第65話 勇者と魔王 VS 悪神
セリーナとこの世界で戦ってきた者達の想いを背負って、ラヴィとアルマはヤオと決着をつけるために凛と立つ。
「もう…言葉はいらないな…。お互いの覚悟をぶつけ合おうじゃないか。」
「ククク…。瑠偉が待っておるぞ、ヤオよ。」
ラヴィとアルマは全盛期を超えるオーラを発すると、完全な怪物となってしまったヤオへと攻撃を開始する。
「ギ…ギギ…。スベテ…ヲ…ムニ…!!」
ヤオの赤く染まった大きな一つ目がギラリと光ると、正面から向かってくるラヴィ達に向けて、巨人がアヤネ達に放ったビームをノータイムで撃ってくる。
それがとてつもなく危険といち早く察したアルマは、両手にオーラを纏って真正面からラヴィを守るように受ける。
ラヴィもアルマがそういう行動を取ると読んでいたのか、走るスピードを緩めることなく、ビームを受けるアルマの背後からヤオへと向けて飛び上がる。
「ラヴィよ!初撃は譲ってやるのだ!外すでないぞ!」
「あぁ!言われなくても分かっている!勇者の援護!ご苦労!」
「チッ!貴様は一言多いのだ!」
飛び上がったラヴィは、そのままヤオに向けて空中でオーラを使い加速する。
その勇者の強大なオーラを感知したヤオは、背中の数本の赤黒い光を放つ角を伸ばしてラヴィを迎撃しようとした。
「こんなもので今さら私がやられると思うのか!?ナメられたものだ!!」
迫りくる角を聖剣で薙ぎ払おうとするラヴィに向けて、アルマがある事を叫んで伝える。
「何をしておるのだ!その角は幻だ!」
「は?」
ラヴィが角を払おとした聖剣が、それをすり抜けて空を切る。
その様子を見ていたレナが、キョウの使っていた『幻惑』の力を思い出す。
「ニャッ!あれは狐が使ってた『幻惑』の力じゃないかな!でも…今のラヴィが騙されるなんて…。」
「いや、先程ヤオは吸収した悪の力を進化させたと言っておった。たしか…『幻想』と…。
今のラヴィなら幻惑程度では惑わされはせんはず。という事は…他の力も相当厄介なはずじゃ!」
聖剣での一撃をスカされたラヴィに、ヤオは本物の角を伸ばして彼女の肩を貫く。
勇者のオーラすら簡単に貫通する物理攻撃に、ラヴィは一旦地上に降りて距離を取るしかなかった。
そして、ヤオはビームを撃つのを止めると、右手に持っていた『天薙の剣』を構えて、アルマに狙いを定める。
「フハハハ!やはり我を狙ってくるか!どこからでもかかってくるがよい!!」
余裕を見せていたアルマであったが、先程までそこに居たヤオの姿が見えない事に気付く。
「なんだ!?奴はどこへ行った!?」
敵を見失ったアルマは、とりあえず全方向にオーラを展開して、ヤオの攻撃に備える判断をする。
「あ!あれはうちが戦っていたヨルカの『天誅の力』じゃないのか!?」
「その力は『天罰』に進化したと言っておった!アルマよ!気を付けよ!どこから攻撃が来るか分からんぞ!」
「攻撃が当たる瞬間に反応するしかない!うちはそうしたけど…あのヤオの攻撃を受けてから反撃なんて…。」
アヤネとセリーナが、持てる情報でアルマをサポートしようとするが、アヤネの言う通りヤオの攻撃を無防備に受けてからの反撃などいくらアルマでも不可能である。
「天罰だと…。ふざけおって!こちらは女神からのお叱りだけで十分だ!出てこい!ヤオよ!」
アルマはオーラをできるだけ凝縮し、ヤオの攻撃でのダメージをできるだけ軽減する準備をして気配を探る。
すると、背後や横からではなく、真正面からヤオは天薙の剣を振り上げてアルマに袈裟斬りを仕掛けてきた。
突然現れて自分のオーラごと斬ろうとするヤオに、アルマは瞬時に反応する。
今展開しているオーラは、エルサンガ時代のラヴィの攻撃でさえ通す事のなかったものである。
ヤオの剣がオーラに触れた瞬間、即座に攻撃に移ろうとしたアルマの動きがピタリと止まる。
それは、展開したオーラがヤオの剣を止めるどころか、プリンを斬るかのように簡単に自分へ向かってきたからだった。
「なんだと!?我のオーラを紙切れのように斬り裂くのか!?なんという剣だ!
これは…!防げん…!」
アルマは為す術もなく、ヤオの天罰の力による急襲によってその身体を斬られる。
「グハッッ!!!」
左肩から右脇腹にかけて、斜めに大きく斬られたアルマは、再生するために距離を取ろうとするが、返す刀ですぐにヤオの第二撃目が襲いかかる。
(チッ!ガード不能のチート武器め!次も斬られればいくら我とはいえ死ぬぞ…!)
アルマからすると、迫りくる刃が命を刈り取る死神の鎌のように見える。
アルマは一瞬死を覚悟をしたが、間一髪、剣を振り抜こうとしているヤオを、ラヴィが横から聖剣の斬撃で吹き飛ばす。
ミユミユを吹き飛ばした斬撃の数倍はあろうかというそれによって、いくらヤオでもその場に留まることはできず、身を任せるように遠くへと吹き飛ばされてしまった。
「はぁ…はぁ…。ギリギリだったな…。」
「余計な真似をしおって!と、言いたい所だが…正直助かった。」
「助かった…か…。で?他には?」
「ぐ…ありがとう…。」
「ありがとう?」
「ございます…!」
「ちゃんと言えたな!偉いぞ!」
「貴様だけはこんな時でも…!」
「冗談はさて置き…個々に戦っても勝てそうにないな。どうにか連携を取らねばあいつの進化した悪の力で一方的にやられてしまうぞ。」
ラヴィは、貫かれた右肩を押さえながら険しい表情でアルマに告げる。
「分かっておる。特にあの剣が厄介だ。我には防ぐ手段がない。だからあれを聖剣で受けるのが貴様の仕事だ。あれさえどうにかしてくれれば我が特大の一撃をあいつに食らわせてやる。」
「なんとかしてみるが、天罰とかいう力を使われると一切の気配が消える。そうなったら私も捕捉するのが難しい…。」
「それなら対抗策があるぞ。」
「なに!?どうするんだ!?」
「攻め続ければよい。あいつが天罰とやらを使う隙を与えないのだ。」
「はぁ…。期待した私がバカだった…。だが、それが一番手っ取り早いかもな。」
ラヴィとアルマがこれからどう戦うかの相談をしていると、吹き飛ばされたヤオがゆっくりと歩いてこちらへ戻ってきている。
「くそ…。私のあの斬撃でもダメージが無いなんて…。ん?あれはなんだ?」
ヤオが背中の角を2本上に高く伸ばすと、その角に赤い電撃のようなものが迸る。
その溜まったエネルギーを、ヤオは辺り一体全てに放射線状に振り撒いた。
その広がるエネルギーのスピードは避ける事が叶わない程早く。この場に居た全員がそのヤオの攻撃を食らってしまった。
「ギギギギ…。クルエ…!クルエ…!キョウランノチカラデ…!」
『狂気』が進化した『狂乱』の力によって、セリーナ以外の全員は頭を抱えてその場にへたり込んでしまった。
すると、ヤオは幻想の力で分身体を3体作ると、それぞれが天罰の力によって気配を消す。
狂乱の力によって、おかしくなりそうな頭を抱えたラヴィ達に、絶望が足音を消して近付いてくるのであった。




