第15話 問題は帰り道………。
前半ちょっと湿っぽくなってしまったものの10時の泉ピクニックは楽しかったです。
泉に近寄れば淡い色をした魚が泳いでました。調子に乗ってブーツを脱いで入ろうとしたらミーシャさんに慌てて止められる私。水温が驚くほど冷たいんだって。
恐る恐る触ってみれば雪解け水のように寒かった。それもそのはず、シイナイ山脈という所から地下水脈を通ってくる雪解け水なのだという。元々ここには小さな泉があったのらしい。これも、何万年前の水なんだろうか??そう思うとちょっとワクワク。とここまではヨカッタ。問題は帰り道………。
「コレが陛下のお妃さまですって?! イリアナお姉様の方がお似合いですわ!!!」
明らか―に身分の高そうなお嬢様にとてつもなく嫌な顔されました。帰り道の王宮でばったり出くわしたお嬢様。これがとてつもなく強烈でした。こそこそ、言うんでもなく正面切って。正直その意気は買うがどうなのよ??? お姉さんちょっとほっぺをつねりたい衝動に駆られましたよ?
―――それはまだちんまいお子様だった。
ただし、プライドが死ぬほど高いだろうという感じの。ミーシャさんが頭を抱えて呻いてる。
「誰が虎の子? いい気になってるんじゃないわよ。あなたなんかジターがお似合いよ!!!」
ジターがお似合いと言われても、私はジターがどんなのか分からんし。そんなにショックは受けません。そもそも虎の子がどんなのかも実際みてないしね。
「陛下に召喚されたからって自惚れるんじゃないわ!!!」
「エヴァンジェリン………ここは王族の方しか入れない所でしょう? 供の者はどうしました」
「ミーシャお姉様はお黙りになって!!! こんな者にミーシャお姉様が着く事ないですわ!!」
ミーシャさんをお姉様と呼ぶので、もしかして兄妹? と思うとどうしたもんかと頭を抱えたくなった。
「こんなジター、レディーでもなんでもないわ!!!」
そう言って、ミーシャさんの止める間もなく扇子でいきなり私の顔を叩こうとしたので流石に私も怒りました。
「初対面の人を罵ることが、いきなり顔を扇子で叩こうとする事がレディーのする事かな??? あなたのその行いが、あなたのご両親を貶める事になるかも知れない事を分かっていてやってるの??」
私は曲がり間違っても妃殿下の立場にある。外からの認識は変えられない。それを、王家の者しか入れない廊下で罵って扇子で叩いたりした日にはこの子、ひいてはこの子の両親がどうなるか分からなかった。ディーさんならそんな酷い事はしないと思うけど、ここにはここの衛士や女官がいる。人の口に戸は立てられない。
今だって、さっきまでは居なかったのに人が集まり出している。この子のしたことはあっと言う間に広がるだろう。だったらここで釘を刺してこれ以上酷くならないうちに帰すしかない。
エヴァンジェリンは唇を噛み締めて私の事を睨んでる。言い返されるとは思っていなかったようだ。
「良くお考えなさいエヴァンジェリン。あなたはそんなに愚かな子なの???」
ミーシャさんがそっと寄り添ってエヴァンジェリンを諭す。
エヴァンジェリンはその言葉で我に返ったらしい。勢い余って来てしまったが、少し青ざめた顔は自分がどうしたらよいか分かってない様子だ。そこにこれまた青ざめた女官が慌ててやってきた。
「エヴァンジェリン様!!! あぁ、何か失礼があったのでしょうか」
オロオロとするその女官、主が消えてこんな所で騒ぎを起こしてるとは思わなかったんだろうなぁ。同情。職務怠慢とかで処罰されなければいいが。
「―――大事には至りませんでした。ここでの事は不問に処します。ただし、エヴァンジェリンは今日の事を良くお考えなさい。私は怒ってる訳じゃない。ただ、残念には思う。だって私達はまだ知り合ってもいないのに私はあなたに嫌われているんだもの」
ディーさん。私の心臓はバックンバックンです。勝手に不問に処して良かったでしょうか?
でも、不思議そうに見上げてくるエヴァンジェリンちゃんの目は純粋な子供その物だ。
もっと私に意地悪されると思ったんだろう。それぐらいまでに子供。これで良かったと言って欲しい。
叱った深音がドキドキです。