第23話 厨房ですょ☆
やってきました!! 厨房ですょ☆ディーさんの後ろからひょっこり覗くと20人位の人達が、食べ終わったご飯皿をテーブルに置いて歓談中でした。
そんな中ディーさんに気付いたお腹がタヌキのようなオジ様がぽてんぽてんとやって来る。
「これはこれは陛下………そちらは妃殿下ですかな?」
その声に厨房の全員が立ち上がり姿勢を正す。
「よい。楽にしてくれ。料理長、紹介しておく、妻のミオンだ」
皆に向かっていうディーさん。緊張した空気が少しだけ緩む。
対外的にはディーさんの奥さんな私。相変わらずなんだかくすぐったいなぁ。
「初めまして妃殿下。私、陛下の厨房を預かります料理長のゼファンと申します」
後で聞いたところによると、王様の厨房と女官さんや騎士の人達等々の厨房とは別れているんだそう。
ここはディーさんと私専属の厨房なんだって!
「初めましてゼファンさん。いつもお料理美味しく食べさせて頂いてます」
にっこり笑ってそう言うとゼファンさんとても嬉しそうに笑ってくれた。
見れば他の料理人さん達ももモジモジしてる。どうやら喜んでくれてるらしい。
「妃殿下のお口に会うと言って頂けてこれほど嬉しい事はありません。この厨房の者たち一同、更なる精進を致します」
「うむ。料理長をはじめこの厨房で働く者達の努力は皆が認める所。俺も食事の時間が楽しみでしょうがない」
「陛下! 有難いお言葉です。そのように言って頂けるとはこのゼファン、料理の腕の揮いがいがあるというもの」
厨房の料理人さんのモジモジが最高潮に達しました! これはもうテレテレって感じだね。
なんか可愛い。
それから厨房の中を見せて貰う。蒸し焼きにする窯、遠赤外線? でこんがり焼く窯、その大きさにまずびっくり。作業してると暑いんだろうなぁ………。今度差し入れでも持ってこようかな?
後は一列に並んだ調理場とコンロ。コンロは不思議な火炎石と言うもので炎が出るようになってるんだって。魔法みたい。
この世界ではポピュラーな石らしく私のいた世界でいう墨が一番イメージ近いのかな?一度使えば一週間は持つらしいケド。使わない時は蓋をして消火、使うときにマッチで火をつけるんだって。後は洗い場。ここで野菜やお皿が洗われる。ちなみに水はシイナイ山脈からの水を使用。冷たくないのと聞けば、お城にある貯水槽で温度の調整がされているそうだ。そうですよね。あんな冷たい水でお仕事したら手が霜焼けになっちゃう。
「色々見せて頂いて勉強になりました。皆さんどうやってお仕事なさっているのかも分かりましたし
。体力のいる大変なお仕事だとは思いますがこれからも美味しいお料理楽しみにしてますね」
「おまかせ下さい。陛下と妃殿下の為、骨身を惜しまず料理させていただきます」
礼をとるゼファンさんと料理人さん達に笑顔で答えながら、私達はその場を後にした。
後日、ディーさんとミーシャさんに相談して厨房のお昼休みに冷たい果物を差しいれたら大変喜ばれました。ミーシャさん曰く「ミオン様ファン」が増えたそう。
私としては、秋でも暑い厨房で戦う人達にお礼のつもりだったんだけど………。
まぁそれはそれで有難いことです。
「厨房に来れて良かったよ。お礼の気持ち伝わったかなぁ………」
考える仕草でそう言えばにこやかに笑ったミーシャさんと目があった。
「大丈夫ですよミオン様。ゼファン殿のあのように喜ばれた顔、なかなか見れるものではありません。厨房では鬼と呼ばれる方ですからね。他の料理人達も嬉しそうでしたし」
「そうだな。俺だけが行く時よりもゼファンも他の者も嬉しそうだった」
なんだか嬉しそうにいうディーさん。
「そうなの? だったら嬉しいなぁ」
そう言うと二人とも頷いた。そう言って貰えると心の中がホンワカする。
ディーさんは今日の執務は終わったらしく三人で暫く庭の散歩。ディーさんが昔登って降りられなくなった庭の木の話とか、ディーさんが魚を取ろうとして溺れた庭の池の話とか聞きました。
ディーさんて子供の頃はほんとヤンチャだったんだね。でも何回か死にかけた事もあるらしいから、ヤンチャで済ませられない気もするけど。その度にお父さんに怒られお母さんに泣かれたらしい。
聞いていると主に巻き込まれ属性のジュド―さんが大体ディーさんと同じような目に会って、時々ミーシャさんもその被害に会うという構図。
「ディーさんて意外と問題児?」
「かなり、ですわ。ミオン様。当時の宰相だった私の父はそのせいで頭の毛が薄くなったと今でも言いますもの」
「酷い言われようだな。ジャジール叔父上の毛が薄くなったのは年の所為だと思うぞ?」
「さぁ、父がそういっているのですもの、私にはなんとも」
ディーさんが少し拗ねながら言っているのが可愛い。その様子にクスクスと笑うミーシャさん。
また暫く歩いて行くと一本の木に沢山の傷がある所に来た。ディーさん達が立ち止まったので私もそこに立ち止まる。そこで、ディーさんとミーシャさんの顔が少し曇っているのに気付いた。
「? どうしたの??」
思わず聞けばディーさんが真剣な顔をして私を見る。
「ここは………俺が父と母を馬車の事故で失った時に来た場所だ。この木は俺が産まれたときに父が植えたものでな。当時、理不尽な怒りに駆られて打ちすえた。俺が16の時だ」
そうか………この傷はディーさんの心の傷跡なんだ………。
「当時の陛下はかなり荒れてらして………誰も近づける状態じゃありませんでした。突然の事でしたからね………レディアンナ妃殿下のお腹には赤ちゃんもおられましたし………」
ミーシャさんは目を伏せとても哀しげにそう言った。
「あれは春の花祭りの時だった。たまたま俺は高熱を出して行けなくてな………。父と母は王族の義務として出かけた………その帰りの事だ。俺は当時何故俺だけが生きているのか理解したくなくてな。かなり危ない事をして自分を痛めつけていた。それを救ってくれたのがジュド―とミーシャと今の宰相であるレンブラントだ」
遠い目をして語るディーさんは、今きっと当時の事を思い出してるんだろう。
「ある時、街に降りて荒くれ者と喧嘩をしてな。半死半生の目に会った。その時、三人に怒られてなぁ………命を粗末にするなと。父と母が今の自分をみて喜ぶのかと。そしてこの姿が産まれられてこれなかった赤子が誇れる兄の姿かと。正直堪えた」
しみじみと話すディーさん。私はどうしていいかわからなくて、ただそっと手を握った。そんな私にディーさんは優しい頬笑みを浮かべる。
「………それから陛下は変わられました。ご自身が王に選ばれると民から慕われる王になられましたもの」
「民から慕われているかは俺の判断すべき所ではないが、意識は変わったな。死んだ両親と弟か、妹か分からんが、そのきょうだいに恥じぬ生き方をしようと決めた。そして俺にとってここは戒めの場所になったんだ。俺が、その誓いを守るための。ミオンには弱い俺がいた事も知って欲しかった」
「………ここはディーさんの大切な場所なんだね。………話してくれてありがとう………私の両親は物心つく前に死んじゃってるからアレだけど、気持ち少し分かる気がする。私、いつも思ってたんだよね………友達といてもさ。何で私は独りなんだろうって。人だもん。弱い所があるのは当たり前だよ。たださ、それを乗り越えられる強さがあればいいんじゃないかな」
私が来たのがここで良かったと思う。だってなんだかここの人達は不思議と家族みたいに思えるんだよね………。そう言ったらディーさんに抱きしめられました。
「ミオン様もご両親を………」
そう言って涙ぐんでくれたのはミーシャさん。ミーシャさんは私にとってなんかお姉さんみたい。
ディーさんは、なんだろう? お父さんのようでもあり、お兄さんのようでもあり………でも一番近い感じのする家族かなぁ。
異世界にて家族ができました。でも深音サン、お父さんは酷いと思う………。