第27話 朝食は岩棚で
朝食は岩棚で食べました。何が重いのかと思ったら冷晶石と温晶石と言うものが入っていたためだった。冷たいままのスープにデザート、ホッカホカのその他お食事達。
モサロは外側が焼かれてて中のパン生地はもっちりと。中身の具はホットチリペッパーとお肉な感じ。
暑い位に身体の中から温まって来るとビシソワーズスープみたいな冷たいスープがまろやかな舌触りでもって暑くなってた全身を落ち着かせてくれる。色々考えられてるね。
後は温野菜サラダ。チーズ系のソースがかかってて美味しいの! それに朝から重そうな肉の塊があったので何かと思ったらルーザのご飯だった。
何かの草で覆われているそれは大変美味しそうな匂いがしました。
いや、流石に摘み食いはしないですけど。相手が飛竜じゃなければシェアしたんだけどな………。
デザートはアップルパイみたいな感じだった。添えられたクリームが果物の甘味と酸味とあってまた美味しいの!!! 二人と一匹で舌鼓をうちましたよ。ええ。美味しゅうございました。
朝ご飯にしてはかなりの量があったんだけど結局皆で食べきっちゃった。お腹が重いです。確かにこれじゃぁ仕事したくないなぁ………。あまりのお腹いっぱいさに暫くここで休憩。
落下する滝の音は下から響いてくるものの、遠くなため横を通り過ぎる雨のような音の方が勝ってる。
私は水晶のような石を覗き込んだ。周りの色を映してまるで紅葉しているみたいな紅やオレンジに色を変える。ここにある石は希少価値のあるものでもなく結構ゴロゴロしてるらしいので今日の記念に小さいものを選んで採集。高い価値のあるものは場所によっては採掘権とか煩くあるらしいので気をつけないといけないらしい。
ここからシイナイ山脈の方を周り、その麓にある大きな湖をルーザの背中から鑑賞。鏡のようなその湖はシイナイ山脈を良く映し、いわゆる日本の逆さ富士状態。でもどっちが本物か一瞬悩む位の映り込みにビックリ。ディーさんはそうやって綺麗な場所を私に沢山見せてくれた。この景色一生忘れない。
さて、そろそろお昼近くなってきたのでオアシスに向かう事に。私はさっそくラシャをかぶるとワクワクと前を見つめた。
―――ざわざわと人の活気が溢れたそのオアシスは高い城壁に囲まれて商隊のテントが並んでいる。そこでお店を出している人達が結構いて、何に使うか分からないものや香辛料の類、綺麗な装飾品、布等が所狭しと並んでいる。私がキョロキョロしているとディーさんが私の手を握る。
「人通りが多いからな。先にルーザを預けよう。こっちだ」
そういって案内されたのは簡易的な感じの竜舎。大小色様々な飛竜達がそれぞれ水を飲んだり干し草を食べたりしている。
「兄さん、預かりかい?泊まりかい?」
「預かりで頼む」
「半日、15リピアだ。それにしても随分立派な飛竜だなぁ………。王様だってこんなの持ってるかどうかわかんないぜ」
「そうか? こいつには飛竜の生息地にまで行って一週間かけて主と認めて貰えたんだ。そう言って貰えると嬉しいな」
「へぇ、野生種かい。たいしたもんだね兄さん。今日はお嬢様の護衛かい?」
「む。まぁそんな所だ。じゃぁ頼んだぞ」
そう言うとディーさん懐からお財布を出してお金を払う。私はルーザの鼻を撫でてやってから二人その場を離れた。
「王様だって持ってないかもだって!!!」
全然気付かれない様子にクスクスと笑う。
「こんな所に王がいるはずないと皆思っているからな。意外と気付かれん。………それにしても、護衛か」
「私の体型がちっちゃいしね。やっぱり身分違いの恋人とかは無理があったんだよ」
「まぁ、余計な詮索はされまいが………なんだか釈然とせんな」
「そうかなぁ? あ、あれ見てみたい」
そう言ってディーさんの手を引っ張る。見つめる先には綺麗なガラス細工のお店。香水瓶のようなものから飛竜や何かの動物を象ったものやピアスなど様々だ。私とディーさんは手をつなぎながら色々なお店を覗いて行く。見た事もないような意匠のものばかりでそれは大変楽しかった。
そんな中、一つのお店で私の足が止まる。止まった視線の先には銀細工のチョーカー。何かの草花の意匠を施された銀細工の部分は透かし彫りにされててとても繊細な感じ。紐部分は、鈍く光る黒色の紐で丁寧に編み込まれている。真ん中の一番大きな細工の所には大きなアイスブルーの石が嵌っていて、まるでディーさんの目の色みたいに澄んでて綺麗。
「気に入ったのか?」
ディーさんがそう言うと、お店のおじさんがヒョイとそのチョーカーを掴むとビロードの板に乗せて目の前で見せてくれる。
「お客さんお目が高い。これはあるお貴族様のものだったんですがね。どうも意中の御婦人に袖にされたらしくて、その御婦人に差し上げる予定のモノがうちに来たと。モノはいいものでさ。銀細工はまだ無名の作家ですがいい仕事してますでしょ? 石だって一級品でしてね。ユーディル湖の………」
「湖底でしか採れない、レディティアだな」
「お兄さん目利きだねぇ。普通ユーディルでこの色の石って言ったらカディアルを思い浮かべる人が多いんだが。あんた凄いね」
「透明度が違うだろう。色もこちらの方が濃いしな………しかしレディティアなら何故こんなに安いんだ」
「売った方がね二束三文で売って下さったもんでね。後は無名の作家って言うのが痛いや。お嬢様方は大抵知名度で物の価値を決めなさる。これ以上高くしても売れんのでさ」
「良い細工なのに残念な事だな。革だってレディヴァントの湖の水竜の髭だろう?」
お兄さんの目利きには適わないねぇとお店のおじさん。
「どうです? 物の割にはお手頃な価格です。このお嬢様に買って差し上げては」
「え?! いいよ!!! 安いって言ってもこんな高そうなもの」
「贈り物は男の甲斐性ですよ、お嬢さん」
「そうだな。じゃあ貰おうか」
あれよあれよという間に買う事が決まってしまった。こんな綺麗なのもったいないよ?
「へい。まいど」
おじさんが包んでくれようとするのをディーさんがお金を渡しながら制してそのまま受け取る。
「ミオン、後ろを向け」
「う、うん」
後ろを向いたらディーさんがチョーカーをつけてくれる。ラシャの所為であまり見えないのが残念だけど………良かったのかなぁ?
「ディーさん良かったの? こんなに高いもの………」
「気にするな。俺がお前に贈りたかっただけだ」
そのやりとりを聞いていたお店のおじさんがちょっと驚いた感じで口を開いた。
「なんだい、お兄さん達、恋人かい。なら丁度よかったねぇ。その花は北の方の国に咲くレティカと言ってね花言葉は『永久の愛』石の方の意味は『あなたを守る』ってもんだからね」
「えぇ?!」
ラシャの下で赤面ものですよ。ディーさんの方を見れば別に動揺したそぶりもない。
「そうか。石の方は知っていたが、この花にはそんな意味があるのか」
ディーさんはただふむふむと納得しているだけだ。そうだよね。別に他意があるわけじゃなし。落ち着け私。でも毎度あり! と言って笑顔で見送るおじさんを尻目にちょっと溜息。
「疲れたのか?」
「ううん。ディーさんこれ有難う………大切にするね」
少し照れながらそう言えばディーさんは満面の笑顔。
「あぁ、その細工はミオンの細い首に良く似合う………折角来たんだもっとみたい所はないか?」
「あっちの方も見てみたいな」
―――と言ったその時だった。
「ふざけんじゃねぇぞ、このババァ!!!」
いきなり怒声が聞こえてそちらを見れば、露天の端で占い師のおばあさんが赤ら顔の男に殴られそうになっている所だ。ディーさんがスッと動くと男の手を捻りあげる。
「御婦人に手をあげるとはどういう事だ」
男はイテテテと大げさに叫んでいる。ディーさんは男の手を更に捻りあげてから離すと、ドンと背中を押して地面に転がす。男は何か捨て台詞を残すと慌ててそのまま雑踏に消えて行った。
騒ぎが収まったのを見て見に来ていた野次馬が散って行く。
私はその間におばあさんの所に走って行った。
「おばあさん大丈夫?」
「あぁ………有難うございます………」
おそらくあの男がやったのだろう。バラバラに散らばったカードを集めながら、おばあさんに手渡す。
「いったいどうしたんですか?」
「占いの結果がお気に召さなかったようでねぇ………えらい目に合いました」
「大変でしたね」
ディーさんもやって来て割れてしまった水晶の玉を渡す。
「弁償させるべきだった………申し訳ない」
「いいんです。家に帰ればまだありますし。………今日はもう店じまいですけどねぇ。お二人とも有難うございます」
そう言って深々と頭を下げるおばあさん。私達はそんなおばあさんを立たせてあげながらその場を後にした―――と―――。
『異界の娘さん。お礼を一つ。夢の中の泉をお探しなさい』
え? と思って振り返ればおばあさんはもういない。同じように振り返ったディーさんに私は慌てて聞いた。
「今の聞いた?」
「ミオンもか?」
「うん………私に異界の娘さんって。夢の中の泉を探しなさいって………あのおばあさんだったよね?」
「あ………あぁミオンにはそう言ったのか?」
「え?! ディーさんには違うの? ………なんて言ってた??」
そう聞けばディーさん口ごもる。そして考え込むようにしてから口を開いた。
「スマン。―――ミオン今は言えない」
本当に困ったような顔をされれば深く聞けない。垂れた耳が可哀想になってくる。
気にならない訳がない。あのおばあさんは、私の事異界の娘さんって呼んだんだもの………。
それでも私は分かった、と言うと再びディーさんと手を繋いで歩きだした。
ディーさんは何を言われたんでしょうか?