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第83話 ※番外編※ティレンカ女神の語る事

妾がセイウスと会ったのは森の奥深く、誰も来ないはずの泉の畔じゃった。

ようは迷子じゃな。間抜けな話じゃが供もつけず森の中に入って来て帰り道が分からなくなったらしいのう。セイウスは泉に足をつけて戯れる妾をポカンと口を開けて見ておった。

正直、誰も来ないと思ったから足を出して遊んでおったのだが………少々恥ずかしい思いをしたの。


「君は………精霊?」


妾はそんなこっ恥ずかしいセリフを平然と吐ける男に初めて会ったわ。

何をどう思ってそう言ったのかは分からぬが、セイウス曰くそう見えたらしい。夢見心地な頭じゃの。

その時は、森の出口まで送ってやってそのまま終わった。

2日位経って、妾がまた泉に居るとセイウスはやってきた。

また迷子になったのだと言う。正直馬鹿かと思ったわ。

次の日も、次の日もやって来て同じことを言うので遂に妾も堪忍袋の緒が切れた。


「いい加減にせんか! お前には学習能力と言うものがないのか?!」


そう言ったらバツの悪そうな顔をしての。実は道はもう覚えたと言う。

じゃあ何故毎日ここに来るのかと問えば口ごもりながら「君の名前が聞きたくて」じゃと。

正直どうしようかと思った。

なんなんじゃこの純朴な生き物は。

名前なんぞ、初めて会った時にでも聞けば良かろう。「妾の名前はティレンカじゃ。さぁよかろう?」そう言うと満面の笑みで「僕の名前はセイウスだ」と言う。

名前が分かったのだしもう来ないだろうと思ったら次の日もまた次の日もセイウスはやってきた。

当時の妾はなんて暇な奴じゃ、と思ったぞ。

しかし、いつの間にかセイウスが来るのを楽しみにしている妾がいた。


神と言うのは自分勝手な輩が多くての。

こう言うタイプはいなかったから目新しかったのかもしれんが。

ある日セイウスが真剣な顔をして妾の手を掴んでこう言った。


「僕と結婚を前提に付き合って欲しい………愛してるティレンカ」


正直戸惑った。妾は自分が女神である事をセイウスに隠していたしの。

もし、セイウスと結婚する事になれば妾は泉から遠く離れる事になる。

泉は神界と地上を繋ぐ唯一の道でそこから遠く離れれば、時間はかかるが神の力は失せていく。

神々の地上への過干渉を防ぐ措置なのじゃ。

つまりセイウスと添い遂げようと思うなら神を辞める事になる訳じゃな。

なのに妾は頷いていた。

頷いた妾の方が吃驚したぞ。

セイウスは舞いあがりそうな位喜んでいたが。


兄達には反対されたの。ヒトになるなんて、と。でも最後には押し切って妾は地上に降りた。

そして避暑地であるセイウスの滞在している館で共に暮らし始めた。

蜜月は実はあまり長くない。妾がディークラウドを身ごもるとセイウスは父を説得しに行くと言い出したからだ。その時になって初めて妾はセイウスがこの国の王子であると知った。

セイウスは旅立ちそして帰って来なかった。

妾はセイウスが言っていた通り男の子だったらディークラウド、女の子だったらルセリアという名前にしようと腹を撫でながら我が子に語りかけたものだった。

だが、産み月になってもセイウスは帰って来なかった。


セイウスは妾の身を案じて何人かの女官や騎士を置いて行ってくれていた。皆気の良い者達じゃった。

だが、不安の募る中………妾は1人でディークラウドを産んだ。

何故セイウスは帰ってこないのだろう? あんなに子供が産まれるのを楽しみにしていたのに………。

心配になった妾は残ってくれていた者達を連れて王城に向かった。

しかし―――そこにあったのは嘲笑、侮蔑、悪意の塊。


「金目当ての愚かな娘よ。それは本当にセイウスの子か? セイウスはこのレイリアと喜んで結婚した。お前のような娘に心当たりは無いそうだ」


「当人の口から聞くので無ければ承服できぬ」


怒りを込めてそう言えば王は馬鹿にしたような顔で妾を見た。


「図々しい娘だな。王に意見できる身分でもあるまいに。こうして謁見してやっているだけでも有難く思うべきだぞ? セイウスはお前のような娘は知らんと言う。なれば遊びだったのであろう」


何人もの人々の前で妾は立ち尽くしていた。耳障りな嘲笑に気分が悪くなる。


「下賤の者が一時の夢を見せて貰ったのだと理解なさいな。その汚らわしい子供共々、何処へでもお行き」


妾はセイウスが逃げたのだと思った。今思えばこ奴らよりセイウスを信じるべきだったのじゃが。

怒りで我を忘れた妾はディークラウドをそっと床に置いて王と女を睨みつけた。


「今後、この王家に生まれるセイウスと同じ色をした子供はこの国の誰とも添い遂げられぬ!!このようにな!」


そう叫んで妾は怒りのままに女を石にした。

その時の王の顔は見物じゃったぞ。蒼白になってガタガタ震えておったわ。

ディークラウドを連れて行く事は出来なかった。見ればセイウスを思い出す。

今や憎むべき男となった者の子供―――。妾は可愛い息子を傷つけるのが怖かった。

よもや女神の子を疎かには育てまい。そう思った妾はディークラウドをそのまま置き去りにして逃げた。そう逃げたのじゃ。

悲しみから、憎しみから、苦しみから。

神界にも帰らず妾は時空の狭間に逃げ込んで眠りについた。


それが、いつしかセイウスの作った泉に辿り着いていたとはな。

セイウスとディークラウドに呼ばれたのかもしれぬ。

それか、無意識のうちに妾が2人を求めていたのか………。

どちらにせよ、泉に辿り着いていたお陰で妾は女神としての力を失わずに済んだ訳じゃの。

あの泉は妾が怒りのままに消した泉を模したもの。だが、セイウスのそしてディークラウドの祈りがあそこを聖所と変わらぬものにしていた。人の想いというものは力があるな。

ミオンがやって来て妾の呪縛を解いてくれたおかげで妾はセイウスとディークラウドに会う事が出来た。たった少しの逢瀬だったけれど、今までの時間を埋めるのには十分じゃった。

ミオンにはいくら感謝してもしたりない。


さて、そんなミオンの伴侶になろうという男が今日も泉を訪れる。

最近、時間ができるとやってくるのだ。

妾に会いに来ているのではないぞ?

ミオンの変化の進行具合が気になって来ているのじゃ。相変わらず心配性な男よの。


「いつになったらミオンの変化は終わるんだ………」


おうおう。禁断症状という奴じゃの。傍に居ても触れられても、話せない目を開けないと言うのはかなりキツイらしい。


『終われば腕輪が落ちる。それまで待つのじゃな』


「せめていつまでと分かればいいんだがな………」


『そればかりは個人差があるからのう。じゃが見る限りもうそろそろではないか?』


「そうなんだが………何ともな………時間というのはこんなに流れるのが遅かったのかと思うぞ」


イライラしておるのう。

見た目ほぼ変化し終わっているから余計にまだなのか、という感じになるのだろうが………。

ふむ。ミオンよお主早く帰って来た方が身の為かもしれぬぞ。

まぁ、ディークラウドの事じゃ、いきなり押し倒しはせぬだろうが………。

少なくとも暫くは膝の上から解放されんのじゃないかの。

そう思うと自然と笑顔が零れ落ちる。


「ティレンカ女神。俺は真剣なんだが………」


『分かっておるわ。お前にとっては暫くぶりでもミオンにとってはそんなに時間が経っているようには感じられぬじゃろう。あまりしつこくすると嫌われるぞ』


「うっ! だがな………」


『駄目じゃ。程々にしておくんだな』


楽しいのう。目に見えて落ち込みよった。可愛い奴じゃ。

ディークラウドもミオンも妾にとっては孫みたいなものじゃ。

いつかひ孫の顔も見せに来ておくれ。

明日も明後日も妾は泉に来るだろう。セイウスとの想い出が詰まったこの場所で。

妾はセイウスとディークラウドを想いながら生きて行く。

セイウスさんは意外と純情。

ティレンカ女神、愛してた分反動が。


明日のお話はちょっと悩んでます。

これ、今更いるかなぁ………と。

しかもこれ入れると話自体は全く進まないんですよね………。

もしお話が進んでいたら諦めたんだと思って下さい(汗)

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