第31話 一週間寝込んだ………らしい
私はそれから一週間寝込んだ………らしい。覚えているのは、ひんやりとしたものが口にあてがわれ何度か水を飲んだ事。冷たく絞られた布が額に乗せられた事、そして時々聞こえるディーさんの声。
目が覚めた時にそこにいたのはディーさんで、ここで仕事をしている姿だった。今はもう夜。ミーシャさんの姿は見えない。夜勤の女官さんと交代している時間なんだろう。
「目覚めたかミオン!!!どこか苦しい所はないか???」
「う………ん、へーき」
そう言って起き上がろうとしたところをディーさんに止められる。
「いきなり起きるな。ミオンは高熱を出して一週間も寝込んでたんだぞ?」
「一週間?!」
あり得ない。今まで風邪なんてほとんど罹った事なかったのに!!!
「そうだ。ほら、手を貸せ。そうっと起きろ」
なんかディーさんが過保護デス。でもまぁ仕方ないのかな。いきなり目の前で倒れられたら心配する。
起きてみてクラクラする感じに、体力が随分落ちたのだと感じる。
「………ジュド―が言っていた女神の感情にさらされた所為で身体に多大な負荷がかかったのだろうと」
「そか………、風邪とは違うんだね。道理で強力な………」
「あぁ、心配した。もう目が覚めないのではないかと思った」
そんなに心配かけたのか………何だか申し訳ない。
「そんな顔するな。ミオンが悪い訳じゃない。………ミオンが寝ている間にリンに該当する泉があるか調べるように言ったんだが、やはり結果は芳しくなかった。深い森と、泉と小島と祠、全てが揃っている所が見つけられない」
「そかぁ………じゃあ、やっぱり頼みの綱は呪われた王子様の隠し部屋だね?」
「そうなるな。そちらも命じて探させたんだが、まだ発見するには至らない」
そっかぁ、私が寝てる間に色々やってくれてたんだねディーさん。
「有難うディーさん」
「またこんな状態になられてはこちらの心臓ももたんからな………」
そう言ってディーさんは無言で私の頬に張り付いた髪をとるとそっと耳の横に流してくれる。そのままおでことおでこをくっつけられました。至近距離にディーさんの顔。ビックリしてドキリとする。
「熱は下がったようだな」
良かったと微笑まれて私も微笑む。
「まさか、ディーさんが看病してくれたの?」
「ほとんどはミーシャだ。俺はここで仕事をしながら時々様子を見ただけだ」
「そっか、ありがとディーさん。ミーシャさんにも後でお礼言わないと」
「そうだな。ミオン腹は減らないか?水は?」
「お腹はまだ減ってない………あ、でも水は欲しいかも」
そう言うとディーさんが枕元にあったコップを取って私に飲ませてくれる。
「一人で飲めたのに………」
「一週間、食事もとらずに寝てたんだ。握力もかなり落ちてるぞ?」
「ん、そっか………アリガト………」
「今日はもう寝ろ。ミオン。暫くは安静にしていないと」
「ん………わかった………ディーさん」
「なんだ?」
「また怖い夢みてたら起こしてね?」
「あぁ大丈夫だ。傍にいる」
ディーさんはそう言って私が寝るまで手を握っててくれた―――。
次の日、まぶしくて目を覚ませばディーさんはもういなくて太陽が中天のあたりに差し掛かっていた。
私が起きた事に気付いたミーシャさんがこちらにやって来る。
「良かったミオン様!お目覚めですね?」
「ミーシャさん、その色々お世話になりまして………有難うです」
「なにおっしゃってるんですか!御病気だったんですものそんな事、お気になさらなくていいんです!
何か食べられますか?」
そのミーシャさんの言葉に合わせて私のお腹がキュルキュルと鳴る。
「………食べます」
あまりのタイミングの良さにお互い笑いあう。私は苦笑だけどね。
既に準備はされていたらしく、どろっどろに溶けたお粥と果物と野菜をすり卸したジュースが出て来た。
「胃も弱っているだろうとのことで、暫くはこれで我慢して下さいね」
「大丈夫、今肉とか食べれる気しないから」
「そうですか………ミオン様、ご自分でお食べになれますか?」
「うん。大丈夫。腿の上にプレートごと頂戴」
そう言って太ももの上に食事の乗っかったプレートを置いて貰う。
スプーンで一口お粥を啜れば胃が急な来訪客に驚いたのかギュルギュル音を立てる。
「うう。ごめん失礼な胃で」
「元気になって来た証拠です。逆に安心しました」
ちょっと恥ずかしいけど、まぁそうなんだろう。私は二口、三口とお粥を啜るとホウと溜息を吐いた。
「生き返る気がする~」
「良かったですわ。暫くは身体を休めるようにと陛下の御伝言です。落ちた体力は少しずつ回復させましょうねミオン様。午後になればどうせ陛下も戻って来るでしょうしそうしたら少しお散歩に行きましょう」
「ディーさんお仕事じゃ?」
「最近はこちらで政務をされてましたから。ミオン様が心配で。今日はお出かけになられましたけど午後には戻るとおっしゃってました」
クスクスと笑うミーシャさん。どうやらかなりディーさんに心配をかけてたらしい。照れくさい感じでお粥を啜る。ゆっくりと食べれば心も何だか落ち着いた。
「ねえミーシャさん。後でお風呂入れるかな?なんだか気持ち悪くて」
「そうですね、大浴場の方はいま掃除の時間ですから、こちらの部屋の内風呂におはいり下さい」
「お風呂なんてあったんだ」
「えぇ。ミオン様は使われた事ありませんでしたね」
「うん」
指示された浴室に向かうため、いそいそとご飯を啜る。だって汗ばんでて本当に気持ち悪いんだもん!!!食事後、ミーシャさんに助けられて立ちあがと、驚くほど足が萎えててかなり引く。一週間で体力ってこんなに落ちるもんなの?一人で入浴するのが不安になったので、今日の所はシャワーだけにする事にした。湯船になんて浸かった日には起き上がれる気がしないもの。洗面所で夜着を脱ぐ。そこにはもう新しい夜着と下着が用意されてた。鏡に映った姿は、頬がこけて完全に病人のモノ。元々ササヤカナ胸が更にササヤカになった気がする。ショック。私は大仰に溜息を吐くとお風呂に入って身体を洗った。
スッキリして部屋に戻れば色とりどりの花が花瓶に活けられてるのが目に入る。さっきは全く気付かなかった。
「ミーシャさんこのお花は?」
「はい。主に陛下やヨランダ、エルザに厨房の方達、私達女官達やこっそり来たエヴァンジェリンが持ってきたものですね」
「そんなに沢山の人がお見舞いに来てくれたの?」
「流石に陛下と私以外はこの部屋に入ってませんが、みなさん奥殿の外に毎日のように届けて下さってましたよ。ミオン様、愛されてますね!」
それがとても嬉しい事のようにミーシャさんが言うので、何だか私は凄く照れくさかった。
深音復活。それにしても、女神の夢は強力ウィルスか………?




