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第75.5´話 ※小話※ディーさんの独り言。後編

ミオンとの甘い時間はカラント神の『感動のシーンに水を差すようで悪いんだけど、そろそろいいかな?』と言う言葉に打ち破られた。いっそ無視してもう暫くと思ったのだが、残念ミオンが身体を離す。体温が離れるのが少し寂しい。………俺は子供か?

カラント神は女神に『無理強いはするな』と言われていたらしいが更に『………正直、昔の僕等なら強制的に変えてたね。だって君等の子供見たいもの。僕等の血族に当たるから途絶えてしまうのも嫌だしね』と飄々と言う。オイ………ミオンの意志は無視する気だったのか?!

『確かに………ボクも深音が嫌だって言っても変えてたね』とフォトン神がさらに続き『否定はできませんね。私とて反対はしなかったでしょう』トゥレン神が言いきった。危ない。『昔の僕等』という状態でなくて本当に良かった………。そんな事になっていたら神々に対して決闘をしようと手袋を叩きつけていたかもしれない………。

何にしても神々はこのミオンの姿が変わり俺の子を産む事を望んでいたようだ。女神は先程涙を拭っていたし、他の神々は踊りださんばかりの様子だ。まぁ、こんな神々でも一応俺の血族となるのだし………あまり自覚は無いが………子供を見たいと言うのは好奇心ではなく親族の情だと言う事にしておこう。でないと身が持たん気がする。

『ティレンカ姉上は随分、ディークラウドより深音贔屓だね?』と言うフォトン神の言葉に楽しそうに笑った女神が言葉を続けた。『ディークラウド王はもちろん可愛いが………妾にとっては愛する人と、愛しい息子の血を引く者と結ばれて更には子を産んでくれると言ってくれた深音の方が可愛い』だそうだ。この年で可愛いと言われるとは思わなかったぞ!!!

だが、ミオンを可愛がって貰えるのはありがたい。

他の神々だと面白がってる感が先に立ち正直不安だからだ。しかし、女神………ティレンカ女神は真実こちらを心配したり喜んだりしてくれているのが分かるので安心できる。

『さて、深音ちゃんにはこれをつけてもらわないとね』と言いながらカラント神がミオンの手に腕輪をはめた。どうやらこの腕輪を通じて力を送りミオンを変化させるという運びらしい。

力が送られてくるのは今日から。ミオンはどんな風に変化していくのだろうか?

『………そろそろ時間です。あまり遅いと他の弟妹に文句を言われますよ?』とトゥレン神が言い神々が立ち去る様子を見せる。

『深音。不安に思う事はないと妾が約束しよう。心配症のディークラウド王を悲しませるような真似を妾はしない。二人が幸せになれるようにするのが今の妾の生きがいじゃからの』俺は心配症………だろうか?名残惜しそうなティレンカ女神が俺とミオンの元に来て頬に祝福の口付を落とす。

ミオンと軽く抱擁し合うと、ティレンカ女神は離れミオンが「ティレンカ女神………ありがとう………そうだ!渡したいものがあったの!!」と後を追った。

あれはミオンが女神に渡すべきだと言っていた………。


女神は袋を受け取ると『あぁ………』と呟く。そして涙が零れ落ちた。ティレンカ女神は震える手で宝石箱を持つと『これはセイウスが出来上がったら妾にくれると言っていたものだ………だから中身は秘密、だと』そう言って宝箱を撫でる。そして蓋を開いた。中身は確か櫛と耳飾り。

耳飾りの石の色を見て想う。あぁきっとセイウス王も俺と同じ気持ちだったに違いない、と。その色はセイウス王の目の色。ミオンにやった首飾りの石の色が俺の目の色と同じように、いつでも傍に居たいという焦がれる想い。

『レンカの花だよ。ティレンカ。―――君の為の花だ』とカラント神が言った。櫛の彫り物だな。セイウス王がティレンカ女神を想ってつくった花。

トゥレン神とフォトン神が花をつくるのに苦労していた話や、まだ幼いディークラウド王子にそれを見せていた話を嬉しそうに語る。

その後、ティレンカ女神の神経を逆なでするような事を他の神々が言っていたが、途中で泣いているティレンカ女神を元気づけるためにワザと言ったのだと気がついた。

我が国の神はどうも捻くれている。だが、好感を持って見る事ができた。どこか微笑ましい。

『―――こんな風に一緒にいられたら………』と言うのはティレンカ女神の本音だろう。しかし時は去ってしまった………。誤解を解きあう事が出来たとはいえ、それはどんなに切ない事だろうか?

『さて、これは後でじっくり読ませて貰おう。妾の罪も突き付けられるだろうが………それもまた事実。セイウスとディークラウドが何を思って生きたか知ることのできる唯一のものじゃからの』ティレンカ女神がそう言うと、他の神々共々光の球になる。

『来れる時があればここにおいで。待っているから』という言葉を残して神々は空へと帰った。

ミオンと微笑みあって振り返れば、レンブラント達はまだ神々への礼をとっている状態だった。しかし、「ミオン様、我等は貴女が妃殿下である事を誇りに思います」と言うレンブラントの言葉に、これはミオンに対してとられた礼なのだと気付く。

「ミオン様が妃殿下で良かった。貴女は陛下に多くのものを与えて下さいました………」とジュド―が言えば、「臣民を代表して今、言わせて下さい。こちらの世界に残ると言って下さり、更に自らの御姿を変えても陛下の御子を望むとおっしゃって下さった………本当に有難うございます………」とリンが更に言葉を続けた。

ミオンは混乱しているようで「私がしたい事するだけだし!!!お願い立ってーっ!!!」と叫んでいる。流石に可哀想になったので「気持ちは分からないでもないが、あまり困らせてやるな。このままだとミオンが逃げ出しそうだ」と言ってやると、レンブラント達は互いの顔を見合わせて苦笑した。

「済みません。ですが覚えておいて下さい。今の私達の気持ちを表すのに立礼では足りなかったのです。私達はミオン様に感謝しても足りない位の贈り物を頂きましたからね」その言葉に俺も思わず頷いた。ミオンにそう望んで貰える俺は本当に幸せ者だ。

ミーシャがボロボロ泣きながら喜びをあらわにする。他の者たちもそれぞれミオンに感謝の気持ちを込めて誓いを口にした。

ミオンの顔が泣きそうに緩む。俺はそんなミオンの肩に手を置いて微笑んだ。

「私………こんな幸せでいいのかな………?………」そう問われて大きく頷く。ミオン。お前が幸せにならずして誰が幸せになると言うのだ。ミオンが幸せなら俺も嬉しい。

「みんな………ありがとう………っ」とミオンが言えば皆が暖かい頬笑みを浮かべる。

祝福の笑みを受けてミオンも嬉しそうに笑った。


ミオンと森を散策する。迷わないように泉のフェンス越しだが。それでも愛おしい時間には違いない。

手を繋いで歩きながらミオンが「もし子供ができたら3人は欲しな………男の子もいいよねでも女の子もいいよなぁ」と嬉しそうに話す。俺は何人でもいいぞ?ミオンが産んでくれるなら。男だろうと女だろうと構わない。どの子もきっと可愛いだろう。

そんな中、ふと情景が浮かんだ。見知らぬルーヴェンシアの女性………不思議とミオンだと思った。ミオンが愛おしげに2人の赤子をあやしている―――。そんな姿。我に返ればそこは森の中で。

ミオンが不思議そうな顔をして見上げてくる。

今のは森が見せた幻だろうか?しかし、あの幻が真実になれば良いと思った。

次の日は早朝に出発し城に戻る。出迎えは神官や大臣達。そしてジラルダだ。

正式な通達は後日としながらも泉であった出来事を簡略して話す。

神官たちは大興奮し、古参の大臣達は泣きだすものもいた。子は望めないとしながらも俺達の婚姻を認めてくれた者達だ………諦めたはずの願いが叶うと知って興奮したようだった。ジラルダは後ろを向きそっと涙を拭ったようだ。

皆に「人々が受け入れやすい体制をとれるように頼む」と頼んでおく。下準備は必要だ。ミオンに要らぬ心労はかけたくない。

「心得ましてございます。陛下。………今回の事、心から御喜び申しあげます。陛下………ミオン妃殿下………。お二人の御世、つつがなくお過ごしして頂けるように臣下一同、骨身を惜しまず御仕え致します」最古参の大臣がそう言い、皆が礼をとる。

その後は、何人かの大臣がミオンに握手を求め「ありがとうございます………ありがとう」と声にならない声で囁く姿が見られた。神官達は様々な加護の祈りをミオンにしていく。

状況が飲み込めないのかミオンは少し引き気味だ。何を祈られているかさっぱり分からんだろうしな。

その後はミオンと共に墓参りに行った。

手を繋ぎながら花畑で花を摘んで墓に向かう。白い建物が見えてくると祭壇に数々の花が供えられているのが目に入った。「大臣達め。真っ直ぐ帰らず、皆でここに寄ったらしいな」そう言ってミオンと笑い合う。先を越されたか。まぁいい。それだけ彼等も嬉しかったのだろう。

そんな風に喜んで貰えるのは俺としても嬉しい。

ミオンと共に花を置くと俺は両親と産まれなかった兄弟に祈りを捧げた。


―――愛しいと想える女性ひとができました………父上、母上………。俺にとってかけがえのない女性ひとです。俺はミオンと幸せになります。どうか空の上から俺達を見守って下さい。


そう祈ってから両親と兄弟の位牌を撫でる。

「愛する人が出来たと………2人で幸せになると誓った」そう囁くように言うと「私も不束者ですが宜しくって言ったよ」ミオンが優しい頬笑みを浮かべながらそう言う。

「ミオンの両親にも挨拶したかったんだがな………」とそう言えば「そうだね………でもここからでもきっと届くよ………」と2人寄り添って空を見上げた。

「大丈夫だよ。私もう幸せだもの。きっと安心してくれてる」ミオンのその言葉に思わず抱きしめる。「俺も幸せだ………ミオン………」そう言って耳元で囁けば互いの体温が暖かかった。顔をあげたミオンの頬に口付を落とす。お互い照れくさくなり笑いながら手を繋ぎその場を後にした。

夕焼けが辺りを染める中、2人歩く。

「ディーさん、ちょこっとしゃがんで?」と言われ、しゃがめばどうやら頭に花弁がついていたようだ。苦笑してそのまま立ち上がろうとすると、ミオンの白い腕が首にかかる。

そのまま「ちゅっ」という可愛らしい音をさせてミオンの唇が俺の唇に触れる。驚いたのは一瞬で、そのままミオンに口付けを返す。

「ミオンからは初めてだな」嬉しさを隠せずそう言えば「そうかも………」と言うミオン。夕焼けの中でも分かる位に顔を赤く染めていてそれがとても愛らしい。

「たまにはミオンから口付られるのも悪くない」時々はして欲しいと乞えば、ミオンがシマッタというような顔をしたがもう遅い。口付するのは好きだが、されるのが心地いいと俺に教えたのはミオン、お前だ。


連日忙しくて目が回りそうだ。俺の誕生日なのだからもっとゆっくりしたいものだが仕方が無い。溜まっていた政務をこなし、調整していく。ミオンは慣れない事でかなり疲れているようだ。連日ドレスの試着やら作法の勉強やらで忙しくしている。

仕事を終えて部屋に戻るとミオンが椅子で寝ていた。余程疲れたのだろう。

しかし、あどけなく眠る姿に癒される。

そう思った時だった。レンブラントに言い忘れた事があるのに気付く。来賓用のワインが崖崩れで届かず、飛竜を使って運搬すると言う話だった。許可は出したがレンブラントに伝えていない。

「ミーシャ、済まないがレンブラントに伝言を頼んでいいか?」疲れていたのでお願いする。ミーシャは快く頷くと部屋を出て行った。

ミオンの傍に寄りその寝顔を眺めていると、どうやら気配で起こしてしまったようだった。

「ん………ディーさん?おかえりなさい………」の言葉に顔が綻ぶ。寝起きのミオンは可愛らしい。

ミーシャが居ない事を問われたのでレンブラントの所に使いを頼んだと言う。

ミオンの「チョーカー………私の首飾りが直って来たの!!」と言う言葉に驚いた。てっきり間に合わないと思っていたからな。ジョージ・ロペス、良い仕事をする。

つけてくれとせがまれて喜んでミオンの後ろに回る。

ミオンが首飾りをつけやすいように髪をたくしあげると白い項があらわになった。柔らかそうなその首元にドキリとしながら首飾りをそっとつける。無防備なその姿にふと悪戯したい気持ちになる。

ミオンが髪を下ろそうとするのを制して、俺は項に口付を落とした。

「ふぇっ?!」という可愛らしい声をあげてミオンがビクリと身を縮める。その姿も愛おしい。

ポカポカ殴られたが気にならない。そのまま額に口付る。

「意地悪」と言われたが俺にそんな気はない。「そうか?俺はミオンを可愛がっているつもりだが」と正直な気持ちを告げる。

ミオンがこちらを向いたのでそのまま唇を重ねる。軽く啄ばむ様に口付を返されたのでそのまま深く口付ていれば―――。扉が開く音がしてミーシャの息を飲む気配。ミオンが硬直し………。


「きにゃ――――っ!!!」


何とも可愛らしい叫びをあげて俺を突き飛ばす。混乱した顔は涙目だ。扉の所に頬を染めて目をキラキラさせたミーシャと、何とも居心地の悪そうなレンブラントの姿を見つけると飛び上がるようにして立ちあがり浴場に籠ってしまう。

「ミオン!!!」出てこいと呼びかけたが中から鍵がかかっている上、何とも言えない呻き声が続く。

暫く呼びかけたものの、今は出て来なさそうだと判断して部屋に戻った。

「陛下………何やってるんですか?」と呆れ顔でレンブラントに言われたが、こんなに早くミーシャが帰ってくるともレンブラントが来るとも思っていなかったのだからしょうがない。

「忘れろレンブラント。俺は別に平気だがミオンが気にする………それと声ぐらいかけてから入って来い」と言えば何かの書類を俺に渡しながら大きく溜息を吐くレンブラント。

「一応、ノックもしたし声もかけたんですよ?………私は女性に恥をかかせる趣味はありませんからね。私は何も見てません」ノックしたのか………。まったく気付かなかった事に流石に少し恥ずかしさを覚える。「明日の招待客リストです。多少変更があったので持ってきました。目を通しておいて下さい」レンブラントの顔はあくまで呆れ顔だ。「む。わかった」少々気まずく思いながら俺はそれだけ言うとレンブラントを下がらせた。少し落ち着いたのか冷静な顔に戻っているミーシャにミオンを呼んで来てくれるように頼む。ミオンが出てくるまでかなりの時間を要した。

浴場から出てきてからベットに潜り込んだミオンが俺を許してくれるまでは更に時間がかかったが。


次の日は幸せな気持ちで目が覚めた。目が覚めればそこには愛おしい女性ひとが俺を見つめている。腕を抱きしめられて「ディーさん、誕生日おめでとう」とミオンが言う「あぁ、有難うミオン」そんな些細な事が胸が締め付けられる位に幸せだ。

朝の口付をした後に、ミオンが起き上がり何やらベットの下をゴゾゴゾ探る。取り出されたのは2つの白い箱。「これは………?」と聞けば照れたようなミオンが「これは初めて貰ったお給料で買いました………誕生日プレゼント。貰ってくれる?」と大変嬉しい事を言ってくる。

見て良いかと問えば促されたので楽しみな気持ちで箱を裏返す。そこに収められていたのは剣の柄頭の飾りと儀礼式典用の胸飾りだ。職人の手癖からジョージ・ロペスのものだと分かった。

そう告げるとミオンは驚いたようだが。

どうやら皆で考えてくれたらしい。その想いが嬉しくて思わず笑みが零れる。しかし、ミオンには先を越されたな。「ミオン。俺も受け取って欲しいものがあるのだ」と言うと不思議そうな顔をしてミオン首をかしげる。目を瞑るように言い、俺はミオンの左手をとってその薬指に指輪を嵌めた。

驚くミオンに「王家に伝わる意匠だ。王妃となる女性は代々この形のものを着ける………結婚式の指輪は御揃いのものをつくって貰おうな」と言うと嬉しそうにミオンがうんうん頷く。

どうやら喜んで貰えたようだ。残ってくれると言ってくれた時から今日渡せたらと思っていた。間に合って本当に良かったと思う。

それから、かねてから考えていた計画をミオンに話した。それは3日目、ミーシャに休みを取らせてリンをエスコート役にして俺の誕生日祝いに参加させるというものだ。

ミオンも賛成してくれた。これが2人が近づく良い機会になればいいが。ミーシャには秘密にしておいて驚かせるつもりだった。後で文句を言われるだろうが今はそれも楽しみだ。


ミオンに貰ったプレゼントを身につけ部屋に戻る。女性の支度は時間がかかるので女官にお茶を淹れて貰い寛いでいると暫くして来客があった。シーヴェスだ。確か昨日の夜帰って来ると聞いていた。朝一で挨拶に来たらしい。しかし………痩せたな。あんな事があったのだ。当然と言えば当然か。

軽く挨拶を交わした所でミオンが出てくる。

思わず顔が緩む。今日の装いもミオンに似合っていて愛らしい。

ミオンに目線で問われシーヴェスを紹介する。

見舞いと詫びの言葉を口にするシーヴェスを見ながらミオンに「今からシーヴェスがヴァルレア公となる」告げた。その言葉にシーヴェスが心からの謝罪と忠誠を述べて頭を下げた。

「頭をあげて下さいシーヴェスさん………謝罪なら既に頂いています。今回の事は不幸でしたがそれだけではない贈り物も貰いました」慌てたミオンがそう告げれば「有難うございます妃殿下。ですがヴァルレア家は貴女様に返せないほどの恩があるのです。何かあった時にはどうぞヴァルレアをお頼り下さい」苦しい面持ちでそう言うとシーヴェスは礼をとって下がる。

入れ替わりにレンブラントが入って来た。

「陛下、アーデベルト王子が陛下と妃殿下にご挨拶を、と」そう囁かれてレンブラントを見る。俺は「後では余計時間も取りにくかろう………構わない、入って貰え」と許可を出した。

久しぶりに会うアーデベルトは相変わらず気のいい男だ。こんな状況で再開なのが残念だが。

正式な使者としての謝罪をされ、ミオンは戸惑ったようだった。俺が頭を下げたままのアーデベルトを起こしてやりながらミオンを見れば決意に満ちた顔がそこにはあって。

「あの………私はまだ未熟者で国の関わりにも詳しくはありません。――今回の事で両国の関係には傷が入りました。ですが、上手く直す事が出来たならもっと強固な絆になると思うのです。我が国と貴国がそういう絆を手に入れられる事を私は願います」

正直驚いた。ミオンは時々思いもしないような事を言う。それはミオンの思いやりに溢れていて聞くものを納得させる不思議な言葉だ。

アーデベルトも驚いたようだったが、その言葉に破顔して「ディークラウド王は良い伴侶を得られましたね!怖ろしい目に合ったと言うのに………貴女がそう言って下さった優しさと勇敢さに敬意を表します。そして感謝を。妃殿下の御心を無駄にしないよう努めさせて頂きます」と言った。

「俺の自慢だ」と言えば暖かい笑みを浮かべて一礼し、退出していく。

レンブラントに時間だと告げられてミオンは一気に緊張したようだ。

「庭にいるのは民ではなくレンカの花が咲いてるとでもお思い下さい」と言うレンブラントの言葉に「ガンバリマス」と答えるミオン。

俺が先にバルコニーに出ると民の歓声が聞こえた。庭は満員だ。所狭しと人々がこちらを見上げている。振り向いて手を差し出せば緊張のあまり青褪めたミオンの顔がある。ゆっくりとこちらに来てバルコニーに姿を現した時だった。一瞬の沈黙ののち割れるような歓声が辺りに響いた。


―――ワァアアア!!!陛下万歳!!!妃殿下万歳!!!


その歓声に驚いたのかミオンが作法を忘れて中庭を覗き込んだ。一層歓声が高くなる。

嬉しいのだろう。ミオンの横顔はほんのり紅潮していた。

見かねたジラルダがコホンと咳をすると慌てたミオンが姿勢を正す。真っ赤になってしまったミオンに苦笑しながら2人中庭に向かって手を振った。

民はミオンを王妃として受け入れてくれたのだ。ミオンと同じ喜びを噛み締めながら俺は手を振り続けた。


衣装替えの後は各国の使者達から祝いの品を有難く受け取る。それぞれの国の事、王や王妃の調子はどうか等を聞き言葉を交わす。

それらが終われば、改めて各国の使者に挨拶に行った。

鱗族リュレジオの宰相エルンスト殿は街道に出る盗賊に頭を悩ませているようだった。どうやら中々頭が切れる奴等のようだ。そんな時、ミオンの助言が役に立った。ミオンのいた世界の技術は素晴らしいものがあるな。

そんな事を話していると小鼠族リルレンシャレシア王女が挨拶に。

婚約の祝いを告げられて更に「実は私、今回のお話を聞いて是非ミオン様にお会いしてみたかったのです。いちファンとして。我が国でも神々に認められ王の呪いを解いた姫君としてかなり人気が高くてらっしゃるのよ?各国の戯曲家達が先を争って物語を書いている最中だとか」と言う。戯曲の事は知らないミオンが真っ赤になって話しを聞いていた。

「ミオン様は可愛らしい方ですのね。戯曲になるのはそこにドラマやロマンスがあるからですわ。それは民衆に夢を与えるものです。お恥ずかしい気持ちは分かりますけど、そこは諦めて下さいませね」と止めを刺されミオンは諦めたようだった。俺も照れくさくはあるが、民とはそういうものだ。そう言う事は多々ある。諦めが肝心だ。


獅子族ディレンドラのアーデベルトと蛇鱗族リュレジオのエルンスト殿と話していると、ミオンはミオンで王女達と歓談中だ。慣れてくれたようでなによりだ。最初は緊張していたが、3日目ともなれば少し余裕が出て来たらしい。時々、笑顔が覗けるのでそれなりに楽しんでいるようだ。

こちらの話題は来年の結婚の式典の話だ。ミオンの変化にもよるので日時は明言できないがどれ位の時期になりそうかと言う話しをする。

「しかし妃殿下も思い切りましたね。姿を変えるのに同意するとは。神々のお力とは言え、我々には想像もつかない………勇気があるのですね」エルンスト殿が少し大袈裟な身振りで言えば「それだけディークラウド王を愛しておられるのでしょう。皆がこぞって戯曲にしたがる気持ちが分かります」と悪戯めいた笑みを浮かべアーデベルトが言う。

「お陰で俺はミオンに頭が上がりそうもないですが」そう言うと「ご冗談を。妃殿下を見ていれば分かります。ディークラウド王に頭を下げて欲しいなど思っておられないでしょう?」そう言ってエルンスト殿が苦笑する。そう言われてこちらも苦笑した。まぁ、確かにミオンは俺に頭を下げられる事など望むまい。

王女達との話が終わったのかミオンがこちらにやって来た。アーデベルトとエルンスト殿と挨拶を交わす。「丁度、妃殿下の事を話していたのですよ?」と言われ「悪口じゃないですよね?」と冗談で返していた。

「少しは慣れたみたいだね?」こっそり囁かれてミオンの見ている方を見れば視線の先にはリンとミーシャが。頷いて2人微笑みあう。

「では、お2人の結婚の式典を楽しみにしています」と言いながらアーデベルトとエルンスト殿が立ち去った後は、大狼族ウルファーレンのシーヴェルグや熊闘族ガロンディアのディオル殿、鷹高族(ファ-レンジア)のデレク殿がやって来て狩りの話になった。更には梟賢族エルレーンのリーヴ殿と強牛族ゴライゾンのクスト殿まで加わって狩りの話は白熱した。

最初は興味深そうに聞いていたミオンも流石に後半は飽きて来たようだ。

あまりに暇そうだったので狩りの話の輪を辞してミオンと共にその場を離れる。

小姓を呼んで耳打ちし、楽団に曲を変更させた。

「ミオン少し踊らないか?」その言葉にミオンが慌てて周りを見る。「無理!無理だよ………ステップわからないもの………」恥ずかし事を話すように耳打ちしてくる。

「大丈夫だ。今、曲を変えさせた。ほら、ゆっくりした曲だろう?寄り添いながら身体を揺らすだけでいい。簡単だ」暫く逡巡した後ミオンが頷いたので、女性をダンスに誘う時の礼をしてミオンの手を取る。周りは皆パートナー同士ばかりだ。そういう曲だからな。

細い腰を抱きよせながらゆったりと踊る。最初は緊張していたミオンもこの雰囲気に慣れて来たようだ。「大丈夫だろう???」そう言えば嬉しそうに微笑む。そんなミオンが愛おしかった。


次の日、帰国する者達の出立の挨拶がひと段落した頃だった。「昨日はどうだった?ミーシャさん??」とミオン。正直ミオンが聞いてくれて助かった。俺からだと聞きにくいしな。気になっていたんだ。

「………ミオン様は知っておられたのですか………?その………エスコート役がウェリン様だって………」と、少し恨めしそうに言うミーシャ。ミオンが慌てて謝る。

泣きそうな顔をしたミーシャが言うにはどうやらリンの前で失敗したらしい。聞いていると微笑ましいもので、別にリンだって喜びこそすれ迷惑とは思わないだろうに………と言う内容だった。

当人にしてみれば顔から火が出る位に恥ずかしいものらしいが。

「俺がミオンにミーシャには秘密だと言ったんだ。そう責めてやるな」と言ったら「なら酷いのは陛下ですわ!!」と怒られた。

「楽しくなかったのか?」そこまで怒られるいわれは無いのでそう言うと「………楽しかったですけど………心の準備が欲しかったですわ」と少し拗ねたような口調で言われた。

その後の話も総合するとどうやらミーシャの気持ちはよりリンに傾いたらしい。良い事だ。

しかし、「私は嬉しかったのですけど………陛下のご命令でしょう?ウェリン様にとっては………ご迷惑だったんじゃないかと思いまして………」などとミーシャが的外れな事を言う。

「「いや、それはないと思う」」と思わずミオンと声が重なった。

エスコートを頼んだ時は文句を言われたが、何だかんだで嬉しそうだったからな。

「はぁ。一昔前なら国王権限で結婚させてる所なんだがな」と言ったこれは本音だ。お互い好きあっているのだから結婚すれば自然と上手く行くだろう。2人の気持ちを知って何度この強硬手段に訴えてやろうと思った事か。それぐらい2人は互いの気持ちに疎い。

「政治的に私の家とウェリン様の家が姻戚関係になる事に意味があるのは分かりますけど………」またもミーシャが的外れな事を言うので「違う。似合いだから言っている。政治的な意味など付加価値に過ぎん」と言っておく。ミオンも賛成のようだ。

しかしミーシャはどうやらリンに好きな女性がいると言う噂を何処かで聞いたらしい。誰だ?そんな噂をしている奴は………ええい!余計面倒な事になるではないか!!これは何としてもリンに頑張って貰うしかないか?ふと見ればミオンも同じ意見らしい。お互いしっかり頷きあう。

取りあえず落ち込んだミーシャをこの話題から遠のけるべくジュド―の事を話題に出す。上手い具合に意識は逸れたようだ。ミーシャに泣かれるのは困るしな。

しかし、聞けば聞くほどジュド―が結婚する日は遠そうだ。元々、家柄や身分で評価される事が大嫌いだしな。穏やかなようでいて怒れば毒舌が炸裂する奴だ。女性の事を権力に群がる羽虫位に思っているかもしれん。

そんな事を考えていたらジュド―の相手にミオンが意外な人物の名を上げた。エルザだ。昨日2人が話す様子を見ていいかも、と思ったらしい。エルザなら家格も合うし良いかもしれん、と思ったら「けれど、正直難しいと思いますわ。エルザの理想の男性は自分より強い殿方なので………」とミーシャが言う。

ラムザ位しかいないではないか。そう言ったら筋肉達磨は嫌いだそうだ。ラムザの事ではないらしいが、あいつも筋肉あるからな。許容範囲外だろう。エルザよ………お前も結婚しない気か?

そんな事を考えていたらミオンが「大丈夫じゃない?理想の人と好きになる人は違うって言うし」と言う。不意に不安になった。ミオンの理想はどうだったのだろう??

思いきって聞けば「え?………私??特にはなかったけど。常識外れの我儘な人じゃなければ?」との返事。理想は無い、でいいのだろうか???出来れば、ミオンの理想に少しでも近づける男になりたかったのだが………。悶々と考えていたら「確かに特に無かったけど。強いて言えば好きになった人が私の理想の人だよ」少し照れながらミオンがそんな事を言ってくれた。

思わず強く抱きしめる。そう言って貰える俺は果報者だ。


ミオンに尻尾と毛が生えて来たらしい。らしいと言うのは尻尾の方は断固として見せて貰えなかったからだ。せめて触ってみたかった………。と言ったら「ディーさんセクハラ!」と言われた。セクハラと言うのはなんだろうな?腕は触らせてくれたのでその感触を楽しむ。

「ふむ。本当に産毛だな。まだ柔らかい」と言うと「もういい?やっぱりくすぐったいよぅ」と可愛らしい事を言う。本当にくすぐったそうなので早々に腕を解放した。

「ミオンはくすぐられるのが弱そうだな」と面白そうに言ったら「くすぐらないでね!嫌いになるよ!!」と睨まれた。

しかし「嫌われるのは困るからしないが………。普通に触るの位は慣れてくれ。それで嫌われるのはかなわん」と告げる。抱きしめたり口付たりするたびに、くすぐったがられるのは困るからな。

そんな会話をしていたら、来客で席をはずしていたミーシャが帰ってくる。

どうも浮かない顔なのでどうしたのかと思ったらミーシャの伯父が見合い話を持ってきたらしい。

先日、リンにエスコートさせたのはミーシャに対する虫除けの効果も狙ったものだったのだが………あまり効果は無かったらしいな。あまりに困っているようだったので「なら俺から断ってやろう。ミーシャには密かに想う相手がいると言えばいいだろう?」と言ったら「それはちょっと………多分誰だ!って話になって伯父が思い込みで突っ走りそうなので………ウェリン様にご迷惑がかかりそうでとても嫌です」と答えが返って来た。ははぁ。どうやら相手はガレアン伯らしいな。

「ガレアン伯か………なら、俺がミーシャの貰い手を吟味してる最中だからと言って遠慮させよう」そう言うと、ミーシャも安心したようだ。ガレアン伯も俺からの申し出を断れる性質じゃないしな。先方にも断りやすかろう。

「そう言えば2人にレンブラントから伝言があったんだ」頼まれていた伝言を思い出す。「正確にはメルフィ殿からだが。今度お茶会を開きたいんだがミオンとミーシャも来ないかという話だ」2人で行って来いと言うとミオンが嬉しそうな顔をする。

臣下の妻と………まだ結婚していないが………よしみを結ぶのは妃殿下の務めと言って良い。押しつける気は無いが、ミオンならそつなくこなすだろう。

楽しい話しに水を差す事になるが………俺には怒られるのを覚悟して言わなければならない事がもう一つあった。イリアナの事だ。そんな俺の表情に気付いてミオンが「?ディーさんどうしたの??」と問うてくる。言いにくさを堪えて俺は「………イリアナだが………昨日、修道院に旅立った」と告げる。

案の定ミオンもミーシャも驚いた。


「誰にも見送られず行くのが良いのです。陛下。家族の見送りも、他の誰かの見送りも今の私には分不相応ですわ」


そう言って笑ったイリアナを思い出す。その言葉を告げればミオンもミーシャも複雑そうな顔だ。

「昨日、出立する数時間前に伝言を預かった。2人に「健やかなる事をお祈り申し上げます」だそうだ」

と告げると、ミオンは溜息を吐いて椅子に沈み込んだ。ミーシャは痛ましげな顔で目を伏せる。

「陛下の誕生日の式典の事お兄様から聞きました。妃殿下のお身体の変化の事も。お祝いを申し上げます陛下………。私………今なら分かるのです。自分がいかに我儘であったか。陛下の為に自分の姿を変える事も厭わないミオン様………私、安心してここを離れられます。きっとお2人は幸せになられるのだと思えますもの」泣き笑いの表情で言うイリアナにはかつてあった狂気は無い。

己のしたことへの後悔と向き合って生きる強い心を手に入れたように思う。どうかその気持ちを大切に生きて欲しい。

イリアナの旅の無事を祈りながら俺はそっと息を吐いた。








エライ長くなりました。前後編に分けたのに!!!最後まで読んで下さった方、ありがとうございます!!!

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