第60話 チームどり〜むは〜と VS 剣の巨人
『ボッ!!』という剣を振り下ろす音が遅れて聞こえる程のスピードで巨人は斬撃を繰り出してくる。当然、そんな剣速で振り下ろされた一撃は地面を簡単に真っ二つに斬る。いや、割ると表現した方が的確かもしれない。
そんな掠りでもすれば致命傷になり得る攻撃の中、なんとかアヤネとレナは避け続けて反撃のチャンスを伺っている。
「ニャハハ♪アヤネ!ヒリヒリするね!」
「笑ってる場合じゃねーだろ!こんだけブンブン振り回されちゃルルだって近付けねーぞ!」
楽しそうに街全体を駆け回りながら戦うレナとは反対に、アヤネは戦い辛い巨大な相手に四苦八苦していた。
そんな中、レナは7階建てのマンションの屋上に駆け上がり巨人の位置を確認する。すると、そこから見れば、屋上からだと丁度巨人の頭上の高さになる事が分かったため、レナはその巨人の頭目掛けて飛び上がる。
そして、空中で右手に渾身の力を溜め込むと、みるみる内に腕は筋肉で膨れ上がり、メイド服の右袖はビリビリに破けてそこからまた大木の幹のような姿になった右腕が現れる。
「ニャハハー!これだけ何も気にせず本気の本気でパンチするのはあっちの世界で神の化身とやった以来だよ!ありがとうね!」
「あいつ!下にうちが居るの分かってんのか!?」
戦う楽しさで我を忘れたレナの姿を見たアヤネは、その攻撃の巻き添えを食うのを恐れて足早にその場から撤退する。
そんな慌てるアヤネを知ってか知らずか、アヤネがその場から逃げ出すと同時にレナは渾身の一撃を巨人の頭に叩き込む。
真上から叩き込まれたレナの拳に、巨人の頭は耐える事ができずにひしゃげてしまう。しかし、その破壊力はそこでは終わらず、巨人の胴体も足もペチャンコにする勢いで真下まで突き抜けた。
頭上から巨大な鉄塊が落ちてきたかのように地面に潰されてしまった巨人は沈黙して動かない。
「おいおい!レナがやっちまったのか!?ってかなんだよその威力のパンチは!!」
「ニャハハ♪美味しい所は全部貰っちゃったからねー!」
とんでもない一撃に驚くアヤネの元に、一仕事を終えたように右腕をグルグル回しながらレナがやって来る。
だが、そんな勝利ムードの2人に、血相を変えたルルが走ってきた。
「二人共油断したらダメだよ!そいつはまだダメージを全く受けてない!」
「ニャ?いや…ペッチャンコにしたんだけど…。」
「うちから見てもあれは確実に死んでるだろ。ルルは眼鏡を変えた方が良いんじゃないか?」
「バカ言ってないで早くこっちに逃げてきて!」
ルルはオーバー過ぎる程大きく手を振って2人にその場から離れるように説得する。
そんなルルを見て、アヤネとレナが渋々そこから動こうとした時、潰れていた巨人を中心に地響きが起こる。
すると、潰れていた巨人の身体は粘土のように蠢いて、また元通りの姿を形成し始めた。
「おいおい!嘘だろ!?あれだけの攻撃受けて余裕で再生かよ!」
「ンニャー!レナの本気のパンチだったのに倒せなかったの悔しい!!」
「あの黒い身体は本体じゃないの!あいつの中心に丸いエネルギーの根源を感じる!それを砕かないとあいつは倒せない仕組みだと思うの!」
「それを先に言えよ!」
「言う前に嬉々としてレナが突っ込むからでしょ!」
「ニャ…。ごめんなさい…。」
「でもレナが攻撃してくれたから私の仮説は証明された!だからどうにかしてあの分厚い身体の奥にあるエネルギーの根源を狙わないと!」
「チッ!あんだけデカいとうちの内壊掌も届かねーな…。」
「それってどんな技なの?」
「うちの気を相手の体に流し込んで内から破壊する技なんだよ。でもあんだけデカいとその弱点とやらに届かないだろうな。」
「それなら…いけるんじゃないかな…。」
「え?話聞いてたか?」
「ちょっと二人共耳を貸して!」
ルルがアヤネから巨人を倒すヒントを得たのか、思い付いた作戦を2人に話す。
そうこうしている内に、剣の巨人は元の姿を取り戻し、細かい牙が生え揃った大きな口から怒りの咆哮を上げる。
その咆哮が合図のように、ルルはアヤネ達への作戦の説明を終えた。
「ニャッ!?もう復活したよ!」
「二人共分かった!?失敗したら全滅だからね!」
「分かったけどよ!レナの負担が少々でかくないか!?」
「それは分かってるけど…!あいつの攻撃を避け続けるなんてレナの身体能力じゃないと無理だもん!」
「ニャハ♪レナなら大丈夫だよ!2人を信じてるからね!それじゃあお先に行くね!」
レナはそう言い残すと、今にもこちらへ襲いかかってきそうな巨人に向けて走り出した。
「レナ!お願いね!
じゃあアヤネは私達が作ったチャンスを見逃さないように集中してて!必ずバトンを渡すから!」
「本当に…大丈夫なのか…?うちだけサボってるみたいだし…。」
「何を言ってるの!?最後はアヤネが一番危険な所に飛び込むんだから!それに、それで決めてもらわないと困るからしっかり体力を温存しててよ!」
「分かった!分かったよ!だからそんなプンプンすんなって!」
「プンプンしてない!」
アヤネとルルが最終確認をしている所に、先程とは比べものにならない剣の巨人の斬撃の音が辺り一面に鳴り響き出した。
とても巨体から放たれているとは思えないスピードの斬撃をギリギリの所でレナは躱しているが、横を通り過ぎる剣の衝撃だけでレナは徐々にダメージを負っていっているようだった。
(ンニャー!!思った以上に避けてもダメージが入る!2人の準備が整うまでこいつの気を引きつけなきゃダメなのに!)
この九死に一生を得るような攻防に、絶体絶命のはずのレナは何故かイライラが溜まってきているようだった。
「グニャーーー!!避けるばっかは性に合わない!!これでも食らえ!!」
レナはそう叫ぶと、得意な四足歩行ダッシュで相手の足元に潜り込む。
そして、そこから飛び上がると、素早く相手の膝を横から思いっ切り蹴飛ばした。関節を横から蹴られた衝撃で、巨人の膝は開放骨折のように弾けて折れる。
思わぬ一撃にバランスを崩した巨人は尻もちをつくように後ろへと倒れ込んでしまった。
その様子を見ていたルルは、これを好機と捉えて一気に魔力を解放すると呪文を唱える準備に入る。
「アヤネもお願いね!」
「あぁ!任せろ!」
アヤネもルルと同様に、来たる一撃のために青白いオーラを纏うとそれを手のひらへと集中させた。
レナの作った大チャンスに、勝利へあともう一歩という所まで迫ったチームどり〜むは〜と。
だが、その面々を、黒い巨人の顔に現れた大きな一つ目が、怪しい赤い光を宿しながら見つめるのだった。




