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第37話 呪われた王子の日記

持って帰った日記を読んだ。どちらもかなり分厚いけれど、先に手を取ったこちらは少年ことディークラウド王子の日記だったらしい。最初は拙い字で母親に会いたい気持ちが沢山書かれている。そこには父親を恨んだりする気持ちは一切なく、むしろ凄く心配して労わる気持ちが切々と書かれてもいた。

しかし後半になるにつれ、文字も大人の字になって来ると、そこに書かれているのは女神に対する諦め。自分が捨てられた子供であるという劣等感にすり替わって行く。私は夢で女神の哀しみを体験したのだから、プライドが邪魔しただけで決して捨てたかった訳じゃないと言いたいけれど、死んだ人に伝えるすべは持たない。かなりやるせない気持ちにさせられた。締めくくりは短く、病で死んだ父の無念と自分の母への思慕を封印し、今後泉に誰も入れないようにしたとの記述があるだけ。どうやら、泉は呪われた王子の手によって作られ、息子のディークラウド王子の手によって封印されたらしい。

次に手に取ったのは呪われた王子の日記だった。


『愛しいティレンカ。君に会う事は二度とないのか?いや私は再び君に会える事を信じている。誤解さえとければ、親子3人で暮らす事もできるはずだ。君と出会ったあの森の泉を再現しよう。君と触れ合ったあの泉を。城の奥に小さな森がある。あそこがいいだろう』


森って何処だろう?今あるのは、何代か前の王様が作った森だよね?かなり大きいし。


『君を思って花を作った。白い花弁、中心を君の口のようにピンクに染めた花だ。レンカの花と名付けた。君に見せる事ができればいいが』


レンカの花って呪いの王子が作ったんだ。女神の名をとって名付けたんだね………。


『君に捧げる泉ができた。ディークラウドと共に泉を散策する。ここが父様と母様の出会った泉を再現した場所だと言うととても嬉しそうに微笑んだ。執務で私がいない間に爺やを連れて度々泉に行っているようだ。あの子も母親に会いたがっている。ティレンカ僕も君に会いたい』


ディークラウド王子と爺やさんが度々行ける距離に森なんてあっただろうか?いや無い。


『ディークラウドが最近、自分が母親に捨てられたと思っているようだ………私が不甲斐なかったばかりにティレンカと同様、この子まで傷つけてしまった………決してそのような事は無いと言ったものの、私が言った言葉はあの子に響かない。ティレンカ。どうか出てきてあの子を愛してると言って欲しい』


呪いの王子の切実な願いが書かれている。この頃から、ディークラウド王子は女神に捨てられたと思いこんだようだ。


『病に罹った。私はもう長くないだろう。唯一の救いは君と僕の子が立派に成長してくれた事だ。18とまだ若いが王として立つのに不足はない。あの小さかった子がとても賢い青年になった。民からも臣からも慕われている。この国は安泰だ。残念なのはその姿を君に見せられない事だ。あの子を見ればきっと君は誇りに思ってくれるに違いないのに。この命尽きるまで、私は君の泉に通おう。最後に一目君に会えると信じて』


最後まで諦めなかったんだね………。日記の一番最後には、もうペンを持つ力もなかったのか震えた文字でこう書かれていた。


『愛するティレンカ、愛するディークラウド………私の宝』


そこには、女神に対する恨み事は一切なくて、彼がただ一途に一人の女性と息子を思い続けた最後だったのだと実感した。日記を閉じようとして、裏表紙の部分に何かはさまっているのに気付く。二つ折りにされたその紙には幼い子供が描いた絵が―――寄り添う女神と呪いの王子、そして真ん中に一人の男の子が絵描かれていた。おそらくはディークラウド王子が描いたものだろう。

そしてもう一枚の紙にあったのは大人の字と子供の字が混じって描かれた地図。このお城を中心に今は裏にある森のある場所の、更なる奥に小さな森と泉が描かれていた―――。


「泉は森の奥ですか………確かに、迷うから奥には行くなとされてますから………あっても誰も知らないというのは不思議ではありませんね………」


「ディークラウド王子が封印したって書いてあるのも気になるんだけどね。でも、空を飛んだ時には泉なんて気付かなかったなぁ」


「多分、森に隠れてしまってるんですわ。奥に行けば行くほど、木々が成長していて昼でも暗い状態ですからね………」


そう言えば、ミーシャさん達、森で迷子になったんだっけ。


「じゃあ、空から探すのは無理そうだね………。森で迷った時は何も見なかったの?」


「えぇ………残念ながら。泉らしき物は何も………」


ミーシャさんが覚えているのは、森の中で夜、夜光虫が飛んでいて幻想的だったと言う事と、帰ってからたっぷり怒られた事位らしい。後で一応ディーさんにも何か覚えてるかどうか聞かなくちゃ。お昼はとっくに過ぎたんだけど、今日はお客様とかでディーさんはまだ帰ってこない。多分帰って来るのは夜だろう。


「それにしても、迷子になる森の中でどうやって女神の泉を探すかなぁ………」


「そうですねぇ………この地図で大まかな位置は分かるとしても森は広いですし一度迷うと方向が分からなくなりますしね」


「この世界は方位磁石ってないの?」


「方位?なんですか??」


「方位磁石。んーと、毎回北の方角を指す道具かな?」


「ミオン様の世界ではそんな物があるんですか?」


「うん。この世界に磁石ってあるかなぁ………金属にくっつく石みたいなやつ」


「ありますわ、磁気石ですわね」


「じゃあ、方位磁石作がれるかも。それがあれば大体方向が分かるはずだから多分迷子にならずに済むよ」


そう言うと、では後で入用なものを揃えますとミーシャさん。方位磁石を作るのに必要な釘と、土台にする瓶の蓋と、薄い鉄板、それを切るハサミと釘を打つトンカチをお願いする。暫くするとミーシャさんが一揃い持ってきてくれた。本当は赤の油性マーカーも欲しかったんだけどこの世界には無いみたいなので断念。しょうがないのでハサミで切った磁石の針のかた一方を釘で傷を沢山つけて代用。これでどっちがどっちか分かるよね?その後、コルクの蓋に釘をさして磁気石で磁力をつけた磁石の針を釘の上に乗っけると………。針はくるくる回って、最後には一つの方向を指し示した。


「すごいですわ!ミオン様!!」


「小学校の時、工作で作ったんだよね。まさか役に立つ時が来ようとは」


意外な所で役に立ったな。工作。二度と作る事はあるまいと思っていたんだけど。さて、森で迷子になる問題はこれで解決したように思うけど、奥まで行くのにどれ位時間がかかるんだろうか?

呪いの王子、実はこんな人でした。

深音達は無事に泉に行けるのか?

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