第63話 勇者と魔王、女神に見せる勇姿
空中に浮かぶヤオに対してラヴィとアルマが猛攻を仕掛けている。
アルマは空を飛べるので上から交戦し、ラヴィは地上から間髪入れずに何度も飛び上がり攻撃している。
「どぉぉりゃぁぁぁ!!!!!」
ラヴィは、セリーナから勇者の力の使用を許可してもらい、後からお仕置きされるかもという憂いも無く思う存分その力を発揮している。
自由に力を使える事で、少々自我がぶっ飛びかけているが、ラヴィの一閃により、ヤオの右腕を切り離す事に成功する。
だが、ラヴィはアルマの事が見えていないのか、その斬撃は近くに居たアルマをも同時に斬ってしまう所であった。
「こんのクソ勇者が!!我がいる事を忘れておるのか!?」
「あ?なんかデカい蠅がブンブン飛んでいるなとは思っていたが…なんだ、アルマか。」
「まださっきの貧乳をイジった事に腹を立てているのか!?なんとも冗談の通じん心の小さい勇者だ!胸と一緒だな!」
また始まったアルマによるラヴィの胸イジりに、ラヴィは無言で真っ直ぐアルマに斬りかかる。
「おい!!今度はうっかりを装うこともなく我を直接殺しにきたな!!」
「あぁ、なんだアルマか。喋る汚物かと思った。邪魔だから斬ろうと思っただけだ。気にするな。」
「貴様ぁぁぁ!良かろう!悪神の前に貴様を塵にしてくれるわ!!」
連携や共闘などとは縁遠い2人は、目の前の強大な敵を無視してケンカを始めようとしている。
その様子を見ていたセリーナがラヴィ達に対して喝を入れる。
「お主らぁぁ!!もっと真面目にできんのかっ!?世界の命運がかかっておるのだぞ!!今すぐ仲直りをして共闘せんのならわしがお主らを血祭りにするからの!!」
美しい女神から発せられたセリフとは思えない物騒なセリフであったが、これぐらいの脅しをかけなければ2人は一向に共闘しないと判断したのだ。
その効果からなのか、セリーナの言葉にラヴィとアルマは身体を『ビクッ!』とさせて大人しくなる。
「スマナカッタナ アルマ。コレカラハテヲトリアッテイコウジャナイカ。」
「全く感情がこもっておらぬではないか!まぁ良い!貴様との決着はこの悪神を倒してからだ!」
セリーナの一喝により、もう一度ヤオとの対戦を仕切り直そうとした時だった。
頭上から悪の力が降り注ぎ、アルマは空中から地面へと叩きつけられ、ラヴィは聖剣でそれをガードしながらも片膝をついて動けなくなってしまう。
「僕を前にしてふざけ過ぎだよね。いや…勇者と魔王の力を測るために手を抜いていた僕も悪いか…。僕の召喚した悪神の化身も倒されたみたいだし、もういいや。全員まとめて終わりにしようか…。」
今までの圧とは比にならない程の力がラヴィ達を襲う。空気が震え、大地が揺れるその力により、『手を抜いていた』という言葉がハッタリではない事が身に染みて分かる。
「ハハ…。こうなる事が分かっていたから早めに終わらせたかったんだがな…。アルマ…動けるか?」
「ククク。我からすればこれくらいでないと本気を出せんわ!」
「しかし、まさかお前とこうやって肩を並べて戦う日が来るとはな。人生とは何が起こるか分からないものだな。」
「過去の我なら有り得ん事だったのだが、共闘というのも悪くないと思ってきていた所だ。」
「あの悪神も運が悪いな。私とアルマを同時に相手しなければならないとは…。」
「我ら最強の魔王と勇者が手を組んだのだ。敵などおらん!早々に終わらせて帰るぞ!」
2人が珍しくお互いを蔑む事もなく会話をしていると、ラヴィとアルマの胸から光が現れて、それがお互いの宝玉へと吸い込まれていく。
【善の力を手に入れました。 種類は共鳴。】
宝玉から告げられた善の力により、2人のオーラは一層強さを増していく。
勇者と魔王、光と闇。その相反する力が心から共鳴し合って莫大なエネルギーを生んだのだ。
長い神の歴史の中で、善と悪が混じり合うなど一度も無かった。その常識をラヴィとアルマが打ち破ったのである。
そんな共鳴し合うラヴィとアルマを離れた位置で見ていたセリーナが片目から涙を流しながら呟く。
「まさか…ここまでとは…。」
セリーナの言葉は善か悪か、どちらかに向けられたものではなく、両方を讃えるための言葉だったのだ。
「やはり…わしは間違っておらんかったんじゃ…。善と悪が一体となり、その2つが争わんでもエネルギーを生む事ができると…!これでこの世から争いを無くす事ができるかもしれん…!
わしの長年の夢を叶えてくれると信じておったぞ!ラヴィ!アルマ!」
「セリーナ様!何なんですか!?あの現象は!?」
ラヴィ達が放つ莫大なオーラから発せられる突風から、セリーナを守りながらシルヴィアが問う。
「あれが今まで誰も手に入れる事のできんかった『共鳴』という名の善の力じゃ!
ただの言い伝えと言われておった力を…わしのバカ娘とバカ息子が手に入れたんじゃ!」
「セリーナ様…。本当にあの2人を愛しておられるのですね…。」
「シルヴィアよ、少し違うぞ。わしはこの世の生きる者全てを愛しておる。当然お主らもみんなじゃ!ただ…あ奴らには少々思い入れが強いだけなんじゃ…。」
「ありがとうございます。あなたのような女神がいてくれた事に…私達は本当に感謝しています。」
珍しくポロポロ泣いているセリーナを背中から抱きしめるように守るシルヴィア。その2人の目線の先には、勇者と魔王という括りでは収まらないラヴィ達が、悠然と悪神に立ち向かおうとしている。
「共鳴だと…。納得しかねるが…お前と戦う事を決意したから手に入れたんだな。」
「ククク…これなら奴にも勝てそうだな…。」
その時、善の力を手に入れた事で、相手の気持ちや想いが頭の中に入ってくる。
「ほー。貴様は我をまぁまぁ信頼してくれているようだな。苦しゅうないぞ!ラヴィよ!」
「おい…。お前…。まさか私に少し恋心を抱いているのか…?」
「なっ!なっ!なんだそれは!!そんな事あるわけがないだろうが!!適当な事を言うでないわ!!」
「そうだよな…。私は恋というのに疎いため恋心などよく分かっていない。勘違いだったみたいだな。すまない。」
「あ…!当たり前だ!ま…まぁ…信頼だとかそういうのを勘違いしたのであろう。貴様の強さは認めているからな!」
思わぬラヴィの一言に、誰がどう見ても焦りまくりのアルマであった。
(な…!なんなのだ!この宝玉め!恋心などあるわけなかろうが!あるわけ…なか…ろうが…。)
ちょっと頬を赤らめながら横目でラヴィを見るアルマだったが、それに気付いたラヴィがドン引きした目で見つめ返す。
そして、空中からラヴィとアルマの真の覚醒を―そして人の可能性を目の当たりにしたヤオは驚愕していた。
「有り得ない…。こんな事が起きるなら…何のために僕は人を諦めたんだ…。」
自分のやった事が間違えだったと突きつけられたようなその光景に、ヤオの心はもっと深い闇へと静かに堕ちていくのであった。




