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第71話 衣裳部屋は戦場でした

衣裳部屋は戦場でした。て言うか、あんなに早く起きたのに全部装備し終わるまで、お昼近くまでかかるってどういう事?!結婚式の時のドレスってどうなるんだろう………。夜明け前から着付けしてって感じになるんだろうか………しかもこれより重いんだよなぁ………。私、ちゃんと歩けるかしら?

まぁ、先の事を心配しててもしょうがない。取りあえずの目標は今日を乗り切る事!!!

女官さんや衣裳係さんが満足げに頷く中、もうかなりの体力を消耗した私は精一杯の笑顔でお礼を言った。髪に挿されたティアラが落ちそうな気がするから下はむかないけど。

コケないようにしながら、部屋に戻ればディーさんはもうすでに戻っていて私と同じオフホワイトの生地に金色の刺繍がされた服で寛いでいた。いつもの執務用の服と似てはいるけど生地が違う。なんというかもっと重々しい感じ?更にいつもと違った事は、下に引きずる赤いマントを斜めがけにかけてる事と、頭に王冠が乗っかってる事。それに見たことない笏杖を持っていた。コレが正装らしい。

プレゼントしたタイピンはマントと服に止められていて中々良い感じで目立っている。

いつも腰にさしてる剣は私がプレゼントした飾りを柄につけて小姓の少年が恭しく持っていた。

こうして見るとディーさんやっぱり王様なんだね。


「似合うぞミオン」


嬉しそうにそう言われればやっぱり照れくさいけど嬉しい。そこに見知らぬ人の姿を認めて、軽く首をかしげてディーさんに問う。その人は銀色の虎さん。青年と大人の中間みたいな顔立ち。まだ若いと思った。私と目が合うとそっと目を閉じ目礼してくれる。


「………シーヴェスだ。イリアナとエヴァンジェリンの兄の」


そう言ってディーさんが紹介してくれる。


「このような御祝いの席の前に不躾にお訪ねして申し訳ありません。シーヴェスと申します。昨夜遅く帰って来たもので………お見舞い、お詫びが遅くなってしまった事申し訳ありません」


「正式な通達はもう少し先になるが、今からシーヴェスがヴァルレア公となる」


「まだ若輩者ですがね………妃殿下に置かれましてはこの度の事、本当に申し訳ありませんでした………ヴェルレア公として正式に謝罪いたします。父の監督不行き届きも問題でしたが、本来イリアナのしたことは許されない事です。ましてや、貴女様はエヴァンジェリンの恩人でもある………これから先、我がヴァルレアは陛下と妃殿下に今まで以上に御仕えし、お二人の御世が健やかであるように全力でご助力致します」


深々と頭を下げられて思わず慌ててしまった。


「頭をあげて下さいシーヴェスさん………謝罪なら既に頂いています。今回の事は不幸でしたがそれだけではない贈り物も貰いました」


うん。この件が無かったら私はこの世界に残らず、帰る事を選択してたものね………。


「有難うございます妃殿下。ですがヴァルレア家は貴女様に返せないほどの恩があるのです。何かあった時にはどうぞヴァルレアをお頼り下さい」


そう言うとシーヴェスさんは一礼し出て言った。入れ替わるようにしてレンブラントさんが入って来てディーさんに耳打ちする。どうしたんだろう?


「後では余計時間も取りにくかろう………構わない、入って貰え」


そう言われてレンブラントさんがドアを開けるとそこにいたのは大きなライオンさんで?!他国の人って初めて見たよ………。興味津々で見ていると、その人は目の前にやって来てディーさんと私に優雅に一礼した。今日は来客の多い日だ。


「お久しぶりです陛下………そして初めまして妃殿下。獅子族ディレンドラが国王、第一子アーデベルトと申します。まずは陛下、この善き日に御招き下さいまして有難うございました。御世がこれからもつつがなく健やかであらせられますように………。そして妃殿下に置かれましては我が国の痴れ者共が無礼かつ非道な行い………父に代わりディレンドラの国として謝罪致します」


そういって深々と頭を下げる。成る程………私が売られそうになった国の王子様でしたか………。

私が対応に困ってディーさんを見ると、ディーさんが片手を出してアーデベルト王子を起こす。


「久しぶりの再会がこんな状況で残念だ………アーデベルト。だが望まぬとも事は起こってしまった。これからの事はまた後日話し合おう」


後で聞いた事によるとアーデベルト王子が今回の件の使者で、誕生日のお祝いが終わってからも補償問題が片付くまで滞在する事になってるらしいのだけど………まず、私に謝罪したいと言って来てくれたらしい。


「あの………私はまだ未熟者で国の関わりにも詳しくはありません。――今回の事で両国の関係には傷が入りました。ですが、上手く直す事が出来たならもっと強固な絆になると思うのです。我が国と貴国がそういう絆を手に入れられる事を私は願います」


傷ついたら終わりじゃない。傷を補修して次は傷つかないようにできるかもしれないし。

ジョージさんが言ってた話を思い出す。「物は壊れるものです。でも、それを直すために職人がいるんです。余程の状態じゃない限り壊れたままじゃないんですよ」って言うのは人と人………この場合国と国だけど………の関係にも表せる気がする。諦めるか、何か方法を探すか。方法を探せればきっと壊れたままじゃないよね?

そう思って言ったんだけど、アーデベルト王子は一瞬驚いた顔をした後、破顔した。笑うと人懐っこい笑みになるんだなぁ………この人。良い人そう。


「ディークラウド王は良い伴侶を得られましたね!怖ろしい目に合ったと言うのに………貴女がそう言って下さった優しさと勇敢さに敬意を表します。そして感謝を。妃殿下の御心を無駄にしないよう努めさせて頂きます」


「俺の自慢だ」


ディーさんに、さらりと凄い事言われた気がする。そんな私達に柔らかい笑みを見せて一礼するとアーデベルト王子は退出して行った。


「さて、お二人とも………そろそろお時間です。中庭は例年以上の民が一目お二人を見ようと殺到してますよ?」


そうレンブラントさんが言う。緊張してきた―――!!!例年以上って何さ?!手にかいた汗を思わずドレスで拭きそうになって、慌ててワキワキしてたらミーシャさんがハンカチを差し出してくれた。

うぅ。ありがとうございます。はぁ、出た瞬間『し………んっ』てなったらどうしよう?!!

いっそディーさんの背後に隠れていたい。


「レンブラント。ミオンをあまり苛めるな」


ディーさんが苦笑しながら言うとシレッとした感じでレンブラントさんが言葉を続ける。


「心外ですね陛下。私は事実を言っただけです。妃殿下、大丈夫ですよ?ジラルダ殿もミーシャ殿も太鼓判を押してました。庭にいるのは民ではなくレンカの花が咲いてるとでもお思い下さい」


「ガンバリマス」


庭にいるのはレンカの花、庭にいるのはレンカの花………いやまて………花に「いるのは」っておかしくないかい???

そんな事を考えている間にディーさんが私の手を取る。レンカの花だかダイコンの花だか段々分らなくなっていく中で、ついにはもう少し進めば王の間の前にある開けたバルコニーですって所まで来テシマッタ。

すーはーっと深呼吸。清水の舞台から飛び降りる気でディーさんと前に進む。

私を導くのは大好きな人の手。この世で最も信頼できる人の手。

先にバルコニーに出るのはディーさん。割れるような歓声が外から聞こえた。うわぁ!!!緊張する!!!

そして、輝く日差しの元、ディーさんの手が私に差し出される………私はその手を取って、恐る恐る前に進んだ。

眩しい光を全身に受けた瞬間―――歓声が止む。私の鼓動がドキリと波打つ。緊張のあまりどうしていいか一瞬分からなくなった時だった………。


―――ワァアアア!!!陛下万歳!!!妃殿下万歳!!!


轟くような歓声が中庭を覆い尽くす。私はビックリして作法も忘れ思わず中庭を覗き込む。

歓声が一層高まった。中庭には沢山の人、人、人。色とりどりの虎さん達が所狭しとこちらを見上げている。心から喜んでくれているのが分かって思わず胸が熱くなる。

後ろでジラルダさんにコホンってされて私はようやく作法を思い出した。やっちまった!!!顔が真っ赤になるのが分かる。ジラルダさんを「ありがとう」と「ごめんなさい」の意味を込めて見るとジラルダさん「お気になさらず、さぁ最初から」と手振りをされてコクリと頷く。

苦笑するディーさんと一緒に姿勢を正して手を振ると歓声がまた大きくなった。

良かった。私この国の人達に認めて貰えたんだぁ………。これから3日間、どんな苦労があろうとも乗り越えられる気がする。感謝の気持ちを込めて私は手を振り続けた。

ちょこっと失敗しましたが、逆に国民は喜んでくれた模様。

認めて貰えて一安心です。

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