第74話 勇者達による最後の攻防
「ガァァァァァァァ!!!!!」
凄まじい雄叫びと共に、ヤオは半ば暴走と言っていい程の無茶苦茶な攻撃を始める。
背中一面に生やした十本の赤黒く光る角を、四方八方へと伸ばして振り回す。
そんなヤオの攻撃を、アルマとミユミユは縦横無尽に駆け回りながら避け、着実にヤオへと攻撃を当てていく。
「ふむ!さっきまでと違い、これぐらいの方が我はやりやすいな!ヤオよ!冷静さを欠くと負けだぞ!」
そう言いつつ、アルマが余裕を持って飛び上がるのだが、まるで鞭のようになった1本の角が、たまたま無防備なアルマの股間に打ちつけられる。
たまたまとタマタマをかけたわけではないので、そこは理解して欲しい。
「ぐはぁぁぁ!!!我の大事な宝玉がぁぁ!!!」
「油断してんじゃねーよ!使わねーまま潰されたくねーだろ!」
「おい!遠回しに我が童貞であるように言うな!」
ここでミユミユの支配の力がかなりの活躍を見せる事になる。
元々チートクラスの力ではあるのだが、黒い霧でヤオの角を縛り付け、一瞬でもその動きを止めると、アルマがその隙を突いて楽にヤオへと攻撃を当てる事ができている。
そしてミユミユは、周りに散らばった建物などの残骸を支配の力でかなりの数を操って浮かせる。
ラヴィ戦で見せたように、それを弾幕のように放つ算段なのだろう。
「おい!どけ!アルマ!」
「ぬおっ!なんだそれは!」
ミユミユの背後に浮かぶ多数の残骸を見て、何をするのかを察したアルマは急いでヤオから離れる。
退いたアルマを確認すると、ミユミユは勢い良く両手を前に突き出す。それに合わせて残骸が全てヤオに向かって飛んでいく。
一つ一つに支配の力を纏わせた残骸が、物凄いスピードでヤオに撃ち込まれる。だが、ヤオはその数百にも見える数の残骸を、背中の角で全て払い落としている。
『ドガガガガガガッ!!!』という激しい戦闘音がしばらく続くと、ミユミユの放った弾幕は、ヤオにかすり傷一つつける事なく全て打ち落とされてしまった。
一見失敗に終わったかに見えたミユミユの攻撃だが、一段落ついたヤオが前を見る。
すると、ミユミユは両手を天に掲げており、その先には巨大な石のつららが空中に浮いて、その先はヤオに向けられている。
「ケッ!さっきのは目眩ましだよ!本命のこいつを食らいやがれ!!」
そして、もう限界に近いミユミユは、歯を食いしばりながら、ラヴィの時と同じ様に黒い霧で作られた巨大な手で石のつららを掴んで思いっ切り投げる。
放たれた石のつららは、凄まじいスピードによる衝撃波で地上を抉りながらヤオに向かっていく。
それをヤオは、両手を巨大化させて真正面から受け止めると、踏ん張る足が地面を削りながらも、数十メートル下がった所で完全に止めたのだ。
勢いを失った石のつららを、ヤオは軽々と巨大な手で握り潰す。粉々になった石のつららがパラパラと零れ落ちる中、自分の強さを示すように『グオォォォォ!!!』と再び恐ろしい咆哮を上げる。
「チッ…。やっぱ全然ダメか…。もうこれ以上足止めはできねーぞ!」
「ラヴィよ!まだなのか!?」
アルマとミユミユの声は届いているが、ラヴィは集中するため、その問いに答えなかった。
(目を瞑れば良く分かる…。ヤオの身体の外側は全て悪の力によって形成されたものだ…。
その中に白い人型のオーラを感じる。これがヤオの本体なのだろう…。
その本体の…前辺りに…禍々しいオーラを放つ球体が……。)
そして、ラヴィは完璧にヤオの体内に隠された悪の宝玉の位置を把握する。
「見えた!分かったぞ!あいつの弱点が!もう逃さないぞ!」
ラヴィはやっとの思いで見つけた悪の宝玉の位置を見失わないように、素早く臨戦態勢に入る。
聖剣のオーラの刀身はより一層蒼く深く輝きを強める。
その聖剣の輝きを見たヤオは、危機感を覚えたのか、さっきまでの暴走を止めて直ぐ様ラヴィに襲い掛かろうとする。
「アレハ…キケンダ…!イマスグ コロサナケレバ…!」
そして、ヤオは天罰の力を使って気配を消そうとするが、それを読んでいたアルマとミユミユがヤオへと同時に飛び蹴りを打ち込む。
「させるかよ!」
「もう終わりだ!ヤオよ!諦めるのだ!」
だが、ヤオは両腕を使って2人を払いのけると、そのまま幻想の力で分身体を10体作り、ラヴィの所へと走り出す。
「あの野郎!この期に及んでまだ…!ラヴィ!いけるか!?」
ミユミユは、飛ばされた身体の体勢を整えて地面に着地すると、すぐにラヴィの援護へと向かう。
アルマも空中で浮かんで勢いを殺すと、そのまま飛んでラヴィの元へと急ぐ。
「大丈夫だ!悪の宝玉の位置は把握している!私から見て右から3番目が本物だ!」
「グオォォォォ!ワズラワシイ…!ウットウシイ…!」
指摘された本体のヤオは、両手に悪の力を集中させると、赤と黒の稲妻が両腕全体を包む。
(集中しろ!私!相打ち覚悟であいつの宝玉を斬る!そうでもしないと…。失敗はできない…!)
避けたりする素振りを見せないラヴィを見て、何かを感じ取ったアルマ達は限界までスピードを上げる。
そして、ラヴィの目の前へと辿り着いたヤオは、何の言葉も無く、悪の力を纏った両腕をラヴィへと向けて振り下ろす。
それでも、迫りくる死に全く臆する事無く、ラヴィは片手で聖剣を天高く振りかざす。
正に相打ちになる瞬間、『ブシュッ!』という水が弾けたような音共に、ラヴィの顔へと赤い血が飛び散ってくる。
それはアルマとミユミユが、ヤオの両腕をそれぞれが身を挺して防いだためだった。
アルマもミユミユも、無残にもヤオの手が身体を貫いている。
「アルマ!ミユミユ!」
「止まるでない!ラヴィ!我らの事は気にせず早く斬るのだ!」
「あたしがここまでやってんだ!早くやれ!」
両腕での攻撃を防がれたヤオは、大きな一つ目を赤く光らせて、その体勢のままビームを放つ準備を始める。
だが、もうヤオが何をしようとしても遅かった。アルマとミユミユが命を賭けて作った隙を、ラヴィが見逃すはずがない。
「終わりだ!!ヤオ!!お前が諦めた人の力によって倒れるが良い!!」
「ボクハ…!ボクハ…!クソォォォォォォ!!!」
そして、蒼き聖剣が悪の宝玉目掛けて振り下ろされる。
『キーーーーーンッ!!』という金属音のようなものが静寂の中鳴り響くと、悪の宝玉が真っ二つに斬られた気配を感じた。




