第29話 お休みから一夜明けて
お休みから一夜明けて。今日からいつもの日常が戻る。
と言ってもディーさんはまだ復活してない。私が元気づけてあげられればいいんだけど、それもままならない。だってディーさんと会話が成立しないのだもの。こんなのって初めてだからどうしていいのかも分からないし………。やっぱ、待つだけしかできないのかな???
リン先生の授業は急遽お休み。良く分からないけどお仕事の方で問題が発生したらしい。宿題だけはしっかり出たので、午前中はミーシャさんと一緒に宿題。それとリン先生から貰った地図を覚える事に専念。あとアルバイト的な事が出来ないかとミーシャさんに相談。ディーさんもうすぐ誕生日なんだって。出来れば自分で稼いだお金でプレゼントしたいと力説。
「つまり、アルバイトと言うのはミオン様がお仕事をされると言う事で、プレゼントは陛下に差し上げる贈り物ということですか………難しいですね。普通、妃殿下と言うのはそういった事はなさいませんし」
「だよね。まず雇ってくれる所が無いんじゃしょうがないかな………でもなんか出来ないかと思って」
考え込むようにして言えば、ミーシャさんも頷く。
「私よりも、ヨランダの方が詳しいかもしれませんわ。ヨランダなら他の下位貴族が事業をするときに出資したりもしてますし、ヨランダ自身が仕事をしてますから」
「へえ、ヨランダさんそんな事もしてたんだ」
「えぇ、有能な人材を見つけて先行投資するのが趣味みたいな感じですね」
「ミーシャさん、今度ヨランダさんの予定聞いて貰ってもいいかな?」
「ミオン様のお願いんら1,2もなく飛んで来そうですが………」
「お仕事優先で時間ある時に。何なら私がお店に行くよ」
苦笑しながらそう言う。仕事の邪魔はしたくないし。
「それもいいかもしれませんね。ヨランダのお店は見応えありますよ? 貴賓室に行けば他の貴族にも会う事もありませんしミオン様が望めばドレスを見ながらお茶もできます」
「ドレスかぁ………、買いはしないけど見てみたくはあるかなぁ? でも見るだけなんて失礼だよね?」
「あら、見るだけなんて当たり前ですよ? ミオン様。いいものがあれば見た人が宣伝してくれますし、何かの機会に買いに来てくれるかもしれませんからね。一応新作ドレスの意匠集が定期的に家などに届くのですが、見てみないと分かりませんし」
成る程。見に来てくれる人自体が無料広告みたいになるのか。まぁ、ドレスのイラスト集を見たって完全にそのドレスが自分に合うとか分かんないだろうしなぁ。納得。
「じゃあ、ドレスも見せて貰おうかな」
「そうですわね。ヨランダも喜びますよ。きっと」
そんな感じでお昼になり、結局、仕事がはかどらないディーさんとは一緒に食事を食べれず、昼間なのに今日も先に寝ててくれと伝言があった。政務に支障が出るなんてディーさん重症です。
せめて、何か慰めになる物はないかとミーシャさんに相談して、ディーさんが好きだと言うレンカの花を摘みに行く事に。二人で森に行きました。
今日は泉の方じゃなくてね、お城の近くにお花畑があるらしい。
そんな風にして、歩いていると、後ろに気配。
「あれは、やっぱり隠れようとしているのかな?」
「そうですねぇ………」
二人、顔を見合わせて苦笑する。もう少しでお花畑に着くという所、後ろを向けば薄ピンクの尻尾がゆらゆら木の陰から覗いていた。
「エヴェンジェリンちゃん、こんにちは」
ビクリと尻尾がかたまる。あぁ、もう可愛いなぁ。
「ごきげんよう、妃………殿下様方」
諦めたように出て来たのは少し気まずい顔をしたエヴァンジェリンちゃんで、その耳にはあのリボンがついていた。心の中で良く似合ってると賛辞を贈る。
「着いてきた訳じゃありませんことよ? こっちの方に、そう! 用事があって………」
森に何の用事かは聞かないでおく。
「そうなんだ? じゃあ一緒に行こうか?」
「別に構いませんけど、妃殿下はどちらに?」
「この先のお花畑」
「私もそちらに用事があったんです。いいですわ。一緒に行って差し上げます」
3人で歩いていけば開けた場所に満開のお花畑。白やピンク、黄色や青の花達が所狭しと咲いている。
レンカの花はすぐに見つかった。白い花弁、中心だけが仄かなピンク。ディーさんのお母さんが好きな花だったんだって。エヴァンジェリンちゃんが、何やら言いたい事があるのかモジモジしているのでミーシャさんに目配せ。ミーシャさん心得ましたとばかりにウィンクして少し離れた所に行ってくれた。
それを見たエヴェンジェリンちゃんが私の方を向いて、重そうな口を開く。
「この前は言いそびれてしまいましたが………あの時の事考えましたわ。私、短慮だったと思っています。その………妃、殿下の事を良く知らないのに、あの………酷い事を言いました」
その顔は羞恥に染められて自分のした事が許せないのか少し悔しそうに顰められている。私は何も言わず、ただ言葉の先を待った。
「そ、の………ごめんなさいですわ………」
垂れた耳が可愛い。そんなにドレスを握ったらしわになっちゃうよ? 思わずギュッてしたくなる。エヴァンジェリンちゃんが、ちゃんと謝れる子で良かったなぁ。
「いいよ。エヴァンジェリンちゃんが謝ってくれただけで嬉しいもの。それと無理に妃殿下って呼ばなくていいよ。何ならミオンて呼んで。出来たらお友達になってね」
「………あなたってやっぱり変な人ですわ。私、とても酷い事言ったのに、お友達になりたいなんて」
「だってなりたいんだもの。駄目かなぁ?」
座り込んで見上げるように首を傾げてエヴァンジェリンちゃんに言えば真っ赤になった彼女がそっぽを向いてこう言った。
「いいですわよ。なって差し上げます。………ミオンお姉さま!」
私はと言えば照れながら言うその言葉に、嬉しくて笑みを浮かべる。
ツンデレ可愛いなぁ。妹が出来たみたい。
「それと、コレ、有難うございました」
そう言ってエヴァンジェリンちゃんが触ったのは頭のリボンで。
「え?!」
言っちゃったのミーシャさんと思ってそちらを見れば? な顔のミーシャさん。
「ミーシャお姉さまは何も言ってませんわ。でも一目で分かりました。ミーシャお姉さまの趣味じゃありませんもの」
この子………なんて勘のいい!!!
「あー………他の人にもバレバレ?」
「イリアナお姉さまですわね。お姉さまは気付かれてません」
本当に勘がいいなぁ………。そしてチラチラと私の首元を見ながら言いにくそうに口を開く。
「………その首飾り………陛下から?」
「う、うん。あっ!! だけど私が気に入って見てたのを買って貰っただけだからディーさんに他意はないよ!!!」
「今おっしゃったの、イリアナお姉さまには絶対言わないでくださいませね。余計誤解をまねきますわ」
え? そうかな? 大仰に溜息を吐くエヴァンジェリンちゃんにちょっとドギマギ。
「余計怪しく聞こえますわ」
「う。そう、なのかな? でもちゃんと言わないと別の誤解が………」
「イリアナお姉さまは陛下の事諦めた方がいいんですわ。新しい恋をした方がいいんです。ですから首飾りも陛下が選んでミオンお姉さまに差し上げたって誤解して下さって、それで諦めてくれたら………と思います」
その顔は本当に心配そうで胸が痛かった。イリアナさんの事大好きなんだねエヴァンジェリンちゃん。
「確かに一理ありますねぇ。イリアナの為にもその方がいいと思います」
エヴァンジェリンちゃんの頭を撫でてあげるのは戻ってきたミーシャさん。
途中から話を聞いていたらしい。
「分かった、言い訳じみた事はイリアナさんに言わないようにする」
「有難う、ミオンお姉さま!!」
ぱぁっと明るい顔で言われれば、誤解の一つや二つ………ドンと来いだ。ま、これ以上嫌われようもないと思うし。私はと言えばお子様な恋愛しかしてこなかったから嫉妬とかってまだよくわからない
。ただ、憎しみとかを抱かなきゃならないのは相当苦しいんじゃないかと思う。その苦しみが早く終わればいいなって言うのは、おこがましいことかな? ディーさんの呪いが解けたらまた状況は変わるかも知れないんだけど………―――状況が、変わる。かぁ。
何故だかチクリと胸が痛んだ。
可愛らしいお友達ができましたw