第86話 夢を見ていた気がする※微量の大人表現あり※
夢を見ていた気がする。沢山の夢。
最初は私の元いた世界。ガードレールの横、電信柱の所に沢山の花束。
友人や、育ててくれたシスターの声が聞こえる。
『馬鹿だね深音。猫助けに飛び込んで死んじゃうなんて。あんたらしくて笑っちゃうよ』
涙声のその言葉。
『深音ちゃん。天国でお父さんとお母さんと幸せに暮らすんですよ………』
切ない願いがこめられた言葉。
カラント神がひょっこり現れてこう言った。
『あれ? 抜け出して来ちゃったの? 深音ちゃんは何だか規格外な子だなぁ。普通望んだって精神体だけで来れるような所じゃないんだけど』
そう言って楽しそうに笑う。
皆泣いてる、そう思っただけなのにカラント神が聞こえたように真剣な顔してこう言った。
『君が愛されてた証拠だよ。ゴメンネ。これが一番やりやすい方法だったからさ。一番修正が少なくて宇宙に負荷がかからない。君は19才で死んだ事になってる』
そうなんだ………。だから皆泣いてくれてる。申し訳ない気持ちになった。
私は生きているのに、皆私が死んだと思ってる。こんなに悲しませて………。
『大丈夫。彼等の心もそのうち癒される。傷は残るかもしれない。けどね、人間は存外強い生き物なんだよ? 深音ちゃんは深音ちゃんでこの人達が望むとおり、僕等の世界で幸せになればいい』
それだけで良いと言われてコクリと頷く。
そして手を振るカラント神を見た―――瞬間、場面が変わった。
お城だ。その廊下。女官さん達が忙しなく動いている。
何人かに声をかけてみたけど気付かない。
気付いてくれた人もいたみたいだけど皆辺りを見回し驚いた顔をして逃げられた。
何て失礼な、と思ったけど私の存在はどうやら見えないものらしい。
カラント神が気付いてくれたのはやっぱ神様だからなのかな? それともやっぱりこれは夢を見ているだけなのかもしれない。
リン先生を見つけた時にはちょっと違った。あっちにも私が見えたみたいだし、私という個が輪郭をはっきりさせて身体があるかのように振舞えた。
今までは大気に半分溶けてゆらゆら漂ってるような感覚だったから吃驚したのを覚えている。
夢かもしれないけど、私は言いたかった事を言えて大満足だった。
駆けて行くリン先生の背中を見送りながら「起きたらまた言わなきゃ」そんな事を思いながら再び大気に溶ける。
次に気付いた時はディーさんの執務室だった。
けど、私の感覚がはっきりしないせいかディーさんには気付いて貰えない。
寂しく思ったけどしょうがない。
私はディーさんに背中から抱きついて頬にキスするとその場を後にした。
ゆらゆら、ゆらゆら私は漂う―――。
暫くすると意識が引っ張られるのを感じた。
強引に引っ張られて―――。
ストンと落ちた時………私の目が開くのを感じた。
暗い。手を見れば艶やかな白い毛に覆われている。腕輪は手から離れベットの上に転がっていた。
明りのある方へ眼を凝らすとディーさんが丁度私の方に背中を向けて本をめくりながら何か書きこんでいる。どうやら終わらなかった仕事を部屋でやっているようだ。
私は暫く黙ってその姿を見ていた。
広く大きな背中。無骨なその手。精悍な横顔。
私の大好きな人の姿―――。
「まだ………お仕事終わらないの………?」
そう囁いて反応を見る。ディーさんはガタリと立ちあがって、恐る恐るという風に振り返る。
振り返ったまま凍りついたディーさんに上半身を起こしながら微笑みかける。
「夜だけど………おはようディーさん」
「おはよう………ミオン」
ディーさんの凍りついていた顔が見る間に緩むと、そのまま勢い良く抱きしめられた。
「ミオン………あぁミオン」
「ディーさんってば苦しいよ」
「スマン。嬉しくてつい」
少し緩んだ腕の中、私はディーさんを抱きしめ返す。
「会いたかった。お前に………」
「うん。私も………」
そう言って額をくっつけ合って2人笑い合う。
「ミオンに話す事が沢山あるんだ」
「どんな話?」
「………そうだ、まず文句を言わねば。何でリンの所には現れて俺の所には来てくれなかったんだ」
少し拗ねた口調に私は目をパチクリさせた。あれって………。
「夢じゃなかったんだ………リン先生の所に行ったの………だったら私ディーさんに文句言われたくないなぁ。私が傍に行っても気付いてくれなかったもん」
「そうなのか………?」
「そうです。頬っぺたにキスしても気付かなかったでしょ」
「………スマン………」
バツが悪そうに言うディーさんが可哀想になってきた。慌てて言葉を続ける。
「でも、分かって貰えたのってリン先生の時だけだったんだよね。あの時は上手く身体が保てたって言うか意識もはっきりしてたし………他にも女官さん達に声かけた時も気付いて貰えなくて………逃げられたり、とか?」
「………城の幽霊騒ぎはミオンが原因か………」
「………そんな事になってたんだ………ごめんなさい………」
悪い事しちゃったなぁ………だから皆驚いて逃げてったのか。納得。
「でも、あれが夢じゃなかったって事は………」
「リンとミーシャなら無事付き合い始めたぞ。まだ付き合ってる事は秘密だそうだ。ミオンに報告するまでは俺とジュド―位にしか言ってないらしいが………」
「周りにはバレバレって事?」
私がそう言うと、ディーさんが苦笑しながら頷いた。
「2人とも隠し事は下手だからな。まぁ、あれだけ幸せそうなオーラを出していたら誰でも気付くだろう」
「そうなんだ」
私も苦笑しながら納得した。
両想いだって周囲にばれた時も気付かれてないと思ってたしなぁあの2人。可愛いけど。きっとそんな2人を周囲の人達は生温かい目で見守ってるに違いない。
「ねぇ、ディーさん。私が眠ってる間寂しかった?」
「当たり前だ。何を言っても答えは無いしな………」
やっぱり少し拗ねてるみたい。
「それでも待っていてくれて、ありがとうね」
そう言ってそっとキスする。精一杯の感謝の気持ちで。
「駄目だ。足りない」
ディーさんはそう言うと私に深くキスした。痛いほどに抱き締められる。けど今度は文句を言ったりしない。この痛みが気持ちの深さだと思うから。暫くして落ち着いたのか抱き締める強さが緩む。
唇がそっと離れると無性に寂しい気持ちになった。切ないまでに心臓がきゅうっとする。
どうやら、その気持ちが顔に出てたらしい。
「頼むからそんな顔しないでくれ」
「………うん………」
伏し目がちに頷いて、私はそのままディーさんを見上げた。
「あのね………もっと………キスしたい」
おずおずとそう告げると見る間にディーさんが凍りついた。
「………ミオン………お前は俺の理性を試す気か………」
プルプル震えたディーさんが苦しそうにそう呟く。
「もっとキスしたいのって………ダメ?」
ディーさんが両手で顔を覆って身悶える。
キスしたいっていうのそんなに駄目かな………言うのは結構恥ずかしいんだけど………でもしたいんだもの。
「ディーさん………?」
顔を覆った手にそっと触れた瞬間、ディーさんが私の手首を掴んでそのまま噛みつくようにキスしてきた。一瞬吃驚したけど、私もそのままキスを返す。
段々深くなっていくキスに翻弄されながらも幸福感に心満たされる。
「っ………スマン………ミオンっ」
途中、ディーさんはそう掠れた声で囁くと………そのまま私を押し倒して―――。
キスはどんどん激しくなるばかりで、驚いたけど―――嬉しかった。
だからディーさんに求められるままに私は委ねて―――大好きな人と一つになる喜びを知った………。
書いてく内に予定とズレました………まぁいいか。
ズレたのはディーさん限界突破です。
書いてて生殺しすぎるのも可哀想になってきたので………。
明日の更新ですが、もしかしたら1日遅れるかもです。
書きたい事は箇条書きしてあるのですが、上手く纏められるかなドキドキ。な感じなので………更新できなかったらごめんなさい(汗)