第62話 女神、何を思う
ルルとレナから受け取った最大のチャンスに、アヤネの奥義が炸裂する。
内壊掌を食らった巨人は、自分の体の中に流れてくる大量のアヤネのオーラを感じる。それが力の根源であり、弱点でもあるコアへ流れ込んでくると、一気に膨れ上がって体内をとてつもない衝撃が駆け抜けてゆく。
内部で膨れ上がったアヤネのオーラにより、巨人の体は風船のように一瞬大きく膨らむ。
それにより、内部のコアは粉々に砕け散り、目と口から体液を大量に吐き出すと、巨人はドロドロと溶け出し、最終的には溶けて溜まった液体も黒い煙を出しながら蒸発して消えたのであった。
巨人の最期を見届けたアヤネは、力尽きて倒れたルルを救護しているレナの元へと走る。
「ニャー!アヤネすごいね!そんな技を隠し持っていたなんて!次に試合する時は使っていいよ!」
「ルルやレナのおかげだよ。胸が抉れてなかってらさすがにうちのオーラは届かなかった。
で、ルルは大丈夫か?」
レナに体を預けていたルルは、疲れ切った顔でゆっくりと顔を上げる。
「な…なんとかね。できれば私の破壊魔法だけで倒すつもりで撃ったんだけどダメだったね。
それなのに全魔力を放出したからしばらくは戦えないかもしれない…。」
「バカ。あんだけの威力があったからあの巨人も直ぐ様再生できなかったんだろ!それに、ルルがこの作戦を立ててくれなかったらどうなってた事やら…。」
「ニャッ!シルバさんやエンジュさんに巨人の弱点の事教えなくていいの!?」
「え?なんでだ?」
「なんで?って!そらそうでしょ!」
何故そんな質問をするのかといった表情でレナを見ているアヤネは、『なんで?』と聞いた理由を説明し始めた。
「うちらがあの人達を気にするなんて事しなくて大丈夫だよ。」
「いや!だからなんでなの!?こんなに強い敵なんだからきっと苦労してるかもしれないよ!レナ達だってルルの感知能力で弱点が分からなければもっと苦労したはずだよ!」
「あー…、あの人達はそんな次元じゃないんだよ。ママから良く昔話でシルバさんやエンジュさんについて聞かされた事があるんだけど、2人共『怪物』なんて言葉じゃ収まらない程の強さだったって。」
「え…ネネが言ってたの?」
「うん。元々居た世界でも相当ヤンチャしてたみたいだし、ママも何回か2人とやり合ったって言ってたけど『二度と戦いたくない』って感想しか出てこなかったみたいだな。」
「ンニャ〜。あのネネがそこまで言うって相当だよね…。」
「あぁ、だからうちらが心配なんてする必要ないって事!それじゃあうちらもルルの回復を待ってからラヴィ達の所に戻るぞ!」
「ンニャ!了解!」
――そして、アヤネがそう語ったシルバ達はと言うと…。
斧の巨人の死体が放つ黒い煙が蔓延する中、腕を組みながらシルバが『ガハハハ』と笑いながら立っている。体のあちこちに巨人の体液を浴びている所を見ると、相当激しい戦闘だったようだ。
「ガハハハ!いやぁ!ひっさびさに手応えのある敵だったな!まさかこんな強いのとやり合えるなんて思ってもみなかったな!」
とても機嫌が良さそうにそう話すシルバの元に、空から大きく美しい羽を広げながらエンジュが降りてきた。
「本当ね〜。こんなに運動したのはネネやミユミユと戦った以来かしらね〜。これならまだまだ夜の運動も…。」
「下ネタはもういいって!最近の若い子達にもっとギャップ萌えってのを教えてもらえよ!」
アヤネ達があれだけ苦労した黒い巨人を相手にしていたとは到底思えない和やかな雰囲気に、箒に乗って空中で待機していたノンノが慌てて戻ってきた。
「ちょっ!ちょっと!私はなんにもお手伝いできなかったんですけど!2人の戦闘が激し過ぎて近付くことすらできなかったじゃないですか!
むしろ途中から巨人が可哀想になってきましたよ!」
「ガハハ!何を言ってる!ノンノが一発目にあいつの足元を腐らせて動きを止めてくれたからこんなに楽に戦えたんだぞ!」
「そうよ〜。ノンノちゃんは良くやったわ〜。いっぱいいい子いい子してあげるからこっちにおいで〜。」
「わーい♪行きまーす♪
って!今はそれどころじゃないですよ!向こうでセリーナ様達が戦ってるんですよ!」
「うーん。あいつらの所にか〜…。」
いつもは好戦的で、ノンノの言葉にすぐに乗っかって『行くぞ!』と言うかと予想していたが、シルバは少し悩んだ表情でラヴィ達のいる方向を見つめる。
「あれ?どうしたんですか?シルバさんらしくない…。」
「あれを見てみろよ。」
シルバが指差す方向をノンノが確認すると、浮かぶ黒い塊に向かって、空中を飛び回りながら攻撃を仕掛けている蒼い光と紅い光が遠くに見えた。
その攻撃速度と、周りに影響を及ぼしている破壊力は、とてもこの世の者とは思えなかった。
「あ…あれってもしかして…ラヴィとアルマ様ですか…?」
「あんな人外の戦闘に、あーしらがつけ込む隙なんてねーわ。」
「あれは行っても足を引っ張るだけになっちゃうわね〜。」
「いやいや、エンジュさん達も余裕で人外でしたから…。
じゃあ…どうするんですか?」
ノンノの不安そうな質問に、シルバが胸の前で両拳をガシッとぶつけながら答える。
「そりゃあ行くしかねーだろ!ラヴィ達はヤオ様との戦闘で手一杯に見える。だからあーしらでセリーナ様の護衛をするんだ!あの人に万が一の事があれば全てが水の泡だからな!」
「分かりました!じゃあ急ぎましょう!」
こうして、アヤネ達より少し遅れて巨人を倒したシルバ達は、自分達の戦闘など足元にも及ばないであろう地獄のような場所へと急ぐのであった。
――そして、ヤオと一進一退の攻防を見せるラヴィとアルマを見ていたセリーナが、驚きの表情で一言呟く。
「まさか…ここまでとは…。」
そのセリーナの言葉が向けられた相手は善か悪か…その真意がこの戦いの結末の行方を決める事になるのかもしれない…。




