第75.5話 ※小話※ディーさんの独り言。前編
予想もしていなかった展開でミオンを手に入れる事ができた翌日、重臣を呼び集め俺の我儘を通すための会議を開いた。
呪いが解けた事、婚姻の制約が女神によって解除された事、ミオンが帰る事も出来る事、子供が望めないだろう事を包み隠さず話した。ざわりと会議場が揺れたがそれを制した上で更に続ける。
「俺はそれでもミオンを妃に迎えたい。反対される要素しかない事は百も承知だ。だが、俺はミオン以外を愛する気は無いし後宮も要らぬ。………コレは俺の我儘だ。諸兄等には愚かと思われても仕方が無い。祖先から続くルーヴェンシアの直系の血筋をここで断とうと言うのだから」そこで一旦言葉を切る「だが、一生に一度の我儘をどうか通させて欲しい」頭は自然と下がった。王となってこんな風に頭を下げるのは初めてだ。だがそれも苦ではない。ミオンと共に過ごせる未来があるのなら。
わざとらしく溜息を吐きながら俺の頭をあげさせたのはレンブラントだ。
議場は信じられないほど静まり返っている。
「貴方は王です。陛下。分かっておられると思いますがそう易々と頭を垂れるべきではありません。………陛下があの時ミオン様を愛していると仰ったとき………いつかこうなるだろうと思っておりました。私は反対致しません。お2人を見て来た結論です。陛下のご意志のままになさればいい」
そう言ってくれたレンブラントは苦笑しながら俺を見つめる。「レンブラントお前………」正直一番反対すると思っていた。レンブラントはどちらかと言うと正論の権化だ。祖先から続く血を薄めるような事認めてはくれまいと………思っていた。だが静まった会場の中、言いにくかろうことを一番に言ってくれた………それだけで感謝の気持ちで一杯になる。
「私も陛下の考えを支持します。ミオン様が来られなければ陛下の呪い………延いてはこれからの子々孫々に至る呪いは解けなかったかもしれません。今までの行い、人柄………皆さま方も一時は妃殿下に相応しいとお認めになったはず。確かに問題はありましょうが………それでも私は陛下とミオン様の気持ちを支持したい」
リンがそう言ってくれる。一つ一つの言葉に勇気づけられる気がした。「リン………」
「確かに御子は望めないかもしれません………ですがあれ程女神のお心に添われる力を持った方を私は知りません。神殿としてはそれだけで妃殿下としての資質がおありになると唱えるでしょう。私個人の意見としては、陛下の幸せを願いたい。お話を聞いていると想い合うお2人が離されるのは不幸でしかないように思います。ですから私は陛下とミオン様が結ばれる事に賛成致します」
そう微笑みながら言ってくれたのはジュド―。幼馴染の言葉に不覚にも目頭が熱くなった。「………ジュド―」
「俺は難しい事は良く分かりません。まぁ、確かに御子が産まれないのは一大事だと思いますがね。でも、愛し合う人達が夫婦になるのは普通の事でしょう。ただ、陛下が陛下であるってだけでそれを我慢しなければならないのは俺は嫌ですね。だから俺は陛下に賛成です」
そう言いきったラムザは満足そうだ。その気持ちに感謝する。「スマン、ラムザ」
俺は良い朋友に恵まれた。例え他の者たちに反対されようともこの感謝の気持ちがあれば越えて行ける気がした。
「敢えて言います。ミオン様には御子は望めず。次の王は傍流から選ばれると。私は先王の時代から仕えてまいりました。先王陛下の唯一の御子であらせられる陛下が次代を残されないと言う事には賛成はできません。………しかし、陛下の御心も理解できます。ミオン様が御子を御産みになれるのなら、私は諸手を挙げて賛成した事でしょう。………ですから反対も致しません」
重く溜息を吐きながら言ったのは古参の大臣の一人だ。その言葉に古参の大臣3人が頷く。
「正直、この国を担う者としては反対すべきなんでしょうな………陛下も理由は分かっておいででしょう。ですが敢えてその道をお選びになりたいと我等に仰った。私は陛下の臣です。その我等に頭を下げることまでして………ミオン様は御子を御産みになれないかもしれない。けれど陛下の呪いを解き、陛下に御心の安寧を与えて下さる。正直複雑な気持ちではありますが、私は賛成しましょう」
諦め顔で言ったのは古参とまではいかないが、重鎮にあたる大臣だ。その言葉に残りの4名が頷く。
「賛成9名に賛成も反対もしないが4名ですね」
レンブラントの言葉に皆が頷く。正直信じられない面持ちで俺は周りを見渡した。全員に反対されても仕方が無いと思っていた。これは俺の我儘だと理解してもいたし。だが、そこにある顔には不信や怒りそう言ったものが一切ない。「俺は………幸せ者だな………」そう呟けば皆の顔が綻んだ。
「さて、代わりに陛下には政務をよりいっそう頑張ってもらいましょうか?どうせなら賢王として名を残してもらいたいですからね」レンブラントがそう言って笑い「努力しよう」と俺が言えば議場は暖かい拍手に包まれた。
折角想いが通じ合ったのだからと、ミオンに口付を迫ったら拒否される。人前でする習慣は無いらしい。人前と言っても女官達なんだが………駄目らしい。何も客前でしようと言っている訳ではないのだが………。したい時にできないのは残念でならない。なので、他のものが見ていない時に軽くする事にした。これも文句を言われたが「見られてないから問題ない」と押し通す。これぐらい許されていいだろう。多分。
まぁ、朝と寝る前、誰もいない時には存分にミオンの唇を堪能できるのであまり文句は無いが。
文句が無いと言えば、人前でなければミオンを膝の上に抱いて良いと言う許可が出るようになった事か。これには大変満足だ。ずっとこうしていて良いのなら抱きしめていたい。
夜、寝る前の口付をしていたらミオンが何かを考えている気配。「何を考えてる………ミオン」と問えば、明後日の方を向いて「ナンデモナイデスヨ?」と言うので………なら、何も考えられないようにしてやろうと深く口付たら怒られた。額に口付を落としてごまかす。
「………リン先生の好きな人って………私も知ってる人?っていうか身近にいる人、かな?」
唐突にそんな事を聞かれて驚く。そんな事を考えていたのか??と思ったらどうやらリンを慕う女性が身近にいるらしい。それはそれは………。ミーシャなら事は簡単なんだがな。
探りを入れたらナイショだと言われた。俺は聞かれてるのに不公平だと訴えたらヒントしか聞いていないと言われたので俺もヒントを貰う事にする。「リンの好きな女性はお前も知ってる」と告げるとミオンの顔がぱっと明るくなる。
「リンの事を好きだというのは、俺とミオンと親しい人物か?」と聞けば頷かれた。………これはミーシャの可能性もあるな………。
「そうか!!!俺が思い浮かべている人物だといいのだがな。そうすれば二人は両想いだ」と告げると
「だよね!!!私もそうだと良いなって!!!」と興奮したミオンの声が。俺もいささか興奮し気味だ。10年来のリンの片思いだと告げるとミオンは驚いたようだった。
ついでに、リンが恋に落ちた瞬間を教えてやる。あれは晴れた日だった。ミーシャを見たリンの顔がボケっとしたものに変わり次の瞬間真っ赤になった。紹介した時にはほとんど何も話せない状態でミーシャはさぞ無口な男だと思った事だろう。
ミオンが何で告白しなかったのか………と言うような顔をしていたので当時の事情を説明してやった。
『こんな………本の虫で青瓢箪な私の事を好きになって貰えるとは思えません』というリン本人の言葉を告げると「何処が青瓢箪!!!リン先生素敵な人だよ?!」と驚いたように声を上げる。
俺もそう思うが当人が思い込んでいるのだからしょうがない。
と、ミオンが身体を寄せてきて上目づかいに俺を見る。
………コレはちょっと色々………くるものがあるんだが………。
「頼むからそんな顔しないでくれ………。リンには発破をかけておくから」と告げるとキョトンとした顔で「うん………。っていうかそんなに変な顔???」と言われる。
違うんだミオン………。そんな可愛らしい仕草をされると我慢が………。
「変な顔と言うか………上目使いはちょっとキツイ。色々………我慢が………」と言えば「???我慢て何???」と、よりにもよって小首を傾げて聞いてくる。
―――無理だ。
そのまま深く口付た。ベシベシと叩かれて離しはしたが。俺から言わせればミオンが悪い。
「こう言う我慢だ。………暫く上目使い禁止だな。後、首をかしげるのも。もし破ったら人前でキスされても文句は聞かん」手に入る前なら我慢もできようが………想いが通じ合っていると言うのに我慢させられるこっちの身にもなって欲しい「身長差あるんだから上目使いにもなるでしょが!!!」と文句を言われたが、いきなり襲われたくなければ努力して欲しいと告げると黙られた。俺も男なので何事にも限界がある。
あれからすぐ、リンには発破をかけた。あまり効果は見られなかったが。
「リン。いい加減ミーシャに想いを告げたらどうだ?あいつもいつ嫁に行ってもいい年頃だ。他の男に持っていかれるぞ?」そう言うと驚いた顔をされて溜息を吐かれる。「陛下………分かっておいででしょう?身分が違いすぎます。ミーシャ殿は素敵な方です。私などより素晴らしい伴侶が現れる事でしょう。想いを受け取って貰えないと分かっているのに告白して何の意味がありますか?」
その言葉に大きく溜息。想いが通じる可能性があるから言っているんだ。
「想いが通じないなど思い込みだとは思わないか?現に俺がいい例だ。ミオンに受け入れて貰えるなどと思ってもみなかった。もし想いを告げねばミオンは遠い世界に帰っていただろう」
「ですが、それは上手くいった結果の例でしかありません。ミーシャ殿に振られたら………正直立ち直れる自信がありません。私には遠くから眺めているだけで十分なのです」
あぁ、ミオン。俺にはリンの気持ちが少し分かる。お前が帰ると思っていたあの頃………想いを告げるのは自分にトドメを刺す事だと思っていた………。俺だってもしお前に受け入れて貰えなければ立ち直れなかったかもしれない。
「この話はお終いにしましょう」とリンに告げられて、俺は何も言えなかった。ミーシャが実際どう思っているか分からない今、こう言う事は当人がその気にならなければ意味が無い。今すぐにというのは無理だろうと考えたからだ。
そんなやり取りの後暫くして、俺達は女神との約束通り泉へと旅立った。前回のの顔ぶれに今回はレンブラント、ジュド―、ミーシャが加わる。
そんな道中、意外な所でミーシャの気持ちを確認する機会が来た。リンがリゾットをおかわりしようとした時ミーシャが椀にリゾットを入れて手渡した。二人の手が重なり………。時が止まった。呆けた顔で見つめ合う二人。暫くすると「すみません!!!」と叫び二人同時に手を離す。
ラムザが固まってるのが見えた。エルザとレンブラントは「成る程」と言って頷く。ジュド―は驚いてから、理解して嬉しそうに笑った。当人だけが状況を理解しておらず慌てている。
「やはり、先が長そうだな………」そう呟けば呆れ顔のミオンが頷いた。
まぁ、両想いなのが分かっただけでも良しとしよう。
片づけ終わって天幕に戻ると暫くしてミオンが帰ってくる。俺は膝を指し示してミオンを呼んだ。
「リン先生の好きな人、完全に分かったよ」膝の上に座りながらミオンが言う。まぁ、分からない方がおかしいだろう。俺もミーシャがリンを好きだと分かったしな。ラムザは憐れだが………まぁしょうがない。
「後はどちらでもいいから告白すればいいんだけどね………」とミオン。「自分じゃ見合わないの一点張りだったからな」とリンの考えを告げると困り顔。こめかみに口付を落として気を惹く。
「何とかならないかな」と言うので「余計なちょっかいを出して、こじれても困る。そっとしておけ」
と言った。両想いならそのうち何とかなるだろう。
俺の言葉にむくれたミオンが可愛くて唇を啄ばむ。
次の日、遂に泉にやってきた。地鳥が進みたがらないので泉の門の所に置いて行く。
祠の前を見ると光が4つ。
泉から風が吹くと薄くかかった霧が晴れて、そこに4人の人影が見える。
1人は女神。後の残りは―――なんとミオンと同じような姿をした、おそらくは男神。これには皆が驚いた。女神を見ていたからかてっきり神々は我等の世界のものと同じ姿をしているのだと思い込んでいたからだ。
女神の紹介で神々の名が長兄のカラント神、次兄のトゥレン神、弟のフォトン神である事が分かった。
説明を聞くと、どうも神々はミオンと同じような姿をしている者が多く、その好みによって姿を変える事ができるのだと言う。さらに血を分けた国の者に愛情を注ぐ傾向があるのだと言う事だ。
正直俺はカラント神が苦手だ。何やら神と言うにはいい加減すぎる。トゥレン神に窘められる大虎族を司る神の王にいささか不安を覚えた。
『えぇい。深音達が呆れているではないか!!!もう少しシャキッとせい!!!………安心しろ深音。結果がどうであれ、妾がそなたに一番良いようにしてあげる』という女神の頼もしい言葉にどれだけ安心した事だろう。
だが『まして、我が愛しい子の子孫と結ばれようと言うのじゃ。妾は深音が一番可愛い』らしい女神がミオンを窒息させそうな位に抱きしめるので救出。やはり少し不安だ。
案の定、ミオンをこちらに残すのは容易くはないようで………。
『もしかしたら探してくれるかもしれないでしょ?駄目だったらそのまま王と結婚して貰えばいいし。ほら一石二鳥っていうの?』更には軽く言うカラント神に怒りを覚える。
俺とてミオンを召喚したのだ。同罪だ。しかしこんな軽く言って良い事ではないと思う。ミオンも怒りを覚えたのか顔が強張っていた。
そんな時、女神の手が振るわれた。
『深音にわざと殴られようとするのはお辞めなさい。兄上』その言葉に今の言いかたがワザとだった事を知る。
『バレタ?………ゴメンネ深音ちゃん。これでも、一応罪悪感と言うものを勉強したのよ。僕達。今までは特に何とも思ってなかったんだけどねぇ………正直、君とティレンカの子孫が惹かれあうなんて予想もしてなかったし。違う種族にしたのもさぁ、いい加減にティレンカ見つけて欲しかっただけでさ。見つけてくれたらサッサと返しちゃう気でいたんだよ』
言いかたは軽いが真剣な目でカラント神が言う。
『呪いが解ければディークラウドはこの世界の娘を妻にするって勝手に思ってた。これでもティレンカの子孫は僕等にとって孫みたいな訳よ。だから傷つけたい訳じゃなかったんだけどね』
自嘲気味に言う様子は後悔しているようだ。
『だが、兄上の言うとおり、君等は我等の所為で要らぬ苦悩を負うはめになった………』とトゥレン神が言えば『悪かったと思ってるよ………』とフォトン神が言う。
どうやらこの件で反省した神々が大勢いるらしい。
『深音ちゃんにぶたれたら、罪悪感も少しは減ると思ったんだけどなぁ………』などとカラント神が言うので思わず「………ミオンをそんな事に利用しないで頂きたい」と唸る。女神が先手を打ってくれて本当に良かった。ミオンに殴らせる位なら俺が殴る。
ミオンがここに残る事については責任を持って対処してくれるようなので安心したらフォトン神が聞き捨てならない事を言った。『例えば将来結婚するはずだった男に別の人生を与えたりとか。産まれるはずだった子供を他に持ってったりとか』―――何だと?
「将来結婚するはずだった男………産まれるはずだった子供………」自分でも驚く程低い声が漏れた。
コレが嫉妬か………?見た事もないその男に殺意が湧く。そんな物思いを打ち砕いたのはカラント神の一言だ。
『子供って言えば………君等子供いる???』
簡単に言われた言葉に思考が凍りついた。―――なんだと?!!!
後ろでレンブラント達が息を飲むのが分かる。俺自身、ごくりと唾を飲む音が辺りに聞こえそうな気がした。俺と―――ミオンの子供。授かるのであればそんなに嬉しい事はない。
しかし、それは一筋縄ではいかないようで………。どうやらミオンに何がしかの覚悟がいるらしい。
「俺はミオンに危険な事をさせたくない。そう言う類のものであれば俺は子供はいらん」思わず口をついて出たのはその言葉だ。俺にはミオン以上に大切な人などいない。ましてやミオンだけが覚悟を決めねばならないと言う事が正直気に入らなかった。
『危険は特にないよ?覚悟は必要だけど………』と言うのはカラント神。ええい!!話しにならん!!!具体的にどうなんだ???と思ったらトゥレン神が説明してくれた。
曰く、ミオンが今の姿を捨てルーヴェンシア人となれば子孫を残す事が可能になるそうだ。
『あまり可愛く無くなっても文句言わないで欲しいってくらいかなぁ』フォトン神がそんな事を言う。………この神は学習能力に欠けるらしい。「どんな姿でもミオンはミオンだ」と言うと気まずそうな顔をする。
「つまり、慣れ親しんだ身体を捨てて虎さんになれば良いって事だね………」とミオンが呟く。
俺は………俺は………!!「俺は………ミオンに同族になってくれとは言えない………。俺はどんな姿でもミオンを愛する自信がある。けれど、姿を変えろとは………」言えない。愛しているから。
見知らぬ世界に1人やって来たミオン。自分とは違う種族しかいないこの世界に残ると言って、俺を好きだと言ってくれた。それだけでも有難いのに………。
「差し出がましいようですが、他に方法はないのですね」そう言ったのはレンブラント。神々の答えはそれ以外には方法はないらしい。どうやら神々の間にもなにやら法のようなものがあるようだ。
だが、確かに自分の子が他のものと違って差別されるのは嫌だった。
『例外中の例外ですが………ルーヴェンシア以外を司る奴等には最初かなり文句を言われましたけどね………女神達は種族違いの恋にかなり心惹かれた様子で好意的だったし、最終的には他の神も面白そうだからという理由で納得させました』そう言ったのはトゥレン神だが………人の人生を面白そう!のひと言で片づけて欲しくはないんだが………。
俺達は見世物ではないんだがな。
『いきなり結論出せっていうのは無理なんじゃないの?』フォトン神がまともな事を言う。その意見には賛成だ。何故なら今の俺自身が結論を出せるような状態ではない。
「俺は、産まれた姿を違えるのはミオンを否定するようで少し辛い………。ミオンがもしも周りや俺の事を考えて姿を変えようと思うのならそれはやめて欲しい」それが今の俺の正直な気持ちだ。しかしミオンの答えは違った。
「確かに、そう言う気持ち、あると思うよ」と前置いて「でもそれ以上に私がそうしたいの。私は私の好きな人の子供を産めるのなら産みたいよ。好きな人の子供を産んでその子に私はお父さんとあなたと一緒に居れて幸せよって教えてあげたいもの」と何とも嬉しい事を言ってくれる。
「―――私本当は大家族をつくるのが夢だったから………。でもディーさんとだったら子供がいなくても幸せになれるって思ったの。支えてくれる人達が沢山いて、私の事を思ってくれるディーさんが傍にいてくれて………今だってこんなに幸せなんだもの。でもこの話を聞いてちょっと欲が出ちゃった………もっと幸せになりたいって言ったら怒る??ねぇディーさん。私がディーさんの赤ちゃんを産めたらもっと幸せで楽しい人生になるのにって言ったら我儘かな???」初めて聞いたミオンの本心。家族をつくりたいと言う想いは俺も一緒だ。俺も覚悟を決めてミオンに話す事にする。
「それを我儘だとは思わない………。俺は………不安なんだ………。ミオンが俺の子を産みたいと言ってくれるのは正直言って嬉しい。俺とミオンの子ならどんな子でも愛せると誓う………だが、それなりに身体に負担がかかるから眠ると言う………もし目覚めなかったら???そう思うと不安になる………夢を見て倒れた時の事を覚えているか??あの時俺は死にそうな気分だった。それならいっそ子供は要らない」その言葉にミオンが落胆するのが分かる。でも俺は言葉を続けた。
「だが、ミオンはそれでも俺の子を産みたいと言ってくれるのだな………なら、俺はその気持ちを尊重しよう。ミオンを幸せにするのが俺の望む事だ。そのミオンがより幸せになれると言うのなら俺はその不安と闘おう。俺は生涯ミオンを愛し守ると己に誓ったのだ」その言葉にミオンの顔が嬉しそうに綻ぶ。勢いよく抱きつかれて、愛おしさを込めて抱きしめ返す。
「ディーさんありがと………」と囁かれれば「それは俺の言う言葉だミオン。俺の子を望んでくれてありがとう」と心からの感謝を告げる。こんなに幸せでいいのだろうか?俺はミオンに与えて貰ってばかりだ………。だが俺もミオンに与えられる男になると今ここに誓おう。
あまりに長くなりそうなので今回の小話は前後編です。




