"昼食"
からからとした、機械の音
椅子に座って把手を回すと、桃色の蚯蚓──重なった挽肉の束が夥しい数の穴から蠢き落ちる
或る意味ではこれが、本来造り得ない僕たちの子供だ
事実として肉は、僕たちの躰から摘出したものだった
雰囲気を出す為に照明は落としてある
カーテンの隙間からひらひらと陽光が床に細い線を描いて居る以外は、キッチンには光が存在し無い
これは作業の合間、隣に座った君と唇を重ねるのに、とても適して居た
「ねえ」
君の指に、まぐわうみたいに片手の指を絡めて
僕はそれでも視線を挽肉から離す事が出来なかった
「結ばれていくよ」
君を自分のものにしたいから
僕はわざと液躰音を立てて、幾度も君の唇を吸った
繰り返すうち、いつしか絡めた指の間が汗で濡れていく
きっと強く握り締め過ぎてしまって居たと思うけど、君は考えの読めない顔で静かに笑って居た
「………二人で死のうよ」
近くに刃物が在ると、こんな事ばかり考えてしまう
『拒絶されたら嫌だな』と思って君の顔を視ようとしたら、不意に抱き締められた
部屋を満たして居た機械の音が止む
代わりに、自分の心臓が鼓動する音が聞こえてくる
「言ってみただけだよ」
「ごめん」
気まずく感じて機械の下のボウルを視る
量から逆算すると、精肉はどうやら終了して居たみたいだ
僕は自分を抱いている腕を優しく離すと、背もたれに掛けて在るエプロンをして、鶏卵をボウルの挽肉へと割り落とした
「Eat Well, Live Well」
食餌を前にした時、必ず君は食べる前にそう唱える
僕も合わせて「Eat Well, Live Well!」と唱えると、胡椒と炎、血、そして甘やかな肉の匂いをすんすんと鼻孔に吸い込んだ
朝食が終わる頃
食肉の摘出によって抉れて居た僕たちの躰は、完全に修復されて居た
僕は水に漬けたフライパンに洗剤を垂らしながら、「今日は何をして遊ぼう」と考えて居た




