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メイド勇者とホスト魔王  作者: わったん
第五章 悪神との戦い 決着編
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第69話 魔王、逆転の一手

 アルマはヤオへの攻撃の手を緩めない。少し前にラヴィと話していた『攻め続ければ良い』という作戦をたった1人で実行している。

 ヤオが天罰の力で消えないように、息をつく暇もなく攻撃を続ける。


 オーラを纏ったアルマの拳や蹴りが、ヤオの顔面や身体に再生させる隙を与える事なく叩き込まれていく。

 ヤオが堪らず距離を取ろうと音速に近いスピードで移動をしようとするが、ピタリとアルマも離れずに超スピードでついていく。

 『ドドドドドドドッ!!!!』という激しい戦闘音がアルマの猛攻の苛烈さを表している。


 あの絶対的な強さを持つヤオに対して、アルマ一人で戦い追い詰めていく姿に、ラヴィ達はただただ驚くばかりであった。


「あ…あれが…魔王アルマの本当の力なのか…。うちらなんて足元にも及ばないぞ…。」


「私もあんなアルマは初めて見た…。エルサンガの時代にあの姿になった所を見た事がない…。

悔しいが…今の勇者の力をもってしてもあの境地に辿り着けるかどうか…。」


「あれが真の『魔王』の力じゃ。暴走してもわしがおるから使っておるのかもしれんが…。早くせんとアルマの身がもたん!」


「ルル!どうだ!?私の腕は治りそうか!?」


「…………。もう少しだけ…待って…。」


 焦るラヴィに、ルルは深刻な表情で返す。もう残り少ない魔力でどうにかラヴィが戦える状態に戻そうとしているのが伝わってくる。


 だが、そんな猶予がほとんど残されていない事がアルマの様子を見ていると分かる。


 優位に攻めていたアルマであったが、とうとうヤオの剣による一閃を受けてしまう。

 それにより、アルマの上半身から血飛沫が舞い、その傷により片膝をついて沈黙する。


「ギギ…。マサカ…セリーナノマオウガ コレホドノチカラヲ モッテイタトハオドロキダ…。」


「お褒めの言葉はありがたいが…。我も…ここまでか…。」


 ヤオは、アルマに与えられたダメージを瞬時に回復する。そして、天薙の剣を振り上げて高く構えると、トドメを刺すために剣に悪のオーラを纏わせた。


「チッ…。我が苦労して必死に与えた傷すら一瞬で回復か…。ここまで心を折りにくる敵は初めてだ。」


「セメテ クルシマナイヨウニ イットウリョウダンデ コロシテヤル。」


「悪の神のくせに、優しいではないか。死の覚悟はできておる。いつでも良いぞ。」


 アルマは片膝をついたまま、少し微笑みながら俯いてヤオの死の一撃を待っている。


 そして、なんの躊躇もなく、死を纏った刃がアルマへと振り下ろされる。


「アルマッ!!逃げろ!!

ルル!!もういい!!私は行くぞ!!」


 自分のライバルであり、全員を守るために戦った魔王が今まさに死に直面しているのを見て、ラヴィは結界から飛び出そうとする。


 だが、誰がどう見てももう助けには間に合わない。ラヴィ達の目に映る景色がスローモーションに変わる。


 ゆっくり、ゆっくりと、ヤオの刃がアルマを頭から一刀両断するために近付く。

 そして、とうとう刃がアルマの身体を斬り裂こうと触れようとした。


 その時であった。なんと、アルマはヤオの凶刃を白刃取りで受け止めたのだ。

 常人では目で追う事もできない剣速であるヤオの刃を受けるなど、誰も予想をしていなかった。


「ナニッ!?」


「ククク…。油断したな!ヤオよ!この状態になれば我を縦に真っ二つにしようとすると思っていたぞ!剣の太刀筋さえ分かっていれば、今の我であれば剣を取るなど造作もない事!」


 ヤオが取られた剣をなんとか引き抜こうとするが、アルマはそれを絶対に離さないようにする。


 それを見たラヴィは、飛び出そうと結界から片足を出していたが、その動きを止める。

 そして、アルマの大逆転劇に鼓動の高鳴りを感じ、全身の鳥肌が止まらなかった。


「あいつめ!!心配させやがって!!本当に死ぬのかと思ったぞ!!」


 そう言うラヴィの心配を余所に、アルマは命を賭けて掴み取ったヤオの剣に渾身の力を込める。


「ムダダ。コノツルギヲ オロウトシテイルノダロウガ、ソレハ フカノウダ。」


「普通…ならな…!」


「ナニヲイッテイル?」


「さっきラヴィの聖剣の一撃で貴様の剣は欠けておる!欠けた剣如きで!魔王の力を受け止められると思うな!」


 そして、アルマがオーラを集中させて一層力を込めると、『バキーンッ!!』という音を響かせながら天薙の剣の刃が無残に折れる。


「ナンダトッ!?」


「はぁ…はぁ…。どうだ!勇者の一撃をナメるでない!我もどれだけ奴に苦労したか!

それを無駄にする事がなくて良かった…。我は剣を折る事だけを狙っていたのだ…。」


 アルマは折った刃を横に投げ捨てると、力尽きたようにその場に座り込む。

 額の角は消え、全身の黒いタトゥーのような紋様も消えていく。


「最後の力を振り絞ったのだ…。もう…本当に動けん…。」


 今度こそ窮地に立たされているアルマを見て、ラヴィはまた心がザワつき気持ちが焦る。


「あいつ!今度こそ本当に!?ルルよ!治癒は終わりそうか!?」


「ごめん…。ラヴィちゃん…。傷口を治すことはできたけど…腕が元通りにはくっつかないよ…。」


 そう告げるルルは、両手で顔を覆って涙を流している。


「泣くなルル!傷が治っただけでも充分だ!」


「ごめん…。ごめんね…。もっと魔力が残っていれば…。」


 ルルは巨人に放った破壊魔法による魔力の枯渇がまだ回復しきっていなかったのだ。

 それでも、彼女が必死で自分を助けようとしてくれた気持ちはラヴィに充分伝わっている。


「ルル!見てみろ!隻腕の勇者も格好良いだろう!」


「ラヴィちゃん…。」


「ラヴィよ!急ぐのじゃ!いくらアルマでももう致命傷を受ければ死んでしまうぞ!」


「はい!」


 そして、ラヴィがアルマを助けに向かおうとした時、ヤオが右手に悪のオーラを溜め込んで、それをアルマに放とうとしている。


「くっ…!間に合え!!」


 ラヴィは足にオーラを集中させて、爆発的なダッシュを見せる。それはギリギリ間に合うかどうかという絶妙なタイミングであった。


(届くか…!?いや…!届かせる…!)


 しかし、ヤオはそんなラヴィの気持ちを砕くかのように、溜め込んだオーラをアルマに向けて放とうとする。


(ククク…。我もここまでか…。この我がお膳立てをしてやったのだ。ラヴィよ。後は頼んだぞ…。)


 死を覚悟したアルマは潔く目を瞑る。その瞼の先に、ヤオの悪のオーラによる赤黒い光が差し込んでくる。


「オワリダ。」


「アルマーーーーーッ!!!!」


 ラヴィがアルマの所まで後数メートルという所で、ヤオはアルマに最後の一撃を叩き込む。


 ラヴィが必死で手を伸ばし、間に合わなかった事による苦悶の表情を浮かべる中、あるものが目に飛び込んでくる。


 それは、ヤオの腕に纏わりつく、見覚えのある黒い霧であった。

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