第64話 女神、友から受け継ぐ想い
――なんだ?僕が間違っていたのか…?
そんな訳無い…。だって、人はどれだけ僕が手を差し伸べようがその手を払ってきたじゃないか。
文明が進化する毎に自然を破壊し、人間だけが住みやすい国を造る。人間がこの世の頂点であるかのように振る舞う。
そして、最終的には必ず自分達に都合の良い神を創り上げてそれを崇める。
その神に従わない者には侵略を開始して戦争が始まり、何の結果も生まない勝者と敗者ができあがる。そんなものに民衆は命を賭けて戦いに挑む。
不毛とはまさにこの事だと、観察していた僕は思ったんだ。
だから何度も何度も僕はリセットをした。人間の手に余る力を手に入れた文明は僕自らの手で滅ぼしてきたんだ。
そういえば、天に届くように塔を作ったりした文明もあったかな…突然核戦争を始めた古代文明も…。
そんな文明は、想いを噛み殺して全て僕が滅ぼしてきた。次世代の人間がその過ちに気付くように、ほんの少し痕跡を各地に残しながらね。
でも人間は傲慢だ。『太古の時代にそんな科学力があるわけない!』という一言で、過ちの真の歴史を学ぶ機会を全て放棄する。
今生きている自分達が最も優れているなんてあり得ないのに…。
そしてまた人は歴史を繰り返す。今現在も世界各地で意味のない戦争を繰り広げている。
その戦争は大義があって行われているんじゃない。数少ない権力者の自己顕示欲を満たすためだけの戦争だ。
そんなものに参加させられる民達…家族ある者や、本当の善の者達が命を落とし、その上で無能な権力者達が笑う世界…。
七つの大罪なんてものを人間は考えたみたいだけど、最も人を狂わせる罪が含まれていない。
それは『自尊』だ。今で言う所の『承認欲求』か…。
これにより、時の権力者は全員狂い出した。この欲求から始まって色んな欲へと繋がっていく。
だから!何度!何度繰り返したってこうなってしまう!人間は傲慢で強欲で自己中心的で!手のつけられない生き物だ!
だから僕は闇に堕ちた。全てを諦めた。もう人々が悲痛な顔をしなくて済む世界を創ろうと…。
そのために、次の世界には…人間は要らないんだ…。だから全てを葬り去るために僕は悪に染まったんだ。
なのに…なのに何なんだ…!こいつらは…!争わなくてもエネルギーを生む事ができるだって!?
光と闇!陰と陽!善と悪!今まで決して交わる事なく、相反してきたはずのものが一体になる!?どうやって!?
――ヤオは悠久の時を悩み尽くしてきた。そこから導き出した答えが今の自分の姿であったはずだ。
全身を悪の力で身に纏い、一つ目に怪物のような大きな口…そして深淵よりも深い黒が全身を覆う。
元の自分の姿など欠片も残らぬ醜く禍々しい外見である。
静かに…ただ静かに深く悪に沈んでいく自分。そうすると、ヤオの額から赤黒く輝く角が2本生えてくる。
「どうやったんだ!?セリーナ!?何故こんな奇跡のような事が起きる!?神器の宝玉のおかげなのか!?」
「わしは何もしておらん!あえて何かしたと言うならば!わしは『人を信じる事』を止めなかった!それだけじゃ!
ラヴィとアルマ!この善と悪を創った時!この世全ての神々の悩みを打ち砕くと信じておっただけじゃ!!」
「有り得ない…有り得ない…有り得ない…。じゃあ僕の世界で命を落としていった者達はどうなる…。全てが無駄な事だったという訳かい…?
僕の今の行動は…!!全部!!無駄だっていう事かい!?」
「大馬鹿が!!お主だけではないわ!!わしの世界でも数多の命が神のため、世界のために無駄に消えていった!!
どの世界でもそうじゃ!!今ここにいる全ての者達の故郷でも同じ事が行われておる!!
そして!お主や他の世界の神に足りんかった〝モノ〟がある!!」
「それは何だって言うんだ!『慈愛』も『仁愛』も『情熱』も『崇敬』も『真誠』も!!全て人間に捧げてきた!!」
「それらも大事じゃが!!始まりの気持ち…お主らも強く持っていたはずの素晴らしい〝モノ〟じゃ!!」
セリーナが今から言う言葉に、ラヴィの胸が大きな鼓動を打つことになる。
「それは!!!『信念』じゃ!!!」
『信念』――ラヴィが英雄から受け継いだその想い。自分を大きく成長させた大切なモノ。それが世界を創造する神の口から出てくるとは思いもしなかった。
全ての悪を焦がすような熱い想いが、ラヴィの胸に湧き起こる。
「ヤオよ…お主にもあったはずじゃ…。どんな事があろうとも…この不毛な神の輪廻を終わらせるという『信念』が…。
じゃが、それはいつの間にか自分の心から消えてしまっているモノ…。消えてから気付いても遅いんじゃ…。
だから!わしは消えぬように人を信じ続けたんじゃ!神が人に頼ったんじゃ!!」
「神が人に頼るなど…!そんな醜態を晒して恥ずかしくないのかい!?」
「醜態じゃと!?今のお主よりマシじゃ!心だけでなく、外見や大義までも醜く堕ちたお主よりな!
わしは人を信じ続けた結果、ラヴィがある者から『信念』を受け継いだようじゃ。そして、その『信念』にアルマが呼応した。
ヤオよ…我が親友よ…。お主の気持ちは痛いほど分かる…。じゃから、後はわしらに任せよ。
お主の今までの努力や気持ちを決して無駄にはせんから!!」
「ウル…サイッ!!!!ダマレ!!!!」
セリーナの想いに応えられる程、心に余裕などあるはずも無く、逆に諭された事により、頭を抱えながら余計に悪へと堕ちていくヤオ。
その姿はどんどんと変貌していき、額からだけではなく、背中からも赤黒く光る大小の角が生えてくる。その角一本一本から悪の力が迸っている。
「グガァァァァ!!アリエナイッ!!アリエナイッ!!ワカラナイッ!!ワカラナイッ!!
ナンデ!ナンデ!コンナコトニッ!!」
「ヤオ…。お主は…。」
自分の気持ちや想いがヤオに届かず、呆然としているセリーナの肩に、暖かい気持ちを込めてそっと誰かが手を置く。
「セリーナ様。後は私達に任せて下さい。悪神に囚われたヤオ様を私達が必ず救い出してみせます。」
「クハハハ!女神よ!我と勇者を信じよ!」
「ラヴィ…アルマ…。」
そして、いつの間にかセリーナを守るように、アヤネ達やシルバ達も駆けつけており、全員が揃って彼女を囲んでいる。
「みんな!セリーナ様は任せたぞ!」
「あぁ!うちらに任せろ!ママのためにも…頼んだぞ!ラヴィ!」
仲間からの熱い想いを受けて、一層力が増していくのを感じるラヴィは、最後の決戦を前に、少しだけ振り向きながらセリーナに一言添える。
「セリーナ様…。私はバカなので分かりませんが…。
ヤオ様の『信念』が…この光景を実現したのではないでしょうか?」
ラヴィのその言葉が、セリーナの心に深く刺さった最後の棘を抜いていく。
人を諦める事を止めず、最後まで悪に堕ちる事に抗い続けた友の『信念』。その結果が、セリーナの願いをも叶え、ラヴィ達を覚醒させるに繋がったという事に気付く。
それに気付いたおかげで、親友を討つという忍びない気持ちに折り合いをつける事ができた。
友の『信念』を受け継ぐという形で…。
「そうじゃな!ラヴィよ!バカじゃがたまには良い事を言うではないか!」
「デヘヘ。褒められた!」
「それでは頼んだぞ!ラヴィ!アルマ!」
「はいっ!!!」「任せよっ!!!」
こうして、悪に堕ちた友に『人の可能性』を示すための最終決戦が始まるのであった。




