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第85話 ※番外編※ディーさんの語る事

もうそろそろミオンが起きてもいい頃だとティレンカ女神は言う。

かといってミオンが起きる気配はまだなかった。

ミオンが起きたら言いたい事が沢山ある。例えば、リンとミーシャ。まだ一部の者しか知らないが付き合いはじめたぞ、とかだな。

まぁ、知ってるかもしれんが。

なんでリンの所には現れて俺の所には来てくれないんだミオン。少し傷ついたぞ。


そんな事があるのかとティレンカ女神に聞いたら『余程気になって魂が抜けだしたのじゃろう』との事らしい。抜けだしたりして大丈夫なのか………。少し不安になった。

ティレンカ女神が大丈夫だと言ってくれたので安心できたが。


後は、城で幽霊騒ぎがあったな。

人の気配がするとか、話しかけられたとか。暫くすると落ち着いたが。未だに原因は不明だ。


覚えているか?ミオン。

豊穣祭の時の事。思えばあの時も幽霊が出たなぁ………。



「残念ですが見つけてしまった以上、お2人だけで行かす訳にはいきませんね」


そう言ったのはエルザだ。

俺とミオンは豊穣祭の公務を終えて今まさに街へ抜け出そうとしている所だった。

準備は万端。下位貴族のような格好をした俺とラシャで顔を隠したミオン。

裏門からこっそり出て行こうとした所をエルザに見つかったのだ。

ミオンと2人顔を見合わせる。


「ついて来る気か」


「はい」


にっこり笑われて俺は諦めの溜息を吐いた。2人だけのデートという訳にはいかないらしい。


「分かった。じゃあエルザ、着替えてくれ。騎士姿のお前は目立つからな。皆お前がミオンの騎士だと知っている。エルザと顔を隠した女性、良く見れば国王に見える男とくれば正体なんてすぐバレるだろう。そうだな………女官の恰好でもしてくれ」


「………女官の恰好ですか………?」


嫌そうな顔でエルザが言う。


「嫌なら留守番でいいぞ?」


「いえ。やりましょう」


俺としては留守番で良かったんだがな………。残念だ。


「エルザさんの女官姿かぁ………」


ミオンに嬉しそうに言われて困った顔をしながらエルザは着替えに戻った。

この間に逃げると言う選択肢もあったが、エルザを怒らせるのはあまり得策ではないしミオンが楽しそうだったので待つ事にする。

戻ってきたエルザは女官の恰好をしていたが背筋が伸びすぎててあまり女官に見えなかった。

しかも元が美人なので余計な人目を惹きそうだ。


「エルザさん剣はどうしたの?」


「短剣を袖口とスカートの中に仕込んでます」


笑顔で言うエルザに感心したようにミオンが頷く。


「エルザさんのスカート姿って初めてだからなんだか新鮮」


「動きにくいから嫌いなんですけどね。まぁ、しょうがありません」


そんな会話をしながら俺達は裏門を抜け街へと繰り出した。

街はいつも以上の熱気に包まれ、他国からの商隊の多くも露店を出していた。

多くの店で、俺やミオンの絵姿が飾られていた。

そんな絵姿を売る店があったので、そのうちの1つに寄る事にする。

目当てはまだ変化していないミオンの絵姿。変化してしまえば二度と会えないからな。


「ディーさん何買うの?」


「ミオンの絵姿」


にやりと笑って言えば慌てたミオンの声が聞こえる。


「えっヤダ!」


恥ずかしいよ、という言葉にすでに買った絵姿を見せる。


「もう買った」


2枚な。執務室と部屋に飾るつもりだ。

そんな俺に文句を言いながらもミオンが俺の絵姿を買っていた。


「いいよ。私も部屋に飾るんだから」


少し、むくれた声が愛らしい。

俺達は露店でケージャという南国のパンに肉を挟んだ物を食べたり、天然の氷が入った果実のジュースを飲んだりしてこの賑わいを楽しんだ。

色とりどりの店を回りながらミオンが気に入った物を買ってやる。

買ったのは水竜を模したガラス細工と異国の香水瓶、キラキラした宝石箱等、女性が好きそうな小物類がほとんどだ。

途中、人ごみでミオンが獅子族ディレンドラの紳士にぶつかる事故もあったが概ね何事もなく歩き回る。


「おや、皆さんお揃いですね」


聞き覚えのある声に振り返るとそこに居たのはジュド―だった。


「なんだ、ジュド―。お前も抜け出したのか?」


「人聞きが悪いですね。陛………じゃなかった。ディーク。一応、仕事で出たんですよ。まぁ、終わった後の指示は無かったので、こうして歩いてますけど」


なんだ。結局抜け出したようなものじゃないか。


「エルザ殿。珍しいですね。一瞬誰か分かりませんでしたよ」


「分かってます。似合ってないって言うのは………陛下の指示で仕方なく………しかもこれ歩きにくいんですよね………」


苦笑しながら言うエルザにしれっとジュド―が言った。


「誰が似合ってないなんて言ったんです? 似合ってますよ。綺麗です」


エルザがパクパク口を動かし真っ赤になった。珍しいものが見れたな。

なんだか、ミオンがも興奮しているらしく繋いだ手に力が入って、ぶんぶん手を振られた。


「そ、れは………どうも」


どうやら、エルザは今の言葉を御世辞と判断したようだ。

付き合いが長いから言うが今のジュド―の言葉は本心だと思うがな………。

ジュド―も加え歩いているとミオンが急に立ち止まった。


「どうした? ミオン」


「ん。何だか小さい子の泣き声が聞こえるんだよね………」


「子供の声?」


俺には聞こえんのだが。


「………あぁ聞こえますねぇ………でもこれは………」


ジュド―が少し言い淀んだ所でミオンが方向を変えて裏路地へと入って行った。

慌てて俺達も後を追う。

ミオンが立ち止まった先にあったのは焼け焦げた廃墟だった。ここだけシンとして冷え冷えとしている。此処まで来ると流石に俺にも声が聞こえた。か細い声だ。どうやら2人いるらしい。

こんな所で一体何を泣いているんだろうと思った時だった。

ミオンが誰もいない場所に座り込んで誰かに話しかけたのだ―――。


「こんな所でどうしたの? お父さんとお母さんは? 迷子になっちゃったのかな」


俺は目を凝らした。かろうじて見えたのは微かに光る光の球で………。


「ミオンサマっ?! 誰に話してるんですっ?!!」


狼狽したエルザの声が響いた。


「やっぱり幽霊さんでしたか………ミオン様は本当に受信能力高いですねぇ」


そう言ったのはジュド―だ。のんびりした声が廃墟に響く。


「え? こんなにはっきり見えるのに………?」


ミオンが驚いた声で振り返る。

その言葉にエルザが腰を抜かした。顔が真っ青だ。どうやら意外にもエルザは幽霊が苦手らしいな。


「大丈夫ですか、エルザ殿。悪い霊じゃありませんから安心して下さい」


ジュド―がそう言って声をかけるが、涙目のエルザが首を振る。


「無理です………」


ミオンはそんなエルザをお構いなしに2つの光の球に話しかけている。


「どうしてこんな所にいるの」


か細く聞こえる………おそらくは少年の幽霊達が語ったのはこんな感じだった。


『ボク達要らない子なの。母様は泣きながらボク達を打つの』


と言った具合だ。もしかしたら虐待されて死んでしまったのかもしれんな。


「あぁ………」


ジュド―がそう呟いた。


「………ここに以前家があったんですよ。その家の娘さんが乱暴されて子供を身ごもった。双子の男の子でしてね………火をつけて無理心中したんです。母親はかろうじて生き残ったんですが………」


双子の少年は亡くなったと言う事か。………やるせない気持ちが胸をふさぐ。


『ボク達、母様を探したけど何処にもいないの。捨てられちゃったんだ。母様はボク達が嫌いなんだよ………』


また泣き始めた子供達をミオンが抱きしめてやる。


「辛かったねぇ。小さいのに。でもきっとお母さんも苦しかったのかもね………本当にただ嫌いなだけならきっと一緒に死のうとしないと思うんだ。私は賛成できないけど、残して行けないと思う位君達のこと本当は愛してあげたかったんじゃないかなぁ………」


『そうなのかな』『そうかなぁ』


子供の声が響く。


「ねえ、君達が死んじゃったのは分かるかな?」


『うん。知ってるよとても熱かった』


「………そっか………ごめんね………でもお母さんは生き残ったんだって。君達を捨てた訳じゃないんだよ。だからいくらここで探しても、お母さんには会えないよ。それにずっとここに居たら駄目。次は幸せになれる所に産まれて来なさい?」


『………』


『ボク達、幸せになれる?』


「分からないけど。辛いだけが人生じゃないと私は思うし。私は幸せになろうと思えばなれるって信じてるから」


『ムズカシそう』


「そうだね。でも自分次第だよ。不幸だ不幸だって言ってたらずっと不幸のままだと思うから。頑張ればきっと大丈夫」


『………お姉さんは暖かいね………』『うん。暖かい』


冷え冷えとした空気が消え、ふわっと暖かい風が流れた気がした。

そして俺には光の球がミオンの中に入ったように見える。


「あれ? 消えちゃった。天国に行けたのかなぁ………」


そう呟いて立ちあがり、ミオンが俺達の元に戻って来る。

どうやらミオンの前から少年達は消えたらしい。

そのままボスンと俺に抱きついてきた。


「ごめんね。ちょっと哀しくて」


「そうだな」


幼い少年だったようだから余計に切ないのだろう。


「今度、花を持ってこよう」


「うん………」


焼け焦げた廃墟を見ながら俺はそう言った。


「………次はきっと幸せになれますから大丈夫ですよ」


ジュド―が確信ありげにそう言いながらエルザを立たせる。

だといいなぁ、とミオンがそう呟いた。



そんな出来事を思い出してミオンの寝顔を眺めながら、俺はそっと溜息を吐いた。

今すぐ目覚めて貰いたいという我儘な気持ちが持ち上がる。

俺は手を伸ばすとミオンの頬に手を添えた。

それでもミオンは眠ったままで声も聞けなければ、くるくる動くその表情も見る事ができない。

口付ても愛らしい反応を返して貰えるはずもなく、そろそろ俺の我慢も限界だ。

早く起きてくれ………ミオン。俺は今寂しいぞ。

『『………さん、………さんならもうすぐ起きるから』』

少年達の声が聞こえた気がして辺りを見回す。もちろん誰もいない。

可笑しなこともあるものだ。

俺は再び溜息を吐くと、そっとミオンに口付た。

幽霊騒ぎはどこに繋がるのか………。

丸わかりそうですが(汗)

何はともあれ最終話へのお膳立ては揃った感じです。

一応のこの物語の終わりまでは後2話予定。更に番外編が1話入ります。

よろしくお付き合いくださいませ。


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