第58話 何の地雷踏みましたか
ミーシャさんには詰め寄られ、イリアナさんには怒られて?!なんなの一体!!!どうなってるの!!!
正直に言おう。特にミーシャさんが怖かった。話すまで離しません、とばかりに肩を掴まれ、答えるまで逸らしませんとばかりに目を見つめられました。あまりの真剣さにミーシャさんと合わさった目を逸らす事ができない私。しかもミーシャさん真剣過ぎて無表情だよ!!!横からイリアナさんの「帰るなんて有りえませんわ!!!」と悲鳴が掛った声が聞こえる。何が二人をこうしたのか私にはさっぱりだ!!!いつの間に何の地雷踏みましたか?!私。
というか、何で私が好きな人を暴露せにゃならんのだ!!!そんなこっ恥ずかしいイベントじゃなかったはずだよね?!!!ダラダラと意味不明の汗が流れ落ちる中、ミーシャさんがとてつもなく真剣な声でこう言った。
「ミオン様、とても、とても大事な事なんです。ミオン様は陛下の事が好きだけれど元の世界に帰るおつもりなんですか???」
きゃー!!!ディーさんにも感じた事ないぐらい心臓がドキドキですよ?!なんでそれが大事なのかも分からないし!!!
「ミーシャお姉さま!!!その顔を見れば一目瞭然ですわ!!!好きなくせに帰る気です!!!」
さもそれが悪い事のように言われて流石に私もカチンとくる。
「好きなくせにって何さ!!!どう考えても帰るべきでしょ?!ディーさんの呪いは解けてこの国の子と結婚できるんだよ!!!ここに残っても邪魔なだけだし………」
そこでシュンと勢いが落ちる。私って嘘つきだ。本当は誰かと結婚するディーさんを見たくない。残ろうと思えば、仕事を見つけて生きてく事は可能なはずだ。でもディーさんが誰かと結婚して子供が産まれて家族を作る所を見たくないんだ。………私ってばなんて心が狭いんだろう。
「それに、ディーさんは私の事猫の子くらいにしか思ってないし」
ココが一番重要。こんな異世界の種族が違う女の子に好かれたってディーさんにはなんの得もなけりゃきっと迷惑なだけだもん。
そう思って言ったんだけど………?ミーシャさん、イリアナさんが疲れたように座り込んじゃった。
二人してエライ長い溜息を吐く。え?え?何で???何でそんな憐れみの籠った目で見られてるの???
「ミオン様は神々のお言いつけで帰らなければなりませんの???」
疲れたように呟いたのはイリアナさん。
「え?強制って感じじゃなかったけど………」
そう言うと、呆れたような顔をされてまた溜息。
「なら、残るべきですわ。昔の私なら小躍りして帰れ、と言う所ですけど………」
小躍りしてってイリアナさん。仮にもレディーが何言ってるの?
「私も残って頂いた方がいいと思います」
ミーシャさんまで?!私の説明聞いてた?!!
「ミーシャの一生のお願いです。ミオン様が陛下にお気持ちをお伝えになるか、陛下とよくお話合いになって下さい」
一瞬、頭が真っ白になりましたよ?!告白!!!
「無理だよ無理!!!気持ちを伝えるって?!振られる上に相手を困らせるだけなのに???」
「「そうはなりません!!!」」
二人同時に悲鳴のように叫ばれた。
「絶対にそうならないとお約束致しますから………せめて本音で話し合って下さいませ。きっと陛下はミオン様が残る事を望まれます」
「でも………やっぱり無理だよ。誰かと結婚するディーさん見たくないもん………」
しおしおとそう言えば、眦をあげたイリアナさんと目が合った。
「私、やっぱりミオン様が嫌いですわ………好きな殿方の傍にいれて何の不満がありますの?種族がなんです!!!関係ないと言えばいい!!!」
イリアナさん、この前と言ってる事違うよ?!一体どうしたの?!!あなたは確か、私がディーさんの傍にいるのが嫌だったんじゃなかったの!!!
「あなたはエヴァンジェリンの恩人ですからね!!じゃなければ異世界に蹴り返してますわ!!!」
まるで私の心を読んだようにイリアナさんが不貞腐れて横を向きながら言う。しかし蹴り返すって………。
「………でも………」
「でもじゃありませんわ。この私がここまで言ってさしあげてるんです。言う事を聞いて陛下に告白なさればいいのです!!!」
だから!!!なんで告白なんてハードルが高い事になってるの!!!しかも、超、上から目線?!!!
「嫌なら、帰りたくないとだけ、お言いなさいな。それだけで十分です」
「そうですミオン様!!!それだけで構いません。どうか陛下にそうおっしゃってあげて下さい」
今度はうんと言うまで離しません、という気迫でもってミーシャさんが訴えてくる。イリアナさんも、うんと言え―って感じの超、圧・迫・感。
「………帰りたくないって言うだけ???」
「「言うだけです!!!」」
同時に言われ、私はコクンと頷いた。ミーシャさんの顔がパァッと明るくなる。イリアナさんはヤレヤレ世話のかかる、という声が聞こえて来そうな顔だ。
「何で、こんな事に………」
項垂れてそう言えば………イリアナさんが一言。
「陛下とミオン様に感謝されても足りない位ですわよ。阿呆らしい………まさかそんな勘違いしてるとは思いませんでしたわ」
最初の大人しいイリアナさんじゃなくて以前のキツめのイリアナさんが戻って来たみたい。戻って来たって言っても、前みたいな憎しみや嫌味とかは感じないからかえってサバサバして良いけど………。勘違い???何を???
「本当に………この事を知らずにミオン様が異世界に帰っていたら………と思うとゾッとします………どうせ陛下も同じような事を考えてらっしゃいそうですしね………」
「確かに………。何だかんだと余計な事を考えて、すれ違う事になってそうですわね………間抜けにも程がありますが」
???なんだろうこの空気???ミーシャさんとイリアナさんの間にだけ通じる何か………。遠い目をしながら語られるソレ。それは私とディーさんがイリアナさんの言うとおり間抜けって事?!何でこの流れでそう言われるかが良く分からないんだけど………。
「後は、運を天に任せるしかないでしょうね。私達、やる事はやりましたわ」
頷きあうミーシャさんとイリアナさん。がっしりと手を握り合いそうな雰囲気だ。対して私は今から憂鬱………。ディーさんにちゃんと言えるかなぁ………。ここに残りたいって。二人はそれで解決って思ってるみたいだけどさ………。あ”-っ!!!迷惑そうに顔顰められたらどうしよう………。でも、ディーさん優しいからな………残りたいって言えばそれを優先してくれそうではあるけど………やっぱり迷惑なんじゃ………。ぐるぐるぐるぐる思考は堂々巡り。帰りたくないって言うだけでも結構勇気がいる気がする。ひーん!!!誰か助けてー!!!
すれ違いな二人に光明が。後は深音が勇気を出して言うだけです。
でも深音、「帰りたくない」その一言を言う勇気がかなり必要そう。