第7話 勇者と伝説のメイド、一方その頃魔王は…
2026年現在の一本橋界隈は、色々なオタク文化がそれぞれ上手く共存している状態である。
しかし15年前、コンカフェの乱立により一本橋は乱世の時代に突入していた頃がある。その中でも四大派閥による権力争いが激化し、一本橋の中心部である『オタックロード』と言われる地域を手に入れようと全ての派閥が覇権争いをしていた。
『王道メイドコンセプト』
『悪魔っ子コンセプト』
『天使コンセプト』
『ケモノっ子コンセプト』
この4つのグループが一本橋界隈の東西南北に分かれて日々激闘を繰り広げていたのだ。
それぞれのグループの代表は一本橋の四天王と言われ崇められていたが、王道メイドの代表であった1人の女性がこの戦いに終止符を打ち、この乱世の時代は幕を閉じる。
その女性は今でも平和をもたらした伝説の『オタクの女神』として語り継がれているのである。
話は現在に戻り、突如現れたネネに対して、猛獣を恐れるかのように逃げ腰になる高柳。
「なんであんたがここに!?今日は居ないはずじゃ…。」
「あらあら、私が居たら何か困る事があるのですか?ここは私のお店ですよ、当然私が居ても何も不思議な事ではないと思いますが…ねぇ?高柳様?」
ネネはそう言うとラヴィに肩を貸しながらルルに的確な指示を出す。
「ルルちゃん、そこのソファにラヴィちゃんを座らせてあげてね。そして氷の入っていない温めのお水を飲ませてあげてちょうだい。」
「は…はい!ネネさん…ありがとうございますぅぅ…。」
「あらあら、ルルちゃんは涙目になっちゃって…。あなたは良く頑張っていますよ。後の高柳様のお相手は私にまかせてラヴィちゃんの介抱をお願いしますね。」
ネネからの激励の言葉にまた胸を打たれ泣きそうになるルルだったが、言われた通りフラフラのラヴィをソファへと連れて行く。
だが、今にも倒れそうなラヴィは足を止めてネネの元に残ろうとする。
「ネ゙…ネネ…。私はまだやれるぞ…。これは…自分でなんとかすると私が言い出したことだ…。手助けは無用…。下がっていてくれ…。」
「だ〜めよ!ラヴィちゃんはまだまだ新人メイドちゃんなんだから。ここはメイド長の私に任せなさい!それにね、頼って良いのよ?もうあなたはこのどり〜むは〜との仲間なんだから!」
仲間という言葉に馴染みのなかったラヴィは、そのネネの言葉に何か胸の高鳴りを感じた。
今まで誰にも頼らず…いや、勇者として他者に助けを乞うなど恥だと思い、たった一人で戦ってきた。だが、前の世界でも仲間がいれば結果は大きく変わっていたのかもしれない。
真面目に愚直に突っ走って来たラヴィに大きな変化が訪れようとしていた。
そして、力が入らないラヴィをルルがソファに座らせる。
「ラヴィちゃん!ネネさんの言う通りだからね!私達をいつでも頼っていいからね!それに…今からネネさんを見てた方がいいよ、伝説のメイド『戦乙女のネネ』の姿を!」
(戦乙女だと!?そうか…ネネも戦場で数多の修羅場をくぐってきたのだな…。それでは甘えさせてもらおう…。)
ラヴィとルルが固唾を呑んで見守る中、ネネは観覧車に乗ったテキーラのグラスを1つ取った。
「では高柳様、私もいただいていいかしら?」
「チッ、飲めばいいだろう飲めば!どうせ失敗だ…!」
そして、『それでは遠慮なく♪』とネネは言うと、残ったテキーラのショット6杯を一瞬で枯らしてしまった。
「は〜♪おいしっ♪」
ネネはテキーラを飲み干すと、ペロッと上品に舌を出す。普通の男性ならこれだけでネネの虜になってしまうような完璧な仕草であった。
ラヴィは自分があれ程苦しんだテキーラを、何の苦もなく飲み干してしまったネネを見て愕然とした。伝説と呼ばれる女性はラヴィの心までも鷲掴みにしてしまったのだ。
そして、飲み終わったネネはグイッと高柳の方へと顔を近付け、周りには聞こえない声量で問いかける。
「で…高柳様…、何が失敗なのでしょうか…?あなたが他店から大量のコンカフェ嬢達を引き抜いている件と何か関係がおありで…?」
高柳はネネからのその問いかけをはぐらかすかのように突然立ち上がり、バンッとテーブルに数万円を置くと、何も答えずに入り口へと急いで向かった。
そして、入り口の扉を開けざまに振り返り、ネネへ宣戦布告ともとれる言葉を放つ。
「ネネ!デカい面できるのも今のうちだぞ!俺は今コンカフェ界の大物と組んでプロジェクトを進めている!お前もよく知っている悪魔の『あいつ』だよ!覚悟しておけよ…。」
高柳はそう捨て台詞を吐くと店から出ていった。だが、ネネはその脅しともとれるセリフに全く動じていない。
「あらあら〜、黒マッシュ如きが何を言っているのかしらね〜。
あら!ついつい汚い言葉が出てしまったわね!うふふ♪」
ネネがそう言うと店内からはメイドやご主人様達から『ワーッ!!』と歓声と拍手が沸き起こる。
その中でラヴィはフラフラとネネに近付き礼を述べた。
「ネネ…助かったよ…ありがとう…。戦乙女の勇姿…見させてもらった!勇者として色々と学ばせてもらったよ…。」
「いいのよー、ただ1つだけ約束して頂戴ね。これからはもっと周りを頼るのよ。さっきも言ったけど、もう大事な仲間なのだから!分かった?」
「了承した…。これ…から………も…よろ…しく………たの…む……。」
ラヴィは最後にそう言い残してバタンと酔い潰れてしまった。それを見たルル達が急いで2階へとラヴィを連れて行く。
ベッドに寝かされたラヴィの寝顔は、今までにない安らかな笑顔だったという。
そして、ラヴィを寝かせ終わって店内に戻ってきたルルは、キッチン内で『ウコンの力』をガブガブ飲んでいるネネの元へとやってきた。
「ネネさん、先程は本当にありがとうございました。でも、高柳様が言っていた悪魔のあいつと言うのはもしかして…。」
「んー…、十中八九あの子の事でしょうねー…。元四天王…悪魔っ子コンセプトの『キャワワな大悪魔ミユミユ』…。また何か大変な事が起こりそうねー♪そうなったら勇者のラヴィちゃんに頼らなきゃね!」
「そういえばラヴィちゃんはずっと『勇者』って自分の事を言ってますけど、そういうコンセプトでいくんですかね?」
「さぁね!でも人間みんなワケありなのよー。だからこそ!どり〜むは〜とは一致団結していきましょうね!」
「はいっ!ネネさん!」
ネネはこの不穏な動きにもどこか楽しそうに笑顔でそう語る。
2階のベッドで眠るラヴィは、正式にメイドとして働く事が決まったが、ここから巻き起こる大事件に知らず知らず巻き込まれていくのであった。
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一方、五右衛門町の方へと向かっていった魔王はというと…。
1人の女性を抱えた状態で大勢の警察に追われていた…。
「何故魔王の我がこんな目に遭わねばならぬのだ!!!!」
夜の繁華街を涙目で駆け抜ける魔王に一体何があったというのか…。




