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第83.5話 ※番外編※ある男の語る事

俺の今の名前はレグザ。その前はコーザ、その前はゼツ、その前はラサムだった………。

………獅子族ディレンドラのゼツって言やぁ分かるかな? いや分かんねえか。


一番最初の名前はなんだったけかなぁ。覚えてないとは言わないが実はあまりいいたくはないんだ。

俺のお袋って奴はある劇団の花形女優って奴でまぁ美人だった。

ただ身持ちの悪い女でねぇ………。

すぐに付き合ってる男が変わったし機嫌が悪い時は良くぶたれたぜ。

俺はお袋にとっては過去の汚点みたいなもんだからな。

だから、親父の事はしらねぇ。くたばったのかも生きてんのかもな。まぁどうでもいいがね。


お袋が新しい男を連れてくるたびに、俺はその男の性格に合わせて気に入られるようにした。

その方が打たれたり蹴られたりしなくて済むだろ?

機嫌がよけりゃぁ、お袋も喜ぶ。上手くいけば小遣いのひとつも貰えるしな。

真っ当に生きてりゃいい役者になれたと思うぜ? 俺。


だが、そうはならなかった。

切っ掛けは、お袋の男だ。確か名前はジーグだったけかな。

あれはお袋の男の中でもヤバイ部類の男だった。裏の世界に顔がきいたしな。一目置かれていたぜ。

裏稼業の奴等専門の運び屋みたいな事をしてたのさ。

俺はジーグに気に入られて裏の世界の色んな事を教わった。

ジーグは常に自分の勘を信じろって言ってたな。

「お前だって分かるだろ? 祈ったって誰も助けちゃくれねぇ。家族だからって信じんな。信じるのは自分の勘だけだ。そこさえ錆びてなけりゃ危険はおのずと分かる」

それが酔った時のジークの口癖だ。


ジークは俺を運び屋として使った。

お遊びみたいなもんだけどな。

ある時は孤児みたいな格好して荷物を運んだ。別の時は貴族の小姓みたいな恰好して行ったぜ。

兎に角、一つとして同じ格好をさせ無かった。

そこで俺は一つ学んだ。姿形によって人は態度を変えるってな。

孤児の恰好をした時はぞんざいな扱いをされても小姓の時はそうでもない。

俺はそれが面白くてオドオドした性格をつくってみたり偉そうに振舞ってみたりしたもんだ。


そのうちお袋とジークが別れて、ヤバい事があって自分から消えたのか消されたのか分からないままジークもどこかに行っちまってそのお遊びは終わった。

俺は大きくなるとその遊びが忘れられず良く悪さをした。

お袋の劇団の衣裳をこっそり拝借して貴族様の夜会に行くとかな。

もちろん事前に調査はするぜ? 例えばエンデバー公爵。

夏に避暑地のレッカに行って遊んでいたとかな。

そしたら入り口でこう近づくんだ。


「お久しぶりですエンデバー公爵! いや丁度良かった」


「あぁ、えーと………」


「嫌ですね、お忘れですか? 夏にレッカのラザンド公爵の夜会でお会いしたエンドミールです」


相手は俺を忘れていると思っている。ラザンド公爵が夜会を開いてエンデバー公爵が出席したのは事実だからな。沢山いるちょっとした知り合いの1人でたまたま顔と名前を忘れただけだと勝手に勘違いしてくれるって寸法だ。


「おぉ、そうでしたエンドミール………」


「子爵です」


「あぁ失礼。そうでしたねエンドミール子爵。どうされたのですか?」


「実は今日の夜会に招待されたのですが、招待状を忘れてしまって」


困ったようにそう言えば、相手は俺を忘れていた罪悪感もあるから大抵快く同伴してくれる。


「ならば、共に行きましょう。私と一緒ならそのまま入れますよ」


と、こんな感じだ。


「ありがとうございますエンデバー公爵! 助かります」


それで夜会に忍び込んで美味いものを食ったり貴族の令嬢と一夜限りの恋を楽しむ訳だ。

あの時期は一番面白かったかもな。


暫くしてお袋が突然死んじまうと、俺は生きて行くために色々な仕事をしたぜ。

ある時トラブルに巻き込まれて死にそうになった事があった。

俺はディレンドラ人としては珍しい白い毛並みの持ち主だ。目立つだろ? また襲撃されるのもごめんなんで俺は毛並みの色を変えた。白って言うのは何色にも染まるからな。その時は黒くしたぜ。

ただ、染めただけだと、いかにも染めましたって感じになっちまうから独自に色を調合したけどな。


そこから俺は新しい仕事をやるごとに姿形、性格を変えてやるようになった。

ドジっても逃げやすいだろ。


ジェルヴァ大公の所の仕事は長かったし実入りも良かったぜ。俺がへまをしなければもっと稼げたんだが。別の商談があったから、残った奴らに品物を選ばせたのが間違いだった。

よりにもよってあんな大物を引っかけるなんてな。

後で聞いたら妃殿下だって言うじゃないか。オイオイ勘弁して欲しいぜ。


あの日、商品ちゃん改め妃殿下ちゃんを見た時………俺はジークの「信じるのは自分の勘だけだ。そこさえ錆びてなけりゃ危険はおのずと分かる」という言葉を思い出した。あんな盛大に自分の中で警鐘が鳴る音を聞いたのは初めてだったぜ。


俺は取りあえず、ちびっこい嬢ちゃんを囮に使う気だった。

街で雇った奴らに押し付けて、派手に逃げて貰う気だったのさ。

そいつらが捕まっても俺等の事までは分かんねぇようにしてな。

その間に妃殿下ちゃんを大公の所まで運ぼうと思ったんだが………。

嫌な予感は膨らむばかりって奴だな。俺はなんだかヤバイ気がして外に出た。

城壁の出入り口から死角になる位置から身を潜めて辺りを窺う。


するとやって来たのはこの国の国王様じゃねえか!!! 正直俺は天を呪ったぜ。

中の奴らなんざ知ったこっちゃねぇ。俺はそのまま逃げた。

毛並みを青く変え、何枚かある通行証のうち、ゼツのものを破棄。コーザとして出国した訳だ。

その後はまぁ、蛇鱗族リュレジオに行ってしばらく盗賊の参謀をやってたけどな。

最初は良かったが、途中で奴ら通行証を変えやがった。

狼狽する盗賊団の奴らを見て俺は稼ぎ時が終わった事を知った訳だ。

しかも、通行証を変えることを提言したのが妃殿下ちゃんだって言うじゃねーか。

仕返しされた気分だぜ。俺と妃殿下ちゃんの相性は最悪だろうな。


俺は1人盗賊団を抜けると今度は毛並みをこげ茶に変えて試しに大虎族ルーヴェンシアに行く事にした。丁度、豊穣祭の最中で他国のものが多くても気にならない時期だしな。

そこで見かけたのはお忍びの国王陛下と妃殿下ちゃん、そしてお付きの………ありゃあ女官の恰好をしてるが騎士だな………という3人連れだった。

顔を隠していないが意外と国王陛下って気付かれてねぇな。おい。

下位貴族の恰好をしてラシャで顔を隠した妃殿下ちゃんと楽しそうに街を歩いている。


すれ違った時、妃殿下ちゃんがぶつかって俺の腕にかけていたステッキが落ちる。


「きゃあ! ごめんなさい」


妃殿下ちゃんがそう言って俺のステッキを拾ってくれた。


「大丈夫でしたか?」


「大丈夫です。ありがとうお嬢さん。この混雑ですからねしょうがありません」


「本当にごめんなさい。あの………失礼ですけど何処かでお会いしませんでした………?」


そう問われて俺はドキリとしたぜ。勘のいい娘だな。


「いや………お顔が分からないのでなんとも………。ですが貴女が大虎族ルーヴェンシアの方なら初対面だと思いますよ。こちらには初めて来たのでね」


しれっと嘘を吐くのは大得意だ。


「そうか。顔………分からないですものね、私の気の所為かも。ごめんなさい。なんだかそんな気がして………。私もお祭り初めてなんです。豊穣祭楽しんで行って下さいね」


そう言って妃殿下ちゃんはラシャの向こうで笑ったようだ。


「貴女も、楽しんで下さい。では」


そう言って俺は妃殿下ちゃん達から離れた。

出店には多く国王や妃殿下の絵姿が並んでいた。その姿はあの時みた少女のものだ。

この国の多くの民が妃殿下は神々の恩寵を受けて大虎族ルーヴェンシア人になると言って喜んでいる。姿が変わると言うのはどんな気持ちなんだろうか?

俺は妃殿下ちゃんに少し聞いてみたい気がした。



人攫いの一味の頭目が捕まらなかった理由です。

書くか書くまいかギリギリまで悩んだんですが………。書いちゃいました。

話しが進まないので第83.5話です(汗)

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