供を産むために変化して以来、大臣さん達の態度はすごい好意的。
多少の事は許してあげようって事になったみたい。
なので、リュオンとシュオンは私とディーさんが主に育ててる。もちろん周りの人達の手も借りているけれどね。
「あのね父様、さっき赤ちゃん動いたの」「元気だったよ」
「そうか。どれ」
ディーさんが私のお腹に耳をあてる。
「はは。蹴ったな。元気なようだ」
嬉しそうにそう言ってディーさんが私のこめかみにキスをした。
「赤ちゃんどっちかなぁ」「女の子がいいな」
男の子でもいいけど、とリュオンとシュオン。
「「いっぱい遊んであげるんだ」」
2人で顔を見合わせて笑う顔はもうすでにお兄ちゃん。
『名はもう考えたのか?』
「考えてはいるんだが。なかなか決まらないものだな」
苦笑するディーさんを見ながら私はこの前、2人で話てた事をティレンカ女神に言った。
「ディーさんは男の子だったら、クオンかセオンが良くて女の子だったらレランかシランが良いんだって。私は男の子だったらクオンが良くて女の子だったらレティシャとかリスティナがいいんだけど」
『悩むところじゃの』
「ディーさんはリュオンとシュオンみたいに音の雰囲気で揃えたいみたい。私は女の子だったらキラキラした感じの名前がいいんだよね」
ディーさんを見て苦笑しながら言う。
『意見が分かれてるようじゃな』
楽しそうに言うティレンカ女神に私は身を乗り出して聞いた。
「ティレンカ女神、この子の性別ってもう分かる?」
『リュオンとシュオンは自己主張が激しい子供だったからすぐ分かったが………この子は割と大人しい。もう少し経たねばはっきりしたことは言えんが女の子の可能性が高いの』
ティレンカ女神は少し考えるようにした後そう言う。
「そっかぁ………」
楽しみだねとディーさんと笑い合う。もちろん元気に産まれてきてくれれば男の子でも女の子でもいいんだけど。
そう言えば神々には見ようと思えば、その人の人生というか運命が見えるらしいのね。
だけど、ティレンカ女神の血を引くディーさんと、私達の子供達、そして異世界からやってきた私の運命は見えないらしい。
だから余計に神々に面白がられて気に入られている現状がある訳ですが。
良くして貰ってるので文句は言わないけど。
リュオンとシュオンが産まれた時とか、かわるがわる見に来てて大変だった。
知ってる神々に知らない神々。他の国の神々まで興味津々。
『これが異世界の娘との子か~』みたいな感じで。
また、リュオンとシュオンが赤ちゃんながら笑顔で接待するものだから神々大喜びですよ。
うちの子はパンダじゃないんだけど。
しかも何を思ってか半透明な姿でお城の中を闊歩するからまた幽霊騒ぎが起こったりとか大変だった。
リュオンもシュオンも元気に育ってくれてる。
ヤンチャなのもきっと今のうちだけ。あっと言う間に大人になっちゃうかも。
そう思うと少し寂しい。
だけど大好きな人達に囲まれて、この子達は育つだろう。
愛情を沢山貰って育つだろう。
その愛情はいつかこの子達がお父さんになった時にきっと子供達に注がれる。
そうやって繋がっていくんだと思うんだ。
ディーさんと子供たちに囲まれて………何て幸せな「今」の私。
今日も明日も明後日もこんな風に世界は続いて行くんだろう。
その中で皆と笑っていけたら良いなって私は思う。
大好きな人達と、笑顔で過ごせたら………それが私のささやかな願い。
それが永遠に続く私の願い。
無事今日中に書き上がりました。
本編はこれにて終了。残すは番外編1話となります。
個人的には黒いジュド―さんとか書けて大変満足です。
番外編は明日更新予定ですが、いよいよ最後だと思うと流石に寂しいものが………。
番外編の語り手は、深音でもディーさんでもありません。
誰になるかはお楽しみと言う事で(笑)