第66話 勇者と魔王は狂ってる!?
ヤオの放った狂乱の波動を食らった全員が、狂いそうになる衝動に抗うために頭を抱えて地面に膝をついている。
「な…なんなんだ…。これは…!頭の中でママがうちを罵ってくる…!なんで…なんでそんな事言うの…!やめてよ!ママ!」
「ニャ…ニャ…。誰かが『壊せ…壊せ…』って頭の中でうるさいよ…。もうレナは…誰かれ構わず戦ったり…壊したり…自分の快楽のために傷付けたりしたくないのに…!」
こういった風に、シルバやシルヴィア達も自分を狂わせようとする何者かの声に頭がおかしくなりそうになっている。
幻聴だと分かっていても、本人達の記憶を読んで的確に苦しめてくる狂気は、トラウマを呼び起こし徐々に体を蝕んでいく。
だが、悪の力に屈する事のないセリーナが全員を助けるために動く。
「なんという悍ましい力じゃ!このままでは戦闘どころではない!わしの力で守る故、力を振り絞ってもう少しわしに近付くのじゃ!」
セリーナの言葉が微かに耳に入ったアヤネ達は、なんとかふらつきながらもセリーナの近くに身を寄せる。
すると、セリーナは神の言葉で呪文を唱えると、半径3メートル程の半円の守護結界を張った。
結界の範囲に入った者達は、女神の守護の力により、狂乱の力が体の中から消えていく。
「はぁ…はぁ…。セリーナ様…ありがとうございます…。もう少しでうちは…ママを…。」
女神の力で正気を取り戻したみんなが、口々にセリーナへ感謝の言葉を述べる。
「すまぬ…。力を抑えたこの姿ではこの範囲が限界なんじゃ…。絶対にここから出るでないぞ!結界の外には狂乱の力がまだ渦巻いておる!」
「この範囲という事は…!ラヴィとアルマは!?」
「まだ狂乱の渦の中におるはずじゃ…!じゃがわしは結界を張っておるとここから動けん…。」
「そんな!じゃああいつらは!?」
アヤネやみんながラヴィ達を心配して、結界から遠く離れた2人の様子を見る。
そこには、何事もないかのように平気で立っている2人が居た。
全く予想していなかったその光景に、開いた口が塞がらないアヤネはセリーナに質問をする。
「セ…セリーナ様…。ラヴィとアルマは平気なように見えますが…。どうしてですか…?」
「わしにも分からん。
いや…そうか!あ奴らは元々頭がおかしいから狂乱の力など効かないんじゃ!」
「へ!?そんな理由であれだけの力を無効化するんですか!?私達はセリーナ様が居なければ全滅していたんですよ!?」
「はっきりとは分からんが…それしか考えられん…。」
「ニャハハ!やっぱりラヴィとアルマは規格外だね!アルマなんて半袖半ズボンのスーツ姿だよ!何も知らなかったら頭おかし過ぎるよね!」
「私はちょっと納得しちゃったよ…。ラヴィちゃんってお店でも頭おかしい行動してたもんね…。」
ルルが軽く頭を抱えながらそう言うと、どり〜むは〜とのメンバーは全員が『うんうん』と頷く。
まさか陰でそんな悪口のような事を言われているとは知らないラヴィとアルマは、天罰の力で気配を消したヤオの位置をなんとか把握しようと集中している。
「なんか…私の悪口を誰かが言っている気がする。」
「ふん!もうそこまで無い乳の事で悩む必要などないだろう。気にし過ぎだ。誰も悪口など言っておらん。」
「お前はいつもそんなに私の乳を気にして見ているのか?本当に気持ちの悪い変態だな。後でみんなに言いふらそう。」
「や…!やめよ!もう二度とお胸様に関してイジらないからやめよ!」
「しかし…さっきのヤオが放った力はなんだったのだ?向こうでアヤネ達はかなりダメージを負ったように見えていたが…。」
「知らん!奴らが弱いだけであろう!それよりもヤオだ!やはりどこにいるのか全く分からん!」
その時だった、お互いがヤオからの攻撃をサーチするために広げていたオーラに、4方向から同時に剣の切っ先が滑り込んでくるのを感じる。
「くっ!本当にいきなり現れるんだな!」
ラヴィとアルマはなんとか事前に察知して避けるが、完全に避けきる事はできずに多少の傷は負ってしまう。
一瞬でも反応が遅れれば致命傷という恐ろしい攻撃に寒気が止まらない。
すると、姿を現したヤオは、分身体と共に何か腑に落ちない様子をしている。
「ナゼ…キョウランノナカデ ショウキヲタモッテイル?」
ヤオは、先程放った狂乱の力がラヴィ達に通用していない事が気になっているようだ。
狂乱、幻想、天罰の力を同時に使って一気にラヴィ達を仕留める算段だったのだろう。
「なるほどな。さっきのアヤネ達を苦しめていた力は狂乱の力だったのか。」
「ほー!その力で我らを狂わせて隙を作り、殺そうとしたわけだな!」
「ナゼキョウキニ アラガエル…?」
「ん?当たり前だろう。それはな…。」
ラヴィとアルマは腰に手を当てた堂々とした立ち姿で、声を揃えてヤオの質問に答える。
「私は」「我は」
「「元々頭がおかしいからだ!!!」」
先程のセリーナの予想は見事的中していたようだ。
本人達も自分が頭がおかしいと認めており、なんの恥ずかしげも無く誇らしげに答えるという事は、やはり2人は頭がおかしいのだろう。
「ギギギ…ソンナ…リユウデ…。」
「ククク…やはり我らの一番警戒すべき貴様の力は天罰のようだな。他はなんとか対処できるぞ。」
「あの剣さえ壊す事ができればその天罰も怖くはないな。」
「では、オーラに奴の剣が触れた瞬間を狙って反撃するしかないか…。」
「突然現れ、当たれば必ず死ぬ攻撃をギリギリで躱し、そこで反撃をしてあいつの剣を叩き折る…か…。しかも偽物付きの中で…。」
「余裕であろう?」
「だな。」
頭のおかしい2人が狂った作戦を真顔で実行に移そうとする。
まさに絶望と思われた状況を、ラヴィとアルマらしい方法で空気を一変させたのだ。
そんな2人を見ていたヤオは、分身体を10体に増やして天罰の力を使い気配を消す。
残された『震撼』の力は謎のままに…。




