第72話 王の間はいつもと違う雰囲気
国の人達へのお披露目の後、私とディーさんは衣裳部屋に戻り衣装替え。
この地方でこの時期に咲く月香花と呼ばれる花の色………ごく淡い色をした黄色のドレスに着替えた。裾はギリギリ引きずらないドレスで歩きやすさがかなり向上。スズランの花みたいなドレスの裾がとってもかわいい。もちろん裾や胸元に金色の刺繍が入っている。
肩を出すタイプのドレスなんだけどショート丈のファーボレロが暖かくて全然気にならない。更にはフィンガーレスのオ―ガンジーのロング手袋が意外と可愛い。二の腕辺りまでと長いんだけど刺繍で花が縁取りされている。
ディーさんの衣裳も今回も私と同じ色だった。マントの色は萌黄色だったけど。公式の場の場合、基本の配色は同じ色にする物なんだって。私がピンクを希望したらどうなるんだろ?やっぱりディーさんもピンクに………?
着替えの合間に軽食をとる。お客様もそれぞれ御部屋のバルコニーでお食事中のハズ。
更なる戦闘態勢を整えて再び王の間へ。
ディーさんの誕生パーティが始まった。王の間はいつもと違う雰囲気。
いつもは玉座の前に長ぁーいテーブルと会議用の椅子が置かれてるのね?それが全部取っ払われ長くて赤い絨毯が敷かれている。玉座の両隣りには大きな部屋があって私の部屋の扉より遥かに大きな扉でいつも閉ざされているんだけど、それも全開に開いていてお客様が歓談したり休んだりできるソファがあったりする。
私はディーさんの玉座の横にしつらえられた王妃の椅子に腰かけてにこやかに微笑んでる状態。
今は子兎族の第一王女メルティナ様がお付きの人達を従えて、ディーさんに挨拶と御祝いの口上を述べつつお誕生日祝いの品々の目録を読みあげてる最中。
各種族によって身体の大きさが違うから彼女の年齢がどれ位なのかは良く分からないんだけど、私の腰ぐらいの大きさしかなくてムチャクチャ可愛い!!!兎さんラブ。
「………以上ですわ。どうぞお納め下さいませ」
お辞儀をするメルティナ王女がクドイようだけど可愛い。
「丁寧に痛みいる。ラーレンジオ王が最近体調を崩したと聞いた。その後お加減はどうか?」
「お陰さまで快癒致しました。ただ元気過ぎて困ってますの………まだご無理はして欲しくないのですけど………」
心配する顔は王女ではなくて娘のものだ。
「王らしい。あの方は見かけに寄らず頑固だからな」
苦笑してディーさんが言えばメルティナ王女も溜息を吐きながら一言。
「お年なんですから、若いころのようにはできないと自覚して欲しいのですけどね」
では、と言ってメルティナ王女が一礼して下がる。
気付いたんだけどお客様は第一王子と第一王女が多いんだよね。後は宰相さん。
獅子族が第一王子アーデベルト様、大狼族が第一王子シーヴェルグ様、子兎族が第一王女メルティナ様、小鼠族が第一王女レシア様、鷹高族(ファ-レンジア)が宰相デレク様、梟賢族が宰相リーヴ様、強牛族が第一王子クスト様、羊礼族が第一王女セレシア様、熊闘族、が第一王子ディオル様、蛇鱗族が宰相エルンスト様、万亀族が第一王女メディアナ様………と王子4人、王女4人、宰相3人って感じ。
後でリン先生に聞いたら他国の国王などの誕生日は王位継承権一位の王子、王女が赴くのが普通だそう。継承権一位の子がまだ小さかったり、お世継ぎがまだいない所からは宰相さんが来るんだって。
成る程。
各国のお客様からのご挨拶が終わったのでディーさんと一緒に改めてお客様の所にご挨拶しに行く。
話題の多くは各地の特産品の出来はどうだとか石で良いものが見つかったとか様々だ。
後は国状。基本争い事は無い世界だけど、領主や国王が非道であれば反乱が起きる事もある。
協定の名のもとに支援したり、諌めたり仲立ちしたりする事もあるそうでこう言った場で意見交換したり情報を確認するんだって。
蛇鱗族の宰相エルンスト様が憂いを込めた顔で溜息を吐く。蛇さんて言うよりかはトカゲっぽい気がする。私と同じ位の身長でひょろりと長い背。爬虫類嫌いじゃなくて良かった。
「最近街道に盗賊が出るようになりましてね。コレが中々頭の切れる奴らでして………最初は商隊のふりをするのです。時には盗賊に襲われて命からがら逃げて来た商隊………時には強そうな傭兵を雇った商隊と言うように時々で姿を変えます。そして助けられたり信用を得たりした後で牙を剥くのです」
そのせいでリュレジオの街道を使う商隊の間では不信と不安が蔓延しているらしい。
「中々手強そうな奴等ですね。我が国の商隊も貴国の街道は良く使う………何か方法があればいいが………」
「そうなのです。おかげで困っているのですよ………」
あまりに困っているようだったので思いついた事を言ってみた。少しでもヒントになるかもしれないし。
「さしでがましいようですが、商隊なら通行証がありますよね?それに細工はできないでしょうか??私のいた世界には偽造防止のために例えば特殊な光を当てると浮き上がるインクがあったり、本人と確認できるように写真………絵姿のようなものを一緒に張り付けたりしてました。通行証の偽造が難しいようにして更に、本当に持ち主かどうか分かるようにしておけば一番最初に出会った時に本物の商隊かどうか確認できるのでは?」
透かし彫りとかできれば良いんだろうけど………私は原理を知らないしな。
「成る程、絵姿か………梟賢族の国は特殊な顔料を扱っているからそう言うインクがあるか聞いてみます」
エルンスト様は嬉しそうにそう言うと梟賢族の宰相リーヴ様の所へ去って行った。
後日、新しいものを追加したそう。以前の通行証は見せるだけの木でつくられた物だったらしいんだけど、更に出入国、街道の関所を通った日時をハンコするパスポートタイプの物を導入。もちろん本人の絵姿入りで光石を翳すと絵姿の上に浮きあがる特殊なインクの文字入り。このインク、エルレーンの中でも秘文書を扱う人が使うインクをつくるための原料なんだって。なので基本市場に出回っておりません。すぐには偽造もできないだろうとの事。
公式にお礼の言葉を頂きました。被害が減るといいね。ちなみに通行証は国によって様々らしい。統一しちゃえばいいのに………。
「ミオンの世界には本当に色々なものがあるな」
「あり過ぎたって感じもあるけどね………まぁ、色々な技術はあったよ。私にはさっぱりな物ばかりだったけど」
「ふむ。使う側は原理を知らぬ者の方が多い。使えさえすれば良いのだから。技術者は別だがな………だが本来は知らんで使うよりは知っていて使った方が危険も少ないのだろうがな」
「確かに。知ってた方が対処できそうだよね」
「まぁ、現実問題として難しいが」
お互いに苦笑しあっていると、小鼠族の第一王女レシア様がご挨拶に来てくれた。
他国の人達の中で一番小さい。私の膝くらいの高さの背だ。可愛いよぅ!
「ご機嫌麗しく。陛下、妃殿下。この度はご婚約おめでとうございます。式は来年とか………母が楽しみにしていると申しておりました」
婚約中でも妃殿下なのはこの国が召喚したら有無を言わせず結婚って言う体制を取っていたから。
だから此処でも何処でも私は結婚前だけど妃殿下扱いになるのです。
「実は私、今回のお話を聞いて是非ミオン様にお会いしてみたかったのです。いちファンとして。我が国でも神々に認められ王の呪いを解いた姫君としてかなり人気が高くてらっしゃるのよ?各国の戯曲家達が先を争って物語を書いている最中だとか」
えええ?!な、なんか凄い事、聞いてしまった!!!呪いを解いた姫君って誰ですか?!しかも戯曲ってナニ???
「そう言えば、色々な国から今回の事を戯曲にしたいと申し込みが多数あったな………」
なんて恥ずかしい事になってるの私!!!って言うか教えてよディーさん!!!そしたら断固拒否したのに!!!
恥ずかしくて真っ赤になっているとレシア様がクスクスと可愛い笑い声をあげる。
「ミオン様は可愛らしい方ですのね。戯曲になるのはそこにドラマやロマンスがあるからですわ。それは民衆に夢を与えるものです。お恥ずかしい気持ちは分かりますけど、そこは諦めて下さいませね」
私も観るのを楽しみにしているので、とニッコリ笑って言われてしまった。
最後に握手を頼まれて、その小さな手をそっと握る。そしてレシア様は嬉しそうに去って行った。
気付けば外は夕暮れ時。立食の美味しそうなご飯が王の間の両隣りの部屋に用意されている最中だ。
夜になってからがディーさんの誕生日のお祝いの本番。
今日は道化師のパフォーマンスや踊り子の舞い、劇が見られるらしい。それらが終わると恒例の舞踏会が深夜まで行われる。明日は昼まで寝てて大丈夫ですよ、とはミーシャさんの言葉だ。うん。多分朝は起きれない。
誕生パーティーは体力勝負。
色々な国の人との交流は勉強になるかもです。