第78話 ※番外編※ジラルダさん&ゼファンさんの語る事
夫を亡くし乳飲み子を抱えていた私を助けて下さったのは前王陛下………ディレント様の御生母で私と身分も同じ下位貴族の女性でした。名前はレフィア。
他国もそうではありますが、王は妻を何人も持てます。例外は女神に呪われた陛下のような方だけです。その時々の王の性格にもよりますが、前王陛下のお父上、ファルバス様には4人の妃がありました。
その中で1番身分が低かったのがレフィア様です。
竜狩りに赴いた先にいた地方領主の娘。婚約者もあったとされていますが彼女を見染めたファルバス様が強引に連れ帰ったと聞きました。
儚げで美しい人でしたね。王位継承権のあるディレント様を御産みになったのに自分より身分の高いお妃様方に遠慮してとても控え目に暮らしていました。
そんな彼女と気安くなったのは、ファルバス様がディレント様を妊娠中のレフィア様の慰めになるようにと、私を話し相手としてお与えになった所からはじまりました。
年が近かったのと、同じ身分の出なので私達はすぐに仲良くなりましたよ。
レフィア様にとってこの妊娠は、今度こそは世継ぎの男子をと周囲に望まれていたのでそれが重荷になっているようでした。
ファルバス様はかなりお年で、他のお妃様との間には2人の王女殿下しかいなかったので余計に期待が彼女の肩にのしかかっていたと思います。
丁度私も二男のレドを妊娠している最中だったので、妊娠中の様々な不安を分かち合えたと思います。
私の夫が亡くなったのはレドが産まれてすぐ、長男のユルクが2才の時だっでした。
突然の心臓発作。あまりにあっけなく彼は死んでしまった………。
下位貴族とは言え早くに結婚したために私は仕事をした事が無く、幼い子供を抱え途方に暮れました。
そんな時レフィア様が、私をディレント様の乳母にするように進言して下さったのです。
「ジラルダには2人の息子もおります。ディレントの遊び相手にもなってくれましょう」と言って。
ディレント様を産んだ事でファルバス様のレフィア様に対する愛情はかなり深くなっておいででしたのですぐに許可が下り、私はディレント様の乳母になりました。
もちろん、子供達も一緒です。これにはとても助かりました。
そんな頃でしたね………ゼファン殿が厨房に見習い料理人として入って来たのは………。
私が厨房に入った頃はディレント様がお産まれになってすぐのことでしたな。一人前になったら結婚しようと妻のシシリと約束していたのでかなり意欲に燃えていた時期でもありました。その頃は怒られてばかりでね。投げ出したくなる事もしばしばでしたが、シシリの顔を思い浮かべては我慢しましたよ。
ディレント様は大きくなるとやんちゃな方でね、ジラルダ様のお子様2人と良く泥だらけになりながら遊んでは厨房にお菓子を盗みに来てましたな。
そのたびにジラルダ様にこっぴどく怒られてね!!!わんわん泣きながら謝ってましたっけ。
その頃には私も一人前になってシシリと結婚し2人の娘と1人の息子の父親になっていたので苦笑しながら見ていたものです。
可愛いお子様でしたよ。えぇ。
そんな可愛いお子様も成長して恋をなさいましたな。
レディアンナ様。陛下のお母上です。
見ていて微笑ましいものでしたよ。
ディレント様はそれまでのヤンチャぶりが嘘のように大人しくなりましたな。
そう言ってからかったら真面目な顔をなさってね。「僕は、レディアンナに認めて貰えるような男になりたいんだ」と。驚きましたよ。その顔は十分大人の男のものでしたからね。
子供が成長するのは早いものです。
ディレント様は結婚なさる時、妃は1人と言う誓いをお立てになったようですな。
妹君をお産みになった後、儚くなられたお母上が苦労していたのを覚えていたからかもしれません。
そんな風に昔の事を思い出していたら丁度ジラルダ様と会いました………。自然と昔話に花が咲きます。お互いもう年ですからな。
「あぁ、そんな事もありましたねぇ………」
「あの後が大変でしたなぁ………」
今話しているのは、陛下が幼い時に摘み食いした団子を詰まらせて死にそうになった時の事です。
侍医を待っている余裕などないので逆さまにして背中を叩いたり手を突っ込んだり………どうにか出てくれたから良かったものの生きた心地がしませんでしたね。
「あれ?2人一緒なんて珍しいね??なんのお話しているの??」
楽しそうだね、とやって来たのはミオン様。今日はお一人のようですな。手にはレンカの花束を持っていらっしゃる。
「ミオン様。何、昔話ですよ。陛下の幼かったころのね。ミオン様はこれから執務室ですか?」
「うん。お仕事する部屋にも潤いがあった方がいいんじゃないかと思って。へぇ………ディーさんのちっちゃい時かぁ………やんちゃだったみたいな事は前にちらっと聞いたんだけど………」
どんな感じだったの?と聞かれジラルダ様と話す。
「悪戯小僧でしたよ。女官の背中にゴガという生き物を入れたり………」
「厨房にジュド―様と盗み食いしに来たりとね」
「擦り傷、切り傷は当たり前。木から落ちたり、池に落ちたり………森で迷子もありましたね………」
あぁ、ありましたなぁ。あの時は城のもの総出で行方を捜しましたよ。
「回廊で追いかけっこをしていて食事を運んでいた女官と衝突したりとかしょっちゅうでしたな」
「それはそれは………元気過ぎる男の子だったんだね」
苦笑しながらミオン様がおっしゃる。
「いくら怒っても次の日にはまたおやりになるんですよね………まぁ男の子と言うのはそんなものです」
うちの子もそうでしたし、とジラルダ様。
「確かに。今じゃ街の小学校の先生と、お城の医務局に勤めてらっしゃるんでしたっけな?」
「お陰さまで。陛下も随分落ち着かれましたしね。やんちゃなのは子供の時分だけですよ」
「へぇ。1人はお城のお医者さんなんだ。私会った事あるかなぁ?」
「息子はミオン様とは会われてないと思いますが………ゼファン殿のご子息にならほとんど毎日会われていると思いますよ?」
驚いた顔をしてミオン様が私を見る。
「若輩ながら、ミオン様のお部屋の扉を守らせていただいとります」
「そうなの!!」
「うちの子は昔は気が弱かったんですけどね………娘2人に良く口げんかで負かされて泣いとったんですが。いつの間にか騎士になってましたよ」
そうなんだ、とミオン様。良かったら今度お声をかけてやって下さい。
そんな事を話していたらなんと陛下まで現れた。
「なんだ?珍しい顔ぶれだな??ミオン今日はいいのか???」
「うん。今日は調子いいみたい。全然眠くないよ」
ミオン様のお姿が変わりはじめてから数カ月。最近は眠くなられる事が多いらしい。
「そうか。しかし一体この顔触れで何を話してたんだ??」
「ふふ。ディーさんの子供の頃の話だよ?」
「………ジラルダ………ゼファン………何の話をしたんだ???」
焦った顔をされる陛下に思わず笑ってしまった。
「陛下。ご自分の胸にお聞きになってくださいな。安心して下さい。陛下がされた事、以上のことは話してませんよ?」
満面の笑顔で言うジラルダ様にそれが不安なんだと陛下。
「しょうがありませんな。陛下がやんちゃでらしたのは事実なんですし」
「耳が痛いな。お前達には全部知られてるからなぁ………」
陛下が苦笑しながらそうおっしゃる。そうですぞ。なにせお生れになった時から見てきましたからね。
「まぁ、元気一杯だったって事で」
そうミオン様がおっしゃり仲睦まじく笑い合うお2人を見ていると、こう………胸に来るモノがありますな。それはジラルダ様も同じようでした。
お2人にはディレント様とレディアンナ様の分も長く幸せであって欲しいと願わずにはいられませんよ。それがご両親への何よりの供養だと思いますよ、陛下。
ジラルダさんとゼファンさん気持ちの上ではディーさんのお祖母さんとお祖父ちゃんのようなものです。
悪戯小僧のDNAはお父さんからディーさんにしっかり受け継がれている模様。
深音に男の子が出来たら大変そうだ。