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第30話 レンカの花を沢山摘んで

レンカの花を沢山摘んで3人で帰城。ディーさんの執務室にも持ってったんだけど、黙々と仕事をしている様子を見て声をかけるのは断念。執務室付きの女官さんを捕まえて、花を花瓶に活けといてもらう

事に。初めて見た仕事中のディーさんは、見知らぬ男の人を見ているよう。嘆願しに来てたのかな? 多分官僚の人とのやり取りも結構キツく言ったりしてるんだもの。変な感じ。


そろそろ、イリアナさんが帰って来ると言うのでエヴァンジェリンちゃんとはそこでお別れ。ミーシャさんと部屋に戻ってそこにもレンカの花を活ける。レンカの花は、不思議と柑橘系の香り。匂いも濃くないので部屋には丁度いいかも。今日はディーさんと全然話せてない。やっぱりなんか寂しい。

夜、布団にもぐりこみながら心の中でディーさんにおやすみなさい………。


―――水音がする。――――遠く近く――――響く―――ように。

コレは夢だ。あの、女神の、ユメ。


思考が上手くまとまらない。身体は鉛のように重く、上手く歩けない。それでも私は再びあの泉の上にいた。今回はコレが何なのか分かっているからか気持ちに余裕がある。泉をそっと観察した。

ここはどこか、お城の森の泉に似ている。ただ、違うのは、木々がもっと成長していて森の緑が濃い事と、泉の中央に小さな島があってそこに祠がある事。


『かあさま………かあさま? どこ??』


幼い男の子の声が聞こえる。瞬間、私は女神の存在を感じた。憎らしい。哀しい。愛おしい。

そして後悔―――。

あまりの感情の坩堝に、私の身体は木の葉のように翻弄される。


―――やめてやめてやめて………!!!


コレは私の感情じゃない!!! そう言い聞かせてるのに心は言う事を聞かない。


―――あなたは、王子を憎んで呪いをかけたんじゃないの?!


『オウジ』


―――憎い愛しい………憎いオトコだから哀しい悲しい苦しいつらい。


『アイシテイタ―――ダカラ呪った―――でも………会いたいアイタイあの子に会いたい………でも』


―――呪いをかけた女神としての矜持、赦せない、という私のココロが邪魔をする………。


『僕は要らない子なの………?』


女神の思考に侵されてグチャグチャな私の心に子供の悲痛な声が響く。


―――そうだ。女神にとっては要らない子だ。でも私にとっては???※※※※※にとっては???


あぁぁぁぁぁあぁっぁぁぁぁっぁあぁああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!


おうんごうんと大気が揺れる。


―――やめて、やめてやめてやめて………!!! 壊れちゃう!!!


そう思った時………。


『ミオン』


コエが聞こえた。


「ミオン!!! ミオンしっかりしろ!!! 起きるんだ」


「んっ………あ、ディーさん?」


涙でボロボロの私を揺すり起こしたのはまだ着替えていないディーさんで………。


「ゆ、め?」


「そうだ。もう大丈夫だ………ミオン」


心配そうに覗き込む顔に私の心が安堵の悲鳴を上げる。


「ディー、さん!!! ふぇっ………怖かっ、たの!!!」


まるで自分が消し飛ばされるかのようだった。怖くて怖くて抱きついて、ボロボロと涙を流せばディーさんが優しく背中をさすりながら揺すってくれる。


「大丈夫だ。大丈夫だ、ミオン。俺がここにいる」


「私、消えちゃうかと、おもっ、思ったの泉で、水音が聞こえて、おと、おとこのこがっ………」


「しーっ。ミオン。今は話すな。大丈夫だ。後でちゃんと聞いてやるから」


ぎゅっと抱きしめられると、心がとても落ち着くのが分かる。ディーさんの心音が心地いい。

それでも心の奥底ではドロドロとしたいいようのない感情が荒れ狂う。女神の心の残滓………。

コレが憎しみ。コレが嫉妬。コレが哀しみ。コレが愛………。

怖くて怖くてたまらない。人は心のうちに一体いくつもの感情を持つのか………。自分が感じた事のないそれに身体が悲鳴を上げる。


「ミオン。ミオン」


ディーさんが名を呼ぶ。少しづつ心が泥沼から引き上げられる。


「お願い、もっと名前を呼んで」


ディーさんは私が落ち着くまで抱きしめながら名前を呼んでくれた―――。

私が落ち着いて、ディーさんが着替え終わった頃、夜明け前のテラスで二人少しお話をした。


「驚いた。帰ってきたらミオンが悲鳴をあげて泣いているから………」


「ごめん。私もびっくりした………ディーさんが帰って来てくれて良かったよ。じゃなかったら心が壊れてたかも」


その言葉にディーさんの顔が厳しくなる。


「そんなに、女神の心と同調したのか?」


「自分でも制御できなくて………あっちの感情の方が強いから………。飲み込まれる感じ?」


さっきは本当に怖かったから、はははと乾いた笑いしか出ない。


「問題だな。コレは早く解決した方が良さそうだ。今後ミオンがまた夢を見るとも限らんし」


「私も同感。毎回コレじゃ正直キツイもの」


そう言ってから今回の夢の内容をディーさんに話す。


「男の子か………女神と王子の間には息子がいた。その子供かもしれんな」


「うん。私もそう思うよ。『かあさま』って言ってたしね」


「オアシスの老婦人は夢の泉を探せと言ったのだったな?」


「うん。今回見た夢で分かったのは深い森の中の泉ってこと、そして召喚された場所みたいに泉の中央に島があって祠があるって事。ねえ女神と王子が出会った森って可能性はないかなぁ………?」


「ミオン。その森はもうないんだ。女神が呪いをかけた時に消滅している。跡形も残さずにな」


「そうなの?!」


「怒りに駆られた女神が王子と出会った森を消したのだろう。多分な」


「………それは………困ったねえ………」


「そうだな。困ったな………」


二人顔を見合わせて溜息を吐く。


「片っぱしからこの国の泉を探すしかないかね?」


「当面は。リンの所で確認させよう。泉や河川を管理する部署がある。該当する泉が無いか聞いておく。しかし、地図に載ってないものもあるだろうしな………」


「もっとヒントがあればいいんだけどね。でも祠がある位だし、だれか祀ってた人がいるって事でしょ?」


「そうだが、その家が絶えている可能性もあるから一概に何とも言えん」


「はぁ………女神関連の神話って他にないの?」


「ないな、しかし城のどこかに呪いの王子の隠し部屋があるという言い伝えは聞いた事があるが」


「それだ!! そこに何か泉に繋がる物があるかも!!! 私は暫くそれ探してみるよ」


「そうだな。何かあるかもな………取りあえず城の図書館なら何か記録が残っているかもしれん」


よーし、やる気が出て来たぞーっ!!! そう思って拳を握ったら、あ れ ?


「ミオン?!」


頭がグラグラするよ?


「おい、大丈夫か?」


お尻が冷たい。どうやら座り込んじゃったみたい。なんだろう、頭が痛いしゾクゾクする………。

ディーさんがなにか言っているけど私が答えないので横抱きにされてベットに運ばれた。

何か聞こえる気がする。ディーさんの声だっていうのは分かってるのに上手く返事が出来ない。

どうしたんだろう私。そんな私の手をディーさんが握ってくれてるのが分かる。ひんやりと冷たい感触。とても気持ちいい………そんな感覚を最後に私の意識は暗転した。

夢の影響で深音のキャパシティが超えました。

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