第39話 森に乗り込みます
昨日のディーさんのお仕事は順調に進み、大した問題もなく一夜明けて今日。遂に森に乗り込みます!!!編成は昨日のとおり。リン先生、エルザさんと初めてお目にかかるラムザさん―――灰色の毛並みにキリリとしたレモン色の目のお兄さん。ディーさんもどちらかと言うとガッシリ系なんだけど、ラムザさんはガッシリと言うよりマッチョという言葉が似合う御仁だった。私、あの二の腕にぶら下がれる気がする。軽く挨拶を済ませ、荷はダチョウみたいな鳥さんの背に載せる。森の中がどうなってるのか分からないから馬は連れて行けないそう。この鳥さん―――飛べないからまんま地鳥って言うらしいのだけど、この地鳥は岩山等足場の悪い所でも歩けるんだって。地鳥は2羽。それぞれエルザさんとラムザさんが手綱を持ってくれてる。私達は、ミーシャさん、レンブラントさん、女官長のジラルダさん、ヨランダさんにゼファンさん、そしてこっそり来てくれたエヴェンジェリンちゃんに見送られてひっそりと森へと入って行った。朝早く、まだ薄暗い森には薄く霧がかかっていてまるで異界に踏み込んだ気分。そしてかなり肌寒い。まだ秋で良かった。冬になってたら春が来るまで森の捜索は出来なかっただろう。
「ミオン寒くないか?」
「へーき。このコート暖かいもの」
そう言ってモコモコのコートの襟を正す。皆、同じようなコートを着ている。バウムと言う生き物の毛で織られたそれは、寒くなればなるほどに暖かくなる素敵素材らしい。
「妃殿下、足元にお気を付け下さい。昨晩雨が降ったので所々ぬかるんでますからね」
「有難うエルザさん気をつける」
そう言って微笑めばまぶしい笑顔。エルザさんは今日も素敵です。
「しかし、妃殿下の世界には素晴らしいモノが御有りですね。この『ほーいじしゃく』ですか?冒険家や採掘屋が喜んで欲しがりますよ」
そう言ったのはラムザさん。方位磁石を預けてるんだけど、何で必ず北を向くのか不思議でしょうがないみたい。
「そうなのかな?」
「喜ばれると思いますよ?冒険家の方も、採掘屋の方も未開の地に踏み込んで遺跡や鉱脈を探すのがお仕事ですからね。太古の森に分け入ると言う事は方向を見失えば死ぬ事になると言う事です」
リン先生がそう言えば、ディーさんも頷く。
「今度、もう少し頑丈そうなものを開発部に作らせよう。上手く民に行きわたれば冒険家や採掘屋の死亡率も下がるかもしれん」
そんな重大な発明でしたか!!!まぁ、海や山とか方角間違えた所為で生死決まる事って多々あるみたいだしな………。これで死亡者が減ってくれるなら嬉しい限り。
進んでいくうちに陽が昇り、霧が晴れて来た。目覚めた鳥達が歌を歌い始め、森が息吹を吹き返す。
木漏れ日がキラキラとまだ紅葉していない緑の葉を透けてとても綺麗。
「晴れて良かったですね。このまま天気が持ってくれればいいのですが………」
そうエルザさんが言えば、リン先生が大丈夫でしょうと言って頷く。
「昨日、気象官のザレフに聞いてきましたが、4日間は大丈夫だそうです」
「それは良かった。秋とは言え夜は冷える。雨に降られれば行軍にも支障が出かねない。気象官殿が言っていたのなら大丈夫でしょう」
皆が笑ってその場が和んだ。気象官って言うのはそのまま、天気予報士さんみたいなもの。雲の形や流れ、季節などの様々な要因から天気を予想する。そのほかにもフュロスという木の実が白から赤にかわる年は疫病が流行るとかそう言った研究をしている人達らしい。的中率はかなり高いのだとか。
「そんなに奥じゃないといいんだけどな………あの地図だと分かりにくくて」
「そうだな。この森は案外広いまぁ、2日で足りるとは思うが………」
「一応携帯食は余分に持ってきています。仮に、迷子になったとしても1週間は持ちますよ」
そう言ったのはリン先生。流石です。
「そうか。なら安心だな。まぁ、『ほーい磁石』があるから迷う事はないとは思うが」
うーん。こっちの人は何故、方位をほーいと呼ぶのか………製品化するなら別の名前を考える事を勧めよう。『ほーいじしゃく』ってなんか間抜けに聞こえる。
行軍は続く。私は着いて行くのがやっとの状態。進んで行くのにつれ、大樹と化した木の根がそりゃあもうこれでもかって位に行く手を邪魔しているからだ。ディーさんが手を貸してくれなきゃ登れない所も多々あった………。動きやすい服と靴で来て助かった。深い森って言ってもこんなサバイバルな森じゃなくて普通の森を想像してたよ。
途中、2回休憩を挟んでお昼御飯を食べ、今は夕暮れ。今日はココでキャンプとなります。森の感じがだいぶ苔むしてて古くなって来ているから、泉もそんなに遠くではないと思うんだけど。夜の森はかなり真っ暗になるし、早めに開けたここにベースを作る事にしたらしい。
テキパキと、エルザさんとラムザさんがテントを張ってくれているのを見ながら私とリン先生でお茶を淹れる。ディーさんは、袋からゴソゴソと携帯食を出している。携帯食は兵糧米と言うやつで乾燥した炊き込みご飯のようなものがスティック状になったもの。パリパリしていて美味しく、一緒に水分をとるとお腹の中で膨らんでとっても腹もちがいいんだって。夜は時間があるからそれを雑炊にして、干し肉を割いて入れて更にリン先生が道中拾っていた木実やキノコを足して美味しく頂きました。
「ふー、御馳走様でした。とっても美味しかったです。やっぱり冷えて来ると暖かいモノをお腹に入れた方が身体がポカポカしてきていいね」
今日の料理はリン先生。とても美味しゅうございました。
「うむ。美味かった。道中拾った木の実をどうするのかと思ったが、夕飯のためだったとはな」
「コカの実やシュルの実は栄養価が高くて疲労回復の効果もあるんですよ?携帯食だとどうしても栄養が足りなくなりますからね。現地調達です」
「流石はウェリン殿。相変わらず博識でらっしゃる。我が妹があなたの崇拝者でしてね。良く聞かされるのです。私はどちらかと言うと体力専門な上どうもガサツなもので、『お兄様も少しはウェリン様を見習えばいいのに!!』が妹の口癖でして………」
「それはどうも………いやお恥ずかしい」
リン先生、どうやら照れちゃったみたいだ。エルザさんと目が合って思わず二人微笑む。
「出来たら一度、妹に会ってやって下さいませんか。出来ればその、見合いと言う形で………」
ラムザさんって妹さん想いなんだね。しかし、いきなりお見合いとは!!!
「残念だったなラムザ。リンには随分前から想う相手がいるのだ。妹御には諦めて貰え」
「へ、陛下!!!」
ディーさんの言葉に慌てたリン先生。もう少しでお茶のコップを取り落とす所だった。
「あら、では今までどなたのお誘いもお受けにならなかったのは、想う方がいたからなんですね」
そうエルザさんに言われて真っ赤になったリン先生が恨めしそうにディーさんを見る。
「いやぁ、賢者とも言われるウェリン殿の心を射止めた幸運な女性は誰なんですかな?」
妹の事は横に置いてワクワクした感じでリン先生にラムザさんが聞く。私も思わず興味津々でリン先生に注目してしまった。
「淑女でとても優しい女性です………。勘弁して下さい。皆さんに言えるくらいならその女性にとっくにい想いを伝えております」
あまりの動揺ぶりに流石に可哀想になってこの話は無かった事に。でも、リン先生の好きな人って本当に誰だろう?うー。気になる!!!人の恋バナ聞くの好きなんだもの。まぁ、デリカシー無く無理矢理聞いたりはしないけれど。いつか、その人と恋人同士になれるといいね、リン先生!!
さて、夜も深まって来たのでテントに行く事に。火の番はリン先生、エルザさん、ラムザさんが交代でやってくれるみたい。有難うございます。少し申し訳なく思ったけど、私じゃ番にならない自信がある。絶対寝て火を消しちゃうよ。なので、その場をお願いしてディーさんとテントへ。
夜中、ふと目を覚ますとチラチラとテントの周りを何かが飛んでいた。青く光る………何だろう。
「気になるか?」
隣でディーさんのささやき声。
「起こしちゃった?」
「いや、さっき起きてしまってな。少し考え事をしていた」
「そっか………これなんだろう?凄く綺麗」
「夜光虫だ。深夜、月が中天にある頃出てくる」
「あぁ!これが」
「見てみるか?」
そう言ってディーさんテントの裏口をそっと開ける。そこには夜の闇に浮かぶ青く綺麗な光があった。儚げな輝きが上に下に飛びながら森を仄かに照らし出す。
「きれーい」
瞬きも忘れてディーさんに寄り添って見る。まるで妖精のいる世界に入り込んでしまったよう。二人、肘をついて寝そべったまま暫くそのままで………。肌寒さなんてどこかに忘れてその光景に見入っていた。
森で一泊。泉はもうすぐ、のハズ。