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第57話 少しでも長く

イリアナさんからの返事は二日かかった。その間の私は、会える人にはなるべく会って、ディーさんとの時間をなるべく取れるようにした。少しでも長く一緒に居たかったから。決意とは裏腹に、期日が近づく度に憂鬱になる。溜息が増えたと言われるようになった。

イリアナさんがミーシャさんが一緒でもいいと言うので今日、北の塔へ向かう………。久しぶりに外に出るので塗られた薬を落とすために顔を洗う。腫れはひいた。けど周りが黄色っぽく中心部分がまだ青い状態。それをお化粧で見えなくするんだって。お化粧って言ってもここの人達、ほとんど化粧を必要としない。だって毛が生えてるからね。でもまれに怪我とかで毛を一時的に剃ったりした時にお化粧してごまかすそう。なので今回私もこの方法で。プロの人がすれば、普通の肌にしか見えなくなるって。

そんな感じで化粧台へ、お化粧してくれるのは黄色の虎のお姉さん。一瞬痛ましげに私の頬を見ると目礼して作業に入る。首までお化粧されて変な感じ。元来化粧っ気が無い私。もっと皮膚に閉塞感があるかと思いきや、全然そんな事無く。薄く伸ばした感じなのに痣があるなんて私にも分からない状態になった。プロ凄い!!!お礼を言えば目礼して去っていくお姉さん。あっという間のお仕事でした。

私は、体調を崩して寝込んでた事になっているそうなので、ゆっくり歩く事を心がける。北の塔に行く前に、何人かのオジサマやオバサマに話しかけられる。以前より全然好意的になったんだよね………。

お腹の中は分からないけど、少なくともそれと分かる嫌味を言われなくなった。私が多少返せるようになった事もあるんだろうけど………認めて貰えた気がして嬉しい。

流石に、北の塔に入る所を見られちゃまずいのでミーシャさんと一緒にお城の地下に向かう。北の塔には正面の入口だけじゃなく裏道……地下からの入口もあるそう。今回はそちらを使った。地下の入口から長い通路を通って突きあたりのドアをノックする。すると中にいた騎士さんが開けてくれた。

騎士の礼をとられたので手を挙げて返礼する。

白亜の塔の長い、長い階段を上るとエルザさんが扉の前に立っていた。


「ミオン様。お久しぶりです。お加減はどうですか?」


「エルザさん!大丈夫。少なくとも腫れと痛みはひいたから」


「………女性の顔を殴るなど………許せません」


エルザさんが厳しい顔でそう言う。


「有難う。でも、ディーさんがやっつけてくれたから大丈夫」


「………そうですね………入られますか?ミオン様??」


心配そうな顔のエルザさんに頷いて私は言った。


「うん………お願い」


ぎいっと重たそうな鉄製の扉が開く。

そこには誰?と見まごう程に痩せたイリアナさんの姿があった。

無言のままミーシャさんと部屋に入る。

背後で扉の閉まる音がした………。

白壁の質素な部屋だ。イリアナさんはベットに腰かけている。目線でベットの前にあるテーブルを勧められた。ミーシャさんは背後に控える。


「あの時以来ですわね………ミオンサマ」


先に言葉を発したのはイリアナさんで。その目にはあの時の暗い炎は無い。過ちに気付いて欲しいと言うのはかなり、おこがましい考えだったかも。イリアナさんは何かに気付いて、自分の中で結論を出したんだと思うから。それでも、言うべき事は言うつもりだけど………。


「ちょっと、安心したよ。これならちゃんと話せそうだね」


「えぇ。だいぶ頭も冷えましたし。………初めてエヴァンジェリンに叩かれましたわ………」


「そうだろうね。エヴァンジェリンちゃんは、イリアナさんの事大好きだから………攫われてた時にも言ってたよ。もし自分が帰る事が出来なければイリアナさんを許して欲しいって………意味、わかるよね???」


その言葉にイリアナさんの顔が苦痛に歪む。


「えぇ。今回の事で私はあの子を一番傷つけた………あの子………死も覚悟してたんですのね」


私のキツイ視線にも怯まずに受け止め、ちゃんと目を見て話すイリアナさん。


「私、あなたが死ぬほど嫌いでした。正直、今でも嫌いです。ですが、あなたはエヴァンジェリンを助けてくれたと聞きました。守るために怪我をも厭わなかったと………」


そこで、少し言葉を切る。私は待った。何も言わずに。


「有難うございます。………そしてごめんなさい。許されるつもりはありません。私のしたことは子供じみていて愚かでした。する事の結果も考えず自分の浅墓な心だけで動いた………その責任はとらなければなりません。エヴァンジェリンが私にそれを気付かせてくれました」


泣きながら怒られて、それでもイリアナさんを愛していると言ってくれたエヴァンジェリンちゃんに自分がしてしまった事、裏切ってしまった人達の事を気付かされたと言うイリアナさん。まして、その小さい肩に今はヴァルレアという重たい責任を乗っけてしまった。


「敢えて言うよ。イリアナさんが前のままだったら私すぐ帰るつもりだったんだ。あなたのしたことはまだ許せそうにない。私にした事じゃなくて、あなたも言った通り、結果を考えなかった事。今回私もエヴァンジェリンちゃんも無事だったから良かったもののそうでなかったらもっと血が流れてたかもしれない。イリアナさんは責任のある立場だった。けど、その責任に気付いてなかった。あなたの所為で傷ついて迷惑のかかった人が何人いるの?」


その言葉に、目を瞑りそして再び開いたイリアナさん。


「数え切れない程に。両親にも不幸をしました。今も起きられない状態だとか。兄が帰ってきたら死ぬほど怒られますわね。それとも一生口を聞いて貰えないかもしれません。お兄様も………陛下も私を一生許してはくれないでしょう。ミーシャお姉さまもその他の方々も私を蔑んで当然です」


「他の人達がどう思うかなんて私には分からないよ。蔑んで当然かどうかはその人達が決める事だし、ディーさんが一生許さないかどうかもディーさんが決める事だもの。でも裏切った事は事実だよ。それは皆の中に残る。信頼を落とす事より信頼を回復する事の方が難しいんだよ」


「その御言葉ですと、私が信頼を回復できるような言いかたですわ」


「さぁ、それは分からない。けど、信頼を回復できるような生き方をして欲しいと思うよ。修道院に行けば罰が終わるんじゃない。イリアナさんは自分のした事と一生付き合わなきゃいけない。でもその罪に、罪だけに目を向けて後悔するだけの生き方をして欲しくない。後悔するだけなら誰でもできるんだよ。そこから学んでどう生きて行くかが本当の罪滅ぼしだと思うよ」


上手く言えないけど、とそう言うとはじめてイリアナさんが笑った。


「おかしなかた!あなたを傷つけた私にそんな事を言うなんて………少しだけ、陛下とエヴァンジェリンの気持ちが分かった気がしますわ。もっと早くにそういう見方が出来ていれば………結果も違ったのでしょうね」


イリアナさんが泣き笑いの表情になる。


「………式はいつ挙げますの?」


「式?何の事??」


「陛下と正式に結婚なさるのではなくて?」


なんで、そんな誤解をしたんだろう?キョトンとした私の顔にイリアナさんが不審げな顔をする。


「ミオン様は陛下の事………お好きですわよね???」


「えっ?なっ?!!!」


思わず顔が赤くなる。なんでバレタの???


「………なら結婚なさるのではなくて???」


「結婚なんて種族が違うし………私は元の世界に帰らないと………」


瞬間イリアナさんが固まってしまった。


「馬鹿ですの?!なんで想いあっているのに元の世界に帰るなどと!!!神々に帰るように言われたのですか?!」


いきなり激昂されて何の事だか分からず助けを求めてミーシャさんを見る。ミーシャさんも何か動転しているみたいで………。


「ミオン様!ミオン様は陛下の事お好きなのですか?!」


ミーシャさんにがっしり掴まれ叫ばれる。やーめーてー!!!そんな恥ずかしい事聞かないで!!!

真っ赤になった状態のまま前に後ろにガクガク揺らされる。そもそも想いあってるってナンダ?!ディーさんは私の事、猫の子ぐらいにしか思ってないのにー!!!

イリアナさんとミーシャさんと噛み合ってない深音。さて。

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