第59話 さよなら、イリアナさん
北の塔でイリアナさんとお別れ。ミーシャさんがイリアナさんを抱きしめる。
これから先、イリアナさんに会う事はもうないだろうから………。「あなたのしたことは許せる事ではないけれど………それでも嫌いになれないの。いつまでもあなたは私の大切な従妹よ、イリアナ」それがミーシャさんの最後の言葉。イリアナさんは俯いてその言葉を噛み締めてるみたいだった。
最後に、私と挨拶を交わす。「ミオン様………お願いですから、陛下にちゃんと言って下さいね。じゃないと一生怨みますわ………私が、あなたと陛下にできる唯一の罪滅ぼしなんですから………」そう言って軽く私を睨んでから「私、ミオン様が嫌いです………でも違う出会いかたをしていたら、と今日初めて思いました。もしかしたら何か違ったかもしれません………もしかしたら、ですけど」そう、囁くように言って儚く微笑む。
もし、違う出会いかたをしてたら、か………。もしかしたら友達になれてたかもしれない。そう考えると、掛け違えたボタンをなおせなかった事が非常に悔しく思えた。
彼女とは、多分二度と会う事は無いだろう。この先の人生を後悔に費やさず、出来る事をしていつかイリアナさんが信頼を取り戻せたら良いなって思う。「悲劇のヒロインのつもりになって自分に負けたりしちゃ駄目だよ」冗談めかしてそう言えば「私、そんなガラじゃありませんわ」とツンとして言うイリアナさん。これなら大丈夫そうだ。「さよなら、イリアナさん」「さようなら、ミオン様………ミーシャお姉さま………皆さまに幸、大からんことを」
扉が閉じられる―――イリアナさんは最後まで頭を下げたままだった。
夜になり、食事が終わる………。私はまだディーさんに言い出せてない。
さっきからミーシャさんの視線が痛いんだよね………。分かってる。分かってますって!!!でも………怖いんだよー!!!ディーさんの反応とかさぁ………。私達の様子が変なので、ディーさんもさっきから様子がおかしい。「イリアナに何か言われたのか?」ってさっき聞かれた。うん。言われました。ただしディーさんが思ってるような事じゃないと思うけど………。曖昧に笑ってごまかしたからすっごい不審そうな顔をされたよ。もうすぐ、ミーシャさんが帰る時間になる。明日じゃ駄目???との想いをこめてミーシャさんにジェスチャー。ダ・メです。と返事が来た。そうこうしているうちにミーシャさんの勤務時間が終了。こっそり呼ばれる。
「ミオン様!!!明日に延ばしてもどうせ余計に言いにくくなるだけです!!!」
ヒソヒソヒソヒソ。その通りですミーシャサマ。私の性格分かってらっしゃる。
「私は帰りますが………今日中に言って下さいませね?」
曖昧に笑おうとした所、女は度胸です!!!と言われ釘を刺される。ひぃー!!!
「言えてなかったら明日、お仕置きです………」
お仕置き?!!あの………どんな???
「秘密です。お嫌なら頑張って言って下さいませ」
そう言ってミーシャさん帰って行きました………。うわぁ、言えなかったら何のお仕置きされるんだろう私………。
「………ミオン………一体ミーシャと何の話をしていたんだ???それに………さっきから様子が変だ………イリアナに俺に言えないような事を言われたのか???」
いつの間にか、ディーさんが真後ろに!!!ぎぎぎぎーっと音を立ててるかのように後ろを振り向けばディーさんの逞しいお腹が目の前にあった。
「やはり、行かせるべきでは………」
おっと不味い!!!このままだとイリアナさんが悪者になっちゃう?!
「あー、イリアナさんとは色々な話をしたけどぉ………ディーさんが思ってるような事は一切なかったよ???」
下から見上げるようにそう言えば、ディーさんはまだ不審げな様子。
「では、何故ミオンといいミーシャといい様子がおかしいんだ?」
「それは………そのう………ちょっと言いにくい乙女の事情というか………?」
「何だそれは………俺には言えない事なのか………?」
わーっそんな顔しないでよ!!!凄く傷ついた顔されると私がディーさんを苛めてるみたい!!!
「話せないっていうかぁ………話すのに私の勇気がいるっていうか………」
そう言いにくそうに言えばディーさんが片膝をついて私と視線を合わせる。
「言いにくいと言う事は、言うつもりはあると言う事か?」
「えーっと………うん………イリアナさんとミーシャさんに約束しちゃったし………言うつもりはあるんだけど………ディーさんにはその………かなり迷惑な話になるかもしれなくてね???」
やっとそう言うのが精いっぱい。
「迷惑???ミオンが言う事で迷惑など感じた事はないがな………?」
お兄さん。それ相当、甘やかしてる発言だよ………。
あー!!!たった一言で良いのに!!!こんなに言いにくいなんて!!!私ってどれだけチキンなの!!!
言ってみろと、先を促され………あー、とか………うー、しか出ない私をディーさんは急かしもせずに優しく待ってくれている。
「えー、とね?そのぅ………ね?私………がぁ………こっちに残りたいって言ったら………その、迷惑………だよね??」
真っ赤になって一生懸命、言いきってディーさんをみたら………フリーズしてる?!ぎゃー!!!イリアナさんとミーシャさんの嘘つきー!!!やっぱり迷惑だったんじゃんかぁー!!!
「ごめん………やっぱり何でもないょ………」
半泣きの状態でそう言えば………驚いた顔のままのディーさんがポツリ。
「帰りたいんじゃなかったのか???俺はてっきり………」
「ううー!!聞かなかった事にして!!!」
「駄目だ!!!もう一度言ってくれミオン!!!こちらに残りたいのか!!!」
真剣な顔をしてそう問われれば頷くだけで精一杯で………。
「ミオン!!!」
急に抱きしめられればディーさんが迷惑がってないのは明らかで………残ってもいいの???私。
「あぁ、くそっ!!!俺はてっきり!!!それなら早く言えば良かった………お前に残って欲しいと」
耳元で囁かれれば体温が上がる。ディーさんは私に残って貰いたかったの?!
「ディーさん、ディーさんは………私がここに居てもいいって思ってくれてたの???」
「当たり前だ………俺は………お前にここに居て欲しい………」
イリアナさん、ミーシャさん、嘘つきなんて思ってごめんなさい!!!ヤバイ………嬉しくて涙が………。ううぅ………やっぱりこっち来てから私の涙腺壊れちゃったんだ!!!そうに違いない。
「ミオン………ミオン俺は今人生で一番嬉しい」
ディーさん流石にそれは言いすぎだよ!!!でも私も嬉しぃよう………。
こつんと額と額をくっつけて、ディーさんが私の涙を指で拭ってくれる。
照れくさそうに笑えばディーさんの優しい瞳と目が合って。あぁ、私やっぱりこの人が好きなんだなぁって思う。
「ミオン………こちらに残るなら………俺はお前に言わなければならない事がある………」
少し考えるようにそう言ってディーさんが私を見つめる。何だろう………?その目の奥にあるのはナニかの熱で。
「もう一度、誓約を結び………俺の妃になるつもりはないか?」
へ?
「って………えぇ?!」
ディーさん?!今なんて言ったの?!!妃って私種族違うのに………!!!
ようやく二人のズレてた気持ちが修正されました。