第27.5話 ※小話※ディーさんの独り言
ミオンがミーシャと裏の森に行った帰りにエヴァンジェリンと衝突したようだ。エヴァは一体どうしたと言うのか。普段はそんな事を言うような子供ではない。大人全てがミオンを受け入れてないのは知っている。どこかでそのような発言を聞いたのか? まったくもってらしくない。あの子は多少我儘な所があるが聡い子だ。ミオンの事も好きになってくれれば良いのだが。
ミオンがリンと勉強を始めた。どうやら『始まりの神話』を聞いたらしい。神々の誓約に抵触すれば怖ろしい事になると少し怯えたようだった。
宿題のやり過ぎで手が震えるミオンが愛らしい。手伝ってやろうかと言えば頑張ると言う。
見ているこっちが落ち着かない。見かねたミーシャがミオンの皿の上のピピルルを切り分けてやる。
そこですかさず食べさせてやろうかと問えば拒否された。そんなに力強く拒絶しなくても、と少し凹む。しかし、美味そうに食べるミオンを見て浮上。
ミオンの身を心配して誓約に抵触しそうなときは調べるのを辞めて欲しいと訴えた。
何か勘違いをされているらしい。俺は妃の心配をしているつもりはない。ミオンだから心配しているのだ。前から思ってはいたがミオンは少々鈍い気がする。取りあえず理解してもらえたようなので一安心。と思ったのだが、夜、ミオンの顔が赤い。熱があるのかと思えばそうでもない。
本人はどうやら暑いらしい。
どうにも落ち着かない様子だが、気付かれてないと思っているのか理由は言いたくない模様。無理矢理話題を変えて厨房を見学したいと言い出したので気付かないふりをしてその話に乗る。
今度、俺も行く事にした。
休みが取れそうだと告げる。飛竜に乗ろうというと今までの様子は何処へやら。元気が出たようで良かった。ミオンの笑顔で疲れが取れる。
ふと気になって、元いた世界で恋人がいたのかと聞く。………いないと聞いて一安心。安心?な ぜだ?? 自分の気持ちに少し戸惑う。
次の日着替えているとどうもミオンの視線が気になる。どうやら王の紋章が気になるらしい。
紋章が刻まれるとき「熱かった」といえば恐る恐るミオンの手がそれを触る。ゾクリとしたのはくすぐったからか。
着替えた深音は今日も愛らしかった。
ミオンの「いってらっしゃい」「頑張ってね」に今日一日が始まったのだと感じる。
リンのい授業は『欲しがりな王様』だったらしい。が………ミオンの様子がへんだ。何か酷く落ち込んでいる模様。聞いても大丈夫の一点張り。しかたがないのでそっとしておく。ミオンに相談して貰えるような懐の大きな男になりたいと思う。
次の日のミオンはもう元に戻っていた。良かった。今日は厨房見学に一緒に行く事に。政務のひと段落ついた午後ミオンが迎えに………来るはずだがどうも遅い。自ら迎えに行く事にする。
どうやらヨランダとエルザに捕まっていたようだ。俺に気付いたエルザが悪戯っぽい笑みを浮かべてミオンの手に口付を落とす。
瞬間思考が凍る。
気付けばミオンを片腕で抱き締めていた。すぐに、からかわれたのだと気付いたが………なんだこの落ち着かない気持ちは………。
ヨランダとエルザが去った後でミオンが「楽しかった」という。何故か意地悪な気持ちになって指先にキスをした。真っ赤になって俺を叩くミオンが愛らしい。
厨房に行けば俺達に気付いたゼファンがやってくる。堅苦しいのは抜きでミオンを紹介。他の者達にも楽にするように言う。厨房の様々な所を見学しミオンは楽しんでいる様子。良かった。
帰りにミオンが「お礼の気持ち伝わったかなぁ」というので大丈夫だとミーシャと言った。俺一人の時より明らかに皆うれしそうだったぞ。
ついでなので庭を散策。もっぱら話題は幼いころ俺がしでかした悪戯の話や失敗の話。ミオンに「ディーさんて意外と問題児?」と聞かれる。ミーシャが間髪いれず肯定しミオンに呆れた顔で見上げられる。そんなに酷くは………。むう。
傷のある木の前についた。
俺が愚かだった頃の象徴と戒めの傷だ。ミオンにはそんな俺もいるのだと知って欲しくてここに来た。
ただ、俺とミーシャが話すのを黙って聞くミオン。そっと俺の手を握ってくれた。
俺達を「家族みたいに思える」と言ってくれたミオンを思わず抱きしめる。
ミオンが神夢をみた。夜中に飛び起きたミオンは泣いていて心が締め付けられる。「やっぱり、探せって事なのかな」という言葉に不意に胸が苦しくなった。それだと俺がミオンにした事は………。
取りあえずジュド―に話をするように言う。神官の方が分かる事もあるだろう。
ミオンの所に寄った帰りにジュド―が俺の所に寄ってくれた。「妃殿下は感知能力が高いようだ」そう言われた。あまり頻繁に見て女神のお気持ちと同化するようなら心配だとも。女神がミオンに気付くという本来ない事も起こっているらしい。不安が胸をかすめる。おかげで何時もよりも政務が進まず、ミオンと夕飯を食べ損ねる羽目に。残念だ。
次の日、ミオンはとてつもなく元気だった。そこまで楽しみにしていてくれたのかと思うと俺も嬉しい。厨房によって竜舎に行くとルーザがさっそくミオンを気に入った様子。
少々驚いた。ルーザは他の飛竜より警戒心が強い。俺がいる分にミオンに危害を加える事がないと分かっていたものの、正直こんなに懐くとは思ってなかった。
飛竜を飛ばし、岩棚で朝食。めったに食べない朝食だが今日のは今までで一番美味い朝食だ。シーラの石を記念に持って帰ると言うミオンを心おきなく堪能する。
他にも見応えのある景色を見ながらオアシスへ。一応調べてかなりの商隊が来ている事が分かったのでミオンも楽しめるだろう。
オアシスに着くなりミオンと手をつなぐ。かなりの人出、迷子になっては大変だ。いつもと違い、お互い手袋をしているためミオンのあの滑らかな肌に触れられないのは残念。
ルーザを預けて色々な店を回る。一件の店の前でミオンが立ち止まった。見ているのは首飾りのようだ。水竜の髭で編まれた革ひもに少し大きな透かしの入った銀細工。これはなんの花だろうか? そして何より目立つのは俺の目の色に似たレディティアの石。ミオンが気に入ったようだったので即購入。
ミオンの細い首に着けてやるとまるで俺がそのままミオンの首元にいるような感覚に襲われる。
高揚感と独占欲。
その感情に自分でも驚く。思わず首飾りを落としかけたが気付かれない。良かった。ミオンがあちらを向いていて………。俺は今どんな顔をしているのか。
「レティカと言ってね花言葉は『永久の愛』石の方の意味は『あなたを守る』ってもんだからね」
店主の言葉が頭に響く。『永久の愛』。俺はミオンを生涯愛し守り抜くと誓約した。しかし、それは言葉だけだったのだと今更に思う。
あぁ………俺はミオンを愛しているのだ………。
そう今理解した。ミオンといた期間はまだ短い。不思議なものだ。
だが、それをミオンに悟らせる気はない。俺の事をそう言う風に思っていない娘だ。重荷になるだろう。それに俺は今までの関係が気に入っている。この居心地の良い空間を壊したくはない。
怒声が聞こえたので見れば不届き物が老婦人に手をあげる所であった。その手を思い切り捻りあげてから背中を押して倒す。男はオボエテロとか何とか言って逃げて行った。ミオンが老婦人にカードを手渡してやっているのを見ながら俺も割れてしまった水霊球を拾って渡す。
礼を言われて別れた後、不意に老婦人の声が聞こえた………。
『王よ。あなたが愛する娘は異界の民。いずれ選択の時が来ましょう。それは娘にも同じ』
慌てて振り向けば老婆はもういない。ミオンは俺とは違う言葉を聞いたようだった。
ミオンは女神を探そうとしている。それは俺の呪いを解くと言う事で………もしも神々がそれを望んでいるのならきっとミオンは自分の世界に帰るだろう。その時俺は? 俺はどうするだろうか。覚えのない感情が俺をチリチリと苛む。もしミオンが帰ると言ったら俺はミオンを閉じ込めてしまうかも知れない。一瞬でもそう思った己が怖ろしかった。
ディーさん自覚の日。おばあさんに言われた事を言えなかったのもしょうがないかな?まだ慣れない自分の気持ちに振り回されてる27才。多分初恋。