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第41話 心許ない感覚

心許ない感覚。まるで墜ちて行くみたいに………。暫くそれが続いた頃、暗闇に映像が流れ始める。それは記憶にない両親の姿。幼い私をあやしている。思わず、手を伸ばしかけた瞬間それは消えてしまった。まるで走馬灯のように映像が流れては消える。両親の葬式、何も分からない私がキョトンとした顔をして座布団の上に座っている。市の職員さんに連れられて孤児院に連れて行かれる私。ここで私は高校まで過ごした。懐かしい顔………皆今頃どうしているだろうか?急にいなくなった私の事を心配してるかもしれない。時は過ぎ、大学に入った私。孤児院の友達に手伝って貰って引越をした。初めての一人暮らし。最初はとっても寂しく感じたっけ。人の気配が無いっていうのに慣れるのに時間がかかった。そして、ディーさんとの最初の出会い、ミーシャさんやリン先生、色々な人との出会い………流れて行く映像の中でキラキラ輝く幸せな一時。


『かあさま………かあさま?どこ??』


『僕は要らない子なの………?』


唐突に幼い声が聞こえて場面が変わる。私の読んだ王子の日記………。その文面が暗闇に浮かぶ。


『愛しいティレンカ。君に会う事は二度とないのか?いや私は再び君に会える事を信じている。誤解さえとければ、親子3人で暮らす事もできるはずだ。君と出会ったあの森の泉を再現しよう。君と触れ合ったあの泉を。城の奥に小さな森がある。あそこがいいだろう』


女神の記憶と混ざっているのか、その文面は呪われた王子の肉声を伴って聞こえた。


『君を思って花を作った―――』


『君に捧げる泉ができた―――あの子も母親に会いたがっている。ティレンカ僕も君に会いたい』


聞こえる声は切なさを伴って辺りに響く。


『ディークラウドが最近、自分が母親に捨てられたと思っているようだ………―――ティレンカ。どうか出てきてあの子を愛してると言って欲しい』


『病に罹った。私はもう長くないだろう。唯一の救いは君と僕の子が立派に成長してくれた事だ。―――あの子を見ればきっと君は誇りに思ってくれるに違いないのに。この命尽きるまで、私は君の泉に通おう。最後に一目君に会えると信じて』


『愛するティレンカ、愛するディークラウド………私の宝』


ピシリ、ミシリと微かに音がする。声が変わった。幼い少年の声。


僕の名前はディークラウド・ウル・ガ・エルディス・ルーヴェンシア。女神の息子。父上はこのまま自分が愚かだった事にして神話を書かせるようだけれど、僕はそれは我慢できないのでお願いしてこれを残して貰う事にした。いつか誰かがこれを見つけて父上の哀しみを理解してくれるように。

父上は、母上を裏切る気なんて全くなかった。あの森に戻るつもりでいたんだ。だけど、僕のおじい様はそれを許さなかった。身分もない、森で出会っただけの小娘を王妃に据える気はなかったんだ。

だから、父上を幽閉し、又従兄妹の女性と無理矢理結婚させ母上が僕を連れて来た時、王子は喜んで又従兄妹と結婚したと嘘を吐いた。

後は、神話の通りだ。怒った母上に、又従兄妹の女性は石にされ、父上は呪いを受けた。おじい様はあまりの事態にお倒れになり、結局父上が王位を継いだ。

父上は、呪いをかけた母上を今でも愛している。傷つけてしまったと哀しんでいる。母上はが住んでいた森は消えてしまってもうない。父上は母上に呼び掛ける術を失ったとおっしゃる。森の泉がもうないからだ。僕にも、済まない事をしたと何時も言う。自分の所為でお前は母の愛を知る事ができないと。

でも僕は、母上の誤解が解ければきっとここにいらしてくれると信じている。父上は、近々泉を再現するとおっしゃっていた。そうすれば母上に心が届いてお怒りをといてくれるかもしれない。僕はきっとそうなると信じている。


ビシリと空間に亀裂が走る。亀裂はどんどん大きくなってついに弾けた。光が溢れる―――その中心にいるのは膝を抱えた女神。私は、そっと女神に近づいた。女神の肩は震えている。子供のように泣いているのだとわかった。


『妾は………目を耳を全てを閉ざした。もう何も聞きとうないと………』


私は、女神の傍に寄り添い、いつかディーさんが私にしてくれたようにそっと背中を撫でる。傷ついた女神は、ずっと心を閉ざして眠っていたのだ。癒える事のない傷を抱えながら………。でもそれは間違いだった。呪いの王子のお父さんがした事ですべての歯車が狂ってしまった。呪いの王子は、女神を愛し続けていたし、ディークラウドも王子女神を慕っていた。愛されていないっていう誤解はしたけど。


『妾は取り返しのつかぬ事をしてしまったのだな………』


チャンスは幾らでもあった。ただ、女神のプライドが邪魔をして聞く耳を閉ざしてしまっただけ。二人は死に、もう二度と会う事はない。どす黒い何かが女神を包む。身のうちから湧き出る今までの怨嗟の声と後悔の念。それらの入り混じった何か。


「駄目だよ!!その気持ちに支配されたら………また同じことの繰り返しになるよ!!」


その声に女神が顔をあげる。まるで迷子になった子供のような顔。手にはどす黒い何かが握られているのが分かる。コレが元凶。女神の捨てられなかったプライド。


「手を開けて!!!」


『駄目じゃ………妾はこれを捨てられぬ。何百年も妾はコレと共にあったのだ』


「捨てられるよ!!!捨てなきゃ駄目なの」


私はそう言って女神の手を開こうとする。瞬間激痛が走った。それでも我慢してその手を開こうとし続ける。


「?!」


『やめよ!!異界の子。そなたの魂が壊れるぞ?!』


「そんな、人の魂が壊れるようなもの後生大事に持たないで下さい!!!こんなあなたを呪いの王子も、あなたの息子も望んだりしてない!!」


最後まであなたを愛してると言った人達だもの。そんな事望んで無いはず。


『妾は自分が許せない!!!これは罰じゃ』


「でも、王子達はあなたの事きっと赦してるわ!!!ティレンカ!!!」


瞬間、女神の手に大きな手と小さな手が重なった。半透明のその手―――。キラキラと輝いてどす黒い塊をゆるゆると溶かしていく………。女神の目から涙が零れた。


『セイウス………ディークラウド………』


微笑んだ彼女に呼応するようにその手は一際強い光を放つと辺りを純白に染めた。身体の輪郭が分からない。光の嵐に巻き込まれ、私の意識は再び途切れた。

呪いの王子、やっと名前を呼んで貰えました。誤解が解けて良かったね。

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