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第68話 落ち着いた穏やかな時間

夜闇が迫る森はもうかなり暗い。今日は地鳥ちどりを置いて来た所にテントを張って休んだ。

落ち着いた穏やかな時間が流れる。

ご飯の後、私はディーさんと散歩した。迷子にならないようにフェンス沿いだったけど。

いずれ、ここへの道が出来ればこのフェンスも取り払われる。周囲の木も少し間引きするらしいから、キラキラと陽のあたる心地良い場所になるんじゃないかな。道が出来ればここへ来るのは馬でもいいし、来るのも帰るのも早く、気軽に行き来できるようになる訳だ。ティレンカ女神も来れるときがあればおいでって言ってたしね。

暗闇の中の散歩は不思議な感じだった。ぼうっとしたランタンの明かりに照らされる大樹は怖ろしげでもあり何処か神秘的でもあった。木によっては幹が光苔に覆われていて淡く光ってたりしてとても綺麗。足元には光るキノコとかも生えてる。その周りに光を求めてかカゲロウみたいな虫達がちらほら飛んでいた。

私はディーさんと手を繋いで歩きながら、もし子供ができたら3人は欲しいとか男の子もいいよね、女の子もいいよねとか話しながらゆっくり歩いた。

そんな私の話をディーさんは嬉しそうにしながら聞いてくれる。そんな時間が愛しかった。

次の日の朝はかなり早い時間に出発した。眠い目をこすりながらお城へと帰る。

迎えてくれたのは神殿関係者や大臣さん達。見知らぬ人達ばかり。唯一名前まで知っている人はジラルダさんのみと言う状況だ。実は今回泉に行く事は国の上の方のお偉いさん達しか知らないんだよね。

正式な通達は後日改めると言い置いて、ディーさんが泉であった出来事を簡単に説明する。

神殿関係者は何と言うか手が着けられない位興奮し、大臣さん達の中でもお爺ちゃんって感じの年の人は涙ぐんだり、人目を憚ることなく号泣してる人達もいた。お年寄りがこんなに興奮して大丈夫かしらと思わず心配になってしまう。そんな人達を暖かい目で見守るディーさん。


「皆には頼みたい事もある。ミオンの事を御披露目する前に我が国の民、諸外国にそれとなく噂を広めておいてくれ。神々に認められている事。変化する事を、な。人々が受け入れやすい体制をとれるように頼む」


その言葉に神殿関係者や大臣さん達が礼をとる。多分、この中で一番偉いんだろう人が口を開いた。


「心得ましてございます。陛下。………今回の事、心から御喜び申しあげます。陛下………ミオン妃殿下………。お二人の御世、つつがなくお過ごしして頂けるように臣下一同、骨身を惜しまず御仕え致します」


その後は、何人かのお爺ちゃんに握手を求められ………ぶんぶんと手がもげそうな握手をされ、神殿の人達には何故か拝まれました。と言うか何かブツブツ呟いて祈ってる?!!

後でジュド―さんが教えてくれた所によると、神への感謝の祈りと、私に対して加護の祈り、病や災いを避ける祈り、他にも沢山祈ってくれたらしいとの事。何でもかんでも祈ればいいと言うものではないと思うのだけど、気持ちはありがたく受け取りました。

今はもう夕方位。ディーさんはもう今日はする事ないので一緒にまったりと過ごす幸せなヒトトキ。


「泣いてた人もいたねぇ………」


思い出しながらそう言ってディーさんと繋ぐ手に力を込める。


「大臣の中には父の代から仕えてくれている者もいるからな………。口には出さなかったが父の直系の血が絶える事を無念がっていたと思う。そこに思いもしなかった奇跡が飛び込んで来たのだ………年だしな。涙腺も弱くなるさ」


同じように握り返してくれながら、ディーさんが少しくすぐったそうに笑った。

お年寄りの大臣さん達はディーさんの事、孫のように思ってる人もいるのかもしれない。先代から仕えてその成長を見守って来た訳だしね。

今いるのはお花畑。さっきディーさんに「墓参りをしてもいいか?」って言われたのだ。なのでお花畑でレンカの花を摘んでから更にその奥にある王室墳墓にお墓参りをする事に。

ディーさんと2人、花を摘む。レンカの花だけじゃなく色んな花や葉をとり混ぜて淡い色主体の可愛い花束が2つ出来上がった。

それぞれ花束を持ちながら花畑の奥の小道を進む。

程なくして見えて来たのは大きなドーム型の白い建物。その扉は重そうに閉じられていて建物の手前に祭壇がある。


「どうやら先を越されたらしいな………」


笑いながらディーさんがそう言ったのは白い石造りの広い台の上に花束が沢山飾られていたから。


「大臣達め。真っ直ぐ帰らず、皆でここに寄ったらしいな」


我も我もと花束を置く大臣さん達を思い浮かべて私も少し笑った。

台の先には灰色がかった透明な石に金色の文字で名前が書かれた位牌がある。後ろの建物を小さくしたような白亜のドームの屋根の下、綺麗に磨かれたそれは収まっていた。

歴代の王や王妃、あるいは早世した王子や姫のものだろう。ディーさんと私は台の上に花束を載せると

そっと祈りをささげた。私は心の中で、不束者ですがこれから宜しくお願いします、と空から見守っていて下さいとお願いする。

目を開けたディーさんが私を見て微笑んでから台の後ろにある位牌を撫でた。


1つ目―――ディレント。2つ目―――レディアンナ。小さな3つ目―――名は無し。


これが両親と産まれて来れなかった赤ちゃんの位牌なのだろう。

小さな位牌に手を添えたままのディーさんの腕に手を重ねる。


「愛する人が出来たと………2人で幸せになると誓った」


「私も不束者ですが宜しくって言ったよ」


「ミオンの両親にも挨拶したかったんだがな………」


「そうだね………でもここからでもきっと届くよ………」


遠いこの世界でもきっと、お父さんとお母さんに声が届くと思いたい。


「そうだな………ミオンの両親にも誓おう。必ずミオンを幸せにすると」


「大丈夫だよ。私もう幸せだもの。きっと安心してくれてる」


そう言えばディーさんに手を引き寄せられて抱きしめられる。


「俺も幸せだ………ミオン………」


2人ならきっと哀しみを半分に、嬉しい事や楽しい事は倍にしていけるよね?

抱きしめられた温もりを感じて顔をあげれば、頬にそっとキスされる。

照れ笑いしながら、手を繋いでお墓を後にした。

日がかなり傾いて来ていたけど、お花畑でお花を摘んでから道を戻る。

夕焼けの空の色が紅く辺りを照らしている。風が吹き抜けて何枚かの花弁が飛んで行った。そのうちの一枚がディーさんの頭に引っかかる。


「ディーさん、ちょこっとしゃがんで?」


どうした?と言いながらしゃがんでくれたディーさんに頭からとった花弁を見せる。

私は納得して笑ったディーさんの首に手を絡めてそのまま軽くキスをした。ちゅっと言う音をさせ唇が離れる。驚いた顔をしたディーさんだけど嬉しそうに笑ってキスをかえしてくれた。


「ミオンからは初めてだな」


「そうかも………」


今が夕暮れ時で良かった。だって顔が赤くなってるの分からないから。

でもなんか、この夕日があまりにも寂しげで思わずキスしたくなっちゃったんだよね………。


「たまにはミオンから口付られるのも悪くない」


時々はして欲しいと乞われて墓穴を掘った気分。いつもディーさんからキスするか、おねだりされてちゅってする位だからな………。自分からするのってハードル高い気がするけど………分かりました。努力はします。でもあんまり期待しないでね?




深音からのキスはまだあまり期待できません。修業が必要です。

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