第68話 勇者は語り、魔王は守る
ラヴィが切られた左腕を持ち、脇の血管を押さえて止血をしながらセリーナの結界の中へとなんとか辿り着く。折られた聖剣は宝玉の中に戻しているようだ。
激痛に顔を歪めているラヴィに、ルルはすぐに鎮痛効果もある治癒魔法をかける。
「ラヴィちゃん!切られた腕をくっつけるように持ってて!私が絶対に元に戻すから!」
「分かった…。ルル…すまないな…。ドジを踏んだ…。」
「なんでラヴィちゃんが謝るの!?アルマさんと2人で世界のために戦ってるのに!逆に…私達はここから出られなくてごめんね…。助けたくて助けたくて仕方ないのに…。」
「あぁ…ルルの言う通りだ…。うちらはラヴィやセリーナ様を守りに来たのに…反対に守られちまってる…。」
「ニャ〜…。レナ達が参戦できてたらラヴィがこんな事にならずに済んだのに…。」
「あーしらだってそうだ…。満を持してやっとここまで来たのに…。結局こんな事になってる…。ネネに合わす顔がねーよ…。」
メイド服もボロボロになっているラヴィの痛々しい姿を見て、結界の中にいる全員が下を俯いて項垂れている。
それは、あたかもこの戦いで勝利を掴む事が叶わないと諦めているようにも見える。
「おいおい、どうしたというのだ?強者たるみんなが子供のように泣きそうな顔をして。」
重い空気の流れる結界内で、ラヴィが少し微笑みながらみんなに問う。
その問いに、ルルが涙を流し、治癒魔法でラヴィの腕を治しながら答える。
「だって!ラヴィちゃんがこんな事になってまで!これだけ身を挺して世界を守っているのに!」
「ハハハ、これしきの事…当たり前じゃないか。」
「なんで!?」
「なんで…か…。いつも言っているだろ。」
時空分離をされているはずのこの場に、天から光がラヴィを照らすように振り注ぐ。
照らされたその姿は、傷だらけでありながら、人々に勇気を与える笑顔も相まって、勇者としてみんなの折れかけた心を奮い立たせる勇ましい姿だった。
「私は…勇者だからだ。」
「本当に…ラヴィちゃんは…。」
「それにな…。世界を守るんだと、私は息巻いていたが、どうも根本は違うらしい。」
「え?」
「私は、この街で出会ったみんなを守りたいんだ。心の底から本当に大切だと思うみんなを…。その延長線上にこの世界や、私が居たエルサンガの世界があるだけなんだよ。
勇者として、こんな事を言ってはいけないんだろうがな…。」
「いや!良く言うたぞ!ラヴィ!」
結界を張りながら、横でラヴィ達の会話を静かに聞いていたセリーナが、ホロリと涙を流しながらラヴィを褒める。
「人を守る事が世界を守る事に通ずる!それでこそ勇者じゃ!
ほれ!さっき折られた聖剣を出すんじゃ!」
「あ!はい!…これです…。すいません…。私が未熟なばっかりに…。」
「いや、良いのじゃ。ほれ、貸してみるのじゃ。」
セリーナは、片手で聖剣を受け取ると、その刃に向かって神の呪文を唱える。すると、刃に刻まれた神の文字が光り輝いたかと思うと、パリーン!という音と共に砕け散った。
「えーーーー!!何をしてるんですか!?」
「所詮この刃は勇者の力を纏わせやすくするために神の文字を刻んでおっただけじゃ。
今のお主なら、直接この柄を介して勇者のオーラを刃にする事ができるじゃろう。」
セリーナはそう言いながら、真っ白な柄をラヴィに返した。
「そう…なんですか…。どうやれば良いのか分からないのですが…。」
「柄を握り、オーラが剣の形になるようにイメージしてみよ。
じゃが、さっきまでの聖剣とは比べ物にならない程強力になるはずじゃから、取り扱いには気をつけるのじゃぞ!」
ラヴィがルルに治療をしてもらいながら、柄からオーラで剣を形成しようとした時だった。
ズドーーンッ!!という激しい戦闘音が聞こえてくる。
音のする方角を見ると、スーツの面影など全く残っていない上半身裸で血まみれのアルマがヤオと対峙している。
「アルマ!!
…ぐ…なんか…その…心配をしなければならないのだろうが…奴の格好を見ていると変態にしか見えないのは気のせいだろうか…。」
アルマのヌーディーな姿を見たラヴィは、ドン引きをしながらみんなに意見を求めると、全員が『同意!』と声を揃えるのであった。
しかし、その変態な姿とは裏腹に、たった1人でヤオの相手をしているアルマは酷く苦しそうである。
「こんの化け物が…!我の攻撃ではダメージが入らぬし!かと思えば貴様の攻撃は我にバンバン致命傷を与えてくる!
いい加減鬱陶しいぞ!貴様!!」
「ギギギ…。コチラノセリフダ…。ソウソウニオマエヲコロシテ、ジャマナセリーナモ シャウメツサセル…。」
「あまりラヴィに手の内を晒したくなかったが…。仕方ない…。魔王の力を限界まで見せてやろう!」
そして、アルマは紅いオーラを内包するように体の内側に張り巡らせる。
すると、額から2本の角が姿を現し、目は深紅に染まっていく。全身にはタトゥーのような紋様が浮き出てくると、それを媒介にしているのかオーラが数倍にも膨れ上がる。
その様子を見ていたラヴィは、今まで手加減されていた事に気付き、悔しそうに舌打ちをする。
「チッ!あいつめ!あんな力を隠していたのか!私をナメてたんだな!」
「ラヴィよ!それは違うぞ!アルマはあの姿になると基本暴走しよる!じゃからお主との戦闘では見せられなかっただけじゃろう。
しかし、あの姿になるほど追い詰められておる所を見ると、急いだ方が良さそうじゃな…。」
セリーナのその言葉に、ルルは持てる魔力を全開にして、ラヴィの治療に全力を注ぐのであった。
一方、さすがのヤオも、アルマの膨れ上がったオーラを見ると驚きを隠せないようだった。
「ギギ…。マダソレダケノチカラヲ カクシモッテイタノカ…?」
「この…姿になると…!力の制御が…できなくなる…!だが、今は女神もおる事だし…暴走しても…なんら問題は…なかろう…!」
「ムダナドリョクダ。ツルギデ オマエヲ リョウダンシテ オワリダ…。」
ヤオは天罰の力を使って消えようとする。だが、その隙を与えないために、アルマはノーモーションの超スピードでヤオの目の前に行く。そのスピードは、ヤオですら目で追えないほどの速さであった。
そして、どれだけの破壊力を持つか分からないほどのオーラを込めた拳をヤオに叩き込む。
とてつもない威力を有したボディーブローに、さすがのヤオも口から血を吐き出しながら吹き飛ぶ。
戦いが始まって以来、ヤオに初めてダメージを与える事ができ、それを見ていたセリーナやアヤネ達は思わずガッツポーズをしてしまう。
「ニャー!!さすがアルマ!!凄いよ!!」
「あの野郎!!やるじゃねーか!!うちでもあんな威力のパンチは繰り出せない!!」
「さすがノンノのアルマ様ですぅ!!」
結界の中から称賛の言葉が飛び交う中、アルマはいつもの高笑いは上げずに、少し焦るような表情でラヴィ達に叫ぶ。
「とにかく急ぐのだ…!この姿は意識を保ちながらでは長い時間維持はできん…!
我が暴走する前に早くラヴィの治療を終わらせよ!」
そして、ダメージを与えたとはいえ、余裕すら感じるように立ち上がるヤオを見て、アルマは苦笑いをする。
「本当に…貴様は鬱陶しいな…。」
それでも、ラヴィが復帰する時間を稼ぐため、アルマは命を削りながらも単身で神に戦いを挑むのだった。




