第34話 誰かに呼ばれた気がして
その夜の事だった。私は唐突に目を覚ました。悪夢を見たんじゃない。ただ、誰かに呼ばれた気がして。ディーさんじゃない。だって横で気持ち良さそうに寝ている。起こさなかった事にホッとしてもう一度寝ようとして気がついた。窓が開いてる。涼しい風がさやさやと寝室に入りこんでいた。寝る前は閉まっていたはずなのに可笑しな事もある物だと思ってベットをそっと抜け出す。ディーさんが身じろぎしたので一瞬起こしてしまったかとドキリとした。窓を閉めようとしてバルコニーに近づけば、そこには綺麗な満月の明り。二つの月が煌々と庭を照らしていてとても綺麗。
ふと、庭の木の下を見るとこんな時間なのに男の子がいた。白い毛並みが月に照らされてとっても綺麗。遠くだというのにアイスブルーの眼が印象的な男の子だった。その子がこちらを見ている。こんな時間に何をしてるんだろう。
「ねぇ君。こんな時間に何をしてるの?」
答えはない。その子は黙って私を見つめる。
「ちょっと待っててね!!」
こんな時間に子供を放置して寝るのもどうかと思ったので慌てて夜着を羽織ると部屋から出て外に向かった。さっきの木の下についてみれば少年はいない。何処に行ったのかと思って慌てて周りを見ればかなり遠くに少年の姿。また黙ってこちらを見つめてる。
「ねぇ!こんな時間に外にいたら駄目だよ。お姉さんと一緒に帰ろう?お家は何処?」
近くに行けば遠ざかる、逃げてるのかと思えば、私の事を待っているみたいで………。
「ねぇ!!何処にいくの?」
そう問えば少年が図書館を指さす。どうやら少年を追っかけてるうちにこんな所まできてしまったようだ。夜の図書館は月明かりに照らされ神々しいまでの輝きを放っている。ちょっと見とれたうちに少年が消えていて正直焦った。見れば図書館の扉がわずかにあいてる。
「もしかして、入っちゃったの?」
一瞬途方に暮れかけたものの、置いていく訳にもいかず、私は図書館の中へと足を踏み入れた。
「おーい!!誰かいますかぁ?」
私の声だけが館内に響く。私は足音を響かせながら少年を探した。見まわりの騎士さん達に見つかったら怒られそうだ。月明かりが射しこんでいるので館内は意外と明るい。少年は2階から3階に上がる吹き抜けのバルコニーの所にいた。何かの神話だろうか、乙女が祈りをささげ騎士が剣を捧げている絵をじっと観ている。私は階段を駆け上って少年の所へ急いだ。
「この絵が観たかったの?」
息も絶え絶えに私が聞くと、少年は微かに首を振る。
「じゃあ、こんな時間にどうしたの?」
「お姉さんなら、気付いてくれると思って」
「私?」
「うん。そう僕の声聞いてくれた」
そう言って私の目を見る少年は真剣な顔をして私に言った。
「ここに、あるよ。お姉さんの探してる物」
「ここ?図書館??」
「ううん」
ここ。と言って少年が指さしたのはさっきの絵で………。
「この絵に何かあるの?」
そう言って聞いた時にはもう少年はいなかった。
「あれ?少年??」
「何処言ったのー?!」
そう叫んで起きた。そう起きたのだ。どうやら今のは夢だったらしい。
「ミオン様、大丈夫ですか?!」
慌ててやって来たのはミーシャさんでエライ恥ずかしい気持ちになりましたよ。寝言を言いながら起きるって………。ディーさんはもうお仕事言っていなかった。私今日もお寝坊さんだったらしい。
「ごめん、寝ぼけてたっぽい」
「女神の夢ではないのですか?」
心配そうに言うミーシャさんに首を振る。
「女神の夢じゃないよ。小さい男の子が出てくる夢。やけにリアルだったけど………」
そう言って夢の内容をミーシャさんに話す。
「意味深げな夢ですねぇ………」
「うん。でも水音は聞こえなかったよ」
「確かその絵は外れない絵ですわね。土台からくっついていて変える事が出来ないのですって」
「そうなんだ。うーん、これもお告げの一種なら有難いんだけど。絵の中にヒントがあるって事かなぁ」
「もしかしたらそうかもしれませんわね。もうすぐお昼ですし、陛下が帰って来られたら3人で行ってみますか?」
「うん、そうだね。そうしよう」
そう言って私は着替えるために起き上がった。ミーシャさんに手伝って貰いながらドレスを着る。
暫くするとディーさんが帰って来たので一緒にご飯。食べ終わるとそこで再び夢の話をした。
「不思議な夢だな」
「でしょ?んで、もう一度図書館に行ってみようって話になって」
「そうだな、女神の夢じゃ無いにしてもその夢は意味深すぎる。確認しに行って悪い事はあるまい」
食後、ちょっとお休みしてから行く事に。3人で連れだって図書館にGO-です。
「丁度、この木の下だったんだよね。男の子がいたの」
下に降りてみれば、昨日男の子がいた木があって、まるで本当にあった事のような錯覚に陥る。
「ふむ、ジュマロの木か………。この木の葉は魔よけになるとされていてな、神事の折にも良くつかわれる………その子供、悪いモノではあるまいよ」
安心させるように言ってくれるディーさん。
「うん。あの子全然怖くなかったしね………」
「夢にジュマロの木が出てくるのは吉兆と申しますしね」
「そうなんだ。じゃあ、あの夢もしかしたら本当に道を示してくれたのかもしれないね」
そう言いながら3人歩き続ける。段々と見えて来たのは図書館で、お日様の光に照らされて周りに繁殖した蔦がキラキラと緑に輝いている。昨日の夢のような神々しさはないけれど、とても綺麗な風景だった。大きな扉を開けて入ればこの前と変わらず吹き抜けのドームに日が注いでる。本の管理には向かないんじゃないかと思ったら、特殊な鉱石を使ったガラスでできており日光で本が痛む心配はないんだとか。壁はすべて本に埋もれており、それは5階まで延々と同じだ。一階だけがフロアー全体に本棚がある状態。上の階の管理は大変そう。
私達は2階に上がると、3階に上がる途中、バルコニーにある絵を眺めた。
「ミオンこれか?」
「うん。これだね。夢と一緒」
階段を上がって絵の前に着く。特に、不審な点はなさそうだ。少年よ、この絵の何処にヒントが………?
「これは図書館建築当初からある絵だな………確か図書館は呪いの王子の祖父に当たる人物が建てたはずだ」
「そんなに古い絵なんだ?」
「あぁ、それからまだ一度も手直しされてない。この絵の題材は『巫女と騎士』騎士が邪竜グローザードを倒しに行く時、巫女に祈りを捧げて貰ったというものだ。巫女は婚姻出来ないが、二人は想いあっていたという説もある」
「へぇ、そんなお話なんだ………上の階のバルコニーにも絵があるよね?あれも外れないの?」
「あぁ、それぞれ神話を題材にしているようだが額ごと全て壁と一体化して飾られている」
「なんで、外せないようにしたのかなぁ………」
「さぁな。だが、つくったのは呪いの王子ではないからな。そこは気にしなくてもいいんじゃないか?」
「まぁね………」
しかし、この絵の何がヒントなんだ?!それともやっぱりただの夢だったんだろうか?そう思いながら目を皿のようにして絵を見る。―――と。
「???ココおかしくない?」
「どうしましたミオン様?」
「う、ん。ちょっと………あ、やっぱり」
気付いたのは乙女の胸元。組んだ手の丁度真上の宝石の部分だ。精巧に描かれてて気付かなかったけど、触ってみてはっきりした。
「ねぇ、ディーさんココだけ窪んでるよ?」
首飾りの宝石の部分がそこだけ完全に凹んでた。
「………本当だ。凹んでるな」
トリックアートの一種みたい。コレ描いた人は凄いと思う。凹んでるどころかとても立体的に見えたよ!!!
「この宝石………どこかで見た気がするんだが………ミーシャ覚えてないか?」
「そうですわねぇ………見た事がある気はするんですが………」
「え?!この宝石実在するの?」
「分からん、だがここ以外で見た気がする。思い出せんが」
「その宝石、ここに嵌めろって事なのかな?」
「同じものがあるのならそうだろう。………明日思い当たる所を探してみよう」
なおも思い出せずにいるディーさんに、私は期待が募るのを感じた。あの少年が言いたかったのもコレの事かもしれない。隠し部屋へのヒントがあるのか?それとも泉までのヒントがあるのか?分からないけど前進出来そうな予感に私の胸はドキドキした。
首飾りのい石は一体何処に?