第61話 獣、魔、拳が巨人を討つ
ルルが魔法の詠唱により魔力の錬成を開始すると、彼女の目の前に青く輝く魔法陣が姿を現す。
それを見ていたアヤネも英雄のオーラの準備が完了する。
「おい!レナ!もう少しだけ踏ん張れよ!」
「了解ー!じゃあその間にもう1本足をいただいちゃおうかな!」
レナが巨人のもう1本の足を狙おうと振り返ると、ある異変に気が付いた。
それは巨人の大きな一つ目に赤い光が集まっていたのだ。
「ニャッ!?これはまさか!?」
離れていたアヤネの目にもその光景が飛び込んでくる。
「あれはマズい!しかも無防備なルルを狙ってるのか!?
おい!ルル!一旦詠唱を止めて逃げろ!」
そのアヤネの忠告が聞こえていないのか、ルルは詠唱を止めずにその場に留まっている。
「おい!ルル!聞こえてねーのか!?
くそ!レナ!!そっちでなんとかできねーか!?」
「ぐぬー!作戦続行って事なんだね!?どうにかしろって言われても…!」
本当はアヤネやレナの声は届いていたが、慌てる2人を置いて、ルルは詠唱をしながらある事を心の中で思っていた。
(ラヴィのおかげで勇気は持てたけど、私の中で魔力暴走のトラウマは消えないみたい…。だからここで詠唱を中断して集中を欠いてしまえばまた暴走しかねない…。
それに、このチャンスを逃せばズルズル戦いが長引いて私達が不利になる。どんな苦難であろうが、私はもう一人じゃない。
どんなものからも守ってくれるってアヤネとレナを信じてる!)
そして、ルルが錬成していた魔力は一層膨らみ、現れていた魔法陣もそれに合わせて一回り大きくなる。
しかし、後もう少しという所で巨人の目の赤い光は強くなり、そこからビームを発射する体勢を取る。『ギューーーーン』という不快な音を伴いながら狙いはルルに定めているようだ。
「レナ!もうやばいぞ!」
「分かってるって!レナが下に居るのに無視しやがってー!これならどうだ!」
レナはしゃがみ込んで両足に力を込める。女性のウエスト以上に隆起した太ももで飛び上がり、巨人の顎目掛けて下から蹴りを放った。
レナの蹴りを食らった巨人は、顔を大きく上を向かされるが、即座にまたルルに照準を定め直す。
「もういっちょ!汚い目でルルを見るんじゃない!」
重力により落ちていく体を無理矢理空中で回転させて、もう一度巨人の顔目掛けてレナが蹴りを放つと、巨人の照準は大きくズレる。
だが、それに構わずに巨人はとんでもない太さのビームをルルの近くに向けて強引に撃ってきた。
辺りを真っ赤に染め、地面のアスファルトを抉りながら、ルルのいる場所とはズレながらも真っ直ぐそれが近付いてくる。
いくら直撃を免れてもタダでは済まない威力のビームが、後少しでルルを掠めるという所でアヤネが英雄のオーラを全開にして前に出る。
「うちが受けるから!ルルは準備が出来次第その魔法を撃て!」
そして、アヤネは真横を通り過ぎていくビームの衝撃からルルを庇うようにオーラで守る。
「こんのっ!!ここまで来て負けられるかよ!!」
アヤネは、通り過ぎる衝撃だけでも四肢がバラバラになるようなダメージに耐え続ける。
そして、苦痛により永遠とも思える時間に感じた巨人のビームは、段々と細くなり終わりを迎えた。
「はぁ…はぁ…。とんでもねぇもん撃ちやがって…。
レナ!ナイスアシストだ!」
「ンニャ〜。良かった〜。アヤネは大丈夫!?」
「うちは自分で治せるから大丈夫だ!」
アヤネが内気功で傷を治し始めた時、ルルはずっと閉じていた目を開ける。
「準備できたよ!二人共守ってくれてありがとうね!」
「お礼は良いから早く撃ってくれ!うちもレナも限界だ!これ以上あのデカブツの相手はできない!」
「分かった!」
ルルは返事をすると、目の前の魔法陣に魔力を凝縮して集める。それは渦を巻きながら段々と回転の速度を上げていく。
「私の使える魔法で一番高威力の破壊魔法だよ!その身にとくと味わえ!!」
その魔法を見た巨人は、戦いが始まって以来、初めて狼狽える様子が見てとれた。目と口しかないその顔から表情を読むことはできないが、逃げるために慌ててその場で立とうとする。
だが、レナに蹴り壊された膝の事を忘れていたのか、壊された足に重心をかけてしまいバランスを崩してまたその場に尻もちをつく。
「ニャハハ!ビーム撃つのに必死でその足治すの忘れてたでしょ!もう終わりだよ!」
レナがルルの破壊魔法の巻き添えを避けるために、大急ぎで逃げながら巨人にそう吐き捨てた。
そして、ルルが巨人のビームとは正反対の青い光芒の魔法を放つ。
「食らえぇぇ!!!」
ルルの掛け声と共に放たれた破壊魔法は、触れるもの全てを塵にするかの如く真っ直ぐ巨人に向かっていく。
直撃を避けるためか、巨人は持っていた剣でなんとかその魔法を受けようとしたが、全く意味はなく、剣は虚しく魔法に飲み込まれてバラバラになる。
もう防ぐ手立てがない巨人は『グオォォォォ!』という叫びを上げながら胸に破壊魔法が直撃する。
魔法のダメージを上回る再生を試みるが、魔法によって削られた体が朽ちていく方が早かった。
そして、巨人を完全に倒すために、数秒間も破壊魔法を撃ち続けたルルは魔力が枯渇してそのまま地面に倒れ込んでしまった。
破壊魔法の光芒が消え、レナが巨人の生死を確認する。その姿は、魔法を受けた胸部の部分が大きく抉られている事以外はこれといったダメージを与えられていないように見えた。
「よし!作戦通りだね!後はアヤネが…。」
レナが巨人の有様を確認するより早く、すでにアヤネは動き出していた。
アヤネは巨人に向かって走りながら両掌にオーラを集中させる。それはヨルカに打った時の規模を大きく凌駕している。
「ルル!レナ!後はうちに任せろ!そんだけ胸が抉られたら弱点を守る事もできないだろう!
これならうちの内壊掌のダメージも通る!」
そして、破壊魔法によるダメージにより、沈黙して動かない巨人の体を駆け上がり、全員の力で掴み取った胸の大きな窪みに向けて両掌をそっと当てる。
「終の型!奥義!双撃内壊掌!!!」
アヤネの掌に込められた大量のオーラが、『ドクンッ』という音と共に、トドメを刺すため静かに巨人の体内に流れ込む。




