第45話 お城に帰ってきました
やっとお城に帰ってきました。予定より1日遅れ。ミーシャさん、ジュド―さん、レンブラントさん、ジラルダさんにはディーさんの呪いが解けた事を伝える。皆一様に驚き、喜んでくれた。それとディーさんとの婚姻の誓約も解けた事を言うと、今度は皆が一様に複雑そうな顔をする。リン先生達にもまだ言ってなかったので、少々ショックを受けたようだった。妃殿下として皆に受け入れて貰ってたのだなぁと実感。ミーシャさんにだけは私がもしかしたら元の世界に戻るかもしれないと言っておいた。ミーシャさんはとても驚いた顔をした後に「ミオン様のお望みの通りに」とだけ言ってそっと抱きしめてくれる。あぁ、心が揺らぐ。残りたいって言えれば良いのに。期限は2週間程。それまでに覚悟を決めなければ………。ディーさんは帰って早々溜まっていたお仕事を捌かしに執務室へ。私はミーシャさんと庭に出て、ディーさんの誕生日プレゼントをどうするか話し合っていた。
「洋服は違うしなぁ………何か身につけられる物とかがいいんだよね。それでいて長く使える奴」
「装身具ですわね。いいと思います。つける石によっては魔除けや何かの意味を持たせられますし。陛下は男性ですからあまり派手なものでない方がいいとは思うのですけど」
「ピアスはつけてないし………指輪とか腕輪でもないしね?うーんカフスとか?なんか違うなぁ………」
「そうですわねぇ………陛下はあまり宝飾品をおつけになりませんからね。カフス辺りは妥当かと思うのですが………しっくりきませんか?」
「うん………なんかね………」
さんざん悩んだ挙句、剣の柄頭につける脱着式の飾りと儀礼式典用のタイピンを贈る事にした。問題は時間があんまりない事か。石を選んでデザインを考えるには時間が足りない気がする。ミーシャさんにお願いして2週間位で作ってくれるお店を探す事にしたのだけど………。
「ミオン様の首飾りの職人にも聞いてみましょうか?」
「えーっと、ジョージ・ロペスさんだっけ?………この人のデザイン好きなんだよね………お願いできたら嬉しいけど………何処にいるかも分かんないよ?」
「ヨランダが見つけたそうです。ミオン様が森にお出かけの間に報告に来ましたから。コラボと言うのを一緒にやる事になったそうですよ?他の職人もいますが」
「そうなの?!ヨランダさん仕事早いなぁ………じゃあ、聞いてみて貰っていい??」
ミーシャさんがヨランダさんに連絡を取ってくれ、更に打ち合わせのために王都に来ていたジョージさんが捕まったのはなんと3時間後。あれよあれよという間に作って貰う話になってヨランダさんとジョージさんがデザインを決めるためにお城に来てくれた。
「なんか凄いタイミングだったね」
「私もびっくりよぅ!!ミオン様こちらがジョージ・ロペスさんよ」
「は、初めまして、妃殿下!!!」
かっちんこっちんのまだ若い男の人………ひょろりとしたこげ茶の虎さんがジョージさん。急に呼び出されてビックリだよねぇ。
「急に呼び出したりしてごめんなさい。ヨランダさんもごめんね。お仕事の打ち合わせ中だったんでしょ?」
「良いのよう!!ミオン様のお願いなら大抵の事は聞いちゃうわ!!!まぁ、今回は私おまけみたいなものだけど。柄頭の飾りと儀礼用のピンでしょう?陛下の着る物は私がデザインしてるから協力できる所もあると思って」
「うん。金属と、石だけじゃなくて鎖とか、紐みたいのとかも使いたいから………ヨランダさんの出番もあると思うよ」
「あら嬉しい。そしたら陛下への誕生日プレゼントが初コラボ作品て事になるかしらねぇ」
「ひ、妃殿下のご要望はどのような感じでしょうか?」
「お守りになれば良いって思うんだけど………そういう石と意匠ってなにかあるかな?」
「石でしたら魔除けであればレガス、この黒い石ですね。他にもアルス………この緑の石が癒しや健康祈願、ルージャという黄色い石は浄化や幸福、エランというこの薄桃色の石は慈愛と安寧をもたらすとされています。意匠では竜が繁栄と浄化、六花弁のセルジャの花が幸福の祈り、五花弁のシルスの花が長寿、ジュマロの木が魔除けですね」
石の見本と竜や草花の絵を見せてくれながらジョージさんが言う。結構色々あるなぁ………どれにしよう?そこから皆で額をつき合わせて、あーだこーだと話し合う。最終的なデザインは、剣の柄頭に装着する物が、透かし彫りで竜………西洋のドラゴンみたいなもの………の意匠を施したものに竜の瞳を黒い石のレガスにして柄頭の頂点から房つきの組み紐を垂らして房の少し上にセルジャの花の意匠をつけた物にしてもらい、儀礼式典用のタイピンは右側をジュマロの木の意匠、左側をシルスの花の意匠にし、間を鎖と組み紐で繋ぐ。ジュマロの木の実の代わりにエランの石とルージャの石を嵌めシルスの花の葉っぱにアルスの石を嵌めこむ。結局さっき見せて貰ったものを全部使った物になっちゃった。だってディーさんには長生きして欲しいし、良くない事とか少ない人生送って欲しいし、幸福であって欲しいから。ちと欲張りすぎたかな?でも、私の代わりに少しでもディーさんを助けて欲しいもの。まぁ、いいよね?
ヨランダさんには組み紐とこれらを入れるケースをお願いした。使わない時は見ても楽しめるように箱の中を落ち着いた感じの赤紫の布をキャンバス地に仕立てて、蓋の部分をガラスにして貰い、周りの箱を額縁のように加工して貰う予定。
「見せる宝石箱っていうのも良いわね………コラボのお店でこれも売っちゃおうかしら?」
ヨランダさんがそう言えばジョージさんも頷く。
「商品を飾ってある箱ごと売るのも面白そうですね!!!」
この頃には緊張もほぐれて来たのか、ジョージさんの顔にも笑顔が見えるようになっていた。
「………さっきから気になっていたのですが………妃殿下の首元にある首飾りは………」
「うん。ジョージさんの作品だよ。ちょっと訳あってオアシスに流れついていたのを買って貰ったの。とても気に入ってマス」
「やはり!!!依頼主の方が意気消沈してあれは売ってしまったと………僕が独立して初めて作った作品なんです。思い入れも深くて………誰の元に行ったのかとずっと気になっていたんですけど………妃殿下の所だったんですね!!!」
興奮気味にいうジョージさん。そんなに思い入れのある作品だったんだ。そんな話を聞けば、よりこのチョーカーを大切にしようと思えた。
「そう言えば、言ってなかったけど、あなたとコラボ出来たらって思ったのはミオン様の首飾りを見たからなのよね………」
そう考え深げにヨランダさんが言えばジョージさんは飛び上がらんばかりに驚いて。
「それが縁でここでこうしていられるなんて………僕には夢のようです!!!」
「ジョージさん、大切に使うね。私、ジョージさんのデザイン好きです。これからもいいもの作って下さいね」
「妃殿下………ありがとうございます!!」
ジョージさんに握手され手をブンブンと振られました。相当感激してくれたみたい。ディーさんへのプレゼントも宜しくお願いします!!!
ヨランダさんとジョージさんを見送るため庭に出る。ディーさんへのプレゼントを二人に宜しくお願いしてから別れるとミーシャさんと二人庭を散歩。
「………なんかまだ実感わかないやぁ………ディーさんの呪いが解けて、婚姻の制約も無くなったって」
「目に見える物ではありませんしね」
「そうなんだよね。目で確認できれば実感わくと思うんだけど………何だか夢みたい」
「そうですねぇ………私も不思議な気持ちです。王家を悩ませた呪いがもうないなんて………」
だよねぇと言って二人笑いあう。しかし、私はこの時気付いて無かった。ここでこんな話をした事を後で後悔するなんて………。一応重要事項を庭の片隅でベラベラしゃべるもんじゃないって事です。後悔先に立たず。
後悔先に立たず、何があったのでしょうか?




