第5話 昔々のお話
昔々のお話です。ある所に銀色の毛並みにアイスブルーの瞳の美形の王子様がいました。
王子様は避暑地の森で出会った白い毛並みに緑の瞳の娘と恋に落ちます。
娘は至って普通の娘でしたが、何故か不思議な雰囲気を持っており王子様はそこに惹かれたのでした。
二人は仲睦まじく、来世でも一緒になろうね☆なんて言っていました。
当然の成り行きで娘に子供ができます。王子様は必ず迎えに来るからと言って森を去りましたが一向に帰ってきません。不審に思った娘が城に行くと、王子様は美しい姫君と結婚しておりました。
さて、ここまでは身分違いのロマンス譚とかでよくありそうな話。ここからが問題だった―――。
怒り狂った娘の愛は憎悪に変わりました。
娘は子供を王子様に押し付けると高らかに宣言しました。
『今後、この王家に生まれるお前と同じ色をした子供はこの国の誰とも添い遂げられない!!』
『このように!』
と娘が視線を向けた先には美しい姫君の石像が出来上がっておりました。
驚いた王子が娘に詰め寄ると娘は煙となって消えたのです。………娘は神々の一人だったのでした。
王子は慌てて聖所に行きましたが神々は呪いの解除を請け合ってくれません。
呪いを解いて欲しかったら当の女神を探せの一点張りです。
こうして王子様と似た外見をもつ王家の男は自国の者と結婚できなくなったのでした。
………という昔話が私が巻き込まれ、ディーさんがとばっちりをうけてる元凶らしい。
「なんっつー傍迷惑な」
「それだけ女神の怒りが深かったのであろう。だが確かに迷惑な話ではある。しかし、先人の愚かな所業を嘆いてもはじまらん。事は起こってしまったのだからな」
ディーさん大人ぁ。私だったら怒り狂ってる気がする。
だって、色が似ててその王子を思い出すからって言っても他の子孫は関係ないじゃん。
八つ当たりだよねコレ。しかも、その後の王家は王子と女神の子孫が継いでってる訳だし………。女神様ちょっとお怒りすぎです。
でもそれだけその王子様を愛してたのかな?
「ん? でも自国の民がだめなら、他の国の民じゃだめなの?」
「無理だ。種族が違うしな。何処の国にも異種婚譚が無いわけでもないが、皆子孫は残せてない」
他の国はオオカミさんの国だったり、ライオンさんの国だったり、ウサギさんの国だったりするらしいです。しかしディーさん、種族が違うってあなたと私もですよ??? そう言おうかとも思ったけど、どうせまた神々が―――以下略になると思ったのでやめといた。なんだかな。その流れだとますます結婚に意味がない気がする。私、完全に巻き込まれ損だ。もはや溜息しか出ない。神様は何のつもりで私をここに召喚したのか………。んんっ??
「そうだ! ディーさんっ。もしかしたら神様は呪いを解くために私を選んだのかも!!」
「どういう事だ?」
「だって今まで同じ種族だったのに全く関係ない種族の私がここに呼ばれるなんておかしいよ。きっと神様達は私に女神様を探させたいんじゃないかな??」
「確かに………」
そういったディーさんは何故かちょっと複雑そう。言いにくそうに視線を逸らす。
「しかし、神々の前ですでに誓約は成っている。我等はもう夫婦だ」
「………は?! 私結婚したつもりないよ?!」
「聖所で名を交わした。俺はお前を愛し護ると誓った。神々の前で誓約したのだ。変えられん」
なっんっつー事を!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
なんだこれ!!!
まだ結婚まで猶予があると思っていたらとっくに結婚していたと?!
「断固拒否!!! 撤回を望みますっ!!! 私了解してないもん!!!!」
「無理だと言った。酷な話だが召喚されてきた娘を逃さないようにする楔でもあるのだ………スマン」
なんて!!! なんて酷いシステム!!!
「――――っ………ディーさんのばかぁ!!!!!」
嘘泣きでなくマジ泣き入りそうです。ちょっとは信じてたのに!!! 完っ全に裏切られた~~~っ!!
怒りを込めてボッスンボッスンとディーさんを叩く。
「………すまん。ミオン………すまん」
元来、そう言うのがあまり好きではないのだろう。ディーさんが本当に申し訳ない顔で私を抱きしめる。
私はと言えば怒り心頭でまだディーさんを叩き続けてた。
結構、性格は好きだしなんとかやっていけると思ってた分、衝撃は大きくて………ちょっとだけ女神様の気持ちが分かった気がする。
ディーさんがあやすように背中を撫でてくれるけど、私は嫌々をし続けた。
実は結婚してました。深音怒り心頭中です。