第43話 心の奥には
帰り道、リン先生達と合流。呪いが解けた事を伝えると皆が喜んでくれた。私も笑顔を浮かべながら皆と喜びを分かち合う。でも心の奥には、澱のような不安が溜まっていくのが分かった。今日はもう遅いので最初にテントを張った所に一泊。ご飯を食べて、今は焚火を囲んで一休み。お茶を飲みながら今後の事を話し合う。
「暫くは、呪いが解けた事を公表しないようにしようと思う」
そう言ったのはディーさん。
「何故です陛下?こんな喜ばしい事なのに………」
ラムザさんが不思議そうにそう言った。
「確かにな。しかし、まだすべてに片がついた訳ではないし………俺自身、気持ちの整理がつかぬ事もあるからな」
私が元いた世界に帰るかもって事はまだ言ってない。ほぼ帰る事になると思ってるケド、私自身、ちゃんと結論が出せてないからね。次の満月………2週間後らしいケド………までは黙っとくつもり。2週間後か………。せめてディーさんの誕生日まではいたいなぁ………2週間とちょっと後なんだよね。豊穣祭は参加できないかもしれないけど………ディーさんと一緒に回ろうって約束したんだけど、な。
「………陛下の仰せのままに。良いではないですか?期を見る事も重要でしょう」
そう言ったのはリン先生。何か察する所があったのかディーさんを見つめて微笑んだ。さっきから、ディーさんはあまり嬉しそうじゃないんだよね。呪いが解けたっていうのに………。一番喜んでいいはずの人なんだけど………。時折、寂しそうに微笑むだけで元気が無い。リン先生達もそれを心配しているみたいなんだけど、ディーさんは理由を言う気は無いみたい。私もディーさんは心配だけれど、私自身が混乱中だからなぁ………。はぁ。ディーさんの誕生日には、せめて私の事忘れないでいて貰えそうな物をプレゼントしよう。私の代わりにそれ位この世界に残して言ったっていいよね?
後片づけの時間、エルザさんと一緒になった。水袋から水を出し食器を洗うエルザさん。私はその食器を拭く係だ。そんな中、言いにくそうにエルザさんが私に声をかけた。
「ミオン様………陛下も、あなたも様子が変です………何があったのですか?」
本当なら、踊り出してもいい位に喜んで良さそうなのに、二人して落ち込み気味なのを気にしてくれたみたい。まぁ………誰でも気になっちゃうよね?
「う………ん………ディーさんの事は良く分からない。私にも何も言ってくれないし………私は………女神にちょっと選択を提示されたというか………ごめんね。まだ結論出せてないから言えないや」
言葉を選んでそう告げる。適当に言って混乱させるのは悪いしね。
「そうですか………結論が出たら私達に教えてくれますか?」
「うん。ちゃんと言うよ?心配してくれたのに、ごめんね」
「いいえ、とんでもない。陛下も、ミオン様も早くお心がかりの事が解決するといいですね………お役にたてる事があればいつでも言って下さいね?」
「ありがとうエルザさん」
にこりと微笑めば、エルザさんも微笑んでくれる。それだけで心強かった。
テントに戻れば、ディーさんはまだいない。外を見るとリン先生と話しているようだった。私はそのままテントに入るとボーっとしながら膝を抱えてた。するとディーさんが戻って来る。
「大丈夫かミオン?」
「ん?大丈夫ですよ??ちょっと色んな事があって疲れてるだけ。ディーさんこそ大丈夫???」
「大丈夫だ」
前ほどキてないけど十分大丈夫じゃなさそうなんだけどな?まぁ、ディーさんの事だ。大丈夫を撤回する気はないんだろう。
「ミオンは………あちらに帰ったら何がしたい?」
「………あっちに帰ったらかぁ………正直、考えてなかったなぁ。戻れるって事は考えて無かったし」
ずっとこっちにいると思ってたからね。
「そうか………俺も一度見てみたかったな。ミオンの故郷」
「全然違うから腰抜かすかもよ?でも私はこっちの方が好きだなぁ………」
その言葉に、ディーさんが意外そうな顔をして私を見る。
「なら………」
そう言いかけてディーさんの言葉が止まる。
「いや、なんでもない」
「?」
「ミオンがあちらに帰れば寂しくなるな………せめてそれまでは笑って過ごせたらと思う」
「ん。そうだね。私も笑って過ごして楽しい想い出に出来たら嬉しいな」
私も寂しいという言葉を飲み込んで精一杯の笑顔で言う。
「ミオン………」
そっと抱きしめられて身体を預ける。きゅうっと抱きしめられれば寂しさが少しだけ薄れる気がした。
「俺はきっとお前の事を忘れない。一生だ」
「私だって、ディーさんの事忘れないよ。こんなビックリ経験したのに忘れたりなんかできないよ」
あ、しまった。ちょっと涙声になっちゃった。なんかここ最近涙腺が緩いなぁ自分。もっとしっかりせねば!!!
ディーさんの腕の力が強くなる。
「泣くなミオン………お前が泣くと俺は………お前が泣く原因をすべて叩き壊したくなる」
唸るように言われれば思わず笑いがこみあげて来た。ディーさんごめん。
「ふふっ。ディーさんてば。過保護だね?大丈夫だよ。私は強い子だし。最近ちょっと涙腺緩いケド。今までだって大丈夫だったし………これからだってきっと大丈夫だよ」
そう言ってディーさんを抱きしめる。大丈夫。大丈夫。以前の日常に戻るだけだもの。きっと私はやって行ける。
「そうだな………ミオンは強い。だが、同じ位に弱い。だから心配なんだ………この世界にいるうちは俺が護ってやれる。しかし元の世界に戻れば俺は護ってやれん」
「そんな心配しててくれたの?へーきだよ。大丈夫。友達が一人もいない訳じゃないし………きっとどうにかなるよ。それに離れていてもディーさんや他の皆が私の心の中にきっと居てくれるもの。大丈夫。大丈夫だよ」
あやすようにそう言えば苦笑した感じのディーさんが溜息を吐く。
「そうか………俺達が居るか………」
それはきっととても心強い。私の心のお守りになるはず。
ディーさんは私を抱きしめる手を緩めて真正面から見つめると囁くように言った。
「例え、離れて二度と会えなくなろうとも、俺はミオンの幸福を心から祈り続けるだろう」
「私もだよ。ディーさんと皆が幸福でいてくれれば良いっていつでも祈ってる」
照れたようにそう言えばディーさんの思いつめたような顔が目の前にあって。
「ミオン………アガーシェ」
「?あがー??ってナニ???」
「秘密」
どこか、寂しそうに満足げに言うディーさんはスッキリした顔でそう言ったけど、私には何が何だかさっぱりだった。
さっぱりだった言葉の意味はディーさんの小話で。