第73話 勇者の忘れモノ
「改めて、私はラヴィだ。よろしく頼むぞ!ミユミユ!」
「我は魔王アルマだ。悪魔であるならこの戦いが終わった後、配下に加えてやっても良いぞ。」
「ケッ…。てめぇらの自己紹介なんざいらねぇよ。てめぇらについては今まで嫌ってほど聞いてるんだよ。っていうか、この状況なのにどこまで能天気なんだよてめぇらは!」
ミユミユが加わり、ラヴィとアルマの尽きかけていた闘志も戻りつつある。
そんなミユミユ達の姿を見て、嬉しさから拳を握る者が2人いた。それは熱い涙を流すシルバと、天使のような微笑みでミユミユを見つめるエンジュであった。
「ぐ…。ミユミユ…。あーしはお前のその姿が見れて嬉しいぞ!あーしらに言いたい事も山程あるだろう!後でいっぱい話をしよーな!」
「本当に良かったわ〜。この15年間…誰も助けてあげられなかったのに…ごめんね…ミユミユ…。
後で私がミユミユの溜まったモノを全部受け止めてあげるからね〜。あ…!エッチな意味じゃないわよ〜。」
「エンジュ…こんな時にも下ネタぶち込んでくるんじゃねーよ!」
そして、旧友が見守る中、とうとうヤオとの本当の最終決戦が始まろうとしていた。
そんな中、ヤオはミユミユがなぜ狂乱の力の中で平気なのかを問う。
「ナゼ…オマエモ キョウランノチカラ二 アラガエテイル…?」
「あたしは自分の脳を支配の力でコントロールしたんだよ。他の力が干渉できないようにな。」
「ソウカ…ヤハリ シハイノチカラヲ ウバッテオクベキダッタナ…。」
ヤオはそう言うと、離れた場所からミユミユに向かって手を伸ばす。伸ばした手のひらには黒い渦が巻き起こり、その渦がミユミユから支配の力を奪おうとする。
だが、一向にミユミユから支配の力を宿した黒い光が現れない。
「チカラガウバエナイダト…。」
「もうあたしから何も奪わせねぇよ!誰にもあたしを支配なんてさせない!」
そう言ってミユミユは、ラヴィと戦っていた時と同じ様に、支配の力の黒い霧で翼や尻尾を形成する。
力を奪えなかった事が余程気に入らないのか、ヤオは動きを止めて沈黙している。
その間にアルマも何とか立ち上がり、残されたオーラを身に纏う。
だが、場は盛り上がっているものの、何も事態が好転していない事にラヴィは気付く。
「しかし、アルマのあの力で与えたダメージすら回復するとは…どう攻略すればいいか分からないな…。」
「さすがの我も心が折れるわ。島一つ消し飛ばす勢いで攻撃しておったのだがな…。」
「悪の力での攻撃だからだよ。赤いオーラではあいつにダメージを与えられないんだろ。悪の親玉みてぇなもんだしな。
よく見てみろ。あいつが回復しきれていない小さい傷がいくつかある。あれはたぶんラヴィがつけた傷だろうな。」
「という事は…、私の勇者の力でならヤオを倒せるかもしれないと言う事か…。」
「可能性はもうそこしか残されてねぇな。だけどチマチマ攻撃してたって埒が明かない。
だから、あたしとアルマがあいつを押さえている間に決定的な一撃をてめぇが決めろ。」
「私が…か…。」
ラヴィは失くした腕を押さえながら少し自信の無い返事をする。
「おい!あたしが手助けするって言ってんだから気合い入れろよ!」
世界の命運が自分の肩に伸し掛かっているというプレッシャーは、いくら楽天的なラヴィでも相当な心の負担になっている。
柄だけになった聖剣をギュッと強く握るが、セリーナの言っていたオーラの刀身を形成する事が出来なかった。
(く…。やはりダメか…。さっきから試しているのに全く聖剣が反応しない…!)
そんなラヴィの様子を遠くから見ていたセリーナは、聖剣が真の姿を現さない理由を知っているようだった。
「思い出せ…!思い出すんじゃラヴィ!お主が忘れておるあの気持ちを…!」
覚悟は決まっているはずなのに、一切反応を示さない聖剣にどうしたらいいのかラヴィが迷っていると、アルマがラヴィの肩にポンッと手を乗せて笑顔を見せる。
そして、今からアルマが発する言葉が、ラヴィの今の状況を大きく変える事になる。
「我を…魔王を倒すのであろう?それが貴様が勇者たる所以なのではないのか?
こんな中途半端な所で終わってもらっては我も困るではないか。」
そのアルマの言葉でラヴィは大事な事を思い出す。
(そうだったな…。『魔王を倒す』という事が私を勇者にしていたんだ。
こちらに来てからの平和な日常…アルマとの共闘…共鳴…。そんな事が重なって忘れてしまっていたよ。
もう…『倒す』の意味合いは違うが、いつかアルマを打ち倒してやろう!私は勇者だからな!)
迷いの晴れたラヴィの右腕が蒼く光り輝くと、聖剣の柄から勇者のオーラで形成された蒼い刀身が姿を現す。
それを見ていたセリーナも、思わず『よーーーし!!』と大きい声を出してしまう。
「そうじゃ!お主が勇者となった切っ掛けを思い出さねば聖剣は反応せんのじゃ!これで…これでヤオを討てるかもしれん…!」
『ヤオを討つ』というセリフと共に、セリーナは少し悲しげな表情に変わる。
そして、とうとう真の姿を見せた聖剣の蒼い光に照らされたアルマは、どこか嬉しそうにしている。
「ククク…。やればできるではないか!それでこそ我がライバルだ!」
「ムカつくが…今回はお前に助けられてばかりだな。この戦いが終わったら私の行きつけの居酒屋に連れていってやろう!」
「おいおい!てめぇら!いい加減集中しろよ!ラヴィの準備は整ったが、今からあたしとアルマはあのヤオを押さえなければならないんだぞ!」
「分かっている。だから、アルマ…ミユミユ…あいつを数分だけ足止めしてほしい。」
「何か策を思いついたのか?」
「ヤオと戦いながらちょくちょく感じていたあいつの悪の根源の場所を探る。その場所さえ分かってしまえば、この聖剣でそれを斬って戦いを終わらせる事が出来るだろう。」
「根源…か…。たぶんあいつが取り込んだ悪の宝玉だろうな。やれるか?アルマ。」
「愚問だ!悪魔っ子よ!逆に我の足を引っ張るなよ!」
「さて…いつまでもあいつも待ってくれなさそうだぞ。そろそろ動かないとな。」
ずっと沈黙していたヤオは、大地が震える程の赤黒いオーラを身に纏う。
「ギ…ギギギ…。コンナハズデハ ナカッタ…!コンナテンカイハ ミトメナイ…!」
自分にとって不愉快な事ばかりが起こり、怒りが止まらないヤオは『グオォォォォ!!!』という咆哮をあげると再び戦闘態勢にはいる。
「さて。行くか。悪魔っ子よ。」
「仕切ってんじゃねーよ。てめぇはなんか童貞臭いんだよ。」
「なっ…!?貴様まで我を…!!断じて違うからな!!」
「ハハハハハハ!良いコンビじゃないか!」
罵り合いながらもヤオの元へと向かっていく魔王と大悪魔の背を、勇者は笑いながら見送っている。
相容れないはずだった3人が手を取り合うこの光景が、未来の世界を表していてほしいと、セリーナは強く願うのだった。




