第60.5話 ※小話※ディーさんの独り言
予定より一日遅れて城に帰る。レンブラント、ジュド―、ミーシャ、ジラルダに俺の呪いが解けた事を伝える。長年、王家を苦しめて来た呪いだ。みな喜んでくれた。更にミオンとの婚姻の誓約も解けた事を伝えると、リン達からも息をのむ気配………。まだ言ってなかったからな。だが言わぬ訳にもいくまい。疲れているだろうしミオンはミーシャと部屋に戻させた。ジュド―は神殿に帰り、ジラルダには持ち場に戻るようにいい、エルザには残り半日休むように言う。………エルザの性格を考えると休まないで働きそうだが………。
俺にはまだやらねばならぬ事が残っている。レンブラント、リン、ラムザを連れて宝物殿の奥の小部屋に向かう。そこに石化された姫がいるはずだからだ………。
「セイウス様?!あの女は誰ですの!!!私をこんな所に閉じ込めてなんのつもり?!!!」
扉を開けた俺を認めた瞬間、その姫は眦をツリあげツカツカとこちらにやって来ると俺の頬を二度思い切り叩いた。
いきなりの事にレンブラント達も唖然とした表情で固まっている。さらに叩こうとする手を掴み、落ち着くように言うが興奮していて全く話を聞こうとしない。握った手首を折りそうなくらい暴れるのでしょうがなく離すと後は叩くは詰るはで大変だった。
レンブラントとリンとラムザが止めに入って何発か貰ったようだ。「あの、赤子はなんですの?!王家の姫を差し置いて!!!良くもあんなどこの馬の骨とも知れない娘と!!!」「悪いが俺はセイウス王子じゃない………」「じゃあ、誰だと言うのですかこの、嘘つき!!!」「我が名はディークラウド、あなたのいた時代から930年程経った時代の王だ」そう言うと、姫は狂ったような笑い声をあげる。「ほほほほほほ!!!嘘を吐くならもっとマシな嘘をお考えになったら!!!この裏切り者」この姫はどうやら王子が結婚するのを断ったために幽閉された事を知らないらしい。自分と喜んで結婚したのだと思っていたようだ。そう思うといささか哀れに思えた。
「………ここで説明しても埒があかん。外に出せ」「「「は。陛下」」」」レンブラント達が、姫を抱えあげ外に出そうとする。
「いやっ!!!何をするの!!!このっ!!!離しなさい無礼者!!!」ここでも姫は大暴れだ。正直、俺はセイウス王子に同情した。失礼だが、石化して貰って良かったのではないかと思う。
さて、今の城を見せれば時間が経ったのだと言う事を理解できるだろう。
効果は覿面だった。姫がいた時代にはない建物がちょうど目の前にそびえたつ。「な………なんですの?これ??」「姫がいた時代から930年。他にも当時と違う建物があるはずだ………姫が『どこの馬の骨とも知れない女』と言ったのは神話を生きる神々の一人だった………あなたは今まで石化の呪いをうけて石像になっていたのだ」その言葉を理解するにつれ、姫の顔がどんどん青ざめる。大人しくなった姫をレンブラント達が離してやるとその場に崩れ落ちた。「う、嘘よそんな………あの女が神々の一人?!」そう言うと悲鳴をあげて息をのみそして今度は泣きだした。どうやら、セイウス王子の父親、当時の王と一緒になってかなり酷い罵詈雑言を浴びせたらしい。女神が怒るのも当たり前だ。
どこか、冷めた目で姫を見ながらも呪いの被害者には違いない。王家としては責任をとる必要があった。一時、夏の離宮に滞在して貰う事にしよう。
そんな事を考えていると姫は王を呪い、セイウス王子を呪い己を呪って泣き喚き、最後に甲高い悲鳴をあげて気絶した。………ミオンがこのタイプの女性じゃなくて本当に良かった………。俺は苦手だ。
呪いが解けた日から3日が経った。少しミオンの様子がおかしい。朝は森の花畑に、エヴァと行くと言って楽しみにしていたのに………。何かあったのだろうか?しかし、俺に言う気はなさそうだったので、沈黙を守る。
博物館の館長がセイウス王子の宝箱に入っていた櫛とピアスのレプリカを作りたいと言うのでミオンに言って宝箱共々貸し出してもらう。日記も内容写して本物は女神へという事に。
後は呪いが解けた事を公表する時に実際に何があって呪いがかけられたのか本当の話も公表するつもりだ。新しい呪いの王子の絵本等を作らせようかと思う。女神とセイウス王子の息子………俺と同じ名のディークラウド王子の願いを少しでも叶えられたらと願う。
イリアナの様子がおかしいと噂になっている。どうやらミオンの事を誰彼なく悪しざまに言っているようだ。一体何があったと言うのか。二人は仲が良い物と思っていた………。ミオンに「仲が良かったのではないのか?」と聞けば、曖昧に微笑まれた………という事は元から仲が良かった訳ではないらしい。一体なんでそんな事になったのか………。出来ればイリアナとはエヴァとのように仲良くなって欲しかったんだが。
そんな事を考えていたら、苦虫を噛み潰したような顔のレンブラントが執務室に入って来た。
「陛下、お願いがございます」という。珍しい事もあるものだと思ったら、石化されてた姫………名はレイリア姫というのだが、その世話の担当を外れたいのだと言う。
「なんだ?俺のように嫌われたのか???」と聞く。というのも、俺を見るとセイウス王子を思い出すらしく、会おうとすれば癇癪を起こすのでレンブラントに俺の代わりを頼んだのだ。
「それが………」なんというか言いにくそうにするレンブラントも珍しいな………。槍が降らなければいいが………。「逆にレイリア姫に気に入られまして………」更に言い淀む。「結婚を迫られそうな勢いで大変迷惑です」
苦苦苦苦凄く苦い顔で迷惑そうに言う。悪いレンブラント………お前のそんな姿が見れるとは………少し面白いと思ってしまった。後で女官が教えてくれた事によるとレイリア姫が押し倒さんばかりにせまっていたと言うので幼馴染で許嫁のメルフィをことのほか大切にしているレンブラントにとっては迷惑以外の何物でもなかっただろう。
しかし、女という生き物はこんなにも逞しいものか………。レンブラントに同情する。これからの世話はジラルダに頼む事にしよう、そう言ったらもの凄くほっとした感謝の目で見られた。
その後執務をこなしているとリンが泉を調査した報告を持って現れた。レンブラントとリンと話し合い女神の泉までの道は整備して、柵は取り払う事にする。聖所以外で神々と話せる場所は貴重だからな。
夜、そんな日常の報告をミオンにしていたら「整備されれば遊びに行きやすくなるね!!!」と言われる。そんなに気軽に行っていいものだろうか………と思ったら「そうだよ!!!ディーさん、ティレンカ女神の子孫なんだから、たまには顔出してあげなくちゃ」と言われる。喜ばれるよと言われそう言うものだろうかと思った。
「ディーク!!!」
そう叫んで真っ青になったミーシャが執務室に駆けこんで来たのはもうすぐ昼になろうと言う所だった………。レンブラントとリンが驚く顔をするのも構わず、震える手の中に握りしめた手紙と首飾りを差し出して………何故首飾りがここにあるのか??これを着けていたミオンは???手紙を慌てて読む。焦りの所為か中々頭に入って来ない。エヴァの名で出されたその手紙の筆跡は、どう見てもイリアナのもので………。
泣きだしてしまったミーシャの肩を抱いてリンが声をかけて落ち着かせようとしている。そこでミーシャがリンに促されて何があったのか話してくれた。それで、確実にミオンが何かに巻き込まれ、それにイリアナが関係しているのだと理解できた。
焦りと、怒りがごちゃ混ぜになった状態で俺は低く「イリアナの家に行くぞ」と唸った。
イリアナの家ではヴァルレア公と家の者がエヴァとイリアナを探している慌ただしい状態。
そこに今にも噛みつきそうな状態の俺が行ったのだ。ヴァルレア公はかなり驚きそして動揺したようだった。唸るように事情を説明すれば今にも卒倒しそうな勢いで………。
二人がいないのもこの件に関係あるはずといい、部屋に何か残っていないか調べると言うと、コクコクと頷く。
出て来たのはエヴァの日記。イリアナが隠し通路から度々家の外に出ていた事、城下街の裏街に足しげく通っている事が書かれていた。隠し通路の存在を知っているのなら軟禁の意味は全くなくなる。
俺は、事の内容を簡潔に手紙に書き裏街をエルザの判断で摘発せよと命令を出す。そしてヴァルレア公が信用できるという執事に手紙を持たせ送り出した。
俺達は隠し通路があると言う部屋でイリアナの帰りを待った………。イライラとした時間が過ぎる。
そしてついにイリアナが本棚の後ろから姿を現した。大人数に出迎えられて一瞬ポカンとした顔をした後、慌てて逃げ出そうとしたので腕を掴んで引きずり出す。
「どういう事か説明しろ………イリアナ」
その言葉にイリアナは黙ったままだ。「ミオンは何処だっ!!!」叫んだ瞬間イリアナの形相が変わった。「ミオン!!!ミオンミオンミオン!!!!」誰も彼もあの女の事ばかり!!!泣きながらそう言うとイリアナは俺の手を振り払う。「何故、私ではなくあの女なのです???せめてミーシャお姉さまのような方だったら許せたのに!!!あんな女消えてしまえばいいんだわ!!!」その怒りに満ちた悲鳴を聞いて俺はようやくイリアナが俺の事を好きなのだと理解した。
あの女はどうして妃殿下のままでいますの?!どうしてお兄様は他の女性を傍に寄せようとしませんの!!!どうして!!!イリアナは泣き叫びながら俺を叩く。「どうして私ではだめですの!!!」その叫びに俺は「………俺が愛しているのはミオンだけだからだ」と呟くようにそう言った。
そう言った瞬間、イリアナが人形のように凍りつく。いや、イリアナだけじゃないな………ミーシャ以外、レンブラントもリンも目を見開いて俺を見た。ミーシャは勘がいい。レンブラントはこの召喚に疑問を持ち俺に「この召喚、神々の手違いでは?」と言ってた位だしな。驚いて当然だ。
俺の答えにイリアナの壊れたような叫びが重なる。普段のイリアナを知っている者にとっては狂ったようにしか見えなかったかもしれない。
イリアナはヴァルレア公が倒れても言うつもりはないようだった。
ミーシャの訴えかけにも、レンブラントの脅しにも答えなかった。
俺の戸惑いも怒りも、イリアナの口を開かせる事はできなかった。
その状況が変わったのはミーシャの「イリアナ………あなたの後を着いて行ったはずのエヴェンジェリンも帰って来ていないの………」という言葉だ。イリアナは動揺し、エヴァが後をついて行って巻き込まれた可能性があると言う事を俄かには信じられないようだった。それでも不安な面持ちで話した事は………幼稚で愚かな計画。
「陛下、裏町に派遣したエルザ達の騎士団を戻しますか?」レンブラントが真剣な表情で言う。
「いや、いい。あの場所を放置しすぎた。少し手を入れる………ラムザの騎士団を出す。………俺も行く。止めるなよ?」そう言うと諦めた顔をされて許可をくれた。
「陛下!私も同行させて下さい!!」そう言ったのはミーシャ。ミオンとエヴァの事が心配なのだろう。その顔は必至だ。「………ラムザとリンの傍を離れるな」俺はそう言うとミオンを取り戻すべく、城に向かった………。
城に戻り、急ぎラムザの指揮する騎士団を集める。状況を説明し、極秘裏に動く事にする。議会なぞ通している暇もないしな。王の権限を最大級使わせてもらおう。リンに記憶のまま地図を書かせるとこの城壁の出入り口は3か所、そこを固め更に騎士団を3班に分けて突入。隠し通路の中にある4部屋のうちのどこかにミオンがいると思われた。俺は、ラムザやリン、ミーシャ、更に2人の騎士を従えて出入り口の一つから入って行く。先頭はラムザ。最初の部屋にいたのは3人の男。ラムザと一人の騎士が突っ込んで行く。ここにミオンはいない。俺は確認すると次の部屋に踏み込んだ。
見えたのは―――。
エヴァを抱きかかえたミオン。その左頬は赤く腫れていて………。
殴られたのだと分かった瞬間、目の前が沸騰した。
「ミオンの顔を叩いたのはどいつだ?!」
吠えた瞬間、しゃがみ込んだミオンの視線がちらりと一人の男の方を向く。こいつか―――殺す………。いや待て殺してはまずいのか………。しかしそれ相応の報いは受けて貰うぞ!!!
一人を峰打ちで倒し、もう一人をキツク叩きのめそうとした瞬間、男がミオンに向けて手を伸ばした。
ただでさえ殺してくれようと思っていたのを我慢していたのにその行動で自分に制御がきかなくなる………!!!よりにもよってミオンの眼の前で男の手を切って飛ばしてしまった。
―――俺はまだまだ未熟だ………。
3人目の隠れていた男を倒してミオンを見れば青ざめて強張った顔をしている。相当怖い目に合わせてしまったようだ………。思わず抱き締めれば震えているミオンの身体がそこにあって………痛ましい気持ちで腕に力を込める。
「陛下!!!他の部屋にいた3人を拘束しました!!!!妃殿下は?!」とラムザが叫んでいたが今はそれどころではなかった。ミーシャとリンがエヴァを連れて出て二人っきりにしてくれる。ありがたい。
明日は、重臣たちを呼びだして緊急会議だ………議場は荒れるだろう。外国の要人も関わっているようだ。事は慎重に動かねば。
寝ようと言う時になってラムザが頭目を逃したと報告に来た。一瞬怒鳴りかけたがラムザの所為ではない。指示を出し退出させる。
ベットに入りミオンと話す。話すと言ってもミオンは今薬の所為で話せないから筆談だが。
後遺症等が心配なので薬師達に成分分析をかけさせて解毒剤も作らせているから大丈夫だとは思うが………。ミオンの可愛らしい声が聞きたくてしょうがない。
ミオンの左頬は痛々しい限りだ。後悔の念を口にしたらミオンに慰められた。それでも情けないと言うと今度は怒られる。『私が落ち込んでないのにディーさんが落ち込むのがそもそも間違ってマス!!!』と言われ、その言葉に励まされた。
ミオンの目の前でカッとし惨い事をしてしまった事………「そんな俺は怖いか???」と聞けば、怖かったけれど、それより俺が死ぬかもしれないと思った事の方が怖かったという。
上目使いで言われれば思わず、口付けそうになる自分を抑えて「怖がらせて悪かった」と謝る。
その後『一人で突っ走っちゃ駄目だよ???』と窘められた。返す言葉もないな………努力しよう。
今回の件で賊が地区の担当監理官に賄賂を渡していた疑いも出て来た。この汚職を含め他にも握り潰されていた犯罪が無かったか調べる事にする。裏街の方も今回を機に少し掃除する事にして二度とこんな事が起こらないようにするとミオンに約束し、その日はミオンと手を繋いで寝た。
会議は荒れた。新たに分かった事実は更に会議を紛糾させる。よりにもよって獅子族の王族が関わっていたのだ。継承権は無いとは言え、宰相も務めた事もある現職の大臣だ。そいつは馬鹿なのか???いい年をして何をやっている………!!!
取り急ぎ水鏡でディレンドラの王と会談する。ディレンドラ王にとっては寝耳に水。かなり慌てた様子だったがあっという間に事実を確認してきた手腕は流石と言えよう。しかしどうせならもっと早くに把握していてくれれば良かったのに。
「この度の件、まことに申し訳ない。我が国としては貴国との関係を悪化させたくは無いが………、身内の恥を世間に晒す事も避けたい。どうにか便宜を図ってもらえないだろうか?」ディレンドラ王のその言葉に「俺としても貴国との友好関係にヒビが入るのは避けたい所。こちらの身内の恥でもあるし、内々に処理できればと考える」と俺も言う。
「そうか!!!助かる!!!しかし、貴国の妃殿下には本当に申し訳ない事をした………国を代表して正式な謝罪を申し入れる。取り決めが確定したら、後日正式な使者を出そう」その言葉には軽く頷くに留めた。ディレンドラ王はそういう人柄ではないが謝罪を受け入れたと言えばそれを言質として悪用される恐れもあるからな。「そちらの重臣と、こちらの重臣も含めティオレで話し合いの場を持ちたい。いかがか」「それがいいだろう。大公、ジェルヴァも同席させるか???」「いや。いい。今は頭にきて冷静な判断が出来ないと困る。後日改めてその時間をとりたい」「了解した。ではすぐに招集する。少し時間をもらえるか?」「構わない。こちらも会議室にティオレを移動せねばならぬからな」と話し互いに頷きあい中継を切る。
合同の会議は更に荒れた。大公と言う人物は外面がかなり良かったらしい。ディレンドラの大臣達の多くが最初は言いがかりと思っているようだったし、事実そう叫んだ者もいた。しかし、こちらの証拠の数々を出していくにつれ顔色がどんどん悪くなっていく。
主にレンブラントによる誘導で、ようやく出された結論はイリアナは北の方にある修道院に生涯幽閉。大公は老体なのでディレンドラにある田舎の別宅に幽閉。家自体には異例のお咎め無し。大公の部下は拘束。今現状で捕まっている人達は、誘拐、密輸等の罪で現行法に照らし合わせて処罰すると決まった。
こちらの大臣の中には生温いという意見も聞かれたが、隠密裏に処理するにはこの辺が妥当だろう。
賠償問題等まだ問題は残るが、概ね解決したと言う所だ。
会議が終わり、議場を後にする際レンブラントが言いにくそうに俺の元に来た。
「イリアナ嬢からです」
その言葉に正直驚く。その手紙の内容に更に驚いた。
夜、ミオンにイリアナが二人きりで会いたいと言っていると告げた。ミオンも驚いた顔をしている。
正直、俺は反対だと言ったが、ミオンは二人きりでなければ会ってもいいと言う。俺が一緒に行こうかと言ったら却下された。そこにミーシャが妥協案を出し。渋々同意した。
イリアナと会った後、ミオンとミーシャの様子がおかしい。「イリアナに何か言われたのか?」と言えば曖昧に笑ってごまかす。挙句の果てにはミーシャが帰る時二人でヒソヒソと話す始末。なんだ?一体何があった!!!ミーシャを見送った後には肩を落としたミオン………一体何の話をしていたのだ………。そう思いながらミオンの後ろに立つ。「やはり、行かせるべきでは………」と言えば俺が思っているような事は無かったと言う。「俺には言えない事なのか………?」と問えば慌てた様子で「話すのに私の勇気がいるっていうか………」と歯切れが悪い。それでも言うつもりがあるみたいなので、我慢強く待っているとミオンの口から衝撃的な事実が!!!
「えー、とね?そのぅ………ね?私………がぁ………こっちに残りたいって言ったら………その、迷惑………だよね??」
なんだと???思考が麻痺してしまった事をミオンは誤解したらしい。慌てて今のは聞かなかった事にと半泣きで言われる。冗談じゃない!!!無かった事になどできるものか!!!「駄目だ!!!もう一度言ってくれミオン!!!こちらに残りたいのか!!!」そう言えば真っ赤になったミオンがコクリと頷いて………神よ!!!これは夢か!!!「ミオン!!!」そう叫んでとっさに抱きしめる。
俺は今人生で一番嬉しいぞ!!!あぁ、もっと早く残って貰いたいのだと俺の気持ちを言えば良かった!!!
額をくっつけて、ミオンの涙を指の腹で拭う。あぁ、俺はミオンが愛おしい………。
いっそ言ってしまおうか………?ここに残ってくれると言うのなら………俺の気持ちも………。
ミオンが残ると言って俺の心に欲が出る。どうせなら、ミオンを俺の腕の中に閉じ込めてしまいたい………。俺は思い切って口を開いた。そして告げる「もう一度、誓約を結び………俺の妃になるつもりはないか?」と。
ミオンはかなり動揺していた。その姿も愛らしい。真っ赤になって俺の方を見る。あぁ、このまま口付てしまいたい。ところが「誰かこの国の人と結婚しないと………」と言われ一気に奈落の底に。俺では駄目か………ミオン。と思ったら「なんでそうなるの!!!嫌いじゃないよ!!!むしろ好きですが!!!」と叫ばれる。そう叫んだ瞬間しまった!!!という顔をするミオン。本当に見てて飽きない。「愛しているミオン。俺の妃になってくれ………」と言えば「私種族が違うもの!!!ディーさんの子供産めないんだよ?!」と言う。あぁ。ミオンは正しく王と言うものを理解している。現職の王が子孫を残さないなど普通ではありえない。だが、俺はミオンしか愛せるとは思わなかったし、ミオン以外の女性の子供なら欲しいとも思わなかった。「駄目か?」そう囁けば、ミオンは更なる不安を口にする。当たり前だ。だがそんな事でミオンを失う気もなかった。例えそれがミオンを傷つけるかもしれなくても………ミオンが俺を好きだと言うなら余計その手を離すつもりはなくて………我ながら酷い男だと思う。だが、譲れないものもあるのだ。
「本当に私でいいの………?」「俺はミオンがいいんだ」「私もディーさんがいいよ」
抱きつかれながら囁かれたその一言。訂正しよう。人生で一番嬉しかった事はこれだ!!!
しかし、話てくれた理由を聞いて驚いた。切っ掛けはイリアナとミーシャだと言うのだ。特にイリアナのお陰で想いを伝えあう事が出来たと知ると複雑な気分になる。
二人を会わせた事で思わぬ結果になった。イリアナとミオンは随分と前より打ち解けたようだ。
だからこそ、イリアナが思い詰める前に止められなかった事に後悔を覚えた。ミオンも同じように後悔を胸に覚えたらしい。しかしミオンの「きっともう大丈夫だよ」と言う言葉に少し救われた気持ちになる。
愛しさと言うのは止まる事を知らないのだろうか………。一つの仕草、唇から零れ落ちる言葉一つに愛情を覚える。愛したのがミオンで良かったと思う。これほど色々な感情を俺に与えてくれる女性を他に知らない。いつまでも触れていたい。
「ミオン………」
熱に浮かされてそう囁けば、潤んだ瞳のミオンの顔が目の前にあって………。額に、瞼に、頬に口付けを落とす。戸惑ったようなその表情をもう少し楽しみたかったが、俺はそのままミオンの唇に口付を落とした。
―――深く、長く―――息も忘れる程に。
もはや小話じゃないです。
パソコンし過ぎて目が痛い………(泣)
ディーさんの成分は、ほぼ100%深音への愛情で出来ています。




