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第53話 私の心の支え

時間は、16時59分。私がゼンマイを巻き忘れて少し時計が止まってたから今は17時15分位?エヴェンジェリンちゃんがいてくれて助かった。ゼンマイの事を気付いてくれたのもエヴェンジェリンちゃんだったし………。

光苔が照らしてくれてるとはいえ、こんな薄暗い閉鎖空間に一人きりだったらパニックになっててもおかしくない。エヴェンジェリンちゃんの存在は私の心の支えだ。そのエヴェンジェリンちゃんはと言えば、実はちょっとパニック中だったりする。表面上は普通なんだけど、ちょっと物音がしただけでも怯えてるし、私が話せないから沢山お話してくれるんだけど、不意に泣きそうになったり私の服の裾を離そうとしない。不安なんだよね?怖いよね?これからどうなるか分からないのだもの。

エヴァンジェリンちゃんは賢い子だ。だからこそ、余計に不安なんだとおもう。私達を捕まえている連中にとってエヴェンジェリンちゃんは本来必要ない存在だ。街を出るときに開放するつもりなのか、私と一緒に売ってしまうつもりなのか、それとも高貴な身分と分かって身代金誘拐とか、最悪邪魔だから………て事も考えられる。口には出さないけど、エヴェンジェリンちゃんもその可能性に気付いているみたいだった。


「ミオンお姉さま………もしエヴェンジェリンがお家に帰れなかったら………イリアナお姉さまの事許してあげて下さいね」


私はその言葉に目を見張った。この言葉の裏に『帰れない=死んだら』と聞こえたからだ。私はエヴァンジェリンちゃんのおでこをベシリと叩く。


「痛っ!!酷いですわ!!!ミオンお姉さま………」


そんな可愛い顔しても駄目です。お姉さんはそんな事許しません。ベシベシと床を叩いて抗議する。こう言う時言葉が出せないって不便だな。


『そんな事言うんじゃないの!!!私の国にはコトダマって言葉があるんだよ??口に出した言葉が現実を引き寄せるって。そんな事言っちゃダメ。どうせ言うなら帰れるって言葉にしなさい!!!二人で帰ってイリアナさんを怒らないといけないんだから!!!』


私が埃の上に書いた下手な字の長文をエヴェンジェリンちゃんは文句を言うでもなく黙って読んでくれた。相当、見にくかったと思うけど大きな目をパチパチさせて泣きそうなのを我慢して。


「そう、ですわね!!イリアナお姉さまを怒ってあげなければ!!!悪い事をした子は怒られなければなりません。怒る権利はミオンお姉さまに一番あると思いますわ」


一生懸命笑って言う姿が愛おしくなる。思わずギュッて抱きしめた。大丈夫。大丈夫だよ。きっとミーシャさんが気付いてくれて、ディーさんが助けに来てくれるから。でも、エヴェンジェリンちゃんの心が苦しいのは、この状況が不安なだけじゃないって知っていた。実のお姉さんがこんな取り返しのつかない事をしてしまった事が一番エヴェンジェリンちゃんを苦しめてるんだと思う。

今回ばかりは本当にイリアナさんを許せるか自信が無かった。浅墓な行動をして………何よりもエヴェンジェリンちゃんを巻き込んで傷つけた。それが、本意でなかったとしても、もう事は起こってしまったのだ。エヴェンジェリンちゃんの心には傷が残るだろう………。それを思うと本当に腹立たしい。

腹立たしくて涙が出そうだ。

そんな時、閉ざされた扉が開いた。覆面をかぶった男達だ。3人だったのが4人に増えてる………?どうしよう………3人だけじゃなかったの??外にも他に仲間がいるんだろうか???そんな不安を抑え、私はエヴァンジェリンちゃんを背後にかばった。


「コイツが商品か??………人と変わらねえ意志があるんじゃねぇか………不味いな………本当に売ったのは飼い主なのんだろうな???」


「そのはずだが………身なりのいい女だった。もう不要になったから売りたい、と」


「少し早まったかもしれねぇな。確かに非常に珍しいモノだが………計画を早めるぞ?うかうかしてればトラブルに巻き込まれかねん………って、もう一つトラブルの種があったんだったなぁ………」


そう言うと男の一人が回り込み、私の後ろにいるエヴェンジェリンちゃんを覗き込んだ。


「さて………この身なりの良い嬢ちゃんはどうするかねぇ………」


怯えたエヴァンジェリンちゃんが私にしがみ付く。どうやらこの男がリーダーみたいだ。この男の判断を仰ぐために男達はエヴァンジェリンちゃんを連れて来たんだろう。


「ん?嬢ちゃんは、なんであの場にいたんだ??この取引を知ってたのか???それとも偶然か??偶然て事はねぇなぁ………この商品ちゃんとオトモダチってわけか???」


益々萎縮するエヴェンジェリンちゃんを庇いながら私は男を睨みつけた。


「商品ちゃんは随分威勢がいいねぇ………こんな状況なのに随分肝が据わってやがる………まさか密輸の現場抑えて俺等をとっ捕まえる囮役の怖ーいお役人じゃねぇよなぁ???」


顎を手で持ち上げられる。覆面の奥の目が細められ、その場に緊張が走った。流石に身体が震えたけれど私は目を逸らす事はしなかった。視線を外したのは男が先だ。


「ま、役人だったら取り引きが終わった瞬間にコイツ等捕まってるだろうしな………」


興味がそがれたように男が呟くと、緊張していた部屋の空気が少し緩む。


「まぁ、そんな怖い顔しなさんなって。そっちの嬢ちゃんも怯えられるとオジサン苛めたくなっちまうからよ。まぁ、暫くの間は仲良くしようぜ?暫くの間は、な」


意味ありげに呟くと男達は入って来たのと同じように出て行った。緊張が解けて思わず座り込む。あの男が余程怖かったのだろう。エヴェンジェリンちゃんは泣いていた。その背中を落ち着くまで撫でてあげながら私は、自力でここから逃げ出すのは難しいと悟った。あのリーダーの男、油断できない。せめて移動する時にはいなくなってくれてればいいんだけど。

怪しい連中だとは思ったけれど密輸業者だったのか………私が売られる予定の大公って人の事も気になるけど………いよいよ、エヴェンジェリンちゃんの立場が危ない………。ただの運び屋程度に考えていたけど、密輸って事は完全に犯罪者だ。あの男の雰囲気を見ると今まで何をしてきたのか分からない。こんな幼い子でも躊躇なく殺すかもしれない………私は湧き上がる不安と闘いながら唇を噛み締めた。

お願いディーさん………早く助けに来て!!!

リーダーの男の指示で計画が早まる事に。ディーさんは間に合うのか?

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