第75話 ちょっと気付いた事
ちょっと気付いた事。お尻の………尾てい骨の辺りがムズムズすると思ったら尻尾らしきものが生えてきてるみたい。流石にお尻を突き出して鏡を見る趣味はないから「みたい」なんだけど。
元の世界なら自宅の部屋で鏡で確認してたかも。でもここだとねぇ………いつ誰に見られるか分かんないし。触ったら尾てい骨が伸びてる感じだった。そしてくすぐったかった。面白いなぁと思って毎朝触診しようかと思ったけどあんまり触るのはやめよう。笑い死ぬ。
後は全身にまだ透明な産毛がうっすら、みっしり生えて来た。
ふふ。当たり前の変化なんだけど………乙女としては剃りたくなる。一気にボッと生えてくれれば諦めがつくんですが………。産毛だとさぁ………ムダ毛伸ばしてるみたいじゃんか………。
そんな変化をディーさんに話したら興味津々で触りたがった。
お尻は死守。だって自分で触っただけで笑い死ねそうだったのに人に触られたらマジ死ぬ。
ていうか伸びた尻尾が全部こんな状態だったらどうしようってディーさんに言ったら「問題ない。くすぐったいのは尾てい骨の辺りだけだ。伸びた尻尾は痛覚、触覚はあるが別にくすぐったくはならない」
だそうです。なんだ。ディーさんも尻尾の付け根はくすぐったいのね。まぁそれが気持ちいいって人もいるらしいんだけど………。ディーさんはどっちなんだろう?
まだヨクヨク見ないと分からない毛は触らせてあげた。腕だけど。毛を確認するために触る訳だからこれもくすぐったかったけど………。
もうすぐ豊穣祭のある月になる。眠くなってなきゃ良いけど。ディーさんと抜け出して城下町行くの楽しみにしてるんだよね。
「ふむ。本当に産毛だな。まだ柔らかい」
「もういい?やっぱりくすぐったいよぅ」
ぞわぞわする感じを堪えて言うとあっさり左手を解放してくれた。
「ミオンはくすぐられるのが弱そうだな」
「くすぐらないでね!嫌いになるよ!!」
ガウガウ牽制すると笑われた。実は私、人よりはくすぐったがりだと思う。前に馬鹿どもにホールドされて全身くすぐられた時は笑い過ぎて呼吸困難になって死にかけた。あわや救急車を呼ばれるかってとこまでいったらしい。くすぐられた位で死にかけたのは世界中で私くらいだって言われたけど。試しにそいつらをくすぐらせて貰ったけど私ほどくすぐったくないようだった。
まぁでも馬鹿ども………悪友3人組には後でオシオキしといたけど。
「嫌われるのは困るからしないが………。普通に触るの位は慣れてくれ。それで嫌われるのはかなわん」
「頑張るけど………。無理って言ったら駄目だからね?」
「分かった」
今はお昼。ご飯を食べ終わってお茶の時間。ミーシャさんは何かお客さんが来たとかで席をはずしている。
「努力はしよう」
「努力じゃなくて駄目なの!!!」
もうっ!!本当にくすぐったいんだってばっ!!!そんな哀しげな眼をしても駄目なものは駄目です。
そんな会話をしていたらミーシャさんが帰って来た。
「おかえり、ミーシャさん………お客さんなんだったの?」
「陛下、ミオン様。ただいま戻りました………それがその………伯父がお見合いの話を持ってきまして………」
困惑し気味に答えるミーシャさん。
「必要ないって断ったのですけど………」
しつこいらしい。なんでも、先日の舞踏会に来ていた地方領主の嫡子がミーシャさんを見染めたそう。
地方領主って言ってもかなり古いお家らしくて家格もつりあうとの事。でお節介な伯父さんが乗り気になったと。たまたまその家と隣の領地で旧知の間柄だったから仲介を頼まれたらしい。
「なら俺から断ってやろう。ミーシャには密かに想う相手がいると言えばいいだろう?」
ディーさんがそう言うとミーシャさんは困ったように首をかしげる。
「それはちょっと………多分誰だ!って話になって伯父が思い込みで突っ走りそうなので………ウェリン様にご迷惑がかかりそうでとても嫌です」
伯父が嫌いな訳じゃないんですけど、とミーシャさん。嫌いな人と好きでも傍迷惑な人はまた別だと思う。取りあえずその伯父さんは思い込みが激しくて猪突猛進なタイプらしい。
「ガレアン伯か………なら、俺がミーシャの貰い手を吟味してる最中だからと言って遠慮させよう」
ディーさんは性格を聞いて相手が誰か分かった様子。その伯父さんの性格、広く認識されているようです。
「陛下………ありがとうございます!!!」
ミーシャさん嬉しそう。
ところが一筋縄ではいかなかったのがガレアン伯。まだ会う事も決まってなかったのに「可愛い姪にこんな話が~」と、お城中に触れまわらん勢いでしゃべったらしい。
ミーシャさん、何人もの人から「おめでとう。ご結婚決まったんですって?」と言われ困惑。誤解を解くのが大変だったうえ、もちろんリン先生の耳にも入り………という困った流れになるんだけれどそれはまた別の話。
「本当に………もう私が嫁ぐ事が決まったかの勢いで………困ったんです」
疲れたように言うミーシャさん。
「ガレアン伯は思い込んだら一直線だからな………早めに釘を刺しておく」
当人を思い出してか苦笑しながらディーさんが言う。
「ミーシャさん大変だったね………」
「もう少し冷静に話を聞いて理解して貰えると疲れなくて済むのですけど………」
興奮してると会話もままならないらしい。困った伯父さんだ。
「まぁ、ディーさんが断ってくれるし大丈夫だよ。良かったね!」
「はい!伯父は陛下からのお言葉を無視できる性質じゃありませんし。お父様から断って貰うよりも効果がありますわ」
気分が持ち直したのか嬉しそうな顔をしながらミーシャさんが新しい紅茶を淹れてくれた。
「そう言えば2人にレンブラントから伝言があったんだ。正確にはメルフィ殿からだが。今度お茶会を開きたいんだがミオンとミーシャも来ないかという話だ。その日はミーシャも休めばいい。2人で行って来い」
レンブラントさんの許嫁のメルフィさん。お茶に誘ってくれるなんて嬉しいなぁ。
「お茶会ですか?いいですわね。メルフィ様の所は庭園のお花がとても綺麗なんですよ、ミオン様」
「へぇ………いいね!メルフィさんとも仲良くなれるいい機会だし」
そのお話は有難くお受けする事にした。ミーシャさんとお茶を飲める数少ない機会だしね。
そんな話をしていたら、ディーさんが少し曇った顔で私達を見つめているのに気づく。
「?ディーさんどうしたの??」
「あぁ………」
歯切れが悪く言いにくそうにするディーさん。
「なんというか………。怒るかもしれんが聞いてくれ」
聞いて欲しいって割には口が重いな。何やったのディーさん?
「………イリアナだが………昨日、修道院に旅立った」
告げられた言葉に一瞬思考が止まる。それは予想もしてなかった事で。
「えぇ?!」
ミーシャさんも驚いている。初耳みたいだ。見送る気でいたから、なんで教えてくれなかったのかってディーさんに言ったらイリアナさんの希望だそう。誰にも言わず、誰にも見送られず行くのが相応しいって。家族の見送りも拒否したらしい。今の自分にはそんな資格はないからと。それは寂しい旅立ちだったんじゃなかろうか………。
ミーシャさんも複雑そうな顔。私の心も複雑だ。
「昨日、出立する数時間前に伝言を預かった。2人に「健やかなる事をお祈り申し上げます」だそうだ」
溜息を吐いて椅子に沈み込む。家族の見送りも拒否したんなら………エヴァンジェリンちゃんは今どんな気持ちでいるだろう?そして旅の空の下にいるイリアナさんは………?虚しさ………寂しさが心に忍び込む。私はイリアナさんの道中の無事を祈りながらそっと目を閉じた。
深音は目に見える身体の変化がはじまり、イリアナさんは一人旅立ちました。
ミーシャさんとリン先生の所にもひと波乱の予感………ですが次、ディーさんの小話の後、短編番外話に強制突入しマス。