第73話 あっという間に3日目
あっという間に3日目。本当に、本当に3日でヨカッタ。眠いし。疲れたし。お腹が減ってます。だってギリギリお腹のあたりを締められるからご飯が、ご飯がお腹いっぱい食べられないんだ!!!
なので小腹が減る度にチマチマご飯を摘まんでおります。
今は夜。舞踏会の真っ最中。先程までオペラが演じられてた王の間は他国の王族、貴族の人達や私達の国の貴族の人達が優雅にドレスをひらめかせて踊っている。
まるで魔法にかかったみたいな不思議な世界。光石の淡い輝きの中フワフワ漂う様はどこか海の中を泳ぐ魚を見ている気分だ。
ディーさんは今、獅子族のアーデベルト様、蛇鱗族のエルンスト様とお話中。
私は、壁際で兎族のメルティナ様、小鼠族のレシア様、羊礼族のセレシア様、万亀族のメディアナ様方女性陣とお話中だ。内容はもっぱらドレスや宝飾品の事。
「ミオン様のドレスはマイアスのルル・ヨランダの作品なのですってね。とても素敵ですわ!」
そうおっしゃったのはグレイオスのメディアナ様。背はメルティナ様より少し大きい位。黄色の甲羅の持ち主で、ドレスも甲羅を強調したものに。甲羅をよけて前は優雅に隠されている不思議なドレスの亀さんだ。どういうつくりになっているのか失礼ながら気になった。
ルル・ヨランダって言うのはヨランダさんのお仕事用の名前みたい。今日の私のドレスは濃いめの緑。膝まではふんわりなんだけど、そこから下はべロア生地の太めの黒いリボンできゅっと絞られたタイプ。裾の方は薄めの緑色。三層構造のフリルになっていて動くたびにフワフワして可愛い。ドレスの上は肩なしの胸のあたりに一列に花が並んだもの。それに乳白色のレースのボレロが加われば軽過ぎない、重すぎない今日のドレスの完成だ。
「メディアナ様のドレスも素敵ですわ。シューレルですわね」
そう言ったのはフリルが可愛い薄いピンクのドレス、リルレンシャのレシア様。
実はこの手の話題にはあまりついていけない。ブランド名さっぱりだもの。
「私、気になっていたのですけど………ミオン様の首飾りは誰の作品ですの?失礼ながら分からなくて………」
背は私と同じ位、スレンダーな羊さん。抜けるような白のモコモコふんわりな毛がチャームポイントのダークブルーのドレス、ファーレントのセレシア様がそう言うと私もですわ、私もと声があがる。
「まだ無名の作家さんなんです。ジョージ・ロペスとおっしゃる方で………今度、ルル・ヨランダや他の方たちと一緒にお店を開くそうなので良かったら覚えていて下さいませね」
実はヨランダさんに頼まれてたんだよね。服飾系の話題になったらさりげなくコラボショップの宣伝しといて☆って。ふぅ………さりげなくって難しい。言う機会無いかと思ったよ?
「まぁ!ルル・ヨランダと?素敵!!どんなお店ですの?」
薄紫のドレス、ラーレンジオのメルティナ様が目を輝かせてこちらを見る。
「ルル・ヨランダのドレスはもちろん、宝石や、靴、バッグや小物等、トータルコーディネートのできるお店ですわ」
「とーたるこーでぃねーと?」
レシア様が不思議そうに首をかしげる。
「頭のてっぺんからつま先までの装いを調和するように揃える事です。普通はそれぞれ職人さんのお店に行かなくてはならないのですけど、そのお店に行けば全身揃う………全部一緒に揃えられれば素敵じゃありませんか?」
王女様方の目がキラキラと輝いております。どうやらお店の方向性はありらしい。
「来年の夏には1号店をルーヴェンシアに開いて反応を見ながら店舗を拡大出来ればと言ってました」
「あぁ、素敵!我が国にも是非来て頂きたいわ」
セレシア様がうっとりと呟けば皆が同意しながら頷いた。
うん。好評だったとヨランダさんとジョージさんに報告ができそうだ。良かった良かった。
話題もひと段落した所で、メルティナ様、セレシア様がダンスに誘われて行き、メディアナ様、レシア様はお腹が空いてきたので隣の部屋へ。私も誘われたのだけど、今食べるともれなくリバースコースだったので辞退した。周りを見回せばディーさんも丁度、話がひと段落した所みたいだったので合流する。獅子族のアーデベルト様、蛇鱗族のエルンスト様にご挨拶。
ふとホールに目をやればミーシャさんとリン先生が踊っている姿が。
その姿にホッとする。
最初はどうなるかと思ったよのよね。だって最初に部屋に入って来た時2人してガチガチに緊張してるんだもの。手と足が一緒に出そうな雰囲気だった。
ちょっと触れては赤くなり。ちょっと話しては赤くなり………。見てるこっちが次何が起こるか、どうなるかでドキドキして目が離せないとう感じ。
少しは慣れたのかな?気付いたら、先程より全然自然な雰囲気で2人で楽しそうに踊っている。
「少しは慣れたみたいだね?」
ディーさんと2人こっそり微笑みあう。
暫くして獅子族のアーデベルト様、蛇鱗族のエルンスト様が立ち去った後、大狼族のシーヴェルグ様、熊闘族のディオル様、鷹高族(ファ-レンジア)のデレク様がそれぞれやって来た。
こちらは先程の女性陣と比べてかなり大きい。
ウルファーレンのシーヴェルグ様はディーさんと同じ背位の灰色がかった銀の毛の狼さん。ディーさんとはかなり仲が良いらしい。ガロンディアのディオル様はこの中で一番大きな身体。チョコレート色の毛並みの熊さん。ファーレンジアのデレク様はディーさん達より少し小さい。頭部は白い色で羽根と身体は蒼い色の鷹さんだ。話題はもっぱら狩りの事。
こちらでの狩りは小型の地竜を狩る事を言うらしい。小型と言っても2、3mあるそうですが。
「この間の狩りは中々良かった。3メテ級の地竜が3匹。帰りの竜車がギシギシ言って大変でしたよ」
そう言ったのはガロンディアのディオル様。嬉しそうだ。あ、メテって言うのはメートルの事ね。
「それは凄い!我が国の地竜は今年は駄目でしたね。せいぜい1メテ級ばかりで………」
残念そうに言ったのはファーレンジアのデレク様。
「私の所はデカイのが1匹居座りましてね。帰ったら狩りではなく討伐隊を組織しなけりゃなりません。竜死士達も交えての大捕物ですよ」
そう言って溜息を吐いたのはウルファーレンのシーヴェルグ様。外壁ギリギリの5mクラスの地竜が居座ったそう。竜死士って言うのは話を聞いていると竜を狩って生計を立てている人達みたい。
竜って全身お金になるんだって。
革はもちろん装飾品や靴等に。骨は象牙みたいに綺麗だから装飾品はもちろん家具とかに。腱は乾燥させてから特殊薬剤に浸けて弓や楽器の弦になったりテントなどの縫製の糸になったり。肉類は雑食の飛竜や他の飼われている竜達のドックフードならぬドラゴンフードに加工されるらしい。
地竜ってルーザとディーさんと私ごと食べようとしてきたアレでしょ?良く狩る気になれるなぁ………。
「それは、大変だったな………外壁は無事だったのか?」
ディーさんが心配そうに聞く。
「2、3ヶ所穴を開けられたが侵入されるほどヤワにつくってないさ。ただ、修繕費がな………」
「頭の痛い話ですな………」
シーヴェルグ様の言葉にディオル様が頷きながら言う。大きな壁だからね………。修繕費用はかなりかかるようだ。
そんな中、梟賢族のリーヴ様、強牛族のクスト様も加わって狩りの話は熱狂していく。
「竜牙砲を使った方はいらっしゃいますかね?どうですか??あの武器は??」
そい聞いているのはエルレーンのリーヴ様。この中では私と同じ位の背で片眼にモノクルを嵌めた灰色の梟さん。
「あれは駄目です。仕留めるだけならば有用ですがね。一度に出る玉数が多すぎて革や腱が使い物にならなくなります。ひき肉になってしまうのでね」
残念そうに言うのはゴライゾンのクスト様。筋肉隆々、はっきり言うと神話のミノタウロス見たいな黒い牛さん。
しかし、口を挟む機会が全くないな。興味深いと言えば興味深いけど………。男の人って狩りが好きなんだなぁ。
暇になって横を見たら私の後ろの方でエルザさんとジュド―さんが歓談してた。エルザさん一応私の後ろに控えてくれてるんだよね。エルザさんもお休みだから好きにして良いって言ったんだけど。
ふんふん。
ジュド―さんは神官だけど結婚できるんだよね。死を司る神官さん以外は婚姻出来るんだって。
あ、でも修道院の修道士さんと修道女さんは結婚できないらしい。そもそもの成り立ちが違うらしいんだけど………。こっちだと神殿の神官さんは神々に仕える事を目的としてる訳だ。神々の御言葉を聞く事に婚姻はそもそも関係ないらしい。
対して修道院の人達は『道を修める』事を主体としているのだそう。その過程に神々への祈りがある訳で恋愛や結婚は『道を修める』上で障害にしかならないと言う考えなんだって。
しかし、こうして見ると、ジュド―さんとエルザさん………ありかも。騎士としてビシッとしたエルザさんと優しげでちょっと、ほややんとした感じのジュド―さん。
まぁ、当人同士はそんな雰囲気じゃないみたいだけど。
意外だったのはレンブラントさんの許嫁のメルフィさん。勝手に隙のなさそうなキリリとした美人さんを想像していたのだけど。中々どうして!可愛い系でした!!
踊りに行く前に挨拶に来てくれたんだけど、黒い目がパッチリでルーヴェンシアの人の中では小柄なほう。私より少し大きい位かな?
「初めましてミオン様!お会いできて光栄ですわ!!レンブラントがいつもお世話になっています。許嫁のメルフィです」
なんて言うか癒し系。レンブラントさんの好みはこっち系でしたか。
「初めましてメルフィさん。こちらこそレンブラントさんにはお世話になってます」
レンブラントさんがねー。傍から分かる位メルフィさんラブなんだよね。何ですか?普段とは違う甘々な笑顔が全開です!!!って感じでした。幸せそうで何よりです。
ミーシャさんとリン先生もこれ位まで行ってくれないかなぁ………。と回想を終えて広間を見れば頬を染め合う初々しい2人がドギマギしながら壁際でお話中。踊る時は密着してたくせに今再び緊張しまくっている。はぁ。先は長いようだ。
お待たせしました。帰ってきましたぁ………。急な話で申し訳ありませんでした(汗)
誕生パーティはこれにて終了です。ミーシャさんとリン先生は、まだジリジリ進んでんだか進まないんだかな感じです。